スズメバチの生活史

前年の秋に誕生し越冬を終えた女王バチは,4月から6月にかけて,順次出現する.すぐには営巣活動を開始せず,2〜4週間かけて樹液やアブラムシの甘露などを舐めて体力を回復した後,営巣場所を求めてあちこち飛び回り,営巣場所が決まると晴天の暖かな日を選んで単独で巣作りを開始する.

最初の働きバチが羽化するまでの約1ヶ月間は,女王バチが狩りや巣材集めなどの外役活動と子育てを行う(単独営巣期).そのためコロニーの存続にとって最も厳しい時期にあたり,女王バチの死亡により廃巣にる割合は極めて高いと考えらている.働きバチの羽化後は外役活動の回数はしだいに少なくなる(共同営巣期).

6月から7月にかけて働きバチの羽化が本格化すると,女王バチは外役活動を行わず産卵に専念するようになる(分業期).次々に羽化する働きバチは,巣材集めや幼虫の餌集めに忙しく働き,巣は急速に大きくなる.

秋にオスバチと新女王バチの幼虫が育てられるようになると,新しく働きバチが育てられることはない.そのため,働きバチの数が次第に減少し巣全体が餌不足に陥ると,働きバチは育房から幼虫を引き抜いて肉団子にして他の幼虫に与える.また,弱った幼虫を引き抜いて巣の外に捨てることがあり,地面にたくさんの幼虫が落ちていることがある.こうした行動は悪天候で外役活動が行えず,巣が餌不足になった際にも起こる.スズメバチのように集団生活をするハチの巣では,幼虫が非常時の食物貯蔵庫としての役割も担っている.

9月下旬から11月にかけて,オスバチが羽化するようになると,その1〜2週間後には新女王バチが相次いで羽化してくる.オスバチ,新女王バチとも順次巣を離れ再び巣に戻ってくることはない.巣を離れた新女王バチはその日のうちに交尾をすませ,すみやかに越冬場所へ移動する.越冬場所は雑木林内の朽ち木や土の中などであるが,種により異なっている.

オスバチと新女王バチが巣を離れる頃には営巣活動は停止し,巣内の働きバチの数も急激に減って冬には巣は空になる.スズメバチの巣の利用はいずれの種類も1年限りで,翌年再利用されることはない.

営巣期間と営巣規模

スズメバチの営巣規模や活動期間は種により異なっている.都市部で多発し問題となっているコガタスズメバチとキイロスズメバチの営巣規模は,前者が小規模型,後者が大規模型に区分されるが,活動期間はいずれも長期営巣型となっている.

最も営巣規模が大きいキイロスズメバチでは,育房数が10,000房を越え,成虫数も1000頭以上になる.以下モンスズメバチ,オオスズメバチ,コガタスズメバチ,ヒメスズメバチの順で,最も小規模なヒメスズメバチでは育房数は200から300房,成虫数は50頭程度に過ぎない.

交尾行動

種により出現時期は前後するが,9月下旬から11月にかけて,オスバチが羽化し,その1〜2週間後には新女王バチが羽化してくる.オスバチ,新女王バチとも,性的に成熟するまでの7〜15日程は巣内に留まるが,晴天の日の午前中を選んで巣を離れ,再び巣に戻ってくることはない.

巣を離れたオスバチは単独生活をしながら毎日交尾場所を訪れ交尾の機会を待つ.交尾は巣の外で行われるが,多くの種では晴天無風の日の午前中,特定の場所にオスバチが集まって飛び回り,そこへ飛来した新女王バチと交尾する.交尾した状態で葉の上や地上に落下し交尾を続ける.交尾を終えた女王バチは速やかに越冬場所に移動し,約半年間の越冬生活に入る.

コガタスズメバチやキイロスズメバチ,モンスズメバチの交尾は20〜30mもあるような高木の樹冠付近で行われる.

オオスズメバチの交尾は巣の入り口付近でおこなわれる.10月〜11月の午前中,働きバチから分泌される集合フェロモンに誘引された多数のオスバチが,巣門(巣の入り口)付近に集まって周辺を飛び回り,巣から出てくる新女王バチを待ち受けて交尾する.交尾行動は新女王バチから分泌される性フェロモンによって引き起こされる.

最近になり,ヒメスズメバチやキイロスズメバチのオスバチが高層ビルの上部を集団で飛び回り,そこへ飛来した新女王バチと交尾することが明らかになったきた.これは高層建築物が大木と同じような役割をはたしていると考えられ,スズメバチの都市環境に対する適応として興味深いものがある.多数のオスバチが建物の周囲を集団で飛び回るため,住民に恐怖心を与え問題となっている.

また,ヒメスズメバチとは時期は異なるが,オオスズメバチが同じような行動をとる事例が知られているが,交尾行動に伴うものかどうかは不明である.

越冬

コガタスズメバチの新女王バチは,9月始めから10月にかけて羽化し,オスバチと交尾した後,速やかに手近にある越冬場所に移動する.そして翌年の春(5月頃)に越冬からさめて巣作りを開始するまでの半年以上の間,体内にため込んだ脂肪を栄養にして,全く餌も採らず長い越冬生活をおくる.

越冬場所は倒木や土の中などであるが,種により異なっている.コガタスズメバチやキイロスズメバチは,雑木林に点在する倒木や朽ち木内,切り株などで越冬する.昼間もあまり日光が当たらず,温度変化の少ない東向きから北向きの斜面が特に好まれる.腐って柔らかくなった倒木に,なめらかに削り取られた楕円形の越冬室を作りその中で越冬する.その際削り取った木屑は入り口や隙間を塞ぐのに使われる.

普通は1頭で越冬するが.都市環境下では越冬に適した場所や倒木が少ないためか,多数の女王バチが一つの越冬室で越冬していた例もある.多頭越冬が見られた倒木の特徴は,1雑木林内の沢筋,2 水平に近い状態で倒れている,3 下部が地面に接していない,4 途中に枝や節などが多いという共通点がある.

越冬中に真っ白なカビが生えて死亡したり,他の昆虫などに捕食されて死亡する個体もある.また,スズメバチネジレバネに寄生された働きバチは,冬になっても死亡せず,そのまま越冬することが知られている.

採路習性

スズメバチは,幼虫の餌として昆虫やクモなどを捕らえ,肉だんごにして巣に持ち帰る.巣の中で多数の働きバチに分配した後,小さくかみ砕いてから口移しで幼虫に与える.スズメバチが蜜を舐めにやってくるヤブガラシなどの花には,アブやハエの他,さまざまなバチの仲間が蜜を舐めにやってくるため,幼虫の餌の狩り場にもなっている.

幼虫の餌として利用する虫はスズメバチの種によって異なっている.コガタスズメバチとキイロスズメバチは各種のクモや昆虫をを狩る”何でも屋”であるが,キイロスズメバチはハエの仲間(双翅目)を狩る割合が高く,時には動物の死骸や魚の干物などの加工食品を利用することもある.コガタスズメバチはハエの仲間の他,アシナガバチなどのハチの仲間もよく狩る.

モンスズメバチは主にセミを狩り幼虫の餌にするが,セミが少ない季節にはトンボやバッタなども狩る”準専門家”と言える.

オオスズメバチはコガネムシ類の成虫の他,スズメガの仲間など大型のイモムシを狩るが,時にはカマキリなども狩ることがありえる.また,ミツバチや他種のスズメバチの巣を集団で襲い,幼虫や蛹を自分の巣に持ち帰るという習性がある.本市でもオオスズメバチに襲われ,廃巣になった巣がしばしば見受けられ,他種にとって大きな脅威となっている.

ヒメスズメバチはアシナガバチ巣を襲い,幼虫や蛹の体液をソ嚢に蓄えて巣に満ち帰り,幼虫の餌として利用する”専門家”で,稀にはコガタスズメバチの巣なども攻撃することがあるが,他の昆虫を狩ることはない.

スズメバチの成虫の栄養源は主に炭水化物で,5齢幼虫が発達した唾液腺から分泌する透明な液体を口移しで受け取る.幼虫に餌を与えるかわりに幼虫から栄養をもらうギブアンドテイクの関係にあり,これを栄養交換とよんでいる.液体の成分は糖やタンパク質で,高い栄養価を持っている.

幼虫との栄養交換が十分に行えない時期には,樹液や花蜜,果樹などを訪れる.アベマキやコナラ,アカメヤナギなどの樹液にはスズメバチやアシナガバチが樹液を舐めにやって来る.樹液で良く見かけるのはオオスズメバチ,モンスズメバチ,ヒメスズメバチ,コガタスズメバチで,キイロスズメバチやクロスズメバチはあまり見かけない.

栄養交換は成虫同士でも頻繁に行われ,甘露や樹液などの液状の食物を口移しでやりとりする.行う場所は巣盤,巣口,外皮などですが,オオスズメバチでは樹液の採集場所でも頻繁に行う.

スズメバチは花蜜を求めていろいろな花を訪れるが,舌が短いため蜜腺が露出しているような花でないとうまく蜜が吸ないため,スズメバチを始めたくさんのハチが利用するのは,小さな花がたくさん集まった,緑色や白色の花が多数を占めている.

また,夏から秋にかけて松林などに生えるシラタマタケというキノコを好んで摂取するが,これはスズメバチの成虫ばかりか,幼虫にとっても重要な蛋白源となっている.