4.3 センサとフュージョン
カメラ・LiDAR・レーダーの得意と苦手
この回で分かること
- カメラ・LiDAR・レーダー などのセンサが何を測り、それぞれ何が得意で何が苦手かを説明できる
- 光や電波の往復で距離を測るしくみと、ステレオカメラの距離の誤差が遠いほど大きくなる理由を、式で確かめられる
- 複数のセンサを誤差の大きさに応じて組み合わせる センサフュージョン を計算でき、その安全上の注意点を説明できる
直感で理解する
4.2 の流れのいちばん最初にあるのが センサ です。センサがとらえられなかった物は、その先の認知や判断ではどうにもなりません。自動運転車は、性質の違う何種類ものセンサを積んでいます。
| センサ | 測るもの | 得意 | 苦手 |
|---|---|---|---|
| カメラ | 光の画像(見た目) | 色・形・文字の見分け(信号、標識、車線、歩行者と自転車の区別)。安い | 距離(特に遠く)、暗さ・逆光・急な明るさの変化、レンズの雨粒や汚れ |
| LiDAR | レーザー光の往復時間 → 3次元の点の集まり(点群) | 距離と形を正確に。昼でも夜でも同じように測れる | 色や文字は分からない。雨・霧・雪で光が乱れる。黒い物や遠い物は反射が弱い。高価 |
| レーダー | 電波の往復時間と周波数のずれ → 距離と相対速度 | 相対速度を直接測れる。遠くまで届く。雨・霧・暗さに強い | 横方向の細かさ(解像度)が粗く、形の見分けが苦手。止まっている物や、マンホールのふた・頭上の標識などの金属の反射の区別 |
| 超音波 | 音の往復時間 | 数 m 以内の近く(駐車のとき) | 遠く、速い速度 |
| GNSS・IMU | 衛星の電波/加速度と回転 | 自車の位置と動き | トンネルやビルの谷間(GNSS)、時間とともにずれがたまる(IMU)。→ 4.4 自己位置推定と地図 |
1種類で何でもこなせるセンサはありません。そこで、複数のセンサの情報を組み合わせ、互いの弱点を補うのが センサフュージョン です。たとえば前の車の位置を測るとき、カメラは画像の中の位置から「横の位置」は正確に分かりますが、距離はあいまいです。レーダーはその逆で、距離は正確ですが横の位置は粗くしか分かりません。2つを重ねると、どちらの向きにも正確な位置が得られます。
組み合わせ方には、センサの生のデータの段階で重ねる方法(早期融合)と、センサごとに物体を検出してから、その結果のリストを合わせる方法(後期融合)があります。早期融合は情報を捨てずに使える一方、どれかのセンサが乱れると全体が乱れやすく、後期融合はセンサごとに確かめやすい一方、各センサが捨てた情報は取り戻せません。
数式で確かめる
① 光や電波の往復で距離を測る
LiDAR は、レーザー光を出してから、物に当たって戻ってくるまでの時間 t を測ります。光の速さを c(約 \(3 \times 10^8\) m/s、1秒間に30万 km)とすると、光は往復するので
です。100 m 先の物なら t = 2 × 100 ÷ (3 × 10⁸) ≈ 0.67 μs(100万分の0.67秒)。時間の測り方が 1 ns(10億分の1秒)ずれるだけで、距離は 15 cm ずれます。とても短い時間を正確に測る技術が、LiDAR の距離の正確さを支えています。
レーダーも電波の往復で距離を測ります。さらに、動いている物で跳ね返った電波は周波数が少しずれる(ドップラー効果)ので、そのずれから相対速度を直接測れます。77 GHz のレーダーで相対速度が 10 m/s なら、ずれは約 5 kHz です。カメラや LiDAR が、位置の変化から速度を後で計算するのとは違う点です。
② カメラの距離は遠いほど苦手
カメラ1台の画像からは、距離を直接は測れません。2台のカメラを左右に並べた ステレオカメラ なら、同じ物が左右の画像でどれだけずれて写るか(視差 d、画素の数)から、距離 Z を求められます。
f は焦点距離(画素で表した値)、B は2台のカメラの間隔です。f = 1000 画素、B = 0.3 m なら、30 m 先の物の視差は 1000 × 0.3 ÷ 30 = 10 画素。視差の読み取りが Δd ずれたときの距離のずれは、0.2 の微分を使うと
となり、距離の2乗に比例します。Δd = 0.5 画素のときは次のとおりです。
| 距離 Z | 15 m | 30 m | 60 m |
|---|---|---|---|
| 視差 d | 20 画素 | 10 画素 | 5 画素 |
| 距離の誤差 ΔZ | 約 0.4 m | 約 1.5 m | 約 6 m |
距離が2倍になると、誤差は約4倍になります。遠くの物の距離はカメラよりレーダーや LiDAR が得意なのは、このためです。カメラ1台で距離を推定する AI も、物の大きさや写る位置から推し量っているので、遠くほど誤差が大きくなります。
③ フュージョン:誤差の小さいほうを重く
同じ物までの距離を、LiDAR が 50.0 m(誤差の標準偏差 \(\sigma_1 = 0.3\) m)、レーダーが 50.6 m(\(\sigma_2 = 0.6\) m)と測りました。どちらか一方を信じるのではなく、両方を使います。誤差が独立で正規分布(1.3)に従うなら、最も確からしい値は、それぞれの分散の逆数を重みにした平均です。
重みは 1/0.09 : 1/0.36 = 4 : 1 なので、x̂ = (4 × 50.0 + 1 × 50.6) ÷ 5 = 50.12 m。合わせた誤差は σ̂ ≈ 0.27 m で、よいほうの LiDAR(0.3 m)よりさらに小さくなります。正確なセンサを重く、あいまいなセンサを軽く扱って、両方の情報を足し合わせるのが、フュージョンの基本の考え方です。同じ計算を時刻ごとにくり返し、4.2 の③の予測と新しい測定を組み合わせていく方法が カルマンフィルタ で、追跡や自己位置推定で広く使われています。
図のように、向きによって得意なセンサが違うときは、向きごとにこの重み付けが働き、横の位置はカメラ、距離はレーダーに近い値になります。ただし、この計算は、それぞれの σ が正しいことが前提です。σ を小さく見積もりすぎた自信過剰なセンサは、間違った値で全体を引っ張ってしまいます(3.7)。
SOTIF・安全との接点
- 違う原理のセンサを組み合わせる(多様性):カメラと LiDAR はどちらも光を使うので、濃霧や豪雨で一緒に弱ります(共通原因)。電波を使うレーダーを組み合わせると、同じ原因ですべてのセンサが弱ることを避けやすくなります。→ 1.1、2.5
- 食い違ったときにどちらを信じるか:レーダーは、マンホールのふたや頭上の標識にも強く反応することがあります。「どれか1つが見つけたら止まる」とすれば見逃しは減りますが、不要な急ブレーキが増えます。「全部が見つけたら止まる」とすれば、その逆です。2.7 の見逃しと誤検知の釣り合いと同じ問題です。→ 2.7
- センサの苦手はトリガー条件の候補:逆光(カメラ)、霧や雨(LiDAR)、金属の多いトンネルや高架下(レーダー)など、表の「苦手」は SOTIF で調べるトリガー条件の候補になります。→ 5.3 機能不十分とトリガー条件
- 汚れや故障に気づく:泥・雪・虫でセンサがふさがれると、「何もない」のか「何も見えない」のかの区別がつきにくくなります。センサ自身の状態を見張り、性能が落ちたら機能を制限したり、引き継ぎを求めたりします。→ 4.1
- 位置と時刻を合わせる:センサどうしの取り付け角度が 0.1° ずれると、100 m 先では約 17 cm の横ずれになります。測った時刻が 50 ms ずれると、相対速度 30 m/s の物は 1.5 m ずれた位置に重ねられてしまいます。フュージョンの前提として、位置合わせ(キャリブレーション)と時刻合わせが欠かせません。
まとめ
- カメラは見分けるのが得意だが距離と明るさの変化が苦手、LiDAR は距離と形が正確だが霧や雨に弱い、レーダーは速度と悪天候に強いが形の見分けが苦手。1種類ですべてをまかなえるセンサはない
- 距離は、光や電波の往復時間(d = ct/2)や、ステレオカメラの視差(Z = fB/d)から求める。ステレオカメラの距離の誤差は、距離の2乗に比例して大きくなる
- フュージョンは、分散の逆数で重み付けして組み合わせ、どのセンサ単独よりも誤差を小さくする。違う原理のセンサを組み合わせること、σ の正しさや位置と時刻の合わせを確かめることが前提になる
確認クイズ
Q1. 夜、トンネルの出口で強い逆光に向かって走っています。弱りやすいのはどのセンサ? 何で補える?
カメラです(逆光や急な明るさの変化に弱い)。LiDAR やレーダーは自分で光や電波を出して測るので、周りの明るさにはほとんど左右されず、補うことができます。
Q2. LiDAR の光が戻るまでに 0.4 μs かかりました。物までの距離は?
d = 3 × 10⁸ × 0.4 × 10⁻⁶ ÷ 2 = 60 m です。
Q3. 本文のステレオカメラ(f = 1000 画素、B = 0.3 m、視差のずれ 0.5 画素)で、90 m 先の物の距離の誤差はおよそいくつ?
ΔZ ≈ 90² ÷ (1000 × 0.3) × 0.5 = 8100 ÷ 300 × 0.5 = 13.5 m。30 m 先の 9倍です(距離が3倍なので誤差は 3² = 9倍)。
Q4. 同じ距離を、どちらも σ = 0.4 m の2つのセンサで測って組み合わせると、誤差はいくつになる?
1/σ̂² = 1/0.16 + 1/0.16 なので、σ̂ = 0.4 ÷ √2 ≈ 0.28 m。1.5 の標準誤差 σ/√n と同じ形です。ただし、2つの誤差が独立なときに限ります。
もっと知りたい人へ
- 次の回:4.4 自己位置推定と地図
- 関連:4.2 システムの全体像、1.1 確率とは何か(共通原因)、1.3 確率分布(正規分布)、2.7 評価指標(見逃しと誤検知)、3.4 物体検出とセグメンテーション(3次元の検出)、3.7 不確実性とキャリブレーション
- 用語集:センサフュージョン、LiDAR、レーダー、点群、ステレオカメラ・視差、カルマンフィルタ、共通原因
- 解説動画:YouTube(約5分)(静止画のスライドと音声で要点を説明。英語版の記事には英語の動画があります)
- 参考文献
- J. Van Brummelen ほか, “Autonomous vehicle perception: The technology of today and tomorrow,” Transportation Research Part C, 2018.
- D. J. Yeong ほか, “Sensor and Sensor Fusion Technology in Autonomous Vehicles: A Review,” Sensors, 2021.
- R. E. Kalman, “A New Approach to Linear Filtering and Prediction Problems,” Journal of Basic Engineering, 1960.