スズメバチに刺されないために

●攻撃を受けやすい動き

スズメバチは横への動きに反応しやすいので,ハチを手で払ったり,急に向きを変えるなどの動きは危険である.もし巣を見つけた場合は静かに後ずさりして巣から離れる.スズメバチは外敵から巣を守るために,巣に近づくと次のような警戒や威嚇の行動をとる.

・ 相手の周りをまとわりつくように飛び回る.

・ 相手に狙いをつけて空中で停止(ホバリング)する.

・ あごをかみ合わせて”かちかち”という音をたてる.

警戒のハチが近寄ってきた場合は,姿勢を低くしてハチが飛び去るのを待ち,ゆっくり巣から離れる.特にオオスズメバチは,巣の近くで動く黒い物体に対して非常に敏感に反応するので注意が必要である.

●攻撃を受けやすい色彩と身なり

スズメバチはいずれの種も黒色に対して激しく攻撃する.白色や黄色,銀色に対しては反応は弱く,ほとんど攻撃しない.ただし,たとえ白色であっても,いったん攻撃を受けたあとでは安全とは言えない.

なぜ黒いものを攻撃するのかについては,人間をターゲットにしたものだとする説が有力である.黒い着衣,ひらひらするものなどは巣の近くでは攻撃を受けやすいので注意が必要である.カメラや長靴など黒くて動くものも危険である.また,匂いもハチを刺激する.ヘアスプレーや香水などの化粧品,汗の臭いなどにも敏感に反応する.

●巣の所在が分かっている場合

巣に気づいたら,不用意に近づいたりいたずらをしてハチを刺激しないようにする.巣に直接触れたり,棒や石などで刺激を加えることはもちろん,枝を揺らしたり,近くで作業をしてハチを刺激しないように注意する.一般におとなしいとされている種でも,巣に刺激を与えると激しく攻撃してくる.

●巣が付近になくて,ハチが飛んでいる場合

作業をする時はハチを刺激しないように,長袖で白っぽい服装を心がける.また頭部は攻撃を受けやすいので帽子をかぶり,軍手などをはめて露出部分を少なくする.

オオスズメバチに限っては,餌場においても縄張り意識が強く働くため,攻撃してくることがあるので,樹液にやってきたハチを刺激しないように注意する.

●ハチが室内や車内に入って場合

室内や車内にハチが入ってきた場合は,窓を開けて外へ出ていくのを待つ.ハチは明るい方へ向かう性質があり,そっとしておけば自然に外へ出て行く.出ていかない時は,団扇などに止まらせて外へ出すようにする.たたいたり追いかけ回さない限り決して人を刺すことはない.

刺された時の対処法

ハチに刺されないようにいくら注意していても,不幸にして被害にあうことも少なくない.もしもハチに刺されてしまったら,落ち着いて次のように行動する.

●刺された場所が巣の近くなら,速やかにその場所から離れる.

1匹のハチに刺されると毒液(興奮物質)が空中にまき散らされるため,さらに多数のハチの攻撃を受けることがあり危険である.スズメバチが追いかけてくる距離は種により違いますが,概ね10m〜50mで程度で,普通は20m〜30mも離れれば心配はない.

●傷口を水道水などでよく洗い流し,手で毒液を絞り出す.

毒を薄める効果(水溶性のタンパク質が水に溶ける)と,傷口を冷やし腫れや痛みを和らげる効果が期待できる.毒液は口で吸い出してはいけない.たとえ飲み込んでも消化管からは吸収されないが,口内に傷があると傷口から体内に入るので危険である.インセクトポイズンリムーバーやエクストラクラーなどの毒液を絞り出すための器具が輸入販売されているので携行すると良い.

●患部に虫刺されの薬(抗ヒスタミン軟膏)を塗る.

アンモニアは全く効果がない.その他にハチ刺傷時の民間療法として,渋柿の汁を塗る,アロエの汁を塗る,タマネギの汁を塗る,ヘクソカズラの汁を塗る,スズメバチ酒を塗るなどが知られているが,いずれも効果についてはよく分かっていない.

●以上の処置を施した後,速やかに医療機関を受診する.

ハチ刺傷による症状は,局所の皮膚症状 → 全身性の皮膚症状(全身のじんま疹,掻痒感,紅斑) → 消化器症状(胃痛,吐き気,おう吐など) → 呼吸器症状(呼吸困難,喘鳴) → 循環器症状(虚脱,不整脈,狭心症)などであるが.治療はそれぞれの症状を緩和するための対症療法が中心で特効薬はない.

●アナフィラキシー症状出現時の対応

 1 アドレナリン携帯自己注射キット(エピペン)を携行している場合は,直ちに自己注射する.

 2 その場で体を横たえ,脚を少し高くする.

 3 おう吐がある場合は顔を横に向けて窒息しないようにする.

 4 きるだけ速やかに最寄りの医療機関を受診する.