1.6 推定と信頼区間
手元のデータから真の値を推し量る
この回で分かること
- 点推定 と 区間推定 の違いを説明できる
- 割合や平均の95%信頼区間を「推定値 ± 2 × 標準誤差」で計算し、要求を満たすかを判断できる
- 信頼区間の正しい読み方、n − 1 で割る理由、データが少ないときの注意を説明できる
直感で理解する
1.5 では「本当の検出率が90%と分かっているとき、観測される値がどれくらいばらつくか」を見ました。実際の試験は逆で、本当の値は分かりません。手元にあるのは試験の結果だけです。
ある検出器を 200回 試験したら 180回 検出できたとします。検出率は 180 ÷ 200 = 90%。でも、本当の検出率が「ちょうど90%」とは限りません。88%かもしれないし、92%かもしれません。
そこで「本当の値は、たぶんこのくらいの範囲にある」と幅をもって答えます。これが 信頼区間 です。今回の結果なら、95%信頼区間はおよそ 86%〜94% になります(計算は下で)。
信頼区間は判断に使えます。「検出率85%以上」という要求があるとき、区間の下限(86%)が85%を上回っているので、信頼度95%で「要求を満たす」と言えます。ところが同じ90%でも、100回中90回 の結果だと区間は84%〜96%に広がり、下限が85%を下回るため、まだそうは言えません。同じ「90%」でも、試験の回数によって言えることが変わる のです。
数式で確かめる
① 点推定と区間推定
データから本当の値を1つの数で見積もるのが 点推定、幅をもって見積もるのが 区間推定 です。推定値には「ハット」を付けて \(\hat{p}\) のように書きます(記号表)。
② 95%信頼区間:推定値 ± 2 × 標準誤差
1.5 の標準誤差を、本当の値の代わりに推定値で計算し、その2倍を幅にとります(より正確には、2の代わりに1.96を使います)。
つまり86%〜94%(正確には85.8%〜94.2%)です。平均の場合も同じ形で、データの標準偏差を s として \(\bar{x} \pm 2\,s/\sqrt{n}\) になります。100回中90回なら \(2\sqrt{0.9 \times 0.1 / 100} = 0.06\) で84%〜96%。回数が半分になると、幅は √2 倍(約1.4倍)に広がります。
③ 信頼区間の正しい読み方
「この区間に本当の値が95%の確率で入っている」と言いたくなりますが、厳密には少し違います。本当の値は決まった1つの値で、変わるのは試験のたびに作られる区間のほうです。95%というのは 区間を作る方法の当たりやすさ で、同じ方法で何度も区間を作ると、約95%が本当の値を含む、という意味です(上の図)。
ふだんの説明で「本当の値はおそらくこの範囲」と言うのは問題ありません。ただし、手元の1回の区間が外れている可能性(20回に1回くらい)は、いつも残っています。
もう1つ、安全の場面で大事な読み方があります。安全の要求はふつう「見逃し率は 3% 以下」のように 片側 です。上に外れることだけが問題で、下に外れるぶんは気にしません。このときは、両側に 2.5% ずつ外す ± 2 × 標準誤差の区間ではなく、上側だけに 5% を外す 片側の上限「推定値 + 1.64 × 標準誤差」で判断します。例:1,000 回の試験で見逃しが 20 回(2%)なら、標準誤差は約 0.44% で、両側 95% の区間は 1.1〜2.9%、片側 95% の上限は約 2.7% です。同じ信頼度 95% でも、両側の上端(2.9%)は片側の上限(2.7%)より厳しめになります。1.8 の「3の法則」も片側の上限です。結果を書くときは「95% 片側上限 2.7%」のように、信頼度と片側・両側を明記します。→ 5.5
④ n − 1 で割る理由
1.4 では、ばらつきを個数 n で割って計算しました。しかし、手元のデータから本当のばらつきを推定するときは、n − 1 で割ります。
理由は、ずれを「本当の平均 μ」ではなく「データから計算した平均 \(\bar{x}\)」から測っているためです。\(\bar{x}\) はそのデータにいちばん近くなるように決まるので、ずれは本当より小さめに出ます。n − 1 で割ると、この小さく出る分を平均的に補正できます。こうして求めた \(s^2\) を 標本分散、その平方根 s を標本標準偏差と呼びます。1.4 の車両Bでは、n で割ると 0.78 m、n − 1 で割ると 0.85 m です。データが多ければ差はわずかですが、6件のように少ないと無視できません。
⑤ データが少ないとき・失敗ゼロのとき
データが少ないときは「2」では足りません。本当のばらつきまで推定しているぶん不確かさが増えるためで、代わりに t分布 の値を使います。
| データの数 n | 6 | 11 | 31 | とても多い |
|---|---|---|---|---|
| 「2」の代わりに使う値(95%) | 2.57 | 2.23 | 2.04 | 1.96 |
1.4 の車両Bの停止位置(6回、平均 1.0 m、s = 0.85 m)なら、平均の95%信頼区間は \(1.0 \pm 2.57 \times 0.85/\sqrt{6} \approx 1.0 \pm 0.89\) m です。本当の平均は 0.1 m〜1.9 m のどこにあってもおかしくない、というほど広い区間になります。
また、失敗が1回も起きていないとき、上の式は \(\hat{p} = 0\) で幅も0になってしまい、使えません。この場合は 1.8 の 3の法則(失敗率の上限はおよそ 3/n)を使います。これは、片側だけの信頼区間の上限にあたります。
自動運転との接点
- 「推定値」ではなく「安全側の端」で判断する:安全に関わる要求(検出率○%以上など)は、推定値ではなく信頼区間の安全側の端で判断します。推定値が要求を上回っていても、区間の下限が下回っていれば「満たしている」とは言えません。
- 区間の幅から試験回数を決める:必要な幅(例:±1%)を先に決めれば、1.5 の標準誤差の式から試験回数が決まります(検出率90%前後なら約3,600回)。
- 結果は「推定値・区間・回数」をセットで伝える:「検出率90%(95%信頼区間 86〜94%、200回)」のように書けば、読む人がどこまで信じてよいかを判断できます。
- 信頼区間が表すのは「偶然のばらつき」だけ:晴れの日の試験ばかりだった、評価用のデータが学習用のデータと似すぎていた、といった偏りによる誤差は、区間には含まれません。試験の条件が ODD を代表しているかは、別に確かめる必要があります。→ 2.8 データの分け方と分布シフト、5.6 シナリオベース検証
- 失敗ゼロなら3の法則:事故ゼロ・見逃しゼロの結果には、±2 × 標準誤差の式ではなく 1.8 の考え方を使います。
まとめ
- 点推定は1つの数、区間推定は幅。95%信頼区間はおよそ「推定値 ± 2 × 標準誤差」
- 95%は「区間を作る方法の当たりやすさ」。同じ方法で何度も作ると、約95%が本当の値を含む
- 本当のばらつきは n − 1 で割って推定する。データが少なければ t分布の値を、失敗ゼロなら3の法則を使う
確認クイズ
Q1. 400回の試験で380回検出できました。検出率の点推定と、95%信頼区間(± 2 × 標準誤差)は?
点推定は95%です。標準誤差は \(\sqrt{0.95 \times 0.05 / 400} \approx 0.011\) なので、95% ± 2.2%、およそ92.8%〜97.2%です。
Q2. 要求は「検出率90%以上」。100回中93回検出しました。信頼度95%で要求を満たすと言える?
言えません。93% ± \(2\sqrt{0.93 \times 0.07 / 100}\) ≈ 93% ± 5.1% で、下限は約87.9%。90%を下回るので、もっと試験を重ねる必要があります。
Q3. 95%信頼区間の説明として、より正確なのは?(a)この区間に本当の値が95%の確率で入っている(b)同じ方法で何度も区間を作ると、約95%の区間が本当の値を含む
(b)です。本当の値は決まった値で、変わるのは区間のほうです。ふだんの説明で(a)のように言っても大きな問題はありませんが、意味としては(b)が正確です。
Q4. 1,000 km 走って事故ゼロでした。± 2 × 標準誤差の式で事故率の信頼区間を作ると、どうなる?
推定値が0で幅も0になり、「事故率ゼロ」という誤った結論になってしまいます。失敗ゼロのときは3の法則を使い、上限はおよそ 3 ÷ 1,000 km、つまり「約333 kmに1件」までしか言えません。
もっと知りたい人へ
- 次の回:1.7 仮説検定
- 関連:1.4 期待値と分散、1.5 大数の法則と中心極限定理、1.8 稀な事象の統計
- 用語集:信頼区間・信頼度、点推定・区間推定、標本分散、t分布
- 解説動画:YouTube(約5分)(静止画のスライドと音声で要点を説明。英語版の記事には英語の動画があります)