U.撮像の予備知識
 1.接眼部への取付方法
重量のある冷却カメラを望遠鏡に取り付ける場合、接眼部にはかなり負担がかかります。取付けが弱いとたわみが発生したり、冷却カメラが回転してしまうことがあります。
市販の多くの冷却カメラは、取付け部分のアダプターがアメリカンサイズ(31.7ミリ)のスリーブになっていて、接眼部に差し込むようになっていますので、接眼部の止めネジを太目のものに替えて、できれば2ヵ所でロックができるように手を加えるだけでも、カメラが回転してしまうのをふせぐことができます。

アメリカンサイズ以外に、別の取付けアダプターが使用できるカメラであれば(たとえばTマウント用のネジがあるなど)2インチスリーブに変換するアダプターを利用することで、アメリカンサイズより強固に取付けることができます。

たわみについては接眼部自身の構造にもよりますので、望遠鏡を購入する際に出来るかぎり重量に耐えられるものを選ぶことが重要です。
シュミカセのように接眼部が稼動しない構造のものがいちばん良いのですが、ラックピニオン系のものでも、ロック用のネジが付いていて、ガタのないものであれば問題ないと思います。

ヘリコイドは構造上ガタが出やすいので、なるべくさけたほうが良いと思いますが、使用するのであればロック機構があるものを選んでください。

いずれの方式でも、たわみ防止を確実に行ないたいのであれば、カメラの取付方法を3点止めにしたり、接眼部を補強することをお奨めします。

カメラと接眼部の間にフィルターボックスを入れるような場合、うまくピントが合わないことがありますので、接眼部の繰り出し範囲や、延長チューブの有無なども調査してください。
 2.カメラレンズの使用
冷却カメラにカメラレンズを取付けるのは、バックフォーカスの関係から取付けられない機種が多いようです。
しかし中には取付けできる機種もありますので、その場合はメーカー純正かサードベンダーが出している機種ごとのアダプターを購入して使用することができます。

自作することも可能ですが、カメラの機種毎にフランジバック(レンズ取付け部からフィルム面までの距離)を調べ、精度高く製作するのは、かなりの技術と、マイクロメーターなどの測定具が必要となるため難しいでしょう。

またレンズと受光素子の間にフィルターを挿入して使用する場合は、フィルターの厚みによる焦点位置のずれも考慮しなくてはならないので、さらに難しくなります。

それでもあえて自作したい方は、ケンコーから出ているCマウント用のアダプターを利用すると便利です。
私もSTシリーズ用に作ってみましたが、制作を簡単にするためにカラーフィルターを取り付ける機構は省きましたので、カメラレンズではモノクロ画像しか撮れません。
ピント位置の調整はノギスで測りながら作ったので、かなりアバウトです。実際のフランジバックより少し短めに作成したので、カメラレンズの距離数値は使えません。撮像するときには、モニターを見ながらピント調整をしています。


カメラレンズ用アダプター
右はSBIG社のST用に自作したもの、左はケンコーのCマウントアダプターで、ビットランの旧製品に使用できる。
 3.ピント合わせの手順
ピント合わせは、冷却カメラを使って撮像するうえで一番苦労するところです。
冷却カメラは、普通のカメラのようにファインダーを覗いてピント合わせができないので、パソコンモニターに表示された画像を見ながらピント調整をおこないます。
ピント調整には、星雲・星団を撮像する場合は恒星を、惑星・月の撮像には、表面の模様など見ておこないます。

星雲・星団の場合のピント合わせには、3等星程の暗めの星を使います。
まず望遠鏡の接眼部に適当なアイピースを入れて、ピント合わせに使う星がファインダーとアイピースの視野で一致するように合わせておきます。合ったらアイピースを外して、替わりに冷却カメラを取り付けます。
ピント合わせの段階では、受光素子を冷却しなくても問題はありません。パソコンを操作して冷却カメラを1秒くらい露光するとモニターに星像が表示されるはずです。もし表示されない時は、ファインダーを覗いて星が真ん中にあるか確認してください。冷却カメラの重さで星がずれている可能性があります、

モニターに表示された星像は、点像か広がりをもった光円になっているはずです。いずれにしても接眼部を前後に動かして、星像が鋭い点に集束するように画面を見ながら調整します。
合焦位置に近づくと、星像はほとんど同じ大きさの点像となって変化しなくなりますので、さらに微調整するには、露光時間を短縮するか、さらに暗い星を使っておこないます。
明るい星を使うと、モニターで見たときに、合焦しても星像が広がっていてピントのピークがつかめませんので、なるべく暗い星でおこなうのがコツです。

惑星・月の場合はモニターに写し出された画像を見ながら、接眼部を動かして調整をします。
惑星の場合は表面の模様や惑星のリムで、月の場合はクレーターなど表面の模様を見て合わせてください。

実際にピント合わせをおこなってみると、どこで合焦しているのか判断に迷います。ピント調整をするだけでずいぶん時間が掛かってしまい、重要なシャッターチャンスを逃してしまうこともあります。

そんな失敗をしないためにも、いちいち撮像のたびにモニターを見ながらピント合わせをしないで済む方法として、同焦点アイピースを使う方法があります。

同焦点アイピースとは、アイピースで星像を見て、焦点が合ったところが冷却カメラの合焦位置に一致しているようにしたアイピースのことです。目で見てピントが確認できるので、撮像するたびに安定したピント合わせができます。
また撮像するまでの準備時間の節約にもなるので、ぜひ同焦点アイピースの使用をおすすめします。

同焦点アイピースの使い方は、暗めの星をこのアイピースで見てピントを合わせます。合焦したところでアイピースを外して、替わりに冷却カメラを取付けるだけです。
冷却カメラの機種によっては、市販されている製品があるようですが、自作も簡単にできるので、腕に自信のある方は自作したほうが安上がりです。

同焦点アイピースの作り方(冷却カメラの取付けがアメリカンサイズ(31.7o)の場合)

(1)準備するもの

  イ.アイピース(24.5oサイズのものが便利)  1個
     惑星用の場合      焦点18〜25oクラスのもの
     星雲・星団用の場合  焦点 5〜7oクラスのもの

    *いずれも高級品の必要はなく、安価なものや余っているもので十分です。

  ロ.アイピース変換アダプター(31.7→24.5o) 1個

(2)まず望遠鏡に冷却カメラを取り付け、撮像準備をします。

(3)3等星以下の暗い星を使い、モニター画面を見ながらじっくりと焦点合わせを行ないます。
   (1回目だけはどうしてもこの作業が必要です。時間をかけて慎重に納得がいくまで行ってください。)

(4)焦点が合ったら、接眼部をロックして冷却カメラを取り外してください。

(5)次にアイピース変換アダプターを接眼部に差しこんで、ネジを締めてください。

(6)用意したアイピースを変換アダプターに差しこみ、焦点の合う位置を手で抜き差ししながら調整し、合った
   ところで変換アダプターについているアイピースの止めネジを締めてください。(このとき変換アダプターを
   止めているネジはさわらないでください。)

(7)これで作業は終了です。接眼部から外すときには、変換アダプターごと外します。アイピースの止めネジは
   絶対にさわらないでください。

使うときには変換アダプターごと、接眼部に差し込みます。


作成した同焦点アイピース(惑星用)
 4.天体の導入方法
銀塩カメラでの星雲・星団の撮影対象はメシエ天体が中心でしたが、冷却カメラでは一気にNGC天体まで範囲が広がります。撮像対象の天体は、ほとんどが10等級以下の暗い天体ばかりなので、目視での導入は大変苦労します。

特に光害のある都市部での導入は、普段なれているはずのメシエ天体でさえ時間が掛かってしまうので、NGCでは絶望的と思わなければなりません。

撮像する天体を導入する場合は、ファインダーや低倍率アイピースを使って、天体のある付近に望遠鏡を向けることから始めます。撮像する天体が目視できれば、視野の真ん中に入れてすぐに撮像が開始できますが、大半の場合は目視できないと思いますので、大体の位置に来たら、冷却カメラを取り付けて撮像しながら確認した方が早く探せます。

冷却カメラをパソコンに接続して冷却し、ビニングモードにして10秒ほど露光します。
モニターに表示された画像を見て、目的の天体が写っているかを確認します。1回で入る確率は低いので、赤道儀を上下左右に動かしながら撮像を繰り返して天体の有無を確認します。
このとき15等級くらいまで表示できる星図ソフトがあると、画像を見比べながら探すことができて便利です。

冷却カメラは受光素子の面積が小さくて、撮像できる画角が狭いので、目的の天体を探すのは一苦労です。
そんなときに役立つのが天体自動導入装置で、値段は張りますがその価値は十分にあります。
自動導入装置はパソコンと赤道儀を接続して、ステラナビゲータやTheSkyなどの星図ソフトを使って操作することができます。パソコンとの接続はUSBを使い、少し離れた車の中などでも使用することができるので、冬場に遠征したときでも快適に撮像ができます。

最近の赤道儀は自動導入装置を備えた機種が多くなってきたので、ぜひ使ってみてください。

 5.冷却カメラに合った焦点距離
市販されている冷却カメラの多くは、受光素子の大きさが縦横10ミリ程度ものが多いです。
中には35ミリサイズ以上の大型の受光素子を使った機種もありますが、大変高価です。

例としてSBIGのST−2000XMの受光素子の大きさは11.8x8.9ミリで、35ミリフィルムに比べると、面積は約1/8拡大率は約3倍も違います。たとえば焦点距離1000ミリの望遠鏡で撮った場合、35ミリフィルム換算では、3000ミリの望遠で撮影した画角に相当します。
これではM42やM31などのように広がった天体は、画角をはみ出してしまいますので、これらを撮るには200ミリ程度のカメラレンズを使用することになります。

しかし短焦点を使った場合には、ひとつ問題があります。それは解像度が悪くなる点です。
もちろん短焦点レンズを使用しても天体は写りますが、銀塩写真に比べると解像度が悪くなり、何となくボッテリした見栄えのしない画像となってしまいます。

冷却カメラで解像度を決める要素は、受光素子のピクセル(画素)サイズです。1つのピクセルに合焦した時の星像が、ぴったりおさまる焦点距離が最良の解像度となります。これ以上でも以下でも解像度は落ちます。

最良の解像度を得るための焦点距離の求め方は、次の式により求めることができます。

  F(焦点距離ミリ) = 1ピクセルのサイズ(ミクロン) x 100

たとえばST−2000XMは、1ピクセルのサイズが7.4ミクロンなので、740ミリが最良の焦点距離となります。
また2x2でビニングした場合は14.8ミクロンとなるので、1480ミリが最適な焦点距離となります。

上記の式で求めた焦点距離は、光学系が無収差のときの値であり、色収差やコマ収差などの収差がある光学系を使用する場合は、10%程度焦点距離を短めにしたほうが良いでしょう。

 6.長焦点撮像での注意点
冷却カメラで撮像する対象で、一番多いのは小さな星雲・星団だと思います。
これらは銀塩フィルムで写すには光度が暗く、小さいのでかなりの難物です。冷却カメラの活躍するところは、ここにあると言っても過言ではないと思います。
冷却カメラに使われる受光素子は、銀塩フィルムに比べると感度が高いため、暗い星雲でも数十秒ほどで写り込んでくれます。しかし1000ミリ以上の長焦点になると、撮影の難しさは銀塩でも、冷却カメラでも違いはありません。
1枚を写すための露光時間は、冷却カメラのほうが短くて済みますが、それでも最低5分〜15分ほどの露光時間が必要になるので、赤道儀のガイドは必須です。
また光学系のタワミやシーイングの影響など、考慮しなくてはならないことがいくつかあります。

まずガイドですが、撮像する焦点距離が1000ミリを超えてくると、目視でのガイドはかなり難しくなってきます。
感度が高いため、星像のズレを補正する時間的余裕はないので、銀塩のようなガイドの許容誤差はほとんどありません。目視でガイドする場合でも、通常使っているガイド用アイピースの許容円は使えないので、ガイド線の交点に星像を重ねて、この交点から星像がずれないよう、常に注意をしておく必要があります。
もし数秒間でも星像がズレると、明るい星が真円の点像にならず、楕円になったり、イビツな形になったりします。
そのためにもオートガイダーを使うことをお奨めします。

つぎにシーイングの影響です。焦点距離が数百ミリくらいまでの場合は、シーイングによる画像の悪化はあまり気になりませんが、1000ミリを越えてくると、惑星の拡大撮影と同じように、シーイングの影響が大きくなってきます。
シーイングの良いときと悪いときに撮像した画像は、星像の大きさや星雲のディテールに違いがでますので、撮像する日は、シーイングの良い日をねらって行なうことを心がけてください。

次に光学系ですが、長焦点撮影で良く使われているシュミカセは、その構造上、主鏡が稼動するために、撮像中に主鏡がズレることがあります。特に撮像する天体が天頂をまたぐ場合、かなりの確率で発生しますので、このような撮像はしないほうが良いと思います。
またニュートン反射の場合、鏡筒や斜鏡、接眼部にタワミが発生しますので、補強が必要になる場合があります。

 7.シュミカセによる撮像での注意点
6で解説したシュミカセの使用上の注意点を、少し詳しく説明します。
シュミカセの合焦機構の構造は、主鏡を鏡筒内のバッフルに沿って前後に移動させ行っています。(鏡筒の前から中を覗き、ピントノブを回すと主鏡が前後に動くのがわかります。)

すなわちバッフルと主鏡の間はわずかにすきまが空いているわけで、どんなに精度良く作っていても隙間はゼロにはできません。この隙間と主鏡の間にはグリスが塗られていて、鏡の移動をスムーズすると同時にガタつきを防止していますが、使用しているうちにグリスが劣化してくるので、隙間が大きくなってきます。

このためピント合わせの時に主鏡を前後する時や、望遠鏡を一方向向け長時間置いておくと、鏡の傾きが若干変わり光軸がズレてしまいます。(これをミラーシフトと呼んでいます。)
ミラーシフトは、シュミカセを使って長焦点撮影をしている人にとっては悩みの種で、これを解決するために合焦したところで、後ろから主鏡をネジで押さえてしまうとか、いろいろ工夫がされてきましたが、どれも長短あって良い対策がないのが実状です。

ミラーシフトを防止する装置で、良く使われているのが「富田式ミラーシフトロック」と呼ばれている部品です。
これは下図のようにシュミカセの合焦ノブを交換して、主鏡を稼動させるためのアームを押さえ込んでミラーシフトを減らす装置で、使っている方の状況を聞くとかなりの効果があるようです。

しかし「富田式ミラーシフトロック」を使っても、完全にミラーシフトはなくせないので、過度の期待は禁物です。
あとはなるべく天頂越えの撮像は行わないようにするのと、撮像する天体の方向に鏡筒を向けたら、すぐに撮像を開始しないで、しばらく放置して鏡の傾きをならすことです。
これだけでもかなりミラーシフトを軽減できるはずです。


画像は光映舎提供

 
 8.赤外カットフィルターの使用
冷却カメラの受光素子は赤外域に感度が高いので、コントラストの改善と収差によるピンぼけ防止のために、撮像時には赤外カットフィルターが必要になってきます。

特に屈折望遠鏡を使用する場合は、アポクロマートでも赤外や紫外域の色収差補正がされていないものが多いので、赤外カットフィルターは必須です。
赤外カットフィルター使わないで撮像した星像は、ピント合わせをしっかりおこなっても、ピンぼけのような肥大した星像になってしまいます。
現在、市販されている屈折望遠鏡で、赤外域まで色収差補正がされているのは、ペンタックスのSDPシリーズと、タカハシのFSQ-106、SKY-90、TOA-130だけのようです。

またカラー用フィルターを使う場合は、フィルターの種類によっては赤外もれがあるので、購入する際には赤外カットフィルターの併用が必要か確認してください。

赤外カットフィルターは、メーカー純正のものと、サードベンダーが提供しているものがあります。

 9.画像のカラー化
モノクロ機で撮像した場合、カラー画像を作成するには、RGBフィルターを使って撮像する必要があります。

すなわち光の3原色のR(赤)、G(緑)、B(青)の3枚のカラーフィルターを交換しながら、同じ天体をそれぞれ1枚ずつ撮像します。
出来上がった3枚の画像は、RGBの各波長で撮られたモノクロ画像になっていますので、これを画像処理ソフトを使ってカラー合成(3色合成)して1枚のカラー画像にします。
各フィルターは透過率が異なっているので、露光時間は各フィルター毎に確認する必要があります。


RGBフィルターを使って撮った3枚の画像をカラー合成してカラー画像にします。
 10.最近のカラーフィルター事情
モノクロ機の冷却カメラでカラー画像を作るには、RGB3色のカラーフィルターを使って画像を3枚撮像し、画像処理をおこなって3色合成します。

使用するカラーフィルターは、赤外カットフィルターと同様にメーカー純正のものと、サードベンダーが提供しているものがありますが、提供するメーカーによって、透過する波長の違いやピーク幅などが異なり、それぞれに特徴があります。そんな中で、IDAS製のカラーフィルターのユーザーが増えているようです。特徴としては、紫や青緑、オレンジと言った中間色が表現できるようになったことでしょう。

今までのフィルターでは、RGBそれぞれの透過波長の重なりがあまりなかったので、中間色の表現がしにくかったのですが、IDAS製のフィルターはRGB各色の透過波長が少しずつ重なっているため、中間色が出せるようになりました。
(下のグラフのRGB波長の重なりに注目)

フィルターの種類にはTypeUとVがあって、Uは色収差を補正するために屈折向き、Vは450nmより短波長を紫色に出せる特徴があります。いずれも赤外ブロックがほどこされているので、使用する際には、赤外カットフィルターは不要です。


TypeUの特性
 11.光害地での撮像
「冷却カメラは光害があっても天体が撮れます。」・・・冷却カメラ広告のキャッチコピーですが、あながち間違いではありません。

銀塩フィルムに比べると、CCDなどの受光素子はダイナミックレンジが広いため、光害のある場所で撮像した画像から天体の光成分だけを分離することができます。
ダイナミックレンジとは、明暗を表現できる階調幅のことで、幅が広いほど明暗差のある被写体の分離が可能になります。撮像された画像の中から、光害成分と被写体の天体の光成分を分離することができるわけです。

系外星雲など暗い天体と光害とをきれいに分離させるためには、撮像のときに次のような条件が必要です。

     @空の透明度が良いこと。
     A十分な露光時間をかけること。

いくら受光素子の感度が高くても、モヤや霞みのかかった透明度の悪い夜空では、目的の天体の光が散乱されてしまい地上まで届かないため、まともな画像を撮ることができません。
空が白っぽく霞んでいたりした場合は、撮っても満足のいく画像にはなりませんので、やめたほうが良いと思います。
季節風が吹いた後などの、透明度の良い日を選んで撮像するのがポイントです。

またいくら透明度が良くても、光害地で撮る場合の露光時間は、光害の少ない所で撮る時間と同じでは、十分なS/N比が得られません。光害地では撮像した時の背景の数値が高くなるので、天体の光がバックグラウンドにうもれてしまい、分離できる階調が得られませんので、露光時間を長くします。

分離できる十分なS/N比を得るには、低光害地の2〜3倍以上の露光時間をかける必要があり、光害がひどい地域ほど、露光時間を伸ばします。ただあまり露光時間を伸ばすと、飽和してしまうことがありますので、階調をオーバーしないようにしてください。

 12.光害カットフィルターの有効性
市販されている光害カットフィルターを、冷却カメラの撮像に使ってみたテストリポートです。

私の自宅は都心から電車で1時間程の住宅地です。まわりはどちらを向いても光害の真っ只中にあります。
銀塩カメラで撮影すると、5分程の露出で空は青空に写ってしまうようなところです。
冷却カメラへの光害カットフィルターの利用は、銀塩の場合と同じように空のバックの明るさを抑え、天体のコントラストを高めるのが目的です。

撮像テストはミューロン250(25p F12)にSBIGのST-8を取付け、5分露光で光害カットフィルターを着けた場合と、外した場合のバックグランド値(BK)と、撮像された画像の階調(レンジ値)を比較しました。

結果は次の通りです。   フィルター無し   BK値  979    レンジ  299
                  フィルターあり   BK値  363    レンジ  211

フィルターを装着した場合、無しの場合に比べ、バックグランド値が63%ほど減少しました。これはフィルターによって水銀灯などの光害成分がカットされたためで、これだけを見れば効果は大きいようです。
しかし実際の撮像された画像を見ると、フィルターありのものはザラツキが多く、星雲の淡いところがうまく写っていません。原因はレンジ値が減ってしまったためで、フィルターによって天体の有効波長までもがカットされてしまった結果と考えられます。

レンジ値の不足を補うため、フィルターを着けた状態で露光時間を15分に延ばしてみました。

         フィルターあり(露光15分)   BK値  737    レンジ  633

露光時間を3倍にしてみた結果、レンジ値はちょうど3倍に増加しましたが、バックグランド値は2倍ほどしか上がっていません。値からみるとフィルターによる光害カットの効果は大きいようです。
実際、撮像された画像を見るとザラツキも少なくなり、だいぶ良くはなっていますが、フィルター無しで5分撮像した画像と比較すると、なんとなく星雲の淡い部分やディテールの写りが悪いような気がします。
これはフィルターによってカットされてしまった波長部分が、不足しているためだと考えられます。

今回テストに選んだ天体はNGC2903です。星団や他の星雲では違う結果が出るのかもしれませんが、いずれにしても露光時間を延ばしても、結果的にフィルター無しの5分露光とそれほどの差が出ないのであれば、モノクロでの光害カットフィルターのメリットは少ないように思います。

  注: その後、星雲の出す波長を減らさないように、改良された光害カットフィルターが販売されています。

また効果のありそうなカラー用冷却カメラでのテストも行ってみるつもりでいますので別に掲載します。

 13.光害カットフィルターの有効性(カラー機編)
モノクロ機の使用に引き続き、カラー撮像での有効性のテスト結果です。
テスト方法はモノクロ機と同じ光学系で、冷却カメラはビットランのBJ-30Cを使用しました。

露光時間5分での結果は次の通りです。

       フィルター無し  R画像  BK値  6055   レンジ  1163
                  G      〃   7531    〃   1349
                  B      〃
   6227    〃   1279

       フィルターあり  R画像  BK値  4736   レンジ  1190
                  G      〃
   5052    〃   1268
                  B      〃
   5033    〃   1263

フィルター無しの画像は、撮ったまま状態では画像全体が緑色を帯びています。これはG画像のバックグランド値とレンジ値が、R、B画像より20〜25%高いためです。
これを補正するには、RGB全体でのレベル調整では補正できませんので、G画像部分だけレベル調整を行います。
しかし光害が強いときは(空の透明度が悪い場合など)補正しきれない場合もあって、カラーバランスが崩れてしまいます。

これに対してフィルターを装着した場合、G画像のバックグランド値はR、B画像の値に比べ10%以下に抑えられています。レンジ値も減少していますが、全体的にみればバランスがとれていて、実際の画像を見てもバックの色はニュートラルグレーに近い色になっています。
星雲の写りも極端に色が偏っていることはなく、レベル調整でRGB各色の微調整で済ませることができます。
レベル調整によってバックグランドを濃くしていくと、星雲の淡い部分が浮き上がってくるようになります。

カラー用カメラの場合、感度がモノクロ機ほど高くはないので、フィルターを着けた状態で、露光時間を伸ばしてテストしてみました。露光時間は10分と30分です。

       フィルターあり  R画像  BK値  5219   レンジ  1277
       (10分露光)
   G      〃   5810    〃   1420
                  B
      〃   5759    〃   2265

       フィルターあり  R画像  BK値  6861   レンジ  3209
       (30分露光)
   G      〃   8448    〃   4212
                  B
      〃   8334    〃   6066

10分露光では、まだG画像のバックグランド値はR画像に比べ+11%程度で、実際の画像自体のバックの色はニュートラルです。
さすがに30分露光のものは、R画像に比べ+23%にもなり、画像全体が青緑色になっています。上記の例では、まだレベル調整での補正が可能な範囲ですので、十分に実用になると思います。

今回のテストは単板カラーCCDによるものですが、RGBフィルター交換による場合でも適用できると思います。
光害カットフィルターを使用すると、透過率の関係で全波長とも10%くらいの光量のロスが発生しますので、Gフィルターを使用するときだけ使用すれば良いと思います。
もしフィルターの取り付けの関係で、RGB全色に使うことになっても、R、Bへの波長カットの影響は少ないので、光量のロスだけ考えて、露光時間を決めれば良いと思います。

 14.月夜の撮像は可能か
月が出ている夜に冷却カメラで撮像は可能か?と言う質問をよく受けます。
月光によって空が明るい場合でも、光害と同じように撮れるのではないかと言う主旨ですが、結論から申し上げると、やめておいたほうが良いと言うのが私の結論です。(撮れないわけではありませんが、画質は良くありません)

光害と月光の場合、夜空が同じように明るくても、明るくしている光の成分(波長)が異なります。
光害の場合は水銀灯などの光源が原因であり、特定の波長域だけが高くなっているのに対し、月光は太陽の反射光なので、可視光全域に渡って明るくなっています。
光害地でフィルムを使って夜空を撮影すると、バックが緑カブリになることはご存知だと思いますが、あれが光害の成分です。これに対し月光下で撮影した場合は、バックは青っぽくなりますが、これは光の散乱によるもので、昼間の青空と同じものです。

一般的に水銀灯から出る波長の輝線は365.0nm、404.7nm、546.1nm、577.0nm、579.1nm、623.4nm、ナトリウム灯の輝線は589.0nm、589.6nmと、特定の波長だけが明るくなっています。
冷却カメラのようにダイナミックレンジが広いと、撮像後に画像のバックグランド値やレンジ値を調整して、被写体の光成分を分離することができますが、可視光全体にわたって明るくなっている場合には、バックグランド値が大きすぎて調整しきれません。そのため星雲の光成分だけ抜き出せたとしても、S/N比の悪いザラついた画像になってしまいます。
たとえ露光時間を伸ばしたとしても、バックグランド値が高くなるだけで効果はありませんし、長くしすぎれば受光素子が飽和してしまいます。

それでも月光下で撮像するような場合は、特定の波長だけを透過させる特殊なフィルターを使う方法があります。
例としては、Hα光だけを透過するHαフィルターを使って撮像する方法を良く見かけます。
散光星雲のようにHα(656.3nm)輝線を出している星雲は、この波長だけ透過して、その他の波長をカットするフィルターを使うことで、月光や光害にほとんど影響されないで撮像することができます。
もちろん撮像できる対象はHα輝線を出している天体だけで、全ての天体が撮れるわけではありません。
撮る天体の出す輝線を調べて、使用するフィルターを選ぶ必要があります。
Hα以外にも特定の波長だけを透過するフィルターが市販されていますので、これを使うことで同じ効果をねらうことができます。市販されている特殊フィルターについては、天文ショップに相談してみると良いと思います。

通常の撮像するのであれば、上弦・下弦の頃であれば月がない時間帯をねらい、満月ちかくであれば本番の撮像はやめて、ガイドのテストなどを行なうようにしたほうが良いと思います。