1.2 条件付き確率とベイズの定理
歩行者アラームは、どこまで信じてよい?
この回で分かること
- 「Aが起きたときにBが起きる確率」= 条件付き確率 を説明できる
- 検出性能が高くても、誤報のほうが多くなる ことがある理由を説明できる
- ベイズの定理で「アラームが本物である確率」を計算できる
直感で理解する
車載カメラの歩行者検出器を考えます。条件は次のとおりです。
- 走行中の映像のうち、歩行者が写っているフレームは 0.1%
- 歩行者が写っていれば、検出器は 99% の確率でアラームを出す
- 歩行者がいなくても、1% の確率で誤ってアラームを出す
では、アラームが鳴ったとき、本当に歩行者がいる確率はどれくらいでしょう? 「99%」と答えたくなりますが、実際は 約9% です。
確率のままだと分かりにくいので、10万フレーム で数えてみます。
- 歩行者あり:10万 × 0.1% = 100フレーム → うち99%の 99回 でアラーム
- 歩行者なし:99,900フレーム → うち1%の 999回 で誤報
アラームは合計 1,098 回。そのうち本物は 99 回だけです。
ポイントは、そもそも歩行者がいる場面が稀(0.1%)だということです。稀な事象を探すとき、小さな誤報率でも「母数の多さ」に掛け算されて、本物より多くなってしまいます。
数式で確かめる
「Aが起きたという条件のもとでBが起きる確率」を \(P(B \mid A)\) と書き、条件付き確率 と呼びます。
ここで \(H\)=「歩行者がいる」、\(A\)=「アラームが鳴る」とします。知りたいのは \(P(H \mid A)\) ですが、分かっているのは逆向きの \(P(A \mid H)\) です。この向きをひっくり返すのが ベイズの定理 です。
数字を入れると、10万フレームで数えた結果と一致します。
\(P(H)\) を 事前確率(データを見る前の見込み)、\(P(H \mid A)\) を 事後確率(アラームという証拠を見た後の見込み)と呼びます。
発展:試験の合格は、どれだけの証拠か
ベイズの定理は、アラームだけでなく「試験に合格した」という証拠にも使えます。ある機能が、要求を満たしている(安全側)か、実は満たしていない(危険側)かのどちらかだとします。危険側でも、1回の試験には 90% で合格してしまうとしましょう(見逃す確率が要求の10倍でも、1回では分かりません)。安全側なら合格率は 99% です。n 回続けて合格したとき、その結果が安全側と危険側のどちらで起きやすいかの比を 尤度比 と呼びます。
n = 10 なら約 2.6 倍、n = 100 なら約 1.4 万倍です。試験の前の見込みを「安全側 : 危険側」の比(オッズ)で表しておくと、ベイズの定理は次の簡単な形になります。
かなり疑ってかかる「1 : 9」から始めると、10 回の合格では 1/9 × 2.6 ≈ 0.29、つまり安全側の確率は約 22% で、まだ危険側のほうが見込みが高いままです。100 回の合格ではじめて、安全側が 99.9% を超えます。
「合格した」という事実の重さは、その試験が危険側をどれだけ落とせるか(1 − 0.90)で決まります。回数の少ない試験や、危険側でも通ってしまう甘い試験は、合格しても証拠として弱いのです。「差を見つける力」(1.7 の検出力)と同じ考え方で、セーフティケース(5.10)で証拠の強さを比べるときの土台になります。
自動運転との接点
まとめ
- \(P(B \mid A)\) は「Aが起きた世界の中で、Bが占める割合」
- ベイズの定理は、\(P(A \mid H)\) から \(P(H \mid A)\) へ向きをひっくり返す道具
- 稀な事象の検出では、事前確率の低さが誤報の多さにつながる
確認クイズ
Q1. 誤報率を 1% から 0.1% に下げると、アラームが本物である確率は?
約50%。10万フレームで数えると、誤報は 99,900 × 0.1% ≈ 100回、本物は 99回なので、99 ÷ (99 + 100) ≈ 0.50 です。誤報率を1/10にしても、まだ半分は誤報です。
Q2. 同じ検出器(検出99%・誤報1%)を、歩行者が写る割合が10%の市街地で使うと?
約92%。10万フレーム中、歩行者あり1万 → 9,900回検出、歩行者なし9万 → 900回誤報。9,900 ÷ 10,800 ≈ 0.92 です。検出器は同じでも、使う環境(ODD) で結果の意味が大きく変わります。
もっと知りたい人へ
- 次の回:1.3 確率分布
- 関連:2.7 評価指標、5.3 機能不十分とトリガー条件
- 演習:Colabで数値を変えて試すノート(準備中)
- 解説動画:YouTube(約4分)(静止画のスライドと音声で要点を説明。英語版の記事には英語の動画があります)
- 関連:1.8 稀な事象の統計 — 稀な事象を「数える」側の話