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備えあれば 憂いなし | ||
1.
「言われた通り、電話したぞ。これで良いんだよな?」
――よし、今がチャンスだ!ドアの向こうでカカロットが何かをしきりに話しこんでいる。ヤツの意識は完全にこちらから反れていて、まだ戻る素振りも無い。逃げ出すなら今がチャンスだ!息を殺して耳をそばだてた後、物音をたてないよう、できるだけ静かに寝台から足を下ろした。
ああ、それにしても。なぜこのオレがカカロット相手にコソコソせねばならんのだ!!
『あ、いけねえ、忘れるところだった』
オレの上に圧し掛かっていたカカロットが、突然こんな事を言って起きあがったのはつい先ほどのことだ。
『ベジータ、ちょっと電話借りるぞ』
電話だと?こいつが?ヤツはバネの利いた動きで跳ね起きると、オレの返事も聞かずに部屋をさっさと出ていった。
『おいカカロット、キサマ急に…』
何の真似だ、一体どこに掛けるつもりなのか。答えもしないで相変わらず人の話を聞かないヤロウだぜ。いや、そんな事よりも。カカロットに圧し掛かられて万事休すと身を固くしていたオレは、体の上から重みが消えて思わずほっと息を吐いた。逃げ出すなら今がチャンスだ!
めくり上げられて半脱ぎになっていたアンダーシャツを元通り引き下ろしながら、そろりそろりと床を歩く。さしあたり今のオレは、『つかの間刑の執行を免れた罪人』とでも言ったところか。裸足で歩きながら室内を見回すと、オレのブーツが部屋の隅にてんでに放り投げられているのが目に留まる。あのヤロウ、人の物を適当に扱いやがって!声を出さずに毒づきながら、右足の方を拾おうと身をかがめた途端、床がミシリと音をたてた。
「!」
『ええっ?!本気かよ?!』
ドアの向こうでカカロットが驚いたような声を上げた。一瞬気付かれたかとオレは息を飲み、そのまま微動だにせず事の成り行きを伺う。しかし、それ以降気を研ぎ澄ませてもドアの向こうの気配に変化は無い。どうやらカカロットのヤツは、オレにではなく電話での会話に驚いたらしい。くそっ、脅かしやがって!しかしアイツは一体何を話しているんだ?聞き耳を立てようとして、すぐにそんな場合では無かった事を思い出した。一瞬湧き上がった好奇心を慌てて抑え込む。
それにしても危なかったな、オレとした事が迂闊だったぜ。不測の事態はいくらでも起こるんだ、予想してあらかじめ備えないとな。今度は足音をたてないよう体を宙に浮かせ、素早く足元のブーツを拾い上げた。
日ごろから準備をしっかりしていれば、突然何かが起こっても慌てる事は無いらしい。最近覚えた地球の訓示で、たしかそんな意味の言葉があったはずだ。ええと、何だったか……。音を立てないよう注意を払いながら、宙に浮いたまま拾ったブーツを右足に穿く。と、そこで『訓示』を思い出したオレは眉間の皺がぐぐっと深くなった。
――何が、『備えあれば 憂いなし』だ!さんざん備えたのにダメじゃねえか!

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