X.遠征での撮像
 1.遠征撮像場所の選び方
冷却カメラのメリットは、光害地でも天体を撮影できる点にありますが、S/N比が良く画質の高い画像を求めるのであれば、やはり光害が少ない、暗い場所まで出かけて撮像することをお薦めします。

しかし冬場に雪で通行止めになるような所や、凍結した道路を走る危険までおかして暗い場所を選ぶ必要はありません。
銀塩撮影には無理な、少し光害があるような山間部でも、都市近郊に比べたらはるかに光害が少なく、塵などの光を散乱させる浮遊物も少ないので、冷却カメラでの撮像には有利です。

霞やモヤ、霧などは500mくらいの高度までしか達しないのが普通ですから、それ以上の標高がある場所なら、撮像にはもってこいの場所でしょう。冬に雪が積もらない場所を探して、撮像地にしてください。
もし光害が気になるようであれは、露光時間を1〜2割長めにして撮像すれば、S/N比の高い画像が得られます。

山まで出かけるのが無理と言う方で、都市近郊の暗めな場所で撮像する場合は、川、沼地などが近くにあるような所は避けたほうが良いと思います。街灯などの少ない公園や、空き地などを利用するのが良いでしょう。
ただし私有地に入る場合は、あとでトラブルにならないためにも、使う前に地主の方に断っておいた方が良いと思います。

 2.遠征撮像時の注意点
撮像するために遠征する時は、銀塩写真を撮る以上に様々な機材を持っていかなくてはなりません。
パソコンやカメラ用の電源、ケーブル類など、銀塩撮影では使わないようなものまで持っていきますので、忘れ物がないようにしなくてはなりません。
バッテリーの取扱いや、接続ケーブルの説明は別項でしますので、ここではその他の注意点について取り上げます。

まずパソコンですが、なるべく屋外での使用はさけて、車の中で使用するようにしましょう。
屋外では夜間に露が降りて機材がびっしょりと濡れます。シートをかぶせていても結露することがあるので、パソコンがショートしたりすることになりかねません。防塵、防水加工がされていないパソコンの、屋外での使用は止めた方が良いと思います。
また冬場の山地は気温が氷点下ですから、外気にふれていると液晶ディスプレーの動きが遅くなります。できれば長めのケーブルを使って、車内で使用することをお奨めします。

赤道儀の組み立てから撮像を開始するまでの準備は、冷却カメラの場合ずいぶん時間が掛かります。慣れても40分〜1時間近く掛かってやっと撮像開始です。
暗い中で手際良く作業をするためには、ケーブル類などは事前に接続する順番にまとめておくとか、接続するコネクターの方向がわかるように、しるしを付けておくようにすると便利です。
また作業中に誤ってカメラを落とさないように、落下防止用のひもでカメラを望遠鏡に止められるようにしておくと安心して作業ができます。
フィルターボックスやアダプター類などは、現地で組み立てるのではなく、出かける前に事前に取付けておくと効率的です。暗い中でのネジの扱いは思った以上に大変です。

つぎに回りの人への気配りについてです。
パソコンのキーボード操作をする際には、どうしても照明が必要になりますが、回りで撮影している人に対して、迷惑にならないよう配慮してください。車内灯は使わずに、ペンライトか小さな手元照明を用意しておいたほうが良いでしょう。
パソコンのディスプレーも暗いところでは相当な明るさになります。できれば車の窓に遮光カーテンをして、光が外に漏れないようにするか、撮像中はパソコンに覆いをしておくことを心がけてください。

 3.使用するパソコンと電源
遠征などで屋外に持出す場合は、故障頻度が高くなると考えなくてはなりません。最近、安価なノートPCが出回っているとはいえ、新品のパソコンを買って故障したのでは泣くにも泣けません。
冷却カメラの撮像だけに限って言うと、CPUの能力やメモリー量はあまり必要としないので、できれば中古で安価なものを撮像専用に持っておくと、万が一故障してもあきらめがつきます。
購入する際には、カメラとの接続のためにUSBがあるか確認しましょう。

撮像用に必要なCPUはセレロン、メモリーは512MB以上あれば十分でしょう。
WindowsXPが動く機種であれば、まったく問題ないと思います。できる限り省電力で、バッテリーの持ちの良いのを選びましょう。付属のバッテリーは長くても1時間以内が限界で、寒い場所で使うときなどは、1時間も持たないことがあります。

このような時には、カーバッテリーと100ボルトのDC−ACインバーターを用意して、ACアダプターを使います。
車用バッテリーは充電直後に過電圧になることが多いので、直接つなげて使うことはさけて、インバーターを通して使うことをお薦めします。バッテリーひとつあれば、数時間パソコンを使っていても大丈夫です。

 4.バッテリーの容量と使用時間
遠征時の電源として一番頼りになるのがカーバッテリーです。
取扱いに若干の注意が必要ですが、安価で入手しやすく、そして大容量で冷却カメラや赤道儀、パソコン、ヒーターなど、色々な機器に使用できます。
カーバッテリーはトラックなど大型車用のもの以外、通常は電圧がDC12ボルトになっているので、使用する機器の電源がDC12Vで良ければ、直接バッテリーに接続して使用できます。

バッテリーの電気容量は、箱や本体に○○AHと表示されていて、○○の数値が大きいほど大容量で、長時間使用できます。ホームセンターなどで安売りされているのは36〜40AHのものが多く、安い時には3000円以下で買えることもあります。

カーバッテリーを使ってどのくらいの時間、機器が使えるかを求める場合、だいたい次のような計算で目安がわかります。 (この計算式は、経験から得たもので公式なものではありません)

   使用時間=(バッテリー容量/2)/消費電力

冷却カメラの消費電力は、だいたい3アンペア(A)なので、たとえば2Aのカメラで、バッテリーが38AHで満充電した場合とすると、使用できる時間は (38AH/2)/3A=約6.3時間となります。

機器によって電圧の許容範囲があって、最低電圧を下回ると作動しなくなるので、バッテリーの表示容量の約半分が実際に使用できる容量と考えてください。

機器ごとの消費電力は、赤道儀が約1〜2A、ノートパソコンは約2Aです。天体の自動導入ができる赤道儀は、導入時の高速運転のときに2A以上を消費しますので、自動導入を多用する場合は考慮が必要です。

またノートパソコンでCD-ROMを使う場合も、消費電力は高くなりますので、遠征時にはなるべく使わないようにしたほうが良いと思います。パソコンの指定で省エネモードにして使うと、使用時間を長くすることができます。

DC−ACインバーターを使用しAC100ボルトとして使う場合は、インバーターの変換効率が悪いため、上記の式で求めた時間の、6割程に低下すると考えてください。

私が遠征するときには、赤道儀用(オートガイダーを含む)、冷却カメラ用、パソコン用にそれぞれ1つずつ、計3個のバッテリーを持って行きます。

カーバッテリー取扱い上の注意点
  (1)充電するときは水素ガスが発生するため、必ずキャップを全部外し、風通しの良い所で行なう。
  (2)持ち運びする際は、バッテリーが倒れて液がもれ出さないようにしっかり固定する。
  (3)充電直後には15V近くまで電圧が上がっているので、半日から1日放置して使う。

 5.接続ケーブルの延長方法
現在、冷却カメラとパソコンの接続方法は大半がUSBですが、ケーブルの長さは制約上、長くても5m以内になっています。
普通はこれで問題はないのですが、遠征して撮像するときや、少し離れた観測所と接続するような場合には、もっと長いケーブルが必要になるときがあります。この様なときには、ハブを使って延長しなくてはなりません。

USBは意外と長さにシビアなので、カメラを認識しなかったり、接続中にリンクが切れたりすることがありますのでなるべく安価なケーブルは使わずに、シールドされているケーブルを選んだほうが良いと思います。
またハブ機能を備えた延長ケーブルも販売されているので、それを使うのも良いかもしれません。