臨床経絡
はじめに
十二の都市を持つ国の話
経穴ゲートスイッチ理論
気論
十二正経と奇経と経穴の関係 本論 代表的なスイッチ群 補瀉論
理論の実践
治療原則 刺鍼法 四診(望・文・問・切)
脈状診 比較脈診 症例
役立つ古典理論
陰陽五経 生理
脈状
病症 奇経 子午
附録;難経の読み下し文子午
臨床ひろば
異論な医論
経穴ゲートスイッチ理論(仮説)

はじめに)

私たち東洋医学の臨床家は自らの経験だけでなく数千年に亘る先人の臨床追試の結果によって気血や臓腑・経絡・奇経・子午などの機能の存在を素直に鵜呑みにすることができます。そしてそれらについて語られる生理を基に治療理論が考え出されそれを基に治療方針を組み立てている臨床家が私も含めて多くいます。しかし千年単位で淘汰されたそれらの治療理論はどれも優れてはいるのですが何れにせよ後付けですからヒトの生理を完璧にコントロールできる訳ではないのです。したがってどれか唯ひとつの理論に絞り込んでしまっては全ての病症には対応できないのが現実です。しかしだからと言って複数の理論を同時に使おうとするとそれぞれの理論同士がぶつかって整合性に矛盾を感じることもあります。それでもそれぞれの場面に応じて治療を組み立てざるを得ず治療結果は悪くはないがこの理論上の矛盾をどう解決したらいいのか真面目に考えれば考えるほど何か中途半端な気持ちに陥ることもあります。結果としてそう言う矛盾を生じさせない為には数ある優れた理論のどれか一つを支持して全ての病症にその理論一本で対処すると言う剛腕の臨床家も沢山いるわけです。
しかし仮にそこに矛盾を感じたとしてもそれぞれの理論が完璧にヒトの生理を解き明かし説明しているならまだしもそれら全てが統計的に割り出された後付けの理論であるということを考えれば矛盾は理論上のことであって生体の中では生理機能は全く整然としていて実はその矛盾自体が存在しないのだろうと私は思います。平たく言えばお互いの理論の間に矛盾があっても現実に治っているのだから生体から見れば理論同士の矛盾は全てが後付けの理論であるが故であって実際の生体の活動からすれば矛盾はどこにもない筈です。
さて数々の治療法の共通する究極の目的は気血の調和を図ることに他なりません。ですからどのような場合でも気血の調和が図られれば仮に患者の求めるままに疼痛部位に鍼をするだけの治療でも治るときには治るものです。つまりその時は術者の意識の高低に拘わらず自然と気血の調和が図られたのです。実際の臨床とはそういうものですがそういう成功をより確率高くするためにこそ様々な理論があります。従ってどの理論が正しくどの理論が間違っているなどと言うことはないとも言えますし乱暴に言えば理論さえ要らない臨床家だって沢山居る訳です。しかし確率高く臨床成績を上げるにはやはり何がしかの理論を持っていた方が目的の達成はより確実になります。
さてではどの理論を採るかですが病理を照らす明かりが様々な理論であるとするとどの理論であってもヒトの病理を単独で照らしきるものはなく必ずどこかに影ができてしまいます。しかし別の明かりを足すことですべてを明らかにする可能性が出てきます。ですから色々な病症に対処しようと強く思えば思うほど術者(名人ではない平凡な)は様々な理論を駆使して最良の治療方針を選択せざるを得ません。そして願わくば既存の複数の理論を使っても矛盾を感じさせない生体のメカニズムを仮定できればこの上ないと思います。そしてそれを実現できるのが経穴ゲートスイッチ理論(仮説)です。