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Part 1 · 確率・統計

1.3 確率分布

二項・ポアソン・正規分布 ——「どの結果が、どれくらい起きやすいか」の一覧表

読了目安 10分前提:1.1 確率とは何か、0.2 数式の読み方▶ 動画(約5分)

この回で分かること

  • 確率分布 を「起こりうる結果と、その起きやすさの一覧」として説明できる
  • 二項分布・ポアソン分布・正規分布の違いと、使い分けの目安を説明できる
  • 試験の成功回数、事故や介入の回数、センサの誤差を、どの分布で表すか判断できる

直感で理解する

歩行者を検出する機能を、歩行者が出てくる同じ場面で 10回 試験するとします。この検出器の実力は「1回あたり90%の確率で検出できる」ものだとします。10回の試験で、何回検出できるでしょうか。

「9回」と答えたくなりますが、実際の結果は毎回ばらつきます。起こりうる結果と、それぞれの確率を並べると次のようになります。

0.2% 1.1% 5.7% 19.4% 38.7% 34.9% 5回以下 6回 7回 8回 9回 10回(全部成功) 10回の試験で検出できた回数(検出率90%の場合)
いちばん起きやすいのは9回(約39%)で、10回すべて成功するのは約35%しかない。

このように「起こりうる結果」と「その起きやすさ」を一覧にしたものを 確率分布 と呼びます。実力90%の検出器でも、10回すべて成功するのは3回に1回ほど。逆に言えば、10回全勝したからといって「実力は100%」とは言えません(1.8 と同じ考え方です)。

確率分布にはたくさんの種類がありますが、このサイトでよく使うのは次の3つです。

  • 二項分布:決まった回数の試行で、何回成功するか
  • ポアソン分布:一定の距離や時間の中で、稀な出来事が何回起きるか
  • 正規分布:測定値が平均のまわりにどうばらつくか

数式で確かめる

① 二項分布:n回のうち、何回成功するか

成功確率 \(p\) の試行を \(n\) 回くり返したとき、成功回数 \(X\) がちょうど \(k\) 回になる確率は次の式で表せます。ここでは、各回の結果が互いに無関係で、毎回同じ確率 \(p\) だと仮定します。

$$P(X = k) = \binom{n}{k}\, p^k (1-p)^{n-k}$$

\(p^k\) は「k 回成功する」確率、\((1-p)^{n-k}\) は「残りが失敗する」確率、\(\binom{n}{k}\)(n 個から k 個を選ぶ組合せの数)は「何回目に成功するか」の並べ方の数です。たとえば 10 回中 9 回成功する並べ方は、失敗する1回が何回目かで決まるので 10 通りです。

$$P(X = 9) = 10 \times 0.9^9 \times 0.1 \approx 0.387$$

平均的な成功回数は \(np = 10 \times 0.9 = 9\) 回です。

② ポアソン分布:稀な出来事が何回起きるか

試行回数 \(n\) がとても大きく、1回あたりの確率 \(p\) がとても小さい場合を考えます。たとえば「1 km 走るごとに事故が起きるかどうか」を何万 km ぶん数えるような場合です。このとき二項分布は、平均回数 \(m = np\) だけで決まる形に近づきます。これが ポアソン分布 です。

$$P(N = k) = \frac{m^k e^{-m}}{k!}$$

\(k!\)(k の階乗)は \(k \times (k-1) \times \cdots \times 1\) のことで、\(0! = 1\) と決めます。k = 0 を入れると \(P(N=0) = e^{-m}\)。これが 1.8 で「事故ゼロで終わる確率」として使った式です(m = 事故率 λ × 走行距離 d)。

例:試験車両で、安全のためにドライバーが運転を代わる「介入」が 平均して1日2回 起きているとします(m = 2)。1日の介入回数の分布は次のとおりです。

1日の介入回数0回1回2回3回4回5回以上
確率13.5%27.1%27.1%18.0%9.0%5.3%

平均2回のペースでも、介入ゼロの日がおよそ7日に1日はあります。「今日は介入ゼロだった」だけでは、システムが改善したとは言えない理由がここにあります。

ポアソン分布には、安全の計算でよく使う性質が3つあります。

  • 率は足せる:原因ごとの発生率(1 km あたり)が互いに独立なら、全体の率はそのまま足し算です。トリガー条件ごとの率を足して全体の率を出す計算(5.2)はこれを使っています。
  • ばらつきは √平均:ポアソン分布の分散は平均 m に等しく、標準偏差は \(\sqrt{m}\) です。月に平均 10 件のヒヤリハットなら、何も変わっていなくても ±3 件(≈ √10)はふつうにぶれます。市場での監視で警報を出す線を「平均 + 3√平均」に引くのはこのためです(5.11)。
  • 次に起きるまでの待ち時間:率 \(\lambda\) が一定なら、時間 t の間に 1 件も起きない確率は \(e^{-\lambda t}\) です(待ち時間は指数分布に従います)。機能安全で使う故障率の単位 FIT(10 億時間に 1 件)もこの率で、10 FIT の部品を 100 万台に載せて 1 年(走行約 1,000 時間)使うと、期待される故障は 10⁻⁸ × 10⁶ × 10³ = 10 件です(4.7)。

③ 正規分布:測定値のばらつきを表す山

測定の誤差のように、多くの小さな要因が重なって生じるばらつきは、平均 \(\mu\)(ミュー)を中心とした左右対称の釣り鐘型になることがよくあります。これが 正規分布(ガウス分布)です。形は平均 \(\mu\) と標準偏差 \(\sigma\)(ばらつきの大きさ。1.4 で詳しく扱います)の2つだけで決まります。

$$f(x) = \frac{1}{\sqrt{2\pi}\,\sigma} \exp\!\left(-\frac{(x-\mu)^2}{2\sigma^2}\right)$$

この式は覚えなくて大丈夫です。回数ではなく長さのような連続的な値では、確率は「山の下の面積」で表します。覚えておきたいのは、次の図の3つの数字です。

68% μ−3σ μ−2σ μ−σ μ μ+σ μ+2σ μ+3σ μ±σ:約68% μ±2σ:約95% μ±3σ:約99.7% 平均 μ からのずれ(σ:標準偏差)
濃い部分が平均 ±σ の範囲(約68%)、薄い部分まで含めると ±2σ の範囲(約95%)。±3σ の外に出るのは約0.27%だけ。

例:LiDAR の距離測定の誤差が、平均0・標準偏差 σ = 2 cm の正規分布に従うとします。95% の測定は ±4 cm 以内に収まり、±6 cm(3σ)の外に出るのは約0.27%だけです。ただし、0.27% は小さな数ではありません。1秒間に10万回測定するセンサなら、1秒に約270回は ±6 cm を超える計算になります。

④ 使い分けの目安

分布何を表すか形を決めるもの自動運転での例
二項分布決まった回数の試行のうち、成功(失敗)した回数試行回数 n、成功確率 p100回の試験走行で歩行者を検出できた回数
ポアソン分布一定の距離・時間の中で、稀な出来事が起きる回数平均回数 m(=発生率 λ × 距離や時間)1万kmあたりの事故やドライバー介入の回数
正規分布多くの小さな要因が重なった測定値のばらつき平均 μ、標準偏差 σセンサの距離測定の誤差

自動運転との接点

  • 試験結果もばらつく:検出率90%の機能でも、10回の試験で全部成功するのは約35%。試験回数が少ないと、たまたまの成功や失敗に振り回されます。何回試験すれば十分かは 1.6(信頼区間)と 1.7(検定)で扱います。
  • 事故や介入の回数はポアソン分布:1.8 の「3の法則」は、ポアソン分布で事故が0回になる確率 \(e^{-m}\) から導いたものです。
  • 「3σの外」も数が集まれば起きる:正規分布では ±3σ の外は約0.27%ですが、1秒に何十万回も測定するセンサでは毎秒数百回起きる計算です。さらに実際のセンサ誤差は、正規分布より大きな外れが出やすい(裾が重い)ことがあり、SOTIFでは性能の限界として扱います。→ 1.9、5.3
  • 分布は「仮定」である:二項分布は「毎回同じ確率・互いに無関係」、ポアソン分布は「発生率が一定」を前提にしています。雨の日だけ失敗が続くような場合、この前提は崩れます。どの分布を使うかは実データで確かめる必要があり、仮定が外れると安全性の見積もりも外れます。

まとめ

  • 確率分布は「起こりうる結果と、その起きやすさ」の一覧
  • 回数を数えるなら、試行回数が決まっていれば二項分布、稀な出来事を距離・時間で数えるならポアソン分布。連続的な測定値のばらつきなら正規分布
  • 正規分布の目安:平均 ±σ に約68%、±2σ に約95%、±3σ に約99.7%

確認クイズ

Q1. 検出率90%の検出器で、2回の試験が2回とも成功する確率は?

81%。0.9 × 0.9 = 0.81 です(二項分布で n = 2、k = 2 の場合)。

Q2. 平均して1日2回介入が起きる試験車両で、ある日の介入が0回になる確率は?

約13.5%。ポアソン分布で \(P(N=0) = e^{-2} \approx 0.135\) です。

Q3. 誤差が平均0・標準偏差2 cm の正規分布に従うとき、±4 cm を超える測定はおよそ何%?

約5%。±4 cm は ±2σ にあたり、その内側に約95% が入るので、外側は約5% です。

Q4. 次のうち、ポアソン分布で表すのが最も自然なのは?(a)100回の試験での検出成功回数(b)1万kmあたりの事故件数(c)距離センサの誤差

(b)。稀な出来事を一定の距離の中で数えるのでポアソン分布です。(a)は試行回数が決まっているので二項分布、(c)は連続的な測定値のばらつきなので正規分布が目安になります。

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