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Part 1 · 確率・統計

1.1 確率とは何か

サイコロの頻度と「信じる度合い」

読了目安 9分前提:0.2 数式の読み方(数式が苦手な方)▶ 動画 準備中

この回で分かること

  • 確率を「起こりやすさを0〜1の数で表したもの」として説明できる
  • 確率の3つの考え方(数え上げ・頻度・信じる度合い)の違いと使いどころを説明できる
  • 余事象・足し算・掛け算のルールで簡単な確率を計算でき、「独立」という仮定の危うさに気づける

直感で理解する

「確率」は、ある出来事がどれくらい起こりやすいかを、0から1(0%から100%)の数で表したものです。0は「決して起きない」、1は「必ず起きる」。たいていの出来事は、その間のどこかに入ります。

ただ、「起こりやすさ」の決め方には、大きく3つの考え方があります。

考え方例向いている場面
数え上げサイコロで6が出る確率は、6通りのうち1通りなので 1/6仕組みが対称で、どの結果も同じくらい起こりやすいとき
頻度検出器を1,000回試験して900回検出 → 検出率90%何度もくり返せる試験や、たくさんのデータがあるとき
信じる度合い「今回のソフト更新で、新しい不具合が入った可能性は低い」1回きりの出来事や、データがまだ少ないとき(証拠が出るたびに更新する)

数え上げと頻度はつながっています。サイコロを何度も投げて「6が出た割合」を記録すると、はじめは大きくぶれますが、回数を増やすと 1/6 に近づいていきます。

6が出た割合 点線:本当の確率 1/6 50% 25% 1/6 0% 1 10 100 1,000 投げた回数(目盛りは10倍ごと)
サイコロを投げ続けたときの「6が出た割合」(シミュレーション)。この例では最初の10回で6が1回も出ず(0%)、100回でも9%だったが、1,000回では16.7%と、本当の確率 1/6 に近づいた。

「頻度」と「信じる度合い」の違いは、安全の分野では 不確実性の2種類 として区別されます。サイコロや測定のばらつきのように、仕組みそのものに含まれていて、データを増やしても消えない不確実性を 偶然的不確実性(アレアトリック)、まだ知らない・データが足りないことによる不確実性を 認識的不確実性(エピステミック)と呼びます。前者は頻度で測り、後者は信じる度合いで扱って、証拠が増えるたびに減らしていきます。AI の判断の不確実性(3.7)や、SOTIF でいう「未知の危険」(5.2)は、この区別で整理できます。

この「たくさんくり返すと本当の確率に近づく」性質が、1.5 で詳しく扱う大数の法則です。逆に言えば、少ない回数の結果だけで確率を決めつけると、大きく外れることがあります。

数式で確かめる

① 確率の基本ルール

出来事 A の確率を \(P(A)\) と書きます。どんな確率も0と1の間にあり、起こりうるすべての結果の確率を合わせると1になります。そのため、「A が起きない確率」(余事象、\(\bar{A}\))は1から引くだけで求まります。

$$0 \le P(A) \le 1, \qquad P(\bar{A}) = 1 - P(A)$$

② 足し算:「A または B」

2つの出来事が同時には起きない(排反)とき、「どちらかが起きる確率」は足し算です。サイコロで1か2が出る確率は 1/6 + 1/6 = 1/3。同時に起きることがあるときは、重なった分を1回引きます。

$$P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)$$

③ 掛け算:「A かつ B」と独立

一方が起きても、もう一方の起きやすさが変わらない(独立)とき、「両方が起きる確率」は掛け算です。

$$P(A \cap B) = P(A)\,P(B)$$

例:歩行者を見逃す確率が1%のカメラと、同じく1%の LiDAR を組み合わせ、どちらかが見つければよい仕組みにします。2つが独立なら、両方とも見逃す確率は 0.01 × 0.01 = 0.0001(1万回に1回)まで下がります。これが 冗長化 の考え方です。ただし、この掛け算が使えるのは本当に独立なときだけです(「自動運転との接点」を参照)。

④ 「少なくとも1回」起きる確率

1回あたりの確率 p が小さくても、回数 n が増えると「少なくとも1回は起きる」確率は大きくなります。「1回も起きない確率」を掛け算で求めて、1から引きます。

$$1 - (1 - p)^n$$

1回の走行あたり0.01%(1万回に1回)で起きる危ない場面は、1万回の走行では \(1 - (1 - 0.0001)^{10000} \approx 0.63\)、つまり約63%の確率で少なくとも1回は起きます。1.8 で出てきた \(e^{-1} \approx 0.37\)(1回も起きない確率)の裏返しです。

発展:共通原因を数で見積もる(β ファクター)

③では、独立でなければ掛け算が使えないことを見ました。では、共通原因があるとき、両方が見逃す確率はどのくらい大きくなるのでしょうか。機能安全で使われる簡単なモデルが β ファクター です。1つのセンサの見逃し(確率 p)のうち、割合 β は「濃霧のように、もう1つのセンサも同時に見逃させる原因」で起きると考えます。残りの (1 − β) は、それぞれ独立に起きます。すると、2つのセンサがともに見逃す確率はおよそ

$$P(\text{両方見逃す}) \approx \beta p + \{(1-\beta)\,p\}^2$$

です。p = 1%、β = 10% なら、0.1 × 0.01 + (0.9 × 0.01)² ≈ 0.0010 + 0.0001 ≈ 0.11% で、独立と仮定した 0.01% の約 11 倍です。β = 2% でも約 0.03% と 3 倍になります。共通原因がほんの少しあるだけで、掛け算の結果は意味を失います。

β は、センサの種類が違う(カメラとレーダー)、電源や取り付け場所が別、といった「違い」を増やすほど小さくなります。IEC 61508 などの規格には、こうした設計上の違いを点数にして β を見積もる方法が示されています(ここでは考え方だけを要約しています)。SOTIF で複数のセンサを同時に弱らせるトリガー条件を探すこと(5.3)や、セーフティケースの2本の証拠が共通の前提に頼らないようにすること(5.10)は、どちらもこの β を小さくする話です。

自動運転との接点

  • 確率には「何あたり」がつきもの:自動運転の安全性で扱う確率は、1回の検出あたり、1 kmあたり、1時間あたり、1回の走行あたりと、単位がばらばらです。比べるときは、どれだけその状況にさらされたかという単位をそろえる必要があります。→ 1.8、5.4 ハザード分析
  • 冗長化の効果は「独立」が前提:2つのセンサがともに見逃す確率を掛け算で求めてよいのは、独立なときだけです。濃霧や豪雨のように、複数のセンサを同時に弱らせる 共通原因 があると、実際の確率は掛け算の結果よりずっと大きくなります。SOTIF でいうトリガー条件の中には、こうした共通原因として働くものがあります。→ 4.3 センサとフュージョン、5.3 機能不十分とトリガー条件
  • 小さな確率も、数が集まれば起きる:1回あたり1万分の1でも、1万回で約63%です。多くの車が毎日走れば、「めったに起きない」ことはどこかで必ず起きます。→ 1.8
  • 頻度で測れないものは「信じる度合い」で扱い、証拠で更新する:まだ誰も経験していない危険(SOTIF でいう未知の危険な状況)は、頻度では測れません。専門家の判断から出発し、試験や運用の証拠が増えるたびに見込みを更新していきます。→ 1.2、5.2 4つの領域

まとめ

  • 確率は起こりやすさを0〜1で表したもの。決め方には数え上げ・頻度・信じる度合いの3つがある
  • 余事象は1から引く、「または」は足し算(排反のとき)、「かつ」は掛け算(独立のとき)
  • 掛け算は独立が前提。共通原因があると、冗長化の効果を高く見積もりすぎてしまう

確認クイズ

Q1. サイコロを1回投げて、3の倍数が出る確率は?

1/3 です。3の倍数は3と6の2通りなので、6通りのうち2通りで 2/6 = 1/3 になります。

Q2. 見逃す確率1%のセンサを2つ使い、どちらかが見つければよい仕組みにしました。両方とも見逃す確率は? また、その計算が成り立たないのはどんなとき?

2つが独立なら 0.01 × 0.01 = 0.0001、つまり0.01%(1万回に1回)です。ただし、濃霧や豪雨のように両方の性能を同時に落とす原因がある(独立でない)ときは、実際の確率はもっと大きくなります。

Q3. 1回の走行あたり0.01%で起きる危ない場面が、1万回の走行で少なくとも1回起きる確率は?

約63%です。1回も起きない確率は \((1 - 0.0001)^{10000} \approx 0.37\) なので、1 − 0.37 ≈ 0.63 になります。

Q4. 天気予報の「降水確率70%」は、3つの考え方のどれに近い?

頻度です。気象庁は「降水確率70%の予報が100回出されたとき、そのうちおよそ70回は1 mm以上の雨が降る」という意味で定めています。

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