1.3 確率分布
二項・ポアソン・正規分布 ——「どの結果が、どれくらい起きやすいか」の一覧表
この回で分かること
- 確率分布 を「起こりうる結果と、その起きやすさの一覧」として説明できる
- 二項分布・ポアソン分布・正規分布の違いと、使い分けの目安を説明できる
- 試験の成功回数、事故や介入の回数、センサの誤差を、どの分布で表すか判断できる
直感で理解する
歩行者を検出する機能を、歩行者が出てくる同じ場面で 10回 試験するとします。この検出器の実力は「1回あたり90%の確率で検出できる」ものだとします。10回の試験で、何回検出できるでしょうか。
「9回」と答えたくなりますが、実際の結果は毎回ばらつきます。起こりうる結果と、それぞれの確率を並べると次のようになります。
このように「起こりうる結果」と「その起きやすさ」を一覧にしたものを 確率分布 と呼びます。実力90%の検出器でも、10回すべて成功するのは3回に1回ほど。逆に言えば、10回全勝したからといって「実力は100%」とは言えません(1.8 と同じ考え方です)。
確率分布にはたくさんの種類がありますが、このサイトでよく使うのは次の3つです。
- 二項分布:決まった回数の試行で、何回成功するか
- ポアソン分布:一定の距離や時間の中で、稀な出来事が何回起きるか
- 正規分布:測定値が平均のまわりにどうばらつくか
数式で確かめる
① 二項分布:n回のうち、何回成功するか
成功確率 \(p\) の試行を \(n\) 回くり返したとき、成功回数 \(X\) がちょうど \(k\) 回になる確率は次の式で表せます。ここでは、各回の結果が互いに無関係で、毎回同じ確率 \(p\) だと仮定します。
\(p^k\) は「k 回成功する」確率、\((1-p)^{n-k}\) は「残りが失敗する」確率、\(\binom{n}{k}\)(n 個から k 個を選ぶ組合せの数)は「何回目に成功するか」の並べ方の数です。たとえば 10 回中 9 回成功する並べ方は、失敗する1回が何回目かで決まるので 10 通りです。
平均的な成功回数は \(np = 10 \times 0.9 = 9\) 回です。
② ポアソン分布:稀な出来事が何回起きるか
試行回数 \(n\) がとても大きく、1回あたりの確率 \(p\) がとても小さい場合を考えます。たとえば「1 km 走るごとに事故が起きるかどうか」を何万 km ぶん数えるような場合です。このとき二項分布は、平均回数 \(m = np\) だけで決まる形に近づきます。これが ポアソン分布 です。
\(k!\)(k の階乗)は \(k \times (k-1) \times \cdots \times 1\) のことで、\(0! = 1\) と決めます。k = 0 を入れると \(P(N=0) = e^{-m}\)。これが 1.8 で「事故ゼロで終わる確率」として使った式です(m = 事故率 λ × 走行距離 d)。
例:試験車両で、安全のためにドライバーが運転を代わる「介入」が 平均して1日2回 起きているとします(m = 2)。1日の介入回数の分布は次のとおりです。
| 1日の介入回数 | 0回 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 確率 | 13.5% | 27.1% | 27.1% | 18.0% | 9.0% | 5.3% |
平均2回のペースでも、介入ゼロの日がおよそ7日に1日はあります。「今日は介入ゼロだった」だけでは、システムが改善したとは言えない理由がここにあります。
ポアソン分布には、安全の計算でよく使う性質が3つあります。
- 率は足せる:原因ごとの発生率(1 km あたり)が互いに独立なら、全体の率はそのまま足し算です。トリガー条件ごとの率を足して全体の率を出す計算(5.2)はこれを使っています。
- ばらつきは √平均:ポアソン分布の分散は平均 m に等しく、標準偏差は \(\sqrt{m}\) です。月に平均 10 件のヒヤリハットなら、何も変わっていなくても ±3 件(≈ √10)はふつうにぶれます。市場での監視で警報を出す線を「平均 + 3√平均」に引くのはこのためです(5.11)。
- 次に起きるまでの待ち時間:率 \(\lambda\) が一定なら、時間 t の間に 1 件も起きない確率は \(e^{-\lambda t}\) です(待ち時間は指数分布に従います)。機能安全で使う故障率の単位 FIT(10 億時間に 1 件)もこの率で、10 FIT の部品を 100 万台に載せて 1 年(走行約 1,000 時間)使うと、期待される故障は 10⁻⁸ × 10⁶ × 10³ = 10 件です(4.7)。
③ 正規分布:測定値のばらつきを表す山
測定の誤差のように、多くの小さな要因が重なって生じるばらつきは、平均 \(\mu\)(ミュー)を中心とした左右対称の釣り鐘型になることがよくあります。これが 正規分布(ガウス分布)です。形は平均 \(\mu\) と標準偏差 \(\sigma\)(ばらつきの大きさ。1.4 で詳しく扱います)の2つだけで決まります。
この式は覚えなくて大丈夫です。回数ではなく長さのような連続的な値では、確率は「山の下の面積」で表します。覚えておきたいのは、次の図の3つの数字です。
例:LiDAR の距離測定の誤差が、平均0・標準偏差 σ = 2 cm の正規分布に従うとします。95% の測定は ±4 cm 以内に収まり、±6 cm(3σ)の外に出るのは約0.27%だけです。ただし、0.27% は小さな数ではありません。1秒間に10万回測定するセンサなら、1秒に約270回は ±6 cm を超える計算になります。
④ 使い分けの目安
| 分布 | 何を表すか | 形を決めるもの | 自動運転での例 |
|---|---|---|---|
| 二項分布 | 決まった回数の試行のうち、成功(失敗)した回数 | 試行回数 n、成功確率 p | 100回の試験走行で歩行者を検出できた回数 |
| ポアソン分布 | 一定の距離・時間の中で、稀な出来事が起きる回数 | 平均回数 m(=発生率 λ × 距離や時間) | 1万kmあたりの事故やドライバー介入の回数 |
| 正規分布 | 多くの小さな要因が重なった測定値のばらつき | 平均 μ、標準偏差 σ | センサの距離測定の誤差 |
自動運転との接点
- 試験結果もばらつく:検出率90%の機能でも、10回の試験で全部成功するのは約35%。試験回数が少ないと、たまたまの成功や失敗に振り回されます。何回試験すれば十分かは 1.6(信頼区間)と 1.7(検定)で扱います。
- 事故や介入の回数はポアソン分布:1.8 の「3の法則」は、ポアソン分布で事故が0回になる確率 \(e^{-m}\) から導いたものです。
- 「3σの外」も数が集まれば起きる:正規分布では ±3σ の外は約0.27%ですが、1秒に何十万回も測定するセンサでは毎秒数百回起きる計算です。さらに実際のセンサ誤差は、正規分布より大きな外れが出やすい(裾が重い)ことがあり、SOTIFでは性能の限界として扱います。→ 1.9、5.3
- 分布は「仮定」である:二項分布は「毎回同じ確率・互いに無関係」、ポアソン分布は「発生率が一定」を前提にしています。雨の日だけ失敗が続くような場合、この前提は崩れます。どの分布を使うかは実データで確かめる必要があり、仮定が外れると安全性の見積もりも外れます。
まとめ
- 確率分布は「起こりうる結果と、その起きやすさ」の一覧
- 回数を数えるなら、試行回数が決まっていれば二項分布、稀な出来事を距離・時間で数えるならポアソン分布。連続的な測定値のばらつきなら正規分布
- 正規分布の目安:平均 ±σ に約68%、±2σ に約95%、±3σ に約99.7%
確認クイズ
Q1. 検出率90%の検出器で、2回の試験が2回とも成功する確率は?
81%。0.9 × 0.9 = 0.81 です(二項分布で n = 2、k = 2 の場合)。
Q2. 平均して1日2回介入が起きる試験車両で、ある日の介入が0回になる確率は?
約13.5%。ポアソン分布で \(P(N=0) = e^{-2} \approx 0.135\) です。
Q3. 誤差が平均0・標準偏差2 cm の正規分布に従うとき、±4 cm を超える測定はおよそ何%?
約5%。±4 cm は ±2σ にあたり、その内側に約95% が入るので、外側は約5% です。
Q4. 次のうち、ポアソン分布で表すのが最も自然なのは?(a)100回の試験での検出成功回数(b)1万kmあたりの事故件数(c)距離センサの誤差
(b)。稀な出来事を一定の距離の中で数えるのでポアソン分布です。(a)は試行回数が決まっているので二項分布、(c)は連続的な測定値のばらつきなので正規分布が目安になります。
もっと知りたい人へ
- 次の回:1.4 期待値と分散
- 関連:1.2 条件付き確率とベイズの定理、1.8 稀な事象の統計(ポアソン分布を使う)、1.9 極値と裾の重い分布
- 解説動画:YouTube(約5分30秒)(静止画のスライドと音声で要点を説明。英語版の記事には英語の動画があります)