呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。
道東古本買い出し紀行 4
〜オチは突然に〜
23 DDAY+2 AM7:30 迷走開始
さて、3日目、ここまで走行距離は既に1000キロ。しかも、今日は新得へ蕎麦を喰いに行かねばならない。冴速さん曰く。
「俺、昨日どうやら勘違いしていたんだわ。新得って遠いんだわ」
なのだが、既に矢は放たれた。往復400キロ強。推定時間6時間。新得でブランチをGO! 作戦は始まってしまったのである。
が、あんまり観光地の写真がないのもどうかと思うので『網走刑務所』に行く一行だ。
「どーしてニャ。どーしてこの面子だとそーいう観光地ばかり廻るニャ」
一名ばかり異議を申し立てるが無視する。
「そうか、そういう旅行ニャ。そういう旅行ニャら、こっちも覚悟があるニャ」
今頃気がついて、何を覚悟するというのだ。え、Tよ。
まずは写真撮影。だれもいない『網走刑務所』で写真を撮る。まったくここまで観光地を無視する観光客もおるまい。
それはともかく、我々は勇躍、新得へと向かったのである。
新得。蕎麦の実る街。かの昔、Sの大学時代の友人がここの出身で、その下宿で蕎麦を喰わせて貰った人間から口コミで広まり、彼は休みの度に友人の注文の大量の蕎麦を運ぶ羽目となったという笑えない笑い話がある。
しかし、網走から往復する価値があるのか? それは当事者だけが知っている話である。そして、その時の私たちはそれだけの価値があると判断したのだ。そう、東京から横浜まで珈琲を飲みに行く人間がいる以上、網走から新得へ蕎麦を喰いに行き、北見へ向かう人間がいてもいいではないか。
我々はそれを是とし、一路新得へと向かったのである。
空は晴れ渡り、我々の前途を祝福してくれているようであった。が、長距離走行の疲れは我々を少しずつ犯しつつあったのだ。
24 DDAY+2 AM9:00 迷走談話
さて、車は北見の寸前で南下、新得へ向かう。既に閉鎖空間に閉じこめられること48時間。我々のネジは確実に緩みつつあった。
「冴速さん、しかし、艦長でエースが本当の男の甲斐性ニャ?」
先ほど、覚悟を決めたTがそう切り出した。
「そう思うんだわ」
「違うニャ、艦長では器が小さいニャ、やっぱり艦隊司令長官ニャ。で、美人の参謀長はお約束ニャ」
よくあるパターンである。しかも、かの昔、艦隊司令が若い頃にその美人の参謀とは何らかの出会いがあったというのであろう。T。
「じゃあ、良くできた養子もいなきゃね」
久部さんが応じる。
「違うニャ、養女ニャ」
パターン逸脱。男のリピドー全開モードである。
「じゃあ、養女には『おじさま』と呼ばせる気か」
「お約束ニャ」
ボケた私の問いに鷹揚に頷く。
「じゃあ、エースパイロットはどうするんだわ」
「愛人ニャ。そのくらい男の甲斐性ニャ」
そこで、うっとりとした表情で呟く。
「宇宙最強の艦隊の司令長官で。旗艦のブリッジクルーはみんな美女や美少女ニャ。家には「おじさま」と慕ってくれる美少女の養女がいるニャ。これこそ男の甲斐性ニャ」
ま、確かに言わんとするところは解るのだが・・・。
「男が座ってみたい席は、『連合艦隊司令長官』と『常勝巨人軍の監督』と『女湯の番台』ニャ。『艦隊』『常勝』『女の園』これが男の甲斐性ニャ」
あ、目が座っているぞ。こいつ。
しかし、この異常事態はまだ、始まったばかりなのであった。
26 DDAY+2 PM10:55 新得蕎麦
延々と走り続けて新得に到着する。
「タイヤよ、あれが新得の灯だ」
などと言うことは特にないが、ともかく新得へ到着。「蕎麦の館」へ我々は向かった。ここの町民還元蕎麦が安くて美味なのである。惜しむらくはお土産蕎麦のつゆは今一、我々(私と久部さん)の舌には合わない。つゆは自分で工夫して、ざる蕎麦にして食うのが新得の蕎麦の正しい喰い方なのだ。残念ながら、新得の蕎麦はかけ蕎麦には向かないような気がする。かけ蕎麦でうまいのは、音威子府の蕎麦である。あれはうまい。
そんなことをざる大盛りと蕎麦団子を頼んだ私が言うと冴速さんが同意して下さる。
「音威子府の蕎麦は本当に旨いんだわ」
実は冴速さんお気に入りの蕎麦でもある。なにせ、かの昔、親戚が音威子府の蕎麦の関係者だったというのは我々仲間の間では有名な話だ。
しかし最近、Sが道北から離れて以来、音威子府の蕎麦とはとんとご無沙汰である。
「この夏、道北へ行ってみましょうか」
テーブルの上に置かれた蕎麦つゆに山葵を落とし込みながらなんとなく言ってみる。刺身の山葵はきちんと喰えるのだが、蕎麦の山葵だけは溶かし込まないと気が済まないのだ。どうやらいくら足掻いても粋にはなれそうもない。
「そうだねえ。紋別の方へは親戚がいて何度か行ったことあるんだけどね。稚内の方は初めてだなあ」
「ここは宗谷なんだニャ、ここが最北なんだニャ」
平松和平の物まねが全然似てないぞ。T。
「久しぶりに音威子府に行ってみるのもいいかも知れないんだわ」
かくて、夏の作戦があっさりと決定する。今度は道北だ!
我々の暴走は留まることを知らないのだ。
27 DDAY+2 PM13:00 吟遊詩人
「しかし」
無事に蕎麦を喰い、北見へ向かう我々は幸せだった。久部さんが突然、こんな事を言われるまでは。
「私の詩集読んでください。なんていうギャグがあるけど、実際問題、どのくらいの過去の作品まで耐えられるもんだろうね」
爆弾発言だった。
「ええ」
「なんなんだわ」
中学、高校から書いている冴速さんと私が絶句する。
私の場合、少なくとも高校時代の作品を日の目に出すにはかなりの抵抗を感じる。少なくとも『とんでもないものを見つけてしまった』シリーズは揺るぎない『エリア88』があるからこその発表であって、高校時代に山ほど書いた作品はプロットこそ許せても、細部は赤面するしかない作品ばかりだ。
「僕の場合は第一作目からOKニャ」
Tが威張る。Tの場合、大学時代にコミケット寸前に原稿が足りないため、『FSS』と『戦闘妖精 雪風』を読ませて強引に小説を書かせたのが私なのでその責任の半分は私にあるのだが・・・。そこまで言うか?
「難しいですよね」
ようやくそれだけ言う。
「で、その初期作品はどこにあるの?」
続いて二の矢が放たれる。
私の場合は押入の右下に突っ込んであるのだが・・・。
恐らくは私がお世話になり、今も保存している(捨てられない)各種書籍と同等か、それ以上の破壊力が、私の初期作品にはある。あの作品を読み上げろなどと言われたら即座に舌を噛み切りたいようなものばかりなのだ。
それが、死後明らかにされたら・・・。孫にでも読まれたら・・・。
なんだか将来が怖いのである。
28 DDAY+2 PM14:00 北見再訪
というわけで、色々あったが6時間という時間をかけて、新得で蕎麦を喰い、蕎麦を買うことに成功した我々は再び北上し北見市内へと入ることに成功した。
北見は夢の街。巨大な古本屋が3軒もあるのだ。品揃えも素晴らしい。
まあ、そこを廻る前に、小さなところでまずは運試し。久部さんが見つけた『B』は久部さん曰く、「面白くない」店だった。「商品に対する評価がしっかりして掘り出し物がほとんどない」のだそうだ。
「商品は一杯あるのだけどね」
「あ、これは欲しかったあの本ニャ。でも、悲しいニャ。下巻しかないニャ」
Tも苦渋の決断を迫られたらしい。結局買わなかったのが、彼の悲劇の始まりだった。
そこそこの戦果を得て、大型古書店『GEO』に向かう。北見には『無謀道東旅行記』でも語った通り、『GEO』が1軒に『BOOK OFF』が2件ある。(そう、これは間違いである。しかし我々はこう錯誤していた。これが大きな喜劇を産むとも知らずに)夢の国北見なのだ。
まず、『GEO』を発見する。
「これは『M』。でも高いんだニャ」
確かにそれは名作ではあるがその値段は高いって、18禁ゲーム握りしめるなT。
「しかし、品揃えがほとんど変わっていないじゃないか・・・」
久部さんが写真集のコーナーに立って呟く。
「おお、これは! あれなんだわ!」
冴速さんがコミックを買い漁る。
私も何冊かの本を購入した。
冷静に見るならば三十路の男達の行動としては異様に過ぎたかも知れない。しかし、今が楽しければいいのだ。
我々は1軒目の『GEO』を漁り尽くすと今度は『BOOK OFF』を求め、知床方面へと向かったのだった。
29 DDAY+2 PM15:00 北見探索
次の古本屋に向かう途中、一件のお菓子屋が目に入る。
「あ、ここなんだわ。ここが噂のチーズケーキ屋なんだわ」
冴速さんが朗らかに言われた。
車を停め、我々は顔を見合わせる。
「上杉、買いに行くニャ」
「そんなあ、おい、T。ついて来いよ」
「それはないニャ。菓子屋に男二人では行くなと生きているお祖母さまの遺言ニャ」
日本語になっていないぞ。T。
結局私が買いに行く。そして、我々は次の古本屋を目指したのだった。
次の『BOOK OFF』も直ぐに見つかった。ここが一番大きい古本屋である。血眼になって獲物を探す我々だ。
ビデオに、CD、コミック、新書。それぞれ戦果を得て今度は再び旭川方面へと向かう。あとはひたすら群がる古本屋を撃破していけばいいのだ。
我々は鼻歌交じりで向かったのだが。
『BOOK OFF』はなかった。
「なんじゃ、こりゃあ」
である。北見市を出てしまっても『BOOK OFF』が見つからない。
「これは、戻って聞いてみた方がいいかもしれないね」
久部さんの提案に再び元来た『BOOK OFF』に向かう我々である。
しかし、店員の言葉は我々を(正確には私と久部さんを)驚愕させたものだった。
「ああ、一番近いのは旭川ですよ」
何と言うことだろう。我々の感覚は完全に狂っていたのだろうか。北見の『GEO』と旭川の『BOOK OFF』との間に峠を抜けた記憶がない。だからこそ、私たちは北見に3軒の古本屋があると考えていたのだ。
「大丈夫ニャ? 体に穴あいてないかニャ」
本当に開いているかも知れない。
30 DDAY+2 PM16:30 混乱記憶
既に走行距離は1300キロを超えた。ドライバーの私の限界に達している。個人行ならばなんとでもなるが、他人の命を預かる以上、ここはドライバーチェンジというわけで、冴速氏にハンドルを渡したのである。
かくて、車は峠を越えて旭川へ・・・。
途中、ウナギの寝床のような古本屋『H』による。開店まもなくか本に見るものはなかったが、ビデオ関連は掘り出し物があったとは久部さんの話である。
そして、8時近くに我々が見たものは。
「あ、あれだよ。一件目の古本屋は『GEO』だったんだ」
久部さんが指さす先に我々が寄った『GEO』があった。
「そこまで間違えるかニャ」
「見事なオチなんだわ・・・」
呆れる二人である。『GEO』に寄った後、向かいのコンビニで夕食購入、今後の行動を考える。旭川の古本屋を少し廻るか、帰るか。
「折角だから大規模店だけでも廻るかニャ」
「いやここは、帰った方がいいんだわ。旭川は旭川でまた攻略したらいいんだわ」
結局、慎重論が勝った。深川の『GEO』(これすら錯誤である。深川に古本屋はない)などを廻って帰ることに衆議一決。我々は最後の力を振り絞ったのだった。
しかし、深川に本屋はなかった。そのまま滝川で『GEO』を発見。冴速さん曰く。
「北見と旭川間違えるくらいだもの、深川と滝川なんてかわいいものなんだわ」
私は一言もないのである。それでもしっかり本は買う。
「あぎゃああ。上巻があったニャ」
北見で買わなかった本の上巻を見つけてしまったTが叫ぶ。
「戻るニャ。北見に戻るニャ!」
不可能を言うな。T。
かくて我々は札幌へと向かう。
31 DDAY+2 PM20:00 駄文蛇足
砂川の『SRW T空知』はしっかり廃業していた。さもありなん。である。どうやらあれは廃業セールだったらしい。
奈井江の『H堂』は閉まっていてお姉さんには会えなかった。お元気だろうか。ただ者ではないお姉さん。まさか、こんなところで達人呼ばわりされているとは思ってもいないに違いない。
そして、途中、またコンビニに寄る。
「なんだか、異様にコニシキに会わないかい?」
久部さんがFFフィギュア付コーラを飲みながらふと言われた。
「そういえばそうなんだわ」
記憶の断片を冴速氏が掘り返す。
「一回、セブンイレブンに停まっただけで、あとは全部ローソンニャ」
Tがからあげくんを囓りながら指を折る。
何と言うことだろうか。あの青い看板に何か魔力でもかかっているのだろうか?
しかし、私としてはエアリスのフィギュアが今回入手できたのでとても嬉しいのだ。
23時少し前、札幌到着。各々を自宅に送ってから久部さんとゲーセンに寄る。残念ながら例のゲームはなかった。
久部さんは今、どうしても取りたいキャッチャーがあるのだそうだが、あんな箱どうやって取るのだろうか。私には不可能だ。
そして、久部さんを自宅に送り、今回の旅行は幕を閉じたのだった。
最後に蛇足。
チーズケーキ。真面目に凄かった。ケーキは美味しい。チーズも美味しい。しかし、合わさると・・・。北見の人はあのケーキを普通に食しているのか? まさかジョークアイテムとしてはあんなに続かないと思うのだが。
ともかく、今回の旅もまた、混乱と迷走をキーワードに伝説になるのであろう。
そして、旅行記はまだまだ続くのである。
今度は道北だ!