V.撮像方法
 1.露光時間
冷却カメラに使用される受光素子は、銀塩フィルムに比べると30〜100倍の感度を持っていると言われています。
したがって天体の有無を確認するだけなら、ほんの数十秒程度、露光しただけで暗い星雲など写ってしまいます。
しかし観賞用の美しい画像に仕上げるには、後でおこなう画像処理のために十分な露光時間が必要となります。

画像処理をする場合は、処理を繰り返すごとに画像のS/N比を悪化させてしまうので、画像処理をする前の元画像は十分に露光して、S/N比を高めておくことが必要です。
元画像のS/N比が低いと画像処理をした後で、画像がザラザラしたり、階調とびが発生したりします。

露光時間の目安は、受光素子の性能やビニングの有無などによって変わりますが、概ね星雲を撮像する場合は、RGBフィルターを使用せずビニングなし状態で、5分〜15分程度を目安にされると良いと思います。
あとは所有する機種ごとに、撮像した画像からバックグランドやレンジの値を確認して、合計した値が機器のAD変換値の2/3程度になるくらいまで露光時間を伸ばすことが出来ます。
所有している冷却カメラのA/D変換のビット数から階調数を確認して、撮る天体ごとに露光オーバーしないように適正な露光時間を確認してください。 (例:A/D変換16ビット=65536階調)

また露光時間は一概に長ければ良いというものではありません。露光時間が長ければ暗電流ノイズが増えてきますので、データの欠落が増加します。特に冷却温度が高めな場合は、短めにしたほうが良い場合もあります。

画像処理のところで詳しくは説明しますが、画像をなめらかにして画質を向上させるためには、同じ天体を複数枚撮像して、加算平均(コンポジット)することでS/N比を高めることができます。
長時間露光した1枚の画像より、短い露光時間の画像を何枚か加算平均したほうが画質が向上しますので、なれてきたら、ぜひこの手法を取り入れてみてください。ただし露光時間が短かすぎると効果はありませんので、1枚あたり5分以上露光をしてください。

例: 画質 = 10分露光1枚の画像 < 5分露光2枚を加算平均した画像

また撮像の際にRGBフィルターを使う場合の露光時間は、フィルターなしの場合より伸ばす必要があります。
市販のフィルターの説明書には、RGBそれぞれの露光倍数が記入されていますので、確認のうえそれぞれの露光時間を求めてください。

 2.冷却の手順
受光素子を冷却する理由は、暗電流ノイズを軽減するためであることは前述の項目で述べましたので、ここでは実際に撮像時に行なう冷却の手順について説明します。

冷却カメラに付属してくる撮像用ソフトには、必ず冷却温度の管理ができるような機能があって、指定した温度になるまで冷却したり、温度を一定に保ったりすることが出来るようになっています。
撮像する前にこの機能を使って受光素子の冷却を行いますが、冷却の仕方によっては思わぬ故障につながることがありますので注意が必要です。

まず冷却は時間を掛けゆっくりと行ないましょう。撮像を急ぐあまり一気にマイナス30度まで下げてしまうことのないように注意してください。受光素子を結露させてしまうばかりか、受光素子自体を傷めてしまう原因にもなりかねません。
冷却する時は、温度の段階をふんで少しずつ下げるようにします。

私の場合、冬場に冷却する時は、まず1段階目で零度まで下げます。そして2段階目にマイナス5度、3段階目はマイナス10度と、後は5度ずつ下げるようにしています。
各段階の間は数分ほど間を置いて、冷却温度が安定するまでならし運転を行っています。したがって目標の冷却温度に下がるまでには、20〜30分ほど掛かります。

冷却温度は外気温によって下げられる限界がありますので、冷却のための負荷が90%を超えない所で、冷却を固定しています。冷却温度を下げようと無理に冷却すると、カメラ自体に電気的な負担を掛けてしまうので、画像を悪化させるだけでなく、場合によっては故障の原因にもなります。
冷却能力に余裕をもたせて温度を下げるよう、心がけた方が良いと思います。(撮像ソフトには冷却負荷が%等で表示されるようになっています。)

冷却温度を下げながら、受光素子の表面を見て結露していないかを確認します。結露してくるとチップの表面に薄く幕ができるので、明るいところで見ると、表面の虹色の干渉模様が曇ったようにみえます。
このようなときは温度を5度ほど上げてしばらく様子をみて、結露が解消しない場合はそれを繰返して様子をみます。
結露が解消したらまた少しずつ下げていきますが、結露が発生するのは除湿能力が低下している証拠なので、乾燥剤の交換など早めに対応をしたほうが良いと思います。

撮像が終わって冷却をやめる場合も、一気に常温まで戻すのは、受光素子の劣化を早めることになりかねないので、避けたほうが良いでしょう。冷却する時と同じように、ゆっくりと上げていってください。
SBIGのSTシリーズは、ソフトで冷却をオフにしたあと、負荷が0パーセントになれば電源を切っても問題ないようですが、できれば少しずつ冷却温度を下げていって、0度以上になってから冷却をオフにして電源を切ったほうが安全だと思います。

 3.ダークフレームの撮り方
受光素子を冷却して撮像しても、画像にはたくさんの暗電流ノイズによる白い斑点が写ってしまいます。
暗電流ノイズは受光素子の温度が10度下がると半減して、絶対零度で皆無になると言われていますが、市販の冷却カメラの冷却能力は、せいぜいマイナス40度くらいが限界ですから、暗電流ノイズを完全になくすことはできません。

露光時間を長くしたり、冷却温度が高いと、それに伴って暗電流ノイズも増加していきますが、暗電流ノイズによる白点の発生パターンは、冷却温度と露光時間が同じであれば、ほぼ同じ位置に発生します。
したがって暗電流ノイズだけを撮像した画像を別に撮って、画像処理用ソフトで元画像から引いてやれば(減算)、ノイズのない画像にすることができます。
この処理をダークフレーム減算と言って、暗電流ノイズだけが写っている画像のことをダークフレームと呼びます。

ダークフレーム減算 =  天体の写った元画像 − ダークフレーム

ダークフレームの撮り方は、受光素子に光が当たらないよう、冷却カメラや望遠鏡にキャップをして行います。
冷却温度と露光時間は、天体を撮像したときと同じ状態にして撮像してください
受光素子は感度が高いので、遮光には十分に注意してください。ゆるめのキャップでは隙間から光が浸入して、うまく撮れないことがあります。
なおダークフレームを撮像するときは、必ずしも冷却カメラを望遠鏡に取り付ける必要はありません。

冷却温度と露光時間が同じであれば、暗電流ノイズの発生パターンはほぼ同じになりますから、ダークフレームは事前に撮像して保存しておくことができます。
天体を撮像するときの冷却温度と露光時間のケースをいくつか決めておいて、各ケース毎にダークフレームを事前に作成してデータ保存しておけば、いちいち撮らなくて済むので便利です。

遮光が完全であれば昼間でも撮像することができるし、もし外気温が高くて、冷却温度が期待した温度に下がらないような場合には、冷却カメラ自体を冷蔵庫の中に入れて、ダークフレームを撮ると良いと思います。
こうして保存しておけば、撮像するたびにダークフレームを撮らなくて済むので撮像時間の節約になります。

ダークフレームも元画像と同じように、複数枚を加算平均することで画質が向上します。同じ条件で4〜8枚撮って画像処理ソフトで加算平均をして高画質化して保存しておくと、ダークフレーム減算したあとの天体画像の粒状性が良くなります。

保存したダークフレームは、受光素子の経年劣化などによって暗電流ノイズの発生パターンが変化しますので、1年ごとには再作成をしたほうが良いと思います。


ダークフレームの例1
モノクロ用カメラの暗電流ノイズは、白い斑点となります。

ダークフレームの例2
カラー用カメラの暗電流ノイズは、3原色の斑点となります。
 4.フラットフィールドの撮り方
冷却カメラで撮像した場合も、銀塩カメラで撮影したときと同じように、光学系による周辺減光がおこります。
また受光素子上のホコリなどが、写りこんでしまうことがあります。
このままでは観賞用の画像としては見苦しいので、フラットフィールド画像を使って画像処理してやることで、周辺減光やホコリをきれいに取り除くことができます。

フラットフィールドの撮り方は、天体を撮像するのと同じ方法で行います。
まず望遠鏡に冷却カメラを取付けて、ピント位置を無限にします。そして鏡筒の先に半透明な乳白色のアクリル板などをつけて撮像します。アクリル板はなるべく薄めのものを使ったほうが、露光時間が少なくて済むのですが、先が透けて見えるようなものはだめです。
私はゴミ袋のような薄い不透明なポリエチレンのシートを加工して、鏡筒の前に取付けられるようにしています。

撮像する場合、実際の夜空の自然光で撮像する方法と、壁などに照明を当てる人工光を使って撮像する方法がありますが、良質のフラットフィールドを撮るポイントは、均一な光で撮ると言うことです。
壁を使う場合は、白っぽい無地の壁面を使って両側から照明を当てて撮ります。片方からの照明だけでは光が均一になりませんので、必ず同じ光源を使って両側から当ててください。できれば4方向から当てられたらベストです。
また光害のある場所にお住まいなら、実際の夜空を使って撮ったほうが、あとの結果が良いようです。
できるかぎり天頂近くへ鏡筒を向けて撮像してください。

フラットフィールドは、天体を撮像するときと同じ光学系を使って撮像します。もし複数の望遠鏡を所有して冷却カメラを使うのであれば、望遠鏡の種類、レデューサの有無、フィルターの有無など、実際に天体撮像する時と同じ組み合わせで、何ケースも撮る必要があります。

撮像したフラットフィールドも、ダークフレームと同じように事前に作成して保存しておくことができますので、事前に撮像して保存しておくのが良いでしょう。

フラットフィールド画像も撮ったあとに、ダークフレーム減算が必要です。またダークフレームと同じように、フラットフィールドも何枚か撮像した画像を加算平均をして、高画質化しておくと滑らかな画像になります。

フラットフィールドは、ダークフレームと違って冷却温度による変化はないため、事前作成するときの設定温度は、天体撮像時と同じ温度にする必要はありません。
撮像する時の露光時間は、撮ったフラットフィールドのバックグランドとレンジの合計が、最大階調の半分程度になるよう調整してください。


フラットフィールドの例
光学系による周辺減光と、受光素子上のゴミなどが写りこんでいる。
 5.フラットフィールドの失敗例
撮像した天体画像に、事前に同一の光学系で撮っておいたフラットフィールド画像を使って処理をしても、画像が平坦化しない場合があります。
この状況は光害地で撮像した場合に多く発生し、光害の少ない所で撮像したときにはあまりおこりません。
原因の大半は夜空の明るさが均一でない場合や、光害による鏡筒内の乱反射によっておこる迷光が影響していることが多いようです。またフラットフィールドを撮像中に、視野に雲が通過しても失敗です。

光害地の夜空の明るさは、全天均一ではありませんので、短焦点など画角の広い光学系で撮像した場合は、カブリが発生していることが多いです。
それと光害地ではいたるところに光源があるので、鏡筒を向ける方向によって、鏡筒内に浸入してくる迷光の発生パターンが違ってきます。
したがって元画像とフラットフィールド画像が、同一の状態で撮られていないと、フラット処理した後の画像の背景濃度が均一にならないことが発生します。

また都市近郊で天体撮像したものを、光害の少ない山間部で撮ったフラットフィールドを使ったり、その逆の場合でも迷光や、夜空の明るさの状況が違いますので、均一にはなりません。

迷光対策のひとつとしては、鏡筒内での迷光の影響を少なくするため、鏡筒内に迷光防止の処理する必要があります。一番単純な方法としては、鏡筒内全面に植毛紙を貼ってしまいます。シュミカセなどはバッフル内にも貼ったほうが良いでしょう。またフィルターボックスやアダプター類で、光路側に面している部分にも貼ってしまいます。
またニュートン鏡筒を使用している場合は、斜鏡金具のまわりにも貼ります。

夜空のカブリに対しては手立てがありません。短焦点などの光学系は使わないか、撮像するたびにフラットフィールドを撮るしかないと思います。

 6.惑星の撮像
冷却カメラで惑星を撮像する時も、銀塩カメラと同様にアイピースを使って拡大撮影をします。
しかし銀塩カメラのようにファインダーを見ながらピント確認はできないので、ピント合わせには同焦点アイピースの使用をお薦めします。(ピント合わせの手順参照)

冷却カメラの受光素子は、銀塩フィルムから比べると面積がかなり小さいので、拡大撮影に使うアイピースは長めのものを使います。
ちなみに私が使っているのは、オルソ9ミリか12.5ミリです。このくらいのアイピースは銀塩では拡大率が小さいのですが、冷却カメラの受光素子では、ちょうど良い画角に納まります。

撮像の手順としては、まず撮像用のアイピースを接眼部に付けて、目視で大体の焦点を合わせます。
このときシーイングなどの状況も確認しましょう。あまりにもシーイングが悪いようなら、撮像はやめた方が良いと思います。
次にカメラアダプターを接眼部に取付け、同焦点アイピースを使ってピント合わせを行います。
原理としては撮像用アイピースで結像した像を、同焦点アイピースで見てピント合わせをおこなうわけです。
焦点が合ったら、同焦点アイピースを外して、替わりに冷却カメラを取付けて撮像を開始します。

小さな受光素子上に、惑星を合わせるのは意外と大変です。アイピースで見ている時は、すぐに見つけられますが、冷却カメラを取付けてモニターで確認しても、視野から外れていることがあります。
アイピースで見たとき、視野の真ん中に惑星を持ってきたつもりでも、冷却カメラに替えたときの重みで位置がずれてしまうことが多いです。
同じくらいの重りをつけて位置あわせをする方法もありますが、一番簡単な方法は望遠鏡のファインダーをしっかり合わせておくことでしょう。
冷却カメラを取り付けたら、ファインダーで惑星を視野の真ん中に導きます。ほとんどはこれで視野に入ってくるはずですが、もし入っていなければ赤道儀を上下左右に少し動かしてみてください。

惑星を撮像する時の露光時間は、1/2〜1/16秒と銀塩フィルムよりかなり早いシャッタースピードになります。
撮像した画像はシーイングによって刻々と状態が変わってきますので、表示された画面を見ながら切れの良い画像を保存するようにしてください。できれば4〜8枚程度保存して、画像処理で加算平均をすると、S/N比が上がってザラツキのない滑らかな画像になります。

撮像時の注意点としては、木星や土星のように自転速度が速い惑星は、撮像時間に手間取ると、惑星面の模様が自転でずれてしまうことです。このような画像をあとで加算平均すると模様がボケてしまいますので、2分以内に全数枚の撮像を終了するようにしてください。
また火星でも、厳密に言えば自転で模様がずれないうちに撮像を終了する必要がありますが、火星は自転周期が23時間ほどと長めなので、数分以内であればだいじょうぶでしょう。

なお惑星の撮像に当たっては露光時間が1秒以下と短時間なので、ダークフレームの処理は必要ありません。
またフラットフィールドも、アイピースやカメラをブロアーで良く掃除して、ホコリを取っておけば必要ないと思います。

 7.星雲・星団の撮像
星雲・星団の撮像は、直焦撮影になります。撮像する際に一番苦労するのは、被写体の導入とガイドだと思います。

ピント合わせは、前述の同焦点アイピースを使って行う方法が一番確実で簡単ですが、モニターに表示された星像を見ながら行う方法でもできます。撮像ソフトには、ピント合わせのためのフォーカス機能を備えていますので、この機能を使って、実際に恒星をモニターで見ながらピントを合わせをすることもできます。

被写体となる天体の導入は、受光素子が小さいので自動導入機能を使う方法が確実ですが、自動導入機能がない場合は、低倍率のアイピースで目視しながら目盛環を使って導入します。
この方法だと、撮像する天体が暗い場合、光害地での導入は被写体が見えないだけに根気がいります。

先に大体の位置に望遠鏡を向けて、冷却カメラを取付けて10秒ほど撮像して視野を確認します。
目的の天体が視野の中に写っていなければ、赤道儀を上下左右に動かして撮像を繰り返しながら確認していきます。このときステラナビゲータのように、冷却カメラの視野を表示できる星図ソフトがあれば、撮像した画像と比較して探すこともできますが、星図と見比べながら位置を同定することは、かなり難しいです。探すだけで相当時間を取られますので時間の効率化からも出来れば自動導入機能の使用をお薦めします。

被写体が導入できたら、いよいよ本番の撮像に入ります。このとき露光時間を長くして撮像するには、ガイド星による追尾が必要です。
赤道儀の精度にもよりますが、数十秒程度であればノータッチガイドでも星像は流れませんが、分単位になるとガイドしないと星像が流れてしまいます。
受光素子は感度が高い分、ちょっとしたガイドミスでも星像が真円にならず、楕円やいびつになってしまいますので、ガイドは正確に行なうようにしてください。
冷却カメラによってはSBIGのSTシリーズのように、ガイド用の受光素子をカメラに内蔵している機種もあり、1台の望遠鏡で撮像とガイドを一緒に行なえるものもありますが、そうでない場合は、別途ガイド用の望遠鏡とオートガイダーが必要になります。

本番の撮像は、撮像ソフトで露光時間を5〜15分程度に指定して撮像します。惑星と同じように、
画像は同じ天体を4〜8枚ほど撮像・保存して、あとの画像処理で加算平均処理をします。

 8.カラー画像の撮像
RGBフィルターを使って撮った、各色のモノクロ画像をカラー画像化する方法は、画像処理ソフトで3色合成をして1枚のカラー画像にします。方法は惑星でも、星雲・星団でも同じです。

木星のように自転速度が速い惑星は、撮像時間に手間取ると惑星面の模様がずれてしまい、3色合成しても模様がうまく重ならないことになります。ずれないようにするには、RGBすべてを2分以内に撮像しなければなりませんが、RGB3枚を短時間の内に、良シーイングで撮るのは、空の条件がよほど良いときでなければ難しく、2分以内という制限はけっこう厳しいものです。

さらに大きな受光素子を使用しているカメラは、1枚のフルイメージ・データをパソコンに転送するだけで、何十秒も掛かってしまいますので、撮像サイズを変えられる機種であれば、受光素子の半分を使うハーフモードや、1/4のクウォーターモードを使用して転送時間を短縮することができます。

またカラー用受光素子を使用した機種であれば、RGBフィルターが必要なくなるので、1回の撮像でカラー画像が撮れるメリットかあります。

いずれにしても惑星用に限定するのであれば、大きな受光素子は必要がないので、購入する際には考慮してください。