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Part 0 · 準備

0.2 数式の読み方

Σ・関数・微分・ベクトルをこわがらない

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この回で分かること

  • このサイトに出てくる主な記号を、声に出して読める
  • 数式を「計算の手順を短く書いた文章」として読める
  • Σ・関数・微分・ベクトルが、自動運転やAIのどこで使われるかイメージできる

直感で理解する

数式は、ことばで書くと長くなる手順を短く書くための「略記法」です。たとえば「3日間の走行距離を全部足して、日数で割る」という文章は、次のように書けます。

$$\bar{x} = \frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n} x_i$$

記号が並ぶと身構えてしまいますが、読み方と意味さえ分かれば、中身は「足して、割る」だけです。数式に出会ったら、次の3つを試してください。

  1. 声に出して読む:読み方が分からない記号は、この回の最後にある早見表で確認する
  2. 小さな数を入れてみる:n = 3 など、手で計算できる数で試す
  3. 全部分からなくても先へ進む:本文の説明と「自動運転との接点」を読めば、流れはつかめるように書いています

数式で確かめる

① Σ(シグマ):まとめて足す

\(x_i\) は「i 番目の x」という意味で、右下の小さな文字 i を 添字 と呼びます。3日間の走行距離が 120 km、80 km、100 km なら、\(x_1 = 120,\ x_2 = 80,\ x_3 = 100\) です。

大きな \(\Sigma\)(シグマ)は「足し合わせる」という意味です。下の \(i = 1\) から上の数まで、i を1つずつ増やしながら足していきます。

$$\sum_{i=1}^{3} x_i = x_1 + x_2 + x_3 = 120 + 80 + 100 = 300$$

これを日数 \(n = 3\) で割ると、平均 \(\bar{x}\)(エックスバー)= 100 km になります。最初に見た平均の式は、この計算そのものです。

② 関数 f(x):入力を出力に変える箱

\(f(x)\)(エフ・エックス)は、「x を入れると、決まったルールで答えが1つ出てくる箱」です。たとえば、ブレーキを踏んでから止まるまでの距離(制動距離)\(s\) は、速度 \(v\) の関数として次のように近似できます。

$$s(v) = \frac{v^2}{2a}$$

\(a\) はブレーキの減速度です。\(a = 5\ \mathrm{m/s^2}\)(しっかりしたブレーキ程度)とすると \(s(v) = v^2/10\)。時速72 km(秒速20 m)なら \(s(20) = 400/10 = 40\) m です(ブレーキを踏むまでの空走距離は含みません)。

1.8 で使った \(e^{x}\)(イーのエックス乗。\(\exp(x)\) とも書く)や \(\ln x\)(自然対数)も関数の一種です。\(\ln x\) は「e を何乗すると x になるか」を答える関数で、\(e^{x}\) とちょうど逆の働きをします。

③ 微分:少し変えると、どれだけ変わるか

微分 は「入力を少しだけ変えたとき、出力がどれだけ変わるか」、つまりグラフの 傾き を表します。制動距離の式を微分すると、次のようになります。

$$s(v) = \frac{v^2}{10} \quad\Longrightarrow\quad \frac{ds}{dv} = \frac{2v}{10} = \frac{v}{5}$$

\(\frac{ds}{dv}\) は「ディーエス・ディーブイ」と読みます。秒速20 m では傾きが 20 / 5 = 4。つまり「速度が 1 m/s 上がると、制動距離は約 4 m のびる」という意味です。実際に \(s(21) = 44.1\) m なので、確かに約 4 m 増えています。

制動距離 s [m] 90 60 30 0 0 10 20 30 速度 v [m/s](20 m/s = 時速72 km) s(v) = v²/10 v = 20 のとき s = 40 m 傾き 4:1 m/s 速いと 約 4 m 長くなる
制動距離は速度の2乗に比例する。速いほど曲線の傾き(微分)が大きく、同じ 1 m/s の差でも止まるまでの距離の差が大きくなる。点線は v = 20 での接線(傾き 4)。

微分の公式を覚える必要はありません。このサイトでは「傾き」「少し変えたときの変化の割合」と読めれば十分です。入力が複数あるときは、1つだけ動かしたときの傾きを 偏微分 \(\frac{\partial L}{\partial w}\) と書き、それを全部並べたものを 勾配 \(\nabla L\)(ナブラ・エル)と呼びます。AIの学習(2.3 勾配降下法)の主役です。

④ ベクトル:数をひとまとめにした並び

複数の数をまとめて1つの記号で扱うのが ベクトル です。太字で \(\mathbf{x}\) と書きます。たとえば、前を走る車の状態を「距離 30 m、相対速度 −2 m/s、横位置 0.5 m」とすると、次のように1つにまとめられます。

$$\mathbf{x} = (x_1,\ x_2,\ x_3) = (30,\ -2,\ 0.5)$$

2つのベクトルの対応する要素どうしを掛けて足したものを 内積 といいます。Σ を使うと短く書けます。

$$\mathbf{w} \cdot \mathbf{x} = \sum_{i=1}^{n} w_i x_i$$

例:\(\mathbf{w} = (0.5,\ -1,\ 2)\)、\(\mathbf{x} = (2,\ 1,\ 3)\) なら、\(0.5 \times 2 + (-1) \times 1 + 2 \times 3 = 6\) です。ニューラルネットワーク(3.1)の1つ1つの計算は、実はこの内積です。なお、数を縦横の表の形に並べたものは 行列 と呼びます。

⑤ 記号の早見表

記号読み方意味主な回
\(\sum\)シグマ(大文字)まとめて足す1.4, 2.2
\(f(x)\)エフ・エックス関数:x を入れると答えが1つ出る全体
\(e^{x},\ \exp(x)\)イーのエックス乗指数関数(e ≈ 2.718)1.3, 1.8
\(\ln x\)ログ・エックス自然対数:e を何乗すると x か1.8, 2.4
\(\frac{ds}{dv}\)ディーエス・ディーブイ微分:傾き2.3, 3.2
\(\frac{\partial L}{\partial w}\)ラウンド・エル・ラウンド・ダブリュー偏微分:1つだけ動かしたときの傾き2.3, 3.2
\(\nabla L\)ナブラ・エル勾配:偏微分を並べたベクトル2.3
\(\mathbf{x}\)ベクトル・エックス数の並び2.2, 3.1
\(P(A)\)ピー・エーA が起きる確率Part 1
\(P(B \mid A)\)ピー・ビー・ギブン・エー条件付き確率1.2
\(E[X]\)イー・エックス期待値(平均)1.4
\(\sigma\)シグマ(小文字)標準偏差(ばらつき)1.4
\(\lambda\)ラムダ発生率(例:1kmあたりの事故率)1.3, 1.8
\(\approx\)ニアリーイコールほぼ等しい全体

大文字の \(\Sigma\)(和)と小文字の \(\sigma\)(標準偏差)は、どちらも「シグマ」と読みますが、意味はまったく別です。

自動運転との接点

  • 速度と止まれる距離:制動距離は速度の2乗に比例するので、速度が2倍になると4倍にのびます。自動運転車がどの速度まで走ってよいか(4.1 ODD)を考えるとき、センサが止まるのに必要な距離より遠くまで見えるかどうかが重要になり、この式が関わってきます。
  • AIは微分で学ぶ:認識AIの学習は、「間違いの大きさ(損失)を微分し、傾きを下る向きにパラメータを少し動かす」ことの繰り返しです。→ 2.3、3.2
  • センサデータはベクトル:フルHDのカメラ画像1枚は、1920 × 1080 画素 × 3色 ≈ 622万個の数の並びです。AIはこの巨大なベクトルを入力として受け取ります。→ 3.3
  • 安全の議論も記号で書かれる:事故の発生率 \(\lambda\) や信頼度など、SOTIFの妥当性確認でも同じ記号が使われます。→ 1.8、5.5

まとめ

  • 数式は手順の略記。声に出して読み、小さな数を入れてみる
  • \(\Sigma\) は「まとめて足す」、\(f(x)\) は「入力→出力の箱」、微分は「傾き」、ベクトルは「数の並び」
  • 記号が分からなくなったら、この回の早見表に戻る(すべての記号は付録の「記号表」に)

確認クイズ

Q1. \(\sum_{i=1}^{4} i\) の値は?

10。i そのものを 1 から 4 まで足すので、1 + 2 + 3 + 4 = 10 です。

Q2. 制動距離 \(s(v) = v^2/10\) で、速度を 10 m/s から 20 m/s に上げると、制動距離は何倍?

4倍(10 m → 40 m)。速度が2倍になると、2乗なので 2² = 4 倍になります。

Q3. 同じ式で、v = 10 m/s のときの傾き \(ds/dv\) は?

10 / 5 = 2。1 m/s 速くなると約 2 m のびます。20 m/s のとき(傾き 4)の半分で、速いほど 1 m/s の差が効いてくることが分かります。

Q4. \(\mathbf{w} = (1,\ 2)\)、\(\mathbf{x} = (3,\ -1)\) の内積 \(\mathbf{w} \cdot \mathbf{x}\) は?

1。1 × 3 + 2 × (−1) = 3 − 2 = 1 です。

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