呆冗記
呆冗記 人生に有益なことは何一つ書かず、どーでもいいことばかり書いてあるぺえじ。


道東無謀旅行道中記 後編

 さて、いよいよ最終日。しかし・・・。 無謀旅行道中記 後編。

14 DDAY+2 9:30 障害発生

 翌朝、8時30分においしい朝食を戴いて出発準備。いやあ、メイクィーンって美味しかったんだなあ。本当のヨーグルトも美味だなあ。これも目から鱗。Kさんいわく。
 「朝からこんなに栄養取ったら健康になってしまう。トレードマークが無くなってしまう」
 それは無いと思うのだが。
 そして、出発。
 とこらが・・・。
 エンジンがかからない。
セルモーターが廻らないのだ。カツーン。堅い金属音がするだけである。バッテリーは2日間で890キロ走って充分充電されているはずだ。なのにエンジンがかからない。
 バッテリー接点がゆるんでいた。というのはニセコに名古屋のKさんと遊びに行ったSのドジだが、レザーマンのWAVEツールでかしめてみるまでもなく、接点はしっかり止まっている。
 「大丈夫ですか?」
 一緒に「Oくま」さんに泊まっていた若いご夫婦の旦那さんがそう聞いてくる。
 「ええ、大丈夫だと思います」
 「じゃあ」
 真新しいセダンがその声と共に去っていく。
 やはり車齢12年を越えているボロ車はもう限界なのだろうか?
 そんなはずはない。長いつきあいじゃないか。もう少し頑張ってくれよ。頼む。そう語りかけると。もう一度キーを回す。
 「動け、動け、動け、動け、動け、動け」
 キーを回し続ける。 
 「動け、動け、動け、動け、動け、動け」
 キュキュキュ。グイーン。
 ようやく、今でなければダメだと言わんばかりにボロ車のエンジンが生き返った。ボンネットを閉めるとベルトを締めて車道へ飛び出す。約30分のロス。こうして3日目の作戦が始まったのである。

15 DDAY+2 10:30 分布状況

 そのまま私たちは帯広へと入った。36号線に乗る。
 「見あたらないねえ」
 「そうですねえ」
 北見の地ビールを飲み、カムイワッカの滝を制し、池田町でいくら丼を喰った。もはや残る作戦はあと二つ。然別湖を訪れて「何か」を還すことと、上富良野で地ビールを購入するだけである。
 全てが終わればそのまま高速に乗ればいい。しかし、私たちの作戦計画は少しづつ歪み始めていた。
 「うーん。前回来たときも思ったんだけど大きな古本屋が帯広にはないのかなあ」
 そう、私たちは帯広の古本屋を調査していたのである。
 「北見には大きな古本屋が三つもあったんですがねえ」
 「前回見つけたのは駅前通りの小さなブックス1/2だけだものねえ」
 左右を見ながらKさんが言う。
 「北見には北見工業(大学)があるように帯広にも帯広畜産(大学)があるわけですからないはずはないんですが・・・」
 帯広市の境界まで車を走らせたが、結局はBOOK OFFもGEOも見つけることは出来なかった。
 「再挑戦かねえ」
 「ええ、今日はこの後然別湖と上富良野まで行かないとなりませんから。来年のGWに芽室でニジマス喰いにくる時、帯畜の周りを重点的に調査してみましょうよ」
 私たちは、後ろ髪を引かれる思いで、帯広を後にした。これが、私たちのこの作戦における最初の敗北であった。私たちは当初まったく予定していなかった敵によって一方的な敗北を喫したのである。この事が我々の目標を狂わせ、大きな悲劇? を生むことになるのだが、そのことを私たちはまだ知らない。

16 DDAY+2 11:00 雑用少女

 車は夏の帯広地ビール攻略作戦の時通った道をひたすら走る。一路然別湖へ。
 「そう、Sが言ってた名古屋のKさんの話。彼メイドと執事と庭師が欲しいそうですよ」
どうして、そういう話になったのかはわからないが私からそんな話題が出た。
 「ほう、社宅のマンションに執事とメイドと庭師。シュールだねえ」
 メイド服着たメイドさんがスーパーの安売りに並ぶ姿。確かにシュールだ。
 「ま、庭師や執事はともかくメイドは1人、いや1台欲しいよね」
 「へ?」
 「いや、最近マルチに興味があってね。あの髪の毛をなでて一日過ごすというのもなかなかかだなあと思うんだ」
 爆弾発言である。Kさんと言ったら『オーガス』のモーム。これは、名古屋のKさんの『ダンバイン』のシルキー、Sの『エヴァンゲリオン』の綾波。私の『ザンボット3』のアキと同様、動かしがたい存在のはずであった。たとえKさんの絶対の存在として空モモがいたとしても、モームの存在もまた動かしがたいものであったはずだ。
 「いや、モームとマルチは全然違うでしょ。モームは万能だけれども、マルチはなんにも出来ないもの」
 私の視線に気がついたのかKさんは笑いながら言った。
 「そうだなあ、出来ることと言ったらお掃除だけか。充電もしなきゃならないし、機械としての位置づけが違うよ。強いて言えばマルチはAIBOかなあ。掃除の出来る」
 Kさんはしばらく考えると言った。
 「そう。両方、頭なでられるの好きだね」
 「マルチはともかくモームもでしたっけ?」
 「ううんAIBO」
 比較対象がいつしかモームからAIBOに変わっていた可哀想なマルチであった。

17 DDAY+2 11:00〜 通常移動

 然別へ向かった我々は、そこで再び霧にまかれこの世のものとは思えない経験をする。
 というのなら非常におもしろいのだが、今回はあの恐るべき霧もなく。美しい紅葉が我々を迎えてくれた。あまりにも拍子抜けする然別再訪だった。
 「はあ、然別ってこんなに狭かったんだ。これなら屈斜路湖の方が広いねえ」
 我々はようやく真実に気がついたのだ。やはり百聞は一見に如かず。
 その後、石投げをして、湖の埋め立てに微力ながら貢献したりして然別湖を後にした。
 「何か」は元の場所に戻ったのだろう。
 そのまま、新得へと向かう。ここは私の昔の知人が出生した土地であり、町民還元蕎麦は大変美味である。蕎麦湯もうまい。
 蕎麦の館で蕎麦を買うと更に北上する。目的地は上富良野。ここの地ビールは地ビールらしくないので名古屋のKさんのお気に入りなのである。
 4種類の地ビールを買い込むと名古屋へと宅急便を頼んだ。激務を癒す一助となれば幸いである。同時に、Sの奴の分も買い込む。第三次カムイワッカ攻略隊の貴重な資料分くらいは返さねばならない。自分にはざっかけない作りの赤蜻蛉のマグカップを買った。いつまでも小樽倉庫No1の陶器のビアマグでコーヒーを飲むわけにもいかない。
 「さて、Kさん」
 私は車に戻り助手席のKさんに向き直った。
 「これで一応全行程は終了しました。あとは高速に乗って帰還するだけです」
 「でも、それだと目的は果たせないねえ」
 「その通りです。我々はこれより深川〜札幌間古本屋探訪の旅に出なければなりません」
 そんな予定は当初全くなかったに関わらず私たちは泥沼に沈みつつあったのだ。
 私たちは何かちがう「もの」に憑かれたのかもしれない。

18 DDAY+2 14:30 戦術行動

 2時半過ぎに我々は上富良野の地ビール館を後にした。非常食用に買い込んだ「胡麻マーガリン」というパンをラベンダーラムネで流し込むと、車を走らせる。
 が、この時点で旭川方面に向かわなかったのは私たちの理性、最後の煌めきだったのかもしれない。実際は物理的な時間と、金銭搭乗員の不足が大きな原因だったのだが。
 北海道第二の都市旭川。この古本屋を巡るには準備が不足していたのだ。
 「少なくとも、留萌、稚内、音威子府の蕎麦、旭川を目標にした道北攻略作戦と、根室、釧路をターゲットにした第二次道東攻略作戦作戦。−これはうまいニジマス食うぞ第二次芽室攻略作戦と同時に行うとして−そして、花見だわっしょい函館、道南攻略作戦。この三つの作戦を実施しなければなりません」
 私は深川に向けて車を走らせながらそうKさんに提案した。
 「そうだね。旭川、釧路、根室、稚内、函館。留萌。どんな古本屋があるんだろうね」
 まだ見ぬ古本屋に向かって想いを馳せる私たちである。が、私たちはまだ、ことの異常さに気がついていない。
 途中、私たちの観光道路を生活道路にしている軽自動車によって追い越し禁止車線を時速40キロで走らされたり、突然挙動不審な走りをする大型四輪駆動車に驚かされたりしながら南下する。
 そのまま車は上富良野から深川へと向かう。しかし、走る事2時間。古本屋の看板がない。
 「何なんだろうね。探そうとすると急に見つからないなんて」
 「そうですね」
 車はやがて深川に入った。市である。しかしない。私たちの興奮も醒めようとしていた。
 「高速に乗りますか」
 17:30分。そう言った私の前に、『GEO』の黄色い看板が輝いていたのである。

19 DDAY+2 17:40 波状攻撃

 それは『GEO』の滝川店だった。私たちはそこで札幌では見ることの希なコミックの同じものをを2冊。お互い1冊ずつ購入することに成功。更に私は『伝説のオウガバトル』サターン版を発掘してしまったのである。マップが2枚多いサターン版。これを買うことは、先日購入したSFC版をゴミ箱に捨てるに等しい。が、私は結局2枚のマップの誘惑に抗うことはできなかった。
 その後は入れ食い状態と言っていい。砂川に入って『SRW T空知』で新品SFC版『アースライト ルナストライク』が百円、新品64版『オウガバトル64』が3千円。値付けが間違ったのではないかと想いながらも購入。砂川に入って『Y』、『H書店』にめぼしいものはなかったにも関わらず、奈井江町の『H堂』には、SFC版『ファイアーエンブレム』が980円で置かれていた。更に、その店の店番。お姉さんの接客態度はKさんをして
 「おそらくはかなりの手練れ」
 と唸らせる人物であった。
 すでにとっぷりと日は暮れる。時計の針は19時を廻っていた。高速を使えば既に風呂に入って一杯やっている時間。私たちは自宅に遅れる旨の連絡を入れ、江別で古本屋を漁っていたのだ。
 バイトにプロ根性のかけらもなく、SFCソフトの値段が旧態依然な『QB』。大学前のコピー屋・空いたスペースで古本屋をやっている『CP』。めぼしい古書屋に車を停めまくる私たちは。Kさんの残された理性の言うところの『なにやってるの』状態だったのかもしれない。
 そうして、私たちは11件目。『B1/3』でとどめを刺されたのだった。禄に整理もされない怪しい雰囲気のその店で、私は懐かしい朝日ソノラマの文庫に再会した。『H&W』全2冊。中学時代、思い出の物語である。

20 DDAY+2 20:45 作戦終了

 「札幌まであと、何キロ?」
 「20キロ。イカンガーなら1時間です」
 私はKさんの問に私達の仲間内でしか通用しない単位で答えた。42.195キロが2時間10分。これがイカンガー単位である。
 もはや時刻は20時を大きく回っている。
 運転手の私は確実な疲労を全身に感じていた。疲労が食欲を完全に奪っている。
 「なんだか随分近いような気がするね」
 途中コンビニで買ったパンを頬張りながらKさんが言う。Kさんが空腹を感じているのに私が空腹を感じない。これは初めての事だ。
 「もう、あっという間ですよ」
 1、300キロ以上を走ってきた私達の距離感覚は完全に破壊されていた。
 「で、相談なのですが、札幌に入ったら古本屋よらずに直行させてくれませんか」
 長距離ドライブ事故は出発直後15分と帰宅直前15分に集中する。札幌近郊の車の流れに抗うのは今の私には出来そうもなかった。
 「そうだね。もう、8時を廻ってるし、直行しようか」
 最後の力を振り絞ってボロ車は走る。2泊3日で1,300キロ。運転手は1人。誰が聞いたって無謀な作戦は、しかし、今終わりの時を迎えようとしていた。
 20:45。Kさん宅着。
 ここに、計画時作戦名「然別湖に行って「もの」を戻しついでに北見地ビールを飲もう−シーボース作戦」。実施時作戦名「Sを羨ましがらせるためについでにカムイワッカと池田町のいくら丼−第4次カムイワッカ攻略戦」。作戦記録名「道東・道央の古本屋手当たり次第に攻略−第一次道東・道央古本屋11件攻略作戦」は終わりを告げたのだ。
 私達は作戦目的の相次ぐ変更に対し、場当たり的な対応で、地ビール、温泉、いくら丼、古本・USEDゲーム購入という大きな戦果を得たのである。

21 幕間狂言

 男は溜息とともに使用していたソフトを終了させた。壁紙に使っている雪女の少女(形容詞がダブっている)が微笑んでいる。
 『いやあ、探してたコミックの1巻が手に入ったもんだから、Kさん送った後、環状線の『GEO』寄って2巻買ってきてさ、揃えちゃったのだよ。わはは。
 でな、このあたりまで帰ってきたらなんか凄く腹減ったんで、このあとピザハットで夜食買って帰るわ。ツナマイルドと、スーパーシュープリームのH&Hでも食べようかなあ』
 先ほど富良野地ビールを土産に置いていった友人の声が耳にこだましていた。
 「あいつ、ダイエットはどうしたんだ?」
 富良野地ビールのタンブラーに土産の品を注ぐ。
 「無情だな・・・」
 やはり土産の羆の缶詰を頬張りながら呟く。
 なぜ、カムイワッカの滝一の壺を攻略することを生涯の目的とし、2度も単独行を行った自分が未だ目的を果たせず、本来は目的ですらなかった彼が目的を果たしたのか。
 「無情か・・・」
 再び呟くとタンブラーの中、黄金色の液体を一気に喉に流し込む。
 「ふ・・・。見てろよ上杉明。 この礼は必ずするからな」
 その男、Sはそう呟くと瞑い視線を虚空に向けた。

 こうして、第四次カムイワッカ攻略作戦は○○リットルのガソリンと52時間20分という時間を消費し、一応の成功をみた。
平均燃費○○Km/l。平均時速は宿泊時間を除外して44.5Km/h。
 しかし、この作戦の終了により、上杉明は道央・道北、道南、第二次道東と、更なる苦難を呼び込むことになるのだが。
 今、夜は静かに更けていった。

(99,10,25)


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