呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


道東無謀旅行道中記 前編

 さて、先だって行った道東旅行の旅行記を何回かに分けて発表します。まずは前編。

1 DDAY−18 突発事態

 それは突然の事であった。その日、私とKさんはひたすらGガンダムを見まくっていたのである。
 「結局、ドモンは女性的なんですよね」
 「うん、嫁さんにするにはナスターシャかねえ。でも、亭主が嫁さんの役割しないとならないがねえ」
 とまあ、やくたいもない話をしていたそんなとき、
 「実は上杉君。最近、帯広へ行ってからなんだけど、肩のあたりが重くてね。」
 「へ」
 唐突に話ははじまった。
 「知っての通り、霊に過敏に反応しちゃう体質でしょう。あの時の然別湖の霧の中で何かを引きずって連れて来ちゃったみたいなんだよね」
 「なんと・・・」
 ここで私の立場を明確にしておくと、私は霊魂の存在を否定しない。
 何是ならば私は人類の化学が全てを明らかにすることが出来るなどという自信家では決してないからだ。無いと言い切れない以上、可能性は認めねばならない。更には、友人Sの紹介でKさんとつきあい初めてからのあんなことやこんなこと、そんなことやどんなことが私に大きな影響を与えている。
 「連れて来ちゃったモノは返さなくっちゃなりませんか」
 既に6時間近くGガンダムを見続けた精神状態で責任を感じた私は応えた。
 「そうなんだよねえ。可哀想だしねえ」
 既に6時間近くGガンダムを見続けた精神状態でKさんがしみじみと言った。
 というわけで、唐突にこの旅行が決定したのである。
 作戦名は『シーボース』。誤って連れてきたものは責任をもって返すのだ。

2 DDAY−17 機材確保

 「俺に手をかせというのか?」
 Sは青磁蛍細工のコーヒーカップから薫り高い液体をすすり込むと。やおら切り出した。
 「そうだ。『4輪駆動にしてオートマ。長距離を走らせたら最適。しかも保有者以外の運転手が運転できる保険付き』のレオーネを保有している貴様の力を借りたい」
 大量の歴史書が所狭しと投げ出されている室内に圧迫されながら私は応えた。確かこの部屋は14畳あったと聞いているが使える場所は6畳ないのではなかろうか?
 「時期は十月の連休。目的は1、然別湖へ霊的存在を戻すこと。2、北見市内で地ビール購入。そして」
 そこで私はSの部屋における私用の温泉小僧マグカップから漆黒の液体を喉に流し込んだ。
 「第4次カムイワッカの滝攻略と池田町でいくら丼をかきこむという目的も加えよう」
 悪い話ではないはずだ。余計な目的はつくが単独行では得られない予備のドライバー兼莫迦話が出来る同行者がつく。いくらSでも毎年、単独行千二百キロは辛いはずだ。そう踏んでの取引だった。
 「無理だな・・・」
 「何?」
 「無理だ・・・時期が悪い。その頃職場を空けられん」
 「そうか・・・」
 「学年が違えばまだ・・・いや詮無いな」
 私はため息をついた。S相手には交渉はない。いや、参加したいのはSの方なのだ。
 「上杉、お前の車の前輪、ホイールバランスを取っておけよ。それから、給油は早め早めを心がけろ。知床のど真ん中でガスが無くなったらそれこそ一大事だぞ。第三次カムイワッカの滝攻略隊のデータは後日送る」
 部屋を辞した私の背にSはため息と共にそう声をかけたのだった。

3 DDAY−14 作戦計画

 「笑えるほど無謀な作戦」直前で土砂崩れのために涙を呑んだSが昨年に行った第三次カムイワッカの滝攻略記録を読んだ感想はそれ以外のなにものでもなかった。
 夕方6時に札幌を出発。何度か仮眠を取りながら翌3時に知床着。しかし、立入禁止のためその場で車中泊。翌朝朝8時に知床を出発し仮眠を取りながら帯広へ2時ころ着。有名な「ぱんちょう」で豚丼を食って池田町へ。そこで1泊して、上富良野を経由して帰着。
 その後、確か私と「K路」で酒を飲んだのではないか? 無謀な作戦だった。誰が言ってもそう判断するに足る。しかし、あいつは化け物か・・・。
 「しかしだ・・・」
 その無謀な作戦を繰り返さねばならない。私は頭をかきむしった。宿が取れないのである。2週間前という準備期間は秋のシルバーウイークの宿を取るためには短すぎた。
 当初の目的では8日早朝出発。のんびり道東へ進み、ウトロで1泊。翌日カムイワッカの滝に登ってSを羨ましがらせ、あとはのんびり道東をまわって帯広へ出て一泊。然別湖に寄って帰宅する。帯広→然別湖→札幌間は先だって通った道である。問題はない。
 しかし、取れそうな宿は8日か10日一泊のみ。この状況にKさんは嘆息した。
 「想像以上に混んでいるねえ。これは」
 「9日になんとか民宿を取りますか? 屈斜路湖あたりの民宿ならキャンセル待ちで取れないことも無いと思いますが。11日帰着ですが」
 「帰宅ラッシュに巻き込まれそうだねえ。無理はよそうよ」
 「すると8日一泊で、道東旅行ですか」
 それは無理だ。
 結果、選択されたのはSの計画と基本的にかわらぬモノだったのである。
 事態は混迷の度を深めつつあった。

4 DDAY 16:28 作戦開始

 なぜ、人は午後から年休を取ろうとしている人間にその日締め切りの仕事を大量に持ち込むのか。それは永遠の謎かもしれない。
 結局のところ、私がKさんの家の前に車を停めることが出来たのは4時を少し過ぎたときだった。
 予定では2時には札幌を出発していたはずである。2時間の遅れ。これは近代戦においては永遠と言ってもいいほどの永い時間といえた。が、Sの計画よりはまだ2時間の余裕がある。そのことを心の励みに私たちはボロ車を高速にのせ、そのまま旭川鷹栖まで直行。高速を降りた後は北見に進路を向ける。
 もしも、ここで何事も起こらねばこの旅行は平穏無事であったに違いない。しかし、事件は起こってしまったのだ。この事件が私達を修羅の道に追い込むことになるのだが、神ならぬ身のKさんと私はそんな未来を知るまでもなかった。
 始まりは些細なことだった。
 「おや、『GEO』(大手古本、中古ゲーム、中古CDチェーン)があるねえ」
 「丁度前回の休憩から2時間ちょいたってますし、休憩しますか」
 そうして、私たちは修羅の道に足を踏み入れたのである。北見の古本店の品揃えは札幌のそれとは微妙に違っていた。何より安い!
 「SFC版『伝説のオウガバトル』980円! SFC版『ソードワールド』580円」
 名作である。両方とも持っていない私はほくほくと購入した。ついでにPSオウバードフォースの攻略本もゲットである。Kさんはと見るとKさんもまた、喜々として古本を漁られている。
 「道東に旅行しようと思って、とんでもないモノを見つけてしまった。どーしよう」状態に陥った私たちはなんと、40分近くもそこで費やしてしまったのである。私たちは何かに憑かれたことをまだ知らない。

5 DDAY 21:43 状況変化

 北見のオホーツクビアファクトリーはひたすら見つかりにくいところにあった。営業時間は10時まで。もう、営業時間内には見つからないのではと気が気ではなかったが、北見山下道にあるサンクス山田酒造店でバイトのお兄さんに話を聞き、やっとたどり着くことが出来た。地ビールと記念にジョッキを購入。これで私は小樽、上富良野、帯広、函館のジョッキを入手したことになる。目指せ北海道地ビールジョッキ全種制覇!
 戻ってきた山田商店でお礼につまみ数種と氷を購入。途中給油を行うとさらにウトロに向けて車を走らせる。
 そのまま進めば何事もなかっただろう。普通の旅行が普通に終わったはずだ。
 そして、再び『GEO』があった。
 「また、『GEO』ですね」
 「そうだねえ」
 休憩時間にはまだ間がある。
 「停めましょうか?」
 「そうしようか」
 かくて、私たちは再び『GEO』の客となった。残念ながらこのGEOにはこれといった収穫がなかった。それでも丹念に棚を漁った結果30分という時間が経過していた。
 何かが変わろうとしていた。しかし、それが何かは私たちには解らなかった。ただ確実に私たちを取り巻く何かのルールが変化したことは間違いのないことだった。
 そして、十数分後、今度は『BOOK OFF』(やっぱり大規模古本店チェーン)の看板が輝いていたのである。
 もはや会話はいらなかった。私のボロ車はまるでそれが当初から予定された行動であるかのように駐車場に滑り込んだ。そして、私たちは50分という時間と、幾ばくかの金銭を消費し、札幌では見つかりにくい数冊の書籍やビデオテープを購入し車中の人となった。
 目指すはカムイワッカの滝のはずである。

6 DDAY+1 1:45 登頂前夜

 北見の市街を抜けると道は急に寂しくなる。私たちは山本正之や古いアニソン、アイドル歌謡で己の萎えそうになる心を叱咤し、ひたすら走り続けた。
 目的地は秘湯カムイワッカの滝。Sの一生を狂わせた土地の名だ。
 結局、カムイワッカの滝に到着したのは深夜1時を越えていた。滝への非舗装道路には鹿がこれでもか、これでもかと出てくる。運転する方としては気になって仕方がなかった。鹿にぶつかられたら私のボロ車などひとたまりもない。喰っておけば当たらないというが、斜里で莫迦を喰うのは明日の予定である。『深夜プラス1』どころではない。のたくたと平均時速20キロ程で進んでいくと、突然、ぽっかりと道が開けた。
 ようやく到着したのだ。水のせせらぎが聞こえる。車のライトを消し、エンジンを停めると、深夜の知床には満天の星空が広がっていた。ただただ星だった。札幌では決してみることの出来ない数え切れないほどの星が瞬きすらせずに輝いていた。走行距離429キロ。遂に私たちカムイワッカの滝の裾野に辿り着いたのである。
 ミニマグライトの明かりの下、私たちは北見で買ったジョッキに地ビールを満たした。
 私たちには祝杯くらいは許されてしかるべきだ。たとえそれが草木も眠る丑三つ時の酒宴であっても。
 買いたてのジョッキに満たした一杯目の地ビールはずいぶんと刺激的な味だった。
 「これは結構刺激的ですね」
 「うん、我々の疲労か、それとも・・・」
 グラスを洗っていないからだろうか?
 「一応、出荷前には洗浄はしているんでしょうけど・・・」
 なんとなく怖い考えになった私たちは3本の地ビールを飲み干すと毛布の中で丸くなった。2本目からは美味だったことは明記する。

 以下 次回

(99,10,12)


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