「Rocks!」以来8年ぶりの小山のアルバム。期待しないわけがない。ただ、奴も8年間何もしていないわけではない。地方へライブに来たり、インディーズレーベルからベスト版や「YELLOW WASP」を出したりと、ここ2,3年はむしろ精力的に活動していたとも言えよう。しかし、「YELLOW WASP」から数えても3年ぶりの新曲発表。あの衝撃を期待してしまうのはおそらく俺だけではあるまい。小山はいつだって俺の期待を裏切ったことはないのだから。
とは言うものの、俺はこの新譜を予約しなかった。時間がなかったってのはたぶん言い訳なんだろう。メジャー流通ならどこかで買える筈だ、どこかで買いたい、なんて思っていたのかもしれない。6/25発売当日。仕事に追われ買いそびれた。翌日、仕事の途中でタワレコによる。インディーズコーナーに「小山卓治」の名前がある。さすがタワレコ。しかし「種」はないのである。なんじゃそりゃ。ぐるぐる店を回ってみると、見覚えのある顔のイラストのジャケットが山積みになっている。さすがタワレコ、小山を平積みかと思ってよく見てみると山崎まさよしの「アトリエ」であった。山崎、まぎらわしいジャケットつくるんじゃねえよ。まあ小山が平積みになっているわけもない。なに考えてんだ、俺。どっかの西神戸店じゃあるまいし。
そんな訳でいつも予約している新○堂へ行く。さすがである。小山コーナーがある上にちゃんと「種」もある。一枚だけだが。手にとって見ると紙ジャケットである。それも見開きでもない。なんかちゃちいなと思いつつレジへ向かう。文句なんか言っちゃいけない。ないよりましだ。
帰りの電車で待ちきれずに封を開けてみる。でも、歌詞はまだ読む気になれない。ライナーノーツも何もないシンプルな歌詞カードをただぱらぱらと眺める。
シャワーを浴びて、酒をくらって、確かめさせてもらおう。今の小山を。
track01: 吠えろ 「どん底っていう場所は ここよりずっと下さ」
軽めの感じで始まる。この曲は一度だけ聴いたことがある。これか。これが今の小山か。ちょっとポップな感じのバンドサウンド。わりと俺の好きな「走り続けよう」系の歌。少し気になったのはコーラスや楽器がかなり独立して聞こえること。むしろバラバラ感のほうが先にたって聞こえる。
彼はシンガーなのでこう歌わざるをえないんだろうが、「見上げたらどん底があった」を座右の銘にしている俺としては、めずらしく小山と食い違いがあった。いつだって小山はいい方に俺を裏切ってくれたのに。
track02: ジオラマ 「履きなれた靴のような その体を抱きしめたい」
高橋研の作詞である。高橋研は中村あゆみの名曲を作ったアーティストで、けして俺は評価してないわけじゃない。でも俺は、今、小山の歌が聞きたいのだ。今小山には高橋研が必要なのか。
track03:今夜のアリバイ 「伝えておいて 今夜のアリバイ」
なつかしい小山である。これを聞いて、やっとほっとする。ちょっとナツメロっぽいサックスが効果的に懐かしさを感じさせる。女形に扮した小山の真骨頂である。女性から聞いたらどう思うのだろう。歌詞もメロディーも、ちょっとトリッキーと言うか、すかした感じの小山がいい。ここまでセクシーな感じを出した歌ってのは珍しいんじゃないだろうか。
track04:ある夜の電話 「君にもっと「ありがとう」を 言っておけばよかった」
こんなことにはなりたくないなと、ちょいとシビアな歌詞。
track05:夕陽に泣きたい
タイトルからしてもそうだが、イントロを聞くと「夕陽が泣いている」のパクリかと思った。ハーモニクスのギターがなんだかGSサウンドを彷彿させる。
今、俺の環境が今までと少し違う。ずっと小山を求め続けていた頃と。でも、小山だって変わってきているはずだし、俺だっていつも一定の環境下にあったわけじゃない。俺の環境が変わっても、小山はいつも俺を見透かしたように戻ってきてくれたんだけどな。今は何故だかはまらない。
track06:ユリエ
ライブでは噂の高かった「ユリエ」である。絶望的な歌詞を綺麗なマンドリンが救ってくれる。社会派小山の側面が見える。無論小山を社会はなんていうのには語弊がある。しかし絶望的な事実を唄として切り取って完成させてしまうのは、見事である。
俺はもしかして今、自分に満足しているのかもしれない。ふと、そんなことを思った。
track07:汚れたバスケットシューズ 「そして僕は まあ相変わらずだ」
小山である。直球のアコギから始まる軽快なリズム。もはやカントリーだなこれは。俺の中では今回イチオシの唄である。なにがって言っても、説明のしようがない。淡々としているが、俺にとって今回はこれが小山なのだ。俺が大阪に住んでいて、大阪が出てくるからだろうか、ギャランなんて懐かしいクルマが出てくるだろうか。わからない。でも、これはいい。バスケットシューズは絶対コンバースだよな。バスケットマニアだったらオニツカタイガーでもいいだろう。
これ、はじめ気がつかなかったけどライブテイクであった。渋谷オンエアウエスト。俺、聴いてたんだな、その時。
track08:Soulmate
俺は基本的にLet's系の小山は好きじゃない。別にダメ出しやあら探しをしているわけではないんだが、どうもはまらない。もっとひとりよがりの小山の声が聞きたいんだ。俺に話しかけてくれなくていい。小山の声がもっと聞きたい。
track09:種の歌
この唄が明らかにこのアルバムのテーマであろう。ひまわりからたんぽぽへ。
track10:最初の奇跡 「いくつもの孤独な夜の果ての これが最初の奇跡」
「もうすぐ」を思い出させる丁寧なバラード。いや、むしろ「もうすぐ」の続編なのかもしれない。出逢いと、出逢ったことの幸せを感じさせる。小山の中では多分「永遠」という言葉は「幸せ」という定義で使われているように聞こえる。いいバラードだ。この「最初の奇跡」という言葉は、今の俺にはとてもいい言葉に聞こえる。最初の奇跡は最後の奇跡なんだろうか。それとも最後の奇跡はまだあるのだろうか。愛する二人には何度でも奇跡が訪れるのかもしれない。
このアルバムに俺は納得したわけではない。俺にとっては「花を育てたことがあるかい」に続いて難解なアルバムになると思う。でも、これが今の小山のやりたいことなんだろう。どんなシンガーのアルバムでも、全曲が気に入るなんてことはまずない。そういう意味では今までの小山が凄すぎたんだろう。素敵な曲はもちろん何曲かある。もちろんそれで十分なんだけどね。
俺が今、ロックンロール系を求めているせいもあるだろう。ストレートなロックンロールが聞きたいときは、どんな名曲が出てきてもダメだからな。俺は実はこのアルバムを2回聞いたあと、「YELLOW WASP」を久しぶりに聞いた。しびれた。
収録曲
01. 吠えろ
02. ジオラマ
03. 今夜のアリバイ
04. ある夜の電話
05. 夕陽に泣きたい
06. ユリエ
07. 汚れたバスケットシューズ
08. Soulmate
09. 種の歌
10. 最初の奇跡
●発 売 日 : 2003年6月25日
●定 価 : ¥3,000 (税抜価格 ¥2,857)
●商品番号 : LZCD-1
●発 売 元 : (株)りぼん / (株)プライエイド・レコーズ
●販 売 元 : ユニバーサルミュージック(株) / ビクターエンタテインメント(株)
Photo by nov Matsuzaki
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