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Part 5 · SOTIFと安全性検証

5.3 機能不十分とトリガー条件

逆光・豪雨・見慣れない物体

読了目安 10分前提:5.1 SOTIFとは、1.6 推定と信頼区間▶ 動画(約5分)

この回で分かること

  • 機能不十分 の2つの種類(仕様の不十分・性能の不十分)と、それを表に出す トリガー条件 を、例とともに説明できる
  • 条件の分類とシステムの部品を掛け合わせた探し方と、条件ごとの検出率と信頼区間による確かめ方を説明できる
  • 組み合わせで現れるトリガー条件(ペアワイズ試験)や、性能の境界と ODD の関係を、簡単な計算で確かめられる

直感で理解する

5.1 で見たように、SOTIF では、故障していないのに起きる危険の元を 機能不十分 と呼び、それを表に出すきっかけを トリガー条件 と呼びます。機能不十分には2つの種類があります。

種類意味例
仕様の不十分機能の仕様(何を、どう扱うか)に、考えていない状況がある工事現場の誘導員の手の合図を仕様で扱っていない/車線は必ず白線で描かれていると仮定している
性能の不十分仕様どおりに作っても、センサ・認知・操作の性能が足りない逆光でカメラが歩行者を見逃す/霧で LiDAR の届く距離が短くなる/濡れた路面で止まるまでの距離がのびる

トリガー条件を体系的に探すために、よく使われる分類があります。

分類トリガー条件の例表に出やすい機能不十分
環境(天候・光)豪雨、霧、雪、低い太陽の逆光、トンネルの出入り口の明暗カメラ・LiDAR の性能の低下
道路とその周り消えかけた車線、工事区間、急なカーブ、鏡のように光る濡れた路面車線の認識、自己位置推定
ほかの交通参加者急な割り込み、ルールと違う動き、見通しの悪い場所からの飛び出し予測・計画の仕様と性能
物体見慣れない形の車両、落下物、動物、路面に描かれた絵物体検出(学習データにない)
自車の状態センサの汚れや雪の付着、センサの向きのずれ、重い荷物センサ全体、操作
人(運転者・周り)運転支援の過信、表示の見落とし誤使用、表示・警告の仕様

探し方の基本は、この分類とシステムの部品(センサ・認知・予測・計画・操作)を掛け合わせた表を作り、「この部品は、この条件でどう弱るか」を一つずつ考えることです。そこに、過去の事故やリコールの情報、専門家の知見、走行データの分析を組み合わせます。見つかった候補は、本当に危険な振る舞いにつながるかを試験で確かめます。

検出率(%) 85 90 95 100 0 10 20 30 雨の強さ(mm/h) ODD の上限(4.1) レーダー 要求 95% LiDAR カメラ 7.5 mm/h で下回る
雨の強さと歩行者の検出率の関係の例(数値は説明用)。要求を下回り始める点が、そのセンサにとってのトリガー条件の境界になる。

図のカメラは 7.5 mm/h で要求(95%)を下回り、4.1 で例に挙げた ODD の上限(10 mm/h)の内側に入っています。これは「ODD の中に性能の不十分がある」ことを意味し、対策が必要です。

数式で確かめる

① 条件ごとに分けて確かめる

トリガー条件は、条件ごとに性能を測ることで見つかります。雨の強さで分けて、歩行者の検出率を試験した例です。区間は 1.6 の \(\hat{p} \pm 2\sqrt{\hat{p}(1-\hat{p})/n}\) で求めています。

条件検出数 / 試行数検出率95% 信頼区間
雨なし1,960 / 2,00098.0%97.4〜98.6%
雨 5〜10 mm/h380 / 40095.0%92.8〜97.2%
雨 10 mm/h 以上180 / 20090.0%85.8〜94.2%
全体2,520 / 2,60096.9%—

全体の 96.9% だけを見ると、要求の 95% を満たしているように見えます。ところが雨 10 mm/h 以上では、信頼区間の上端(94.2%)でも要求を下回っていて、はっきりとトリガー条件です。雨 5〜10 mm/h は区間が 95% をまたいでいるので、試験を増やして確かめる必要があります。平均は弱い条件を薄めてしまう(2.8)ので、条件ごとに分けて見ることが基本です。

② 組み合わせで現れるトリガー条件

1つずつなら問題がなくても、重なると問題になることがあります。夜だけなら検出率 96%、雨だけでも 96% と、どちらも要求を満たすのに、雨の夜には 85% まで下がる、といった例です(濡れた路面にヘッドライトが反射するなど)。こうした組み合わせを見逃さないには、条件を組み合わせて試験する必要があります。6つの条件がそれぞれ3段階あると、すべての組み合わせは

$$3^6 = 729\ \text{通り}$$

です。すべてを走行試験するのは大変ですが、「どの2つの条件の組み合わせも、少なくとも1回は試す」だけなら、ずっと少なくて済みます。2つの条件の段階の組は \(\binom{6}{2} \times 3^2 = 15 \times 9 = 135\) 通りで、1回の試験で 15 組を同時に試せるので、少なくとも 135 ÷ 15 = 9 通り、うまく並べれば十数通りの試験で、すべての組を一度ずつ試せます。これを ペアワイズ試験(組み合わせ試験)と呼びます。ソフトウェアの不具合の多くは、少数の条件の組み合わせで起きることが知られており、その考え方を使います。

③ 性能の境界と ODD

図のカメラの検出率を、雨の強さ r(mm/h)の式で近似すると

$$p(r) = 98 - 0.4\,r\ \ (\%)$$

です。要求の 95% を下回り始めるのは、98 − 0.4r = 95 から r = 7.5 mm/h です。ODD の上限(10 mm/h)より手前なので、対策を選びます。

  • ODD を狭める:雨の上限を 7.5 mm/h に下げる(4.1)
  • 性能を上げる:LiDAR やレーダーと組み合わせる(4.3 のフュージョン)
  • 振る舞いを変える:雨が強いときは速度を落とし、見逃しても止まれる余裕をつくる(4.5)

どれを選ぶかは、使える場面の広さと、実現にかかる手間との釣り合いで決めます。なお LiDAR は約 18 mm/h で要求を下回りますが、ODD の外なので、この ODD の中では問題になりません。

実務との接点

  • 表を使って抜けを減らす:部品 × 条件の分類の表で一つずつ確かめます。過去の事故・リコール・ヒヤリハットの記録も、候補を探す入力になります。→ 5.4 ハザード分析
  • 仕様の不十分は「書かれていないこと」:手信号、緊急車両、路上の催し物など、仕様にない場面は試験も作られません。仕様や ODD を読み合わせ、「この場合はどうする?」と問いかけるレビューが有効です。→ 4.1
  • データから見つける:性能を条件ごとに分けて、下がる条件を探します。誤りの原因は、説明の技術(3.9)で手がかりを得られます。→ 2.8、3.9
  • 見つけたら判断して記録する:対策するか、残る危険として受け入れるかを受入れ基準で判断し、既知の危険の一覧(5.2 の領域2)に記録します。→ 5.5 受入れ基準と妥当性確認目標
  • 意図的な条件との境目:自然に起きる条件は SOTIF、わざと作られた模様や信号は頑健性やサイバーセキュリティ(3.8・4.7)の対象です。どちらで扱うかを決めて、抜けを防ぎます。→ 3.8、4.7

まとめ

  • 機能不十分には、仕様の不十分(考えていない状況がある)と性能の不十分(性能が足りない)があり、トリガー条件がそれを表に出す
  • トリガー条件は、条件の分類 × システムの部品の表や、条件ごとに分けた性能の測定で探す。全体の平均は弱い条件を薄めるので、信頼区間とあわせて条件ごとに確かめる
  • 1つずつなら問題なくても、組み合わせで現れる条件がある(ペアワイズ試験)。性能の境界が ODD の中にあれば、ODD を狭める・性能を上げる・振る舞いを変える、のいずれかで対策する

確認クイズ

Q1. 次は仕様の不十分と性能の不十分のどちら? (a)工事現場で誘導員が手で合図しているが、機能の仕様にその場面がない (b)霧で LiDAR の届く距離が短くなり、止まるのが間に合わない

(a)仕様の不十分、(b)性能の不十分です。

Q2. 雨 10 mm/h 以上の条件で、歩行者を 300 回中 282 回検出しました。検出率と 95% 信頼区間は? 要求 95% を下回ると言える?

検出率は 94%、区間は 94% ± 2√(0.94 × 0.06 / 300) ≈ 94% ± 2.7%、つまり約 91.3〜96.7% です。区間が 95% をまたいでいるので、下回ると言い切るには試験を増やす必要があります。

Q3. 5つの条件がそれぞれ4段階あるとき、すべての組み合わせは何通り? どの2つの条件の組も一度ずつ試すには、少なくとも何通りの試験が必要?

すべての組み合わせは 4⁵ = 1,024 通りです。2つの条件の段階の組は \(\binom{5}{2} \times 4^2 = 10 \times 16 = 160\) 通りで、1回の試験で 10 組を試せるので、少なくとも 16 通りが必要です。

Q4. ③のカメラ(p(r) = 98 − 0.4r)で、要求が 96% だったら、何 mm/h から要求を下回る?

98 − 0.4r = 96 から r = 5 mm/h です。要求が厳しくなるほど、トリガー条件の境界は弱い雨の側に移ります。

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