書店でこの装幀に目を奪われました。思わず手に取ってみると、少しざらつきのある表紙に驚き、そして次に、本文の厚手の紙に驚きました。パラパラと捲ると、紙独特のとてもいい香りがしてきます。
「絵草紙」という名に相応しい、すてきな本でした。
すっかり気に入ってしまい購入したところ、今度は、頁を繰るごとに現れる物語とイラスト(=版画)の強烈な世界観に圧倒されてしまいました。
独特の雰囲気のあるイラストが、ノスタルジックな味わいのある朔太郎の文章を鮮やかに彩っていて、いつの間にか私まで『猫町』に迷い込んだというような錯覚までしてしまいそうになるのです。予想以上に、イラストが物語のイメージをとてつもないほど増幅させてくれました。
この作品をイラストのない状態、つまり文字面のみで読んでいたとしたら……これほどまでに『猫町』の世界に酔うことができたかな? そう思えてしまうほどです。
次から次へと相乗効果で物語とイラストが迫ってきて、読む者を『猫町』に誘ってくれます。まだ見たことのない不思議な世界へ。
物語は近代文学の名作、萩原朔太郎による白日夢のような掌編です。そして、版画は金井田英津子によるもので、とても印象的な画ばかり。
絵草紙というシリーズですから、他にも何作か出版されています。
夏目漱石の『夢十夜』、内田百フの『冥途』の二作品。
どちらもより魅力的な「絵草紙」になっていることでしょう(私もこれから買います…)。
少々お値段が高いので、★は4つにしてしまいましたが、お勧めです。
あなたもぜひ一度『猫町』に迷い込んでみては?
2004-03-23