ハチに関する基礎知識

 ハチとはハチ目に属する昆虫からアリを除いたものの総称である.世界で12万種以上,日本からは4,200種以上が記録されているが,大部分を他の昆虫に寄生する寄生バチが占める.  ハチ目は広腰類と細腰類に大別される.細腰類に属するハチの成虫は,胸部と腹部の間がくびれており,さらに有錐類(ヤドリバチ類)と有剣類に分けられる.有剣類のうち狩りバチと呼ばれるグループは,昆虫やクモなどを狩って巣に持ち帰り幼虫の餌にする.一方,花バチと呼ばれるグループは,狩りを止めて花粉や花蜜を幼虫の餌として利用する.

 有剣類の大部分は単独生活をしていて,手で握ったりしない限り刺される心配はない.人を攻撃したり刺したりして問題となるのは,集団生活をするスズメバチ上科スズメバチ科とミツバチ上科ミツバチ科に属するハチで,全体から見ると極一部に過ぎない.  これらのハチは,(1) メスに繁殖をする個体(女王バチ)と繁殖をしない個体(働きバチ)の区分が存在する,(2) 世代の重なりがある,(3) 協同で子育てをするてをするという共通性がみられ,社会性のハチ類(social wasps,social bees)と言われる.ハチ目の中では最も進化したグループだと考えられている.

スズメバチとアシナガバチ

 日本にはスズメバチ亜科3属17種,アシナガバチ亜科3属12種が生息している.生活史は1年限りで,いずれも1頭の越冬女王バチにより巣が創設され,最盛期には巣内に多数の働きバチがみられる.営巣開始時期はアシナガバチの方が早く,4月上旬には巣作りを開始し,8月下旬には新女王バチが誕生して9月には営巣活動を終える.  スズメバチは営巣開始時期がこれより1ヶ月程遅く,4月下旬から5月上旬に営巣を開始する.活動期間もアシナガバチより長く,オオスズメバチやキイロスズメバチは11月末,時には12月まで活動することがある.  スズメバチとアシナガバチでは巣の形状や営巣規模が大きく異なっている.スズメバチの巣は巣盤が何段にも重なっており,外皮に覆われているのが特徴である.
アシナガバチの巣は1枚の巣盤からなり,外皮が作られることはなく育房が露出している.営巣場所は樹枝や葉の裏,軒下などの開放空間に作られることが多く,一部が戸袋や壁間などの閉鎖空間にも巣を作る.育房数は100房以下のことが多く,最も営巣規模が大きいフタモンアシナガバチでも1,000房程度である.

 スズメバチとアシナガバチは成虫の形からも見分けられる.スズメバチは腹部の付け根が直角になっていて,いわゆる砲弾型をしている
 アシナガバチではこの部分がなだらかになっていて,スズメバチよりも全体にほっそりしている.また腹部の黄色と黒の縞模様もスズメバチでは明瞭であるが,アシナガバチではハッキリしない種が多数ある.アシナガバチは飛ぶ時に,名前の由来である長い後脚をダラリと下げている.

 

単独性の狩りバチと花バチ

 幼虫の餌として各種の昆虫やクモなどを狩るハチの仲間を狩りバチと呼んでいる.狩りバチは集団生活をするハチ(社会性の狩りバチ)と,単独で巣作りをするハチ(単独性の狩りバチ)の2つグループに分けられる.  ドロバチ(ドロバチ科)やアナバチ(ミツバチ上科アナバチ類),クモバチ(クモバチ科)の仲間は,幼虫の餌に昆虫やクモなどを狩るが,いずれも単独生活をしている.毒針で刺して麻酔した獲物を巣に持ち帰り,育房内に閉じこめて,卵を生み付ける.卵からかえった幼虫は,用意された餌を食べて成長し,成虫になると穴を開けて外へ出てくる.  人目につきやすい場所に巣ができたり,成虫が多数飛び回って相談が寄せられることがあるが,成虫や巣を刺激しても人を攻撃することはなく,手で握ったりしない限り決して刺される心配はない.
 一方,花の蜜や花粉を幼虫の餌として利用するハチを花バチと呼んでいる.花バチには,ミツバチやマルハナバチなど集団生活をするハチ(社会性のハナバチ)と,単独で巣作りをするハチ(単独性のハナバチ)の2つのグループがある.これらのハチは一般的には土中に営巣するが,枯れ枝や竹筒などに巣を作る種もいる.巣に幼虫の餌として花粉団子を準備し,そこに卵を産みつける.孵化した幼虫はこの餌を食べて育ち成虫になる.クマバチやオオハキリバチなど成虫が大型の種類は,人に恐怖心を与えるが,いずれの種も人を攻撃することはなく,成虫を手で握らない限り刺される心配はない.