「K-1」というのは、あくまで「異種格闘技戦」である。主催者もそう銘打っている。「全日本キックボクシング連盟」は「キックボクシング」の団体。そのリング上で、「首相撲なし」「ヒジなし」「3R」「出場選手全員キックボクサー」という大会が行われてしまった。
これは大事件である。「キックボクシングって一体なんなんだろう?」改めてそう考えてしまったのは、わしだけだろうか?
ルールが変われば、技術体系も根本的に変わる。このルールで闘うとしたら、どんな影響があるのだろう?
まず、ローを蹴ってる暇はない。先にも書いたように、3Rの闘いで、ローを効かせることは難しい。いくら効かせても、パンチで顔がはね上がったらチャラだ。
もっと被害が甚大なのは、ミドルキックを中心に試合を組み立てる選手。サムゴーみたいなのは例外として、ミドルキックでダメージを与えるのは難しい。だけど、ミドルがあれば、パンチで突っ込んでくる選手を止めることができる。そういう試合をしていれば、ラウンドを重ねるごとに、パンチの選手は攻め手を失い、逆にこちらのパンチがポコポコ当たりだす(3、4Rあたりから)。そんな試合を、みなさんも何度も観ているだろう。
しかし、ミドルだけで相手を捌くのは難しい。ミドルの距離より中に入られるのを完全に阻止するのは難しい。そんなときには首相撲。要は、遠い距離ならミドル、中間距離は捨て、その距離に入られたら前に出て首相撲を含めた接近戦……、それがパンチャー封じの常套手段だ。
ヒジのあるなしも重要だ。キックの試合で、中間距離でパンチの連打をまとめるのは難しい。なぜなら、「フックやアッパーの当たる距離=ヒジの当たる距離」だからだ。だから、キックの選手はあまり頭を前に突っ込まず、直立してパンチを打つ(前のめりになると、ローのカットもできない)。パンチの合間に、掌底で相手を押して、ヒジの当たらない距離をキープしながらパンチをまとめていく。ボクシングのパンチの連打とは、まったく違う技術が必要になる。ボディーブローも、ヒジを合わされないような打ち方をしなくてはいけない。
ダッキングも多用は禁物。動きを読まれれば、首根っこおさえられ、ヒザの餌食になる。
「空手家」をベースとしてスタートした日本のキックボクサーだが、ムエタイとの対戦、技術輸入によって、こういったスタイルが確立されてきた。それを乗り越えた選手だけが、打倒ムエタイを突き進むことができた。小林さんがテーパリットを倒せたのも、首相撲対策でレスリングの練習などをやってきたからだと思う。けっして組んでくるタイプではなかったテーパリットだが、パンチを効かされたとき、必死にしがみついてきた。小林さんはそれを振り払い、パンチの連打でKOした。そういう練習をやってたから、KOできたんである。
今回の「特別ルール」っていうのは、野球で言えば「変化球禁止」みたいなもんである。「ファンは力と力の勝負が観たいんだから、ピッチャーは直球しか投げるな」……本当に面白いっすか? こんなルールだったら、東尾も北別府も星野伸之も生まれなかった。ルールが選手を作るのだ。
メジャーリーグでは、ここ数年フォークボールを投げる選手がいなくなった。「ヒジに負担がかかるから」という理由だ。そんなところに野茂や佐々木がやってきたから、さあ大変。並みいるメジャーリーガーがフォークにきりきりまいした。当たり前だ。ほとんどそんな球観たことなかったからだ。
だが、2年目、3年目になれば相手も慣れてくる。だから、野茂も佐々木も、カーブやカットボールを勉強して、ピッチングの幅を広げようとしている。そうしなければ、やられるからだ。
そうやって、選手や競技は進化していく。
キックがいま低迷しているのは、けっしてルールのせいじゃない。他にやることあるでしょ? そういう考えに同調してくれる人は他にいないんだろうか?
いまから後楽園ホールに行く。ソムチャーイ高津対楠本勝也だ。わしが結局崩せなかった、ソムチャーイスタイルを、楠本勝也がどう破壊するのか? 楽しみじゃないか! ワクワクするじゃないか! 全知全能を動員した総力戦を堪能したまへ!
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