以前から外資系の会社に勤めていたのだが、それまではほとんど日本語しか使う必要がなかった。まあ「エクスペンス」とか「オフィス」とか「インボイス」「バジェット」などの名詞が日常だった程度だ。社長は外人だったが日本語が喋れたし、日本の営業は別に英語なんか使える必要がなかった。ところが、である。
転職に備えてベルリッツに通った俺は、またも外資系の会社に転職する事になる。しかし今度は今までと訳が違った。「日本の営業は英語は必要ないから大丈夫」と言われて入社したのだが、まあそれは嘘ではなかったし、現実問題としては必要ではない。しかし、オフィス環境がまったく違った。やはり社長は外人なのだが、今度の社長はほとんど日本語が喋れない。おまけに社員の90%は英語が喋れて、英語を話せないのは営業部の数人だけ。対外的な書類は日本語だが、どういう訳だか経費精算のような社内書類は英語で書かねばならないし、簡単なメールは英語でそのまま回って来る。会議の時の社長の話には通訳がつくのだが、ほとんどみんなが通訳を待たずに頷いたり笑ったりする。
決定的に俺が英語を喋れる様にならねばならないと思ったのはクリスマスパーティーの時。社長の挨拶の時通訳がつく事になっていたのだが、セクレタリーがぼそっと呟いたのだ。
「みんな解るから、通訳なんかいらないんじゃないかしら」
かくして俺は英語をマスターせねばいられない状況におちいった。この状況でカチンと来ない奴がいるのだろうか。その時俺は「金に糸目はつけないから今すぐ俺を喋れる様にしてくれ」と思った。強いてもうひとつあげるならば、その二次会で英語を喋れない営業部長に、「英語喋れるくらいで、偉そうな顔されるんだよな」と悲しそうにつぶやかれた事だ。
実はうちにフランス人が一人いる。もちろん英語も喋れる。が、俺は「日本に来てるんだから日本語で喋ればかやろう」と思っていたら、彼女は俺の英語よりはどう考えても達者な日本語を喋ったのだ。これで「反省」というキーワードも追加され、人に文句言う前に自分も努力しましょうと思ったのも事実だ。
おまけに重なる時は重なるもので、今までこの業界でそんな事はなかったのだが、ここんとこ取引先にも外資が進出してきてるので、クライアントに「日本語がよく解りませんので英文をつけていただけるとありがたいのですが」と言われたり、10年前に少しだけ行き来のあった外資系の人材派遣会社から急に英語でケータイに電話がかかってきたりするのだ。どいつもこいつもなんか俺に恨みでもあるのか。
日曜の午後、オフィシャルのケータイに突然英語で電話がかかってきた。外人の知り合いなんかいないし、知ってる外人は社長だけ。まさか社長から俺あてにケータイがかかってくる筈もないので、間違い電話かと思ったのだが、どうやら俺にかけてきたらしい。まあその辺は前回の英語力が残っているせいか、「speaking」や「I'm fine thank you,and you」くらいはお手のもの。どうやら外資系の人材派遣会社、よく言えばヘッドハンティング会社だ。
この外人が人をなめきってて、英語でしか喋りやがらない。後で考えれば俺の英語力を試していたんだと判ったが、その時はまあ英語で話す機会もないし、まあいいかと思って喋ってた。電話にもかかわらず彼が何言ってるか結構判って、俺のインチキ英語が結構通じたということは、彼がとても簡単な英語で喋ってくれて、俺のインチキ英語が理解できるくらい日本語が使えるということに他ならない。
実はその会社の事を俺は知っていた。10年前も、いきなり転職の斡旋の電話がかかって来て、俺が登録した事がある会社だったのだ。外資企業専門で、知り合いから俺のことを紹介されて連絡をとって来たといっていた。その時紹介された会社はギャラはよく、アメリカでの知名度もまあまあある会社だったのだが、ふんぎりがつかず、転職には至らなかった。その後俺の担当者が外人に代わったので連絡をとることもなくそれっきりになった。
今回も転職の最中にその会社のサイトを見たりしてたのだが、東京にしかオフィスがなく役に立たない事がわかった。では何故10年ぶりにそんな会社から連絡があったのか。
どうやら10年前の登録が生きていたわけではなく、今回も誰かに俺の事を紹介されたらしいのだ。で、東京オフィスしかないのに何でかけてきたんだと言うと大阪での人材を確保したいのだと言う。まあ大阪現地採用も必要だろうし、USJやらカルフールやら外資企業の進出も結構あるしね。で、レジュメを送れ、と言うのでEメールのアドレスを教えたのだがなしのつぶて。メルアドを間違えてるのかと思って、こっちからEメールを送ってみたら翌日電話があって、「メール送ります」と言ってきた。送られてきたメールは只のDMみたいなもんで個人的なアプローチではないみたいだったので、とりあえずほっといてある。それはさておき。
今回もうひとつきっかけになったのは「日経WOMAN」という雑誌の「お金をかけず話せる英語を身につける」という女性誌の特集。男性誌にはなかなかないアプローチの方法で英語を取り上げていたのだ。急に英語をやらなきゃならない羽目になった体験談とかがあって、なかなか面白かった。で、その中に書いてあった勉強方法を少しやってみる事にした。
■ヒアリング力をつけるには
ひとつめは毎日2時間英語で映画を見ること。これは今までにもたまにやってはいたのだが、別に聞けるようにはならなかった。が、ただ聞くだけではやっぱり駄目なのだ。スクリプトを見ながら、一日2時間、一年間、台詞を憶えるまで続けると効果があるらしい。
まあもちろん一日2時間は無理なので、とりあえずスクリプトだけは買ってきた。よく出来たもので、ちゃんと大きい本屋さんにはそういうものが教材として売っているのだ。で、俺の選んだのは「Back To The Future V」。なぜVかというと、ちょうどその時TとU見飽きちゃったとこだったから。
で、家では毎日2時間も時間が取れないので通勤時間にも聞けるようにレコーディングMDウォークマンを買った。MDに録音しておけばいつでもどこでも聞けるからである。かなり熱心である。これはもちろん英会話学校に行った時にレッスンを録音する必要があるのでどうしても必要だ。やはりヒアリング力をつけるためには高性能の再録機が必要だ。録音できる安いカセットテープのウォークマンでは伸びてしまったりするかもしれないし、ノイズが入ってしまって発音が聞き取りにくかったら元も子もない。
ここまで前置きをつけているのは、今までMD買おうと思っていたのになかなか買えなかったのを、英語の勉強に必要だからという理由にかこつけている訳ではもちろんないし、MDは趣味で買うと、俺の家計簿上「諸経費(趣味)」の項に入るのだが、勉強の為という理由がつくと、「光熱費(ほか必要経費)」の項に入る事とはまったく関係がない。
ちなみに今のとこ聞き取れるのは死ぬほど出てくる「1985」という年代とドクの口癖の「Great scott」くらい。
■他にうちで勉強するには
とりあえずreadingとwritingは「勉強」になってしまうのであまり考えていない。とりあえずやりたいのは会話である。なのでとりあえず参考書は買わず、NHKの英会話はくらいは少し見始めることにした。毎週きちんと見てるわけでもないが今のところ「3ヶ月英会話」とか「はじめよう英会話」なんかを見ている。「3ヶ月英会話」の方はちょうどビジネス編だったのでテキストも買って見た。なにしろ350円だし。今のところただ見てるだけ。
ついでに「とっさに使える英会話 向井京子著 株式会社日本文芸社」という本も買ってみた。なんかだんだん初歩的になっていく。本を買えば良いというものでもないのだが、「旅行編」じゃない英会話の本って実は一冊も持っていないのでまあ良いかと。ひとつふたつ覚えておくと何かの時に便利。実際に友人に習った「It's been a long time」は結構使える。
何しろ英語が喋れない日本人同士でふざけて会話をすると、「Hello」「Nice to meet you」「How are you」「I'm fine thank you」の次に出てくる一言ってのはまずないのだ。その後にひとことふたこと付け加えられるようになると、ごっつしゃべれる感がアップするような気がする。
2000年12月15日。いよいよTOEICプロジェクト始動。
まず第1弾はやはり英会話学校入学であろう。なにしろ目的は会話が出来るようになる事なのだ。そんなわけで早速再入学の説明を聞きに行く。ここんとこ殿様商売のベルリッツも地道にDMなぞを送ってくる。今回はクリスマスキャンペーンの締切りが間近なので一応聞いとこかなという感じ。ベルリッツのおねえちゃんは今回も親切に説明してくれるが、やはり安く上げようと思うと制約が多い。
仕事柄、固定スケジュールが組みにくいので、やはり多少予算がかかっても、いつでもどこでも取れるという制限なしのコースにすべきか、毎週土曜日を犠牲にして固定制にして、少しでも安く上げようか考えてしまう。が、そこは営業。土曜出勤もないこともないので、土曜日だからといって休めるとも限らない。時間と便利さを金で買うのはやぶさかでもないんだが、多少の無理で安くなるのならそれにこした事はないし。とりあえず、ゆっくり考える事にする。
やる気はまんまんだったので、再入学することにした。本当は2月に販売士の試験があるのでそれが終わってからにする予定だったのだが、同僚がジ○スに入学して2月10日からレッスンを始めるというので、妙なところで競争心が出てしまったのだ。ま、今度は期限が長いので、販売士試験を優先させるんだったら行かなきゃいいだけの話だ。
結局固定制のコースは無理が出るし、気も重くなるのでプライベートレッスンで40レッスンとることにした。高いだけあって以前と違って期限も長いし、朝でも夜でもいつでも好きなときに行けるのだ。その気になれば出勤前にワンレッスンとってから会社に行く事だって出来る。ま、7時半に家を出られればの話だが。
ビジネスコースも気にはなかったのだが、俺のレベルじゃまだ時期尚早とのアドバイスをもらい、普通のコースにした。まあ振り分けも効くらしいし、当面日常会話で良いだろう。ビジネスイングリッシュを使うほどの事もないだろうし。
しかし何故俺は再度ベルリッツを選んだか。無論英会話学校としては他に選択肢はいくらでもあったし、会社のそばにはE○Cもあって毎日チラシを配っているし、同僚は別の学校に行った。それでも俺はベルリッツへ行くことにしたのだ。その理由はまたおいおい。
さて、2001年2月10日。いよいよ再レッスン開始。受付をくぐって教室をチェックし、レッスン室へ向かう。今度は出席カードないのかな。
知ってる先生だったら「Long time no see. Good to see you, again.」。知らない先生だったら「Nice to meet you」完璧だ。レッスンフロアへ行くと、顎鬚先生がロビーにいる。この先生は前回相談に来た時にちょっと挨拶したので「やっぱり来たのかい」らしきことを言う。「I'm coming back」と返事をしてみる。もちろんハスラー2のポールニューマンの決め台詞「Come back !」のパクリだなんてことは誰も気付くまい。
この先生は俺の英語力を知ってか知らずか結構気さくに話しかけてくれるのだが、何言ってるかは半分くらいしかわからないのが残念。「最近集中コースが人気があってさ、結構忙しいぜ。今回は集中コースで来たのかい」「いやとりあえず40レッスンやりに来た」みたいな話をした。
さてレッスン開始。初回はちょっとおなじみのラッキー先生。会社変わったよ、とか次は何の会社なの、とか世間話をする。なんか前よりも言ってる事が結構わかるような気がする。ヒアリングの努力が少し出てるのか、彼の英語が聞きやすいのかは定かではないが。何の仕事してるの、と聞かれて「sales」か「sales-person」で良いと思っていたのだが「sales representative, seles rep」の方がやはり良いらしい。これは実は買ったばかりの「3ヶ月英会話」のテキストにちゃんと書いてあったのだが、憶えていなくて残念だった。だから本は買っただけじゃ駄目なんだってば。覚えなきゃ。仕事の事とかはこの先、先生が替わるたびに話す事になると思うので、ちゃんと喋れるようにしておきたいものである。
2、3レッスン目はシカゴ先生。この先生が実は前回どうしても思い出せなかった先生であったことが今日発覚する。前回一回しかレッスンしていないのにちゃんと覚えていてくれたようだ。彼は俺の商売まで覚えていた。俺がなんで思い出したかというと、彼が飲み物を持ってきたからだ。ここで最悪のケース。俺にとっては「はじめまして」なのだが、彼にとっては俺は「はじめまして」ではなかった。nice to meet you でもないし、good to see you,again でもない。どうしようかと思っていたら彼は「Nice to meet you, again」を使った。なるほどすばらしい。
話は変わるが前の会社はやっぱアメリカ系では知名度があったんだなと感心する。ほとんどの人が外人が知ってたもんな。今度の会社はアメリカじゃ弱いのでほとんど知らない。ま、日本でも誰も知らないけどね。で、俺の発音じゃ解らないらしくスペルを書くとやっとフランス系の会社である事が解るようだ。
すると次に来る質問はこうだ。「フランス語は喋れるの?」だから英語もフランス語も喋れねえってばよ。
ちなみにせっかく買ったMDは1レッスン目は録音に失敗し、2レッスン目は右側しか録音されていなかった。うちへ帰って説明書をよく読んでみるとステレオマイクじゃなかったようだ。返品か交換してもらおうと思ったが、買ったのは通りすがりの京都の電器屋。どうしよう。