ですから、すてきな装幀は言わずもがな。帯の文章も魅力的です。
これにて、月とふたりきり
空から記憶がおりてくる
(表紙側の帯のコピー)
本当に素晴らしいところは
どんな地図にも載っていない
(裏表紙側の帯のコピー)
なんと思わせぶりなのでしょう。
この2つの文章に、私はすっかり虜になりました。
この短編集には7つの作品が収められており、どれもすべて独立した世界観で描かれています。
異国情緒漂う舞台で様々な登場人物たちが織りなす、どこか懐かしさを呼び覚ます物語。丁寧な語り口はとても穏やかで静謐なイメージがあります。
私が特に気に入った登場人物は3名いました。
「北極星のように美しい女性」「道化ズボンの男」「あと少しで消えてなくなってしまうものを撮る写真家」。
いかがでしょう、少し興味が湧いてきましたか?
この短編集、読み進めていくうちに、ふと気がつくことがあります。
「……あれ? ひょっとして……」と。
何が「ひょっとして」なのかは、読んでみてのお楽しみ。
ここでは敢えて紹介しませんが、すてきな仕掛けがあるのです。
あ、もう一つの仕掛けを書きわすれるところでした。
この本の間には、小さな紙が挟まれています。明るい珊瑚色の2つに折り畳まれた紙です。
単なる書籍の広告かと思われるかもしれません。ですが、間違って捨ててしまわれませんように。
それは小さな掌編なのですから。挟まれた紙すらもまたこの本の一部というわけです。
……こういう遊び心いっぱいの計らいは、さすがです。
購入する際は、この掌編がきちんと挟み込まれているか、確認することをお忘れなく。
では、最後にもう一つ、作中、私の胸に突き刺さった文章をご紹介いたしましょう。
『少しだけ海の見えるところ』という作品のちょうど真ん中(ページ数にすると、130ページ)に、それはありました。
しばらく前は、映画を観るたび「もう二度とこの映画を観る機会はないだろう」と思っていた。
しかしこのごろは本を読んでいて、「もしかすると、これがこの本を読む最後になるかもしれない」と思うようになった。またふたたび、この本を読みたくなる季節が巡ってくるだろうか? 若いときには、こんなことまったく考えなかった。
……ああ、これほどまでに共感を覚えた言葉はありません。ということは、私ももう若くはないということでしょうか(苦笑)
でも、同時に「今回がこの本を読む最後」にはならないだろうと、確信しました。
時々、何度も読み返したくなる一冊です。
興味を覚えた方は、ぜひご一読を(^_^)
そして、何が「ひょっとして」なのかをあなたご自身の目でお確かめください。
2004-02-29