冷却CCDカメラ入門
このコーナーでは、冷却カメラの基礎知識や撮像の仕方について紹介します。
目次
T.冷却CCDカメラの基礎知識 V.撮像方法
   1.冷却CCDカメラって何?    1.露光時間
   2.カタログの見方    2.冷却の手順
   3.パソコンとの接続方式    3.ダークフレームの撮り方
   4.シャッターの種類    4.フラットフィールドの撮り方
   5.モノクロとカラー用カメラ    5.フラットフィールドの失敗例
   6.フィルター装置    6.惑星の撮像
   7.星雲・星団の撮像
U.撮像前の予備知識
   1.接眼部への取付方法 W.画像処理
   2.カメラレンズの使用    1.使用するソフト
   3.ピント合わせの手順    2.処理の流れ
   4.天体の導入方法    3.デジタル現像
   5.CCDに合った焦点距離    4.画像の平均加算
   6.長焦点撮像での注意点<    5.階調のレベル調整
   7.シュミカセによる撮像での注意点    6.3色合成での注意点
   8.赤外カットフィルターの使用    7.LRGB4元カラー合成
   9.画像のカラー化    8.プリント
  10.最近のカラーフィルター事情    9.コンポジット時の位置合わせ
  11.光害地での撮像
  12.光害カットフィルターの有効性 X.遠征での撮像
  13.光害カットフィルターの有効性(カラー)    1.遠征撮像場所の選び方
  14.月夜の撮像は可能か    2.遠征撮像時の注意点
   3.使用するパソコンと電源
   4.バッテリーの容量と使用時間
   5.接続用ケーブルの延長方法
Y.カメラのメンテナンス
   1.冷却CCDカメラの保管方法
T.冷却CCDカメラの基礎知識
 1.冷却CCDカメラって何?
昔のフィルムを使うカメラに代わって、今はCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)と呼ばれる半導体素子を使ったデジタルカメラが一般的になりました。

CCDは日本語で「電荷結合素子」、CMOSは「金属酸化膜半導体素子」と呼ばれていて、いずれも半導体チップの表面(受光面)で光を捕らえ、それを電気信号(電荷)に変える電子部品で、露光させる時間によって電荷を蓄積することができるようになっています。(以下、CCDとCMOSをまとめて受光素子と呼びます。)

受光素子の表面には、小さな目にあたる画素(ピクセル)と呼ばれるものが集まっていて、1画素の大きさは数ミクロンから数十ミクロンまで、チップの種類によって様々です。デジタルカメラのカタログに、何万画素とか書かれているものがそれにあたります。
画素の大きさによる性能の違いは、小さいほど解像度が増す反面、感度は低くなってきます。最近は各画素ごとにマイクロレンズを付けて、感度の低下を補っている受光素子が出てきました。

CCDチップ
 真ん中の黒い部分が受光面で画素の集まりです。
天体撮影用に使う冷却CCDカメラ(現在はCMOSを使った製品が多いので、以下、冷却カメラと省略します。)は、デジタルカメラと同じようにCCDやCMOSを受光素子として使っていますが、一番大きな構造上の違いは、受光素子自体をマイナス20〜40度ほどに冷却するための冷却装置が付いていることです。
また使用上の点では、冷却カメラはパソコンに接続しないと使えません。

(最近、デジ一眼カメラでも受光素子を冷却改造した機種が販売されていますが、ここでは明確に区別するため、冷却カメラに対し、冷却デジ一眼と呼ぶことにします。)

CCDやCMOSは、常温で使うと光が当たっていなくても暗電流によるノイズが発生し、数秒以上の露出をすると画像に小さな白い斑点が現れ始めます。暗電流ノイズは露出する時間が長くなるほど蓄積されるので、最後には画像全体がノイズで真っ白になってしまいます。

デジカメのように露出時間が数千分の1秒から数秒程度であれば、暗電流ノイズの発生は無視できる程ですが、天体撮影のように露光時間が分単位で暗い対象を撮影するには、このままでは使用できません。
そこで暗電流ノイズを減らす方法として、受光素子を冷やしてノイズを減らしたカメラが「冷却カメラ」と呼ばれる天体撮影専用のカメラです。

暗電流ノイズは、受光素子の温度を10度下げると約半分に低減します。アマチュアが使う普及型の冷却カメラでは、受光素子をペルチェ素子と呼ばれる、冷却用の半導体素子で冷やす方法が使われています。
また冷却能力を高めるために、ペルチェ素子を2重にしたり、水冷装置を組み合わせて使用できる製品も出ていて、夏場でも使えるようになっています。
 2.カタログの見方
冷却カメラを購入する際は、大変高額な出費になりますから慎重に機種選びをする必要があります。
後から後悔しないためにも、自分が何を撮るために買うのか、目的をハッキリ持って選ばなくてはなりません。
惑星を撮るのか、星雲・星団なのか、カタログを取り寄せて、製品の特徴をじっくりと見極めて選んでください。

以下、カタログで確認すべきポイントを説明します。

【受光素子の画素数と大きさ】

 この点は、冷却カメラを選ぶ上で一番気になるところではないでしょうか。
 受光素子が大きいと画角が広く撮れるので、撮影する対象が広がりますが、惑星だけを目的とする場合は、小さな受
 光素子でもまったく問題はなく、かえって小型の方が取扱いが楽なので便利だと思います。
 大きな受光素子の機種でも、撮像する時に受光素子の半分を使うとか指定することができる機能がありますので、星
 雲以外に惑星も撮像したいと言う方には、そう言った機種をお薦めします。

 受光素子が大きいものは、受光面が大きくて画素数も多いので高性能であると勘違いしている方がいますが、画素数
 の多さと受光素子の大きさは必ずしも一致しません。
 たとえば正方形の受光面を持った受光素子があったとして、1画素の大きさが5ミクロンで400万画素のチップと、10
 ミクロンで100万画素のチップは、両方とも受光面の大きさが縦横10ミリになります。

 感度的には、10ミクロンの方が5ミクロンのものより4倍も1画素当たりの面積が大きいので有利になりますが、反面
 解像度は不利になります。
 最近の受光素子は1画素が小さくなる傾向にあるようですが、大きな画素を持った機種も販売されているので、暗い
 星雲をねらうような場合には良いのではないでしょうか。
【量子効率】

 簡単に言うと感度のことです。専門的には、入射した光子数に対する発生した電子数の割合を%で表した数値になり
 ます。前述の通り、1画素の受光面積が大きくなれば量子効率が高くなると言えるのですが、効率割合は受光素子の
 種類によっても異なります。

 また最大量子効率(感度のピーク)が、光のどの波長部分にあるのかも重要になります。
 赤外域(700nμ)から紫外域(400nμ)まで、全域において感度の高い受光素子が理想ですが、そのようなチップ
 は今のところありません。
 受光素子は比較的赤外域に高い感度を持っているものが多く、紫外域になるほど感度が低くなるようですが、最近出
 回っている受光素子は、比較的青系に対しても高感度になってきました。
 しかし旧タイプのカメラには、青色に対する感度の低いものがありますので、中古を買われるときは使用している受光
 素子の分光感度特性を見て、何色に最大感度があるのか調べておいたほうが良いでしょう。

コダックKAF-3200MEとKAF-3200Eの感度特性
【A/D変換と階調数】

 受光素子が蓄積した電荷量をデジタル信号に変換して、画像データとして取出す時のビット数を表します。
 変換ビット数が高いほど、光の輝度の差を細かく表現することができます(階調と呼びます)。
 変換ビットは2進数で表わします。たとえば1ビットであれば信号は0か1の2種類ですから、階調は白と黒の2階調を
 表現できます。ビット数が多くなればなるほど、真っ白から真っ黒までの間のグレースケールを細分化して表現するこ
 とができるわけです。
 今、市場に出回っている大半の冷却カメラは、A/D変換が16ビットで、65,536階調の性能を持っています。
【冷却方式と温度】

 受光素子の冷却温度が低ければ低いほど、暗電流によるノイズは少なくなりますが、現在市販されている製品では外
 気温からマイナス35〜40度程度が限界のようです。(例:外気温が20度なら冷却温度はマイナス15〜20度)

 冷却温度が高いと撮像した画像に暗電流ノイズが多く発生し、白い斑点が多くなってきます。
 画像はデータの欠損が多くなるので、ザラツキが増して見苦しくなります。そのまま露光時間を伸ばしていけば、最後
 には暗電流ノイズが画像全体を埋め尽くし、真っ白な画像になってしまいます。
 暗電流ノイズは冷却温度が低いほど減りますが、アマチュアが入手できる機種ではゼロになることはありません。

 受光素子を冷却する手段としては、ペルチェ素子を使う方法が市販の機種ではほとんどです。
 ペルチェ素子は電気を通すと片側の面が冷えて反対側の面が熱くなるため、熱い方の面の熱を逃すために放熱装置
 が必要になります。この放熱が不十分だと冷却温度が低くなりません。

 放熱の方法には放熱用のヒートシンクを使った自然空冷や、ヒートシンクをファンで冷やす強制空冷方式、ポンプで水
 を通して冷やす水冷方式などがあって、後者になるほど冷却能力は高くなります。
 また冷却効果を高めるため、ペルチェ素子を2個重ねて、1個目のペルチェ素子の熱を2個目で冷やす機種もあります
 が、消費電力が大きくなるなど欠点もあります。
 水冷の場合は水を用意したり、ポンプを回すための電源など余分な準備が必要になるので、使う場所にあった機種を
 選んでください。

 冷却能力の性能の目安は、ファンを使った強制空冷方式の場合で、冬場でマイナス25〜35度、春秋でマイナス10
 〜20度、夏場は0〜マイナス5度くらいです。

 夏場は夜でも外気温が30度を越えることがあるので、ペルチェ素子1個の機種では、冷却しても受光素子が零度以
 下にはならないでしょう。夏場での使用を考えているのであれば、ペルチェ素子を2個使った機種や、水冷装置のある
 機種を検討したほうが良いでしょう。

ペルチェ素子、受光素子に重ね合わせて冷却します。
【飽和容量(フルウェルキャパシティ)】

 画素が蓄積できる最大の電荷量のことで、1画素の面積が大きければ大きいほど飽和容量も大きくなります。
 単位はelectrons(e~)で表され、数値が大きいほど飽和しにくくなります。
 蓄積した電荷が飽和容量を越えてしまった場合、アンチブルーミング機能(ABG)がない受光素子はブルーミングが
 発生します。
【アンチブルーミング機能(ABG)】

 1画素が蓄積できる電荷量の限界(飽和容量:フルウェルキャパシティ)を越えると、電荷が信号の取出し方向にあふ
 れ出てしまう現象が発生します。これをブルーミングと呼んでいます。
 たとえば明るい星が写野の中にあるとすると、その部分が飽和して電荷が明るい輝線となって、その星の上下または
 左右に伸びだしてきて、観賞用の画像としては大変見苦しいものとなります。

 ブルーミングを防ぐため、電荷があふれる前に入射光を遮断してしまう機能をアンチブルーミング機能と言います。
 この機能が付いた機種は、ブルーミングが発生しない代わりに、ブルーミング機能のない機種に比べると感度は低下
 します。

ブルーミングの例:輝星の上下に明るい線が出ている。
【ビニング】

 量子効率を高めるために、複数の画素を合わせて1つの画素に見なすことができる機能です。
 一般的には、画素を4個(2x2)、9個(3x3)合わせる機能を持った機種が多くなっています。
 ビニングした場合は感度が高くなりますが、反面、解像度は落ちます。
【その他】

 他で大切なところは、パソコンとの接続方法、シャッターの有無・種類、フィルター装置の有無などです。
 オートガイド機能を持ったものもありますので、撮像以外にどのような付加機能があるかも比べてください。
 3.パソコンとの接続方式
冷却カメラでの撮影や冷却温度の管理などは、パソコンの専用ソフトを使って行ないます。したがってパソコンと接続し
なければ冷却カメラ使用できません。

接続するインタフェースは現在USBが一般的ですが、USBにはバージョン1.1と2.0の2種類があります。
バージョンの違いによって、冷却カメラとパソコン間でのデータの転送速度が違いますので、画素数が多い冷却カメラの
場合は、早い速度のバージョン2.0を選んだほうが、データの転送時間が短くて済みます。
 4.シャッターの種類
現在市販されている冷却カメラのシャッター方式については、大きく種類分けするとメカニカルシャッターと電子シャッター方式の2種類になります。

メカニカルシャッターは、受光素子の前に光を覆い隠すためのシャッターがあって、指定した時間だけ露光ができるようになっています。
機種によっては、銀塩カメラと同じような高級なシャッターが使用されているものがありますが、一般的にはスリットが切られた金属性の円盤を、モーターで回転させる方式のシャッターが付いています。

電子シャッターは、受光素子を覆い隠すためのシャッター幕は存在せず、受光素子が丸見えの状態となっています。
露光の入り切りは電気的に行なわれていて、指定した露光時間が終了すると受光素子への光の蓄積をやめ、それまでに蓄積された電荷を取り出すしくみになっています。

それぞれの方式には長所/短所がありますので、一概に良し悪しを論じることはできませんが、一般的にはメカニカルシャッター方式で使用される受光素子は、光信号を読み出す転送路を受光素子上に持っていないので、信号の取み出し時に受光素子に光が当たらないような構造にしなくてはなりません。 (フレーム、フルフレーム方式)
この種類の受光素子は転送路を持たない分、画素面積を大きくできるので、感度の高いカメラを作れる利点がありますが、シャッター装置を装着するために価格が少々割高になります。

これに対して電子シャッター方式で使用される受光素子は、受光素子上に信号読み出しのための転送路を持っているので、露光終了後に受光素子を遮光する必要がなく、転送路に電荷信号を移してしまえばすぐに次の露光を始められます。(インターライン方式)
この方式は受光素子上に転送路を持つため、前述の受光素子に比べると1画素当たりの面積が小さく、感度はあまり高くできません。(種類によっては画素毎に集光用のレンズを付けて感度を上げているものもあります。)
長所としては、シャッター装置が不要なため価格を低くすることができます。また一般に普及しているデジカメ用の受光素子が利用できるため、種類が豊富でかつ安価に製作することができます。

電子シャッター方式でダークフレームを撮る場合は、必ずキャップなどをして遮光をしなくてはなりません。

天体撮影に使用する場合、シャッタースピードは惑星撮像で1/15〜1秒くらい、星雲・星団で5〜30分程度なので、太陽などを撮らないのであれば、1/1000秒以上の高速なものは必要ないでしょう。
 5.モノクロとカラー用カメラ
天体撮影に使用する冷却カメラは、モノクロの機種が主流ですが、カラー用の受光素子を使った機種も販売されています。
モノクロ機に比べてカラー機はあまり普及していない印象ですが、使い方によってはメリットがあると思います。
(普及が進まない理由としては、デジ一眼による天体撮影が一般化してきたからだと思います。)

カラー機の短所としては、モノクロに比べて感度が低いこと、価格が割高であることなどがあげられますが、技術の進歩に伴い、ビデオカメラやデジカメなどに使われている受光素子の高画素化と低価格化が進んだ結果、この種のカラー用受光素子を使った、比較的安価で質の良いカラー用冷却カメラが出回ってきました。
モノクロ機の場合、各種のフィルターを選択できる点や、カラーに比べ感度が高いので、暗い星雲などに威力を発揮するなどの長所がありますが、撮った画像をカラー画像化するには、RGBフィルターを使って各色毎に撮像を繰り返えす必要があり、撮像時間が長く掛かるのが欠点です。

これに比べカラー機は、RGBフィルターが不要なので撮像時間が短縮できること、フィルター装置などの付属部品が不要なので、コストパフォーマンスが高いことなどがあげられます。
反面、RGBフィルターが受光素子の表面にコーティングされているため、モノクロ機に比べて感度が低くなります。

カラー機を使うケースとしては、木星など惑星撮影などには利点があると思います。(参照:惑星の3色合成

カラー用受光素子の構造は、下図のように各画素の表面にRGBフィルターがコーティングされています。
通常1カラー画素の構成は、Rx1、Gx2、Bx1となっていて、4画素で1つの色を表現するようになっています。
画像のサイズは、モノクロで言うところの、2x2ビニングをした状態の画素数と同じサイズになります。

受光素子の表面に1画素毎にRGBフィルターがコーティングされていて、RGGB4画素で1カラー画素となる。
 6.フィルター装置
モノクロ機の場合、そのまま撮像したのではモノクロ画像にしかなりません。撮った画像をカラー化するには、別途RGBフィルターを装着する必要があります。

フィルターは赤(R)、緑(G)、青(B)の3色が必要で、冷却カメラメーカーから提供されるものや、サードベンダーで販売されているものがあります。いずれも最近のものは透過率の高い、干渉型のフィルターが多くなっています。
銀塩フィルム用に販売されている色素系のバンドパスフィルターを利用することも出来ますが、透過率が低いのと、赤外線をカットするためのフィルターが別途必要になるため、干渉型に比べると露光時間を数倍掛けないと撮れません。

フィルター装置は、フィルターと同じくカメラメーカーのオプションや、サードベンダーのものがあります。
フィルターを電動で変えられるものや、手動式のものなど種類がありますので、自分の使用方法に合わせて選ぶと良いと思います。

モノクロ機で撮った画像をカラー画像にする方法は、上記RGB3色のフィルターを使って、それぞれ交換しながら同じ天体を撮像します。撮像が終わったら、RGB各色で撮った3枚の画像を画像処理ソフトを使って3色合成すれば、カラー画像を作成することができます。
左はSBIG社製、右は光映舎製