作者との交流

 社会人になってから,本の作者にお手紙を出すということをするようになりました。それまでは,作者への手紙なんて,どこに出したらよいのかわからず,出したとしてもとても届かないだろうと思っていたので出そうという気にならなかったのです。
 ところが,ネットで知り合った方から「編集部気付で出したらちゃんと作者の手に渡って,返事をもらえたんだよ!」と教えてもらい,「よし,やってみよう!」と思ったのでした。

 子どもの頃から大好きだった児童文学作家が2人おります。岡田淳さんと杉みき子さんです。

 岡田淳さんの作品に出会ったのは小学校高学年です。『放課後の時間割』でした。この作品がきっかけで,岡田さんの本をもっと読みたいと思うようになりました。以来,気に入った本があると同じ作者の本を次々と読むようになったのです。また,挿し絵を自分で描いているということにも驚きました。文を書く人と絵を描く人は別だと思いこんでいたのです。
 子どもの頃,どんなに岡田さんの作品が好きだったか,そして,今でも子どもたちと一緒に岡田作品を読んでいることをどうしても伝えたくて,出版社に手紙を出してみたのでした。
 その手紙は岡田さんのもとにきちんと届いていました。
 しばらくして,東京のクレヨンハウスで行われた岡田さんの講演会に行き,ご本人にお会いすることもできました。サイン会にもしっかり(笑)参加してきました。

 杉みき子さんの作品は,国語の教科書で出会いました。「加代の四季」というお話です。わたしはこの話が大好きで,何度も繰り返し読みました。掌編となっているため,暗唱もできてしまうのです。
 「春は線路からやってくる」「貨物列車は途中でゆれるから,春がこぼれちゃう。だから,線路には春が一足早くやってくる」という加代の発想。すばらしい感性だと思うのです。
 教員になり,6年生を受け持つこととなり,この作品を子どもと一緒に読むチャンスが来ました。でも,自分が読んだものとどこか違う。あったはずのお話がなくなり,かわりのお話が入っているのです。
 不思議に思い,「加代の四季」が収録されている『白いとんねる』を探しだし,読んでみました。そこで,初めて「加代の四季」がもっとたくさんのお話からできていること,それだけでなく,1冊まるまる加代の視点で見た身の回りのさまざまなできごと,風景が描かれていたことを知ったのでした。
 絶対に手元に置きたいと思い,出版社に尋ねたのですが,絶版となり復刊の予定はないとの返事。そうこうしていううちに,教科書からも削除されてしまいました。けれど,こんなに素敵な本が読まれなくなってしまうのはもったいない。復刊ドットコムに登録したり,子どもたちには音読で1年間ずっと読んでもらったり,読み聞かせをしたりしてきました。
 ようやく,昨年になって「杉みき子選集」という形で復刊されることがわかりました。挿し絵は他の方にかわっていましたが,文章は当時のままです。ようやく手元に置くことができるようになりました。
 この本を読んだ子が,杉さんにお手紙を書いたので,それを送るのにあわせて自分も手紙を出しました。こちらもすぐ出版社の方が杉さんに届けてくださいました。

 どちらも子どもの頃からずっと大切にしていた物語。その思いが作者に届いたことがとても嬉しいのです。
 その嬉しさは,作者の皆様のご厚意で子どもたちも味わうことができています。大好きなお話なんだということを知らせたいと懸命になって手紙を書いた子どもたちに,お忙しい中お返事をいただきました。
 子どもたちは「作者からお手紙もらったの!」と本当に眼を輝かせているのです。あの表情をぜひお見せしたいと思うくらいです。
 直に子どもたちと交流してくださった方もいらっしゃいます。
 作者の皆様には,本当に感謝しております。

 子どもたちはいろいろな作品に出会えることを楽しみに待っています。 児童文学は一般書に比べてあまり売れるものではありません。 けれども,子どもたちにとってなくてはならないものなのです。大変なお仕事だと思いますが,ぜひこれからも素晴らしい本を送りだしてほしいと願っています。(06/02/04)

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