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Part 1 · 確率・統計

1.2 条件付き確率とベイズの定理

歩行者アラームは、どこまで信じてよい?

読了目安 6分前提:1.1 確率とは何か▶ 動画(約4分)

この回で分かること

  • 「Aが起きたときにBが起きる確率」= 条件付き確率 を説明できる
  • 検出性能が高くても、誤報のほうが多くなる ことがある理由を説明できる
  • ベイズの定理で「アラームが本物である確率」を計算できる

直感で理解する

車載カメラの歩行者検出器を考えます。条件は次のとおりです。

  • 走行中の映像のうち、歩行者が写っているフレームは 0.1%
  • 歩行者が写っていれば、検出器は 99% の確率でアラームを出す
  • 歩行者がいなくても、1% の確率で誤ってアラームを出す

では、アラームが鳴ったとき、本当に歩行者がいる確率はどれくらいでしょう? 「99%」と答えたくなりますが、実際は 約9% です。

確率のままだと分かりにくいので、10万フレーム で数えてみます。

  • 歩行者あり:10万 × 0.1% = 100フレーム → うち99%の 99回 でアラーム
  • 歩行者なし:99,900フレーム → うち1%の 999回 で誤報

アラームは合計 1,098 回。そのうち本物は 99 回だけです。

アラーム 1,098回の内訳 本物 99回(約9%) 誤報 999回(約91%)
歩行者がいる場面そのものが稀なので、わずか1%の誤報でも数では本物を上回る。

ポイントは、そもそも歩行者がいる場面が稀(0.1%)だということです。稀な事象を探すとき、小さな誤報率でも「母数の多さ」に掛け算されて、本物より多くなってしまいます。

数式で確かめる

「Aが起きたという条件のもとでBが起きる確率」を \(P(B \mid A)\) と書き、条件付き確率 と呼びます。

$$P(B \mid A) = \frac{P(A \cap B)}{P(A)}$$

ここで \(H\)=「歩行者がいる」、\(A\)=「アラームが鳴る」とします。知りたいのは \(P(H \mid A)\) ですが、分かっているのは逆向きの \(P(A \mid H)\) です。この向きをひっくり返すのが ベイズの定理 です。

$$P(H \mid A) = \frac{P(A \mid H)\,P(H)}{P(A \mid H)\,P(H) + P(A \mid \bar{H})\,P(\bar{H})}$$

数字を入れると、10万フレームで数えた結果と一致します。

$$P(H \mid A) = \frac{0.99 \times 0.001}{0.99 \times 0.001 + 0.01 \times 0.999} \approx 0.090$$

\(P(H)\) を 事前確率(データを見る前の見込み)、\(P(H \mid A)\) を 事後確率(アラームという証拠を見た後の見込み)と呼びます。

発展:試験の合格は、どれだけの証拠か

ベイズの定理は、アラームだけでなく「試験に合格した」という証拠にも使えます。ある機能が、要求を満たしている(安全側)か、実は満たしていない(危険側)かのどちらかだとします。危険側でも、1回の試験には 90% で合格してしまうとしましょう(見逃す確率が要求の10倍でも、1回では分かりません)。安全側なら合格率は 99% です。n 回続けて合格したとき、その結果が安全側と危険側のどちらで起きやすいかの比を 尤度比 と呼びます。

$$\text{尤度比} = \frac{P(\text{合格} \mid \text{安全})}{P(\text{合格} \mid \text{危険})} = \left(\frac{0.99}{0.90}\right)^{n}$$

n = 10 なら約 2.6 倍、n = 100 なら約 1.4 万倍です。試験の前の見込みを「安全側 : 危険側」の比(オッズ)で表しておくと、ベイズの定理は次の簡単な形になります。

$$\text{事後オッズ} = \text{事前オッズ} \times \text{尤度比}$$

かなり疑ってかかる「1 : 9」から始めると、10 回の合格では 1/9 × 2.6 ≈ 0.29、つまり安全側の確率は約 22% で、まだ危険側のほうが見込みが高いままです。100 回の合格ではじめて、安全側が 99.9% を超えます。

「合格した」という事実の重さは、その試験が危険側をどれだけ落とせるか(1 − 0.90)で決まります。回数の少ない試験や、危険側でも通ってしまう甘い試験は、合格しても証拠として弱いのです。「差を見つける力」(1.7 の検出力)と同じ考え方で、セーフティケース(5.10)で証拠の強さを比べるときの土台になります。

自動運転との接点

  • 不要な急ブレーキ:歩行者の飛び出しのような稀な事象を検出するシステムは、誤報(誤作動)を起こしやすい構造をもっています。誤作動による急ブレーキは追突などを招くため、SOTIFでは「反応しすぎ」も危険の原因として扱います。
  • 性能指標の選び方:「歩行者の99%を検出」(再現率)だけでは不十分で、「アラームのうち何%が本物か」(適合率)も見る必要があります。→ 2.7 評価指標
  • 使う場所で意味が変わる:同じ検出器でも、歩行者の多い市街地と高速道路では \(P(H)\) が違い、アラームの信頼度も変わります。→ 4.1 ODD、確認クイズ Q2

まとめ

  • \(P(B \mid A)\) は「Aが起きた世界の中で、Bが占める割合」
  • ベイズの定理は、\(P(A \mid H)\) から \(P(H \mid A)\) へ向きをひっくり返す道具
  • 稀な事象の検出では、事前確率の低さが誤報の多さにつながる

確認クイズ

Q1. 誤報率を 1% から 0.1% に下げると、アラームが本物である確率は?

約50%。10万フレームで数えると、誤報は 99,900 × 0.1% ≈ 100回、本物は 99回なので、99 ÷ (99 + 100) ≈ 0.50 です。誤報率を1/10にしても、まだ半分は誤報です。

Q2. 同じ検出器(検出99%・誤報1%)を、歩行者が写る割合が10%の市街地で使うと?

約92%。10万フレーム中、歩行者あり1万 → 9,900回検出、歩行者なし9万 → 900回誤報。9,900 ÷ 10,800 ≈ 0.92 です。検出器は同じでも、使う環境(ODD) で結果の意味が大きく変わります。

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