1999年9月上旬の日記

今月から心機一転、新しいサイト名「銀河の果てまで Just Another Transsexual」で再スタート。新学期の授業も始まり、とても新鮮な気分です。(1999年9月11日記)

9月1日(水) 2泊3日の帰省から戻ってきた。
[日記]8月30日(月)のお昼の新幹線で福岡の実家に帰省。今日(9月1日)の夜、東京に戻ってきた。この春以来、実家に帰るときもふだんと同じスタイル(つまり女性ものの衣服を身につけて、お化粧をしてということ)。春に帰省したとき、母には(女性ホルモン投与のことも含めて)ある程度のことは打ち明けてしまったのだ。もともと性的対象が男性だということは、中学生の頃から親にはバレていた。それについて親から直接なにかを言われたことはない。母は、女性と結婚するつもりがないのなら養子をとったらどうかと言ってくれたこともある。この春に打ち明けたときも、黙って聞いていてくれた。おそらくゲイとトランスセクシュアル(用語についてを参照)の区別はよくついていないだろう。だけど、それはそれでいいと思う。
父は、我が子が元気で仕事をばりばりやっていればそれでよいという人だ。昨年のちょうど今頃、ガンで入院し大手術をした。無事退院し、今のところ再発もしていないが、体も気持ちもすっかり弱々しくなっているのが悲しかった。まだ75歳。できるだけ長生きしてほしい。いまイタリア語を勉強しているというので、イタリア語会話の相手をする。父には、ちょっとでも暇ができたらこまめに帰ってきてほしいと言われる。実家には月に何十万円も仕送りをしてるけど、そんなことよりもなによりも、一緒に過ごす時間を増やすことがなによりも親孝行なんだろうなと思った。
東京に戻ってくる新幹線のなかで読書に夢中になったせいか、目が痛くて、頭痛がする。熱も出てきた。4月から8月までの「銀河の事情」に「回想記」をつけ終えたけれど、今日はこれ以上の作業はできそうもない。ホームページの再スタートはあと2、3日おあずけになりそうだ。でも気分は今日から新装開店。
[BGM]The Velvet Underground And Nico, "Peel Slowly And See." アンディー・ウォーホールのバナナのジャケットで有名なファースト・アルバム。バナナの皮をむきながら'Heroin'にくり返し耳を傾ける。
[読書記録]
中村とうよう『ラテン音楽入門』(音楽之友社)。弟の本を借りて帰りの新幹線のなかで読みふける。昭和37年にこういう本が出ていたとは驚きだ。

9月2日(木) 東野圭吾『週刊文春』連載小説、テーマは性同一性障害。
[日記]去年の傑作長編『秘密』広末涼子さんの主演で映画化される東野圭吾さん。『週刊文春』8月26日号から新連載小説「片想い」が開始されたのだが、今日発売の9月7日号(連載3回目)を買って驚いた。どうも性同一性障害(用語についてを参照)がテーマらしいのだ。主人公(男性)が10年ぶりに再会した大学時代のアメフト部のマネージャーがFTM(用語についてを参照)で、10年前とは全く違う姿になっていたという設定。性転換がテーマの小説はこれまでにもたくさんあったが、性同一性障害という言葉がエンターテインメント小説のなかで使われるのは初めてかもしれない。綿密な取材と正確な知識をもとに自由な想像力をはたらかせるのが、東野さんの作品の特徴。元マネージャーが自分のジェンダーアイデンティティー(用語についてを参照)を告白する部分もリアルな描写だし、今後どういう展開になるのか楽しみだ。
[BGM]りんけんバンド『謝』。沖縄のりんけんバンドの現時点での最新作。悪くはないがりんけんならこのくらいできて当たり前。やや沈滞気味か。
[読書記録]
鈴木孝夫『日本人はなぜ英語ができないのか』(岩波新書)。帰省前に読み差しになっていたもの。言いたくてもうまく言葉にできないでいたことを、全部書かれてしまった。参った。

9月3日(金) 「TSとTGを支える人々の会」のシンポジウムに参加した。
[日記]「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の公開シンポジウムに参加するために、5時半に表参道へ。会場の東京ウィメンズプラザはすぐに見つかった。初めての参加だったので見知らぬ人ばかりで心細かったが、久しぶりに会ったFTMのお友だちや渡辺美樹(=理沙)さん、それにスタッフとして忙しそうだった窪田理恵子さんが声をかけてくださったので少し安心する。開演前の会場はさながらこの世界の社交場といった雰囲気。あちこちで知り合い同士が寄り集まったり声を掛け合ったりしている。今回は公開シンポジウムなのでマスコミ関係者の数も多い。6時に開演。7時前後には誘っておいた会社帰りの芹沢香澄も現れる(今後は香澄という名で呼ばれるのはイヤだと言うので、銀河は本名で呼んでいるのだが、Web上ではとりあえず香澄としておく)。
テーマは「インターセックスとトランスジェンダー」。本で読んだりしてすでに知っている内容がほとんどだったが、ハワイ大学のミルトン・ダイアモンド博士(性科学の権威)やインターセックス(いわゆる半陰陽)の当事者の方の発言を生で拝聴できたのは貴重な体験だった。銀河の主治医(?)の針間克己先生(精神科医)のお話も聞くことができた。正確な知識もないままにあやふやなことを言うのは差し控えるが、印象に残ったことをいくつか書いておく。
(1)日本の場合、インターセックスは2000人に1人。トランスセクシュアル(用語についてを参照)の推定値(5000人から10000人に1人)よりもはるかに多い(ダイアモンド博士の発言より)。だれもがインターセックス児の親になる可能性があるということだ。
(2)自分の肉体を改造することこそがアイデンティティーの支えになるトランスセクシュアルに対し、多くのインターセックスは(典型的な男や女にするための)手術を好まないと言う(これもダイアモンド博士の発言から)。多様な性のあり方をありのままに受け止めることのできる社会の構築と、そのための教育が必要とされているのと同時に、私たちひとりひとりの意識も変えていかなくてはならない。この点に関しては(あくまでも私見だが)、多くのTV/TG/TS(用語についてを参照)はかなり保守的だ。
(3)インターセックスのみならず、トランスセクシュアル当事者にとっても緊急に確立すべきなのは「性の自己決定権」。このことは話し手の方々のほとんどが触れられていた。
インターセックスについてくわしく知りたい方には、今回の話し手のひとりでもあり、インターセックス当事者としてPESFIS(日本半陰陽者協会)という自助グループの世話人をなさっている橋本秀雄さんの2冊の著書、『男でも女でもない性』(青弓社)と『インターセクシュアルの叫び』(かもがわ出版)を強くお勧めする。またWeb上にも、Intersex CollaboratedIntersex Society of North AmericaThe Intersex Voicesといった当事者によるホームページがあるので、ご参照ください。
シンポジウム終了後は常連参加者の方々とともに、近所の居酒屋で二次会。渡辺美樹さんや初対面の森本エムさん(「TSとTGを支える人々の会」運営委員)とお話をする。
初めて参加した自助・支援グループ「TSとTGを支える人々の会」。パルタイでも主義者(何主義だ?トランスジェンダー主義か?)の集まりでもなかった(ほっと安心)。でも無茶苦茶緊張して行ったのにちょっと肩すかし。うーん、言ってもいいのかな。もっとばりばりにパスしている(用語についてを参照)TSの人がたくさん集まっているのかと思っていた。実際はまだまだ発展途上の人たちが大多数。だけど考えてみれば自助・支援グループを必要としているのはそういう人たちだし、パスしてしまえばTS同士で集まっても仕方がない。当たり前か。で、ひとことで言えば(怒らないでね、正直な感想だから)、ここはTG/TSのための「エリザベス」(趣味で女装を楽しむ人たちのための女装ルーム)なんだなって思った(悪い意味で言っているのではありませんので)。特に二次会のノリは、ここは「エリザベス」だって言われても区別がつかないよ。結局、みんなひとりでは寂しくて不安だから、仲間と情報を求めてどこかに帰属しようとするんだ。で、それは(自分さえしっかりしていれば)そんなに悪いことではないのかもしれない。
これだけ大規模な会の運営が一部の人たちの善意と犠牲に支えられているのには感服した。でも、そろそろなんとかした方がよいと思うのだが(法人化するとか)。次回は9月15日に非公開(当事者のみ)の集まりがある。また行ってみようと思う。銀河になにができるのか、どう関わっていけばよいのかは、これからゆっくりと考えることにしよう。
[BGM]Siti Nurhaliza,"Pancawarna." 大好きなマレイ歌謡。マレーシアの若手ナンバーワン女性歌手の新譜。天才的な歌唱力に脱帽。

9月4日(土) いよいよ新装開店です。
[更新情報]サイト名を「銀河の果てまで Just Another Transsexual」に改め、再スタート。
[日記]今日から再スタートです。銀河の好きな音楽や文学などの趣味的な内容と、トランスセクシュアル当事者及び関心を持ってくださる方への情報発信の2本立てで行きます。
メインはこれまで通り「銀河の事情(日記と更新情報)」(このページです)。原則として毎日更新していきます。8月までの日記は現時点での回想記を書き加え、「トランスジェンダー銀河組」時代の日記(1999年4月から8月まで)としてまとめました。
リアルタイムでお読みになった方ももう一度目を通されると、一粒で二度おいしい(?)かもしれません。
趣味的な内容に関しては、今のところ
東野圭吾全作品解説を用意できただけです(それでも資料的には充実していると自負していますが)。近々、音楽関係のコンテンツをアップロードする予定ですし、将来的にはプロレス/格闘技を語るページなんていうのができればいいなあと思っています。
トランスセクシュアル関連のコンテンツとしては、型どおりではありますが
トランスセクシュアル関連の用語についてを作成してみました。結構力を入れて書きましたので、参考にしていただけると幸いです。資料室(トランスセクシュアル関連ドキュメント)にはぜひお読みになっていただきたい基本文献を収納していく予定です(「性同一性障害」に関する答申と提言は国内で唯一の性同一性障害の診断と治療のガイドラインですので、まだお読みになったことがない方はこの機会にぜひ目を通していただきたいと思っています)。あとはこれまでにあったファイルをトランスセクシュアルとして生きるために(実用的ガイド)TV/TG/TSをめぐるエッセイに振り分けただけですが、前者では特に当事者のための正確で役に立つ情報の発信を心がけていきたいと思っていますし、後者では思いついたことや疑問に感じたことを正直に発表していくつもりです。
大慌てでアップロードしたのでまだまだ中途半端ですが、徐々に内容を充実させていきます。長い目で見てくださいね。そのうち、トップページももっと見やすくして、写真を掲載したりもしますから。体裁が整ってきたら掲示板も復活させます。よろしくお願い申し上げます。

9月5日(日) 東京タワーの蝋人形館でオフ会。
[日記]東京タワー蝋人形館が面白いらしいという噂は前々から耳にしていたものの、ひとりで行く気には到底なれず、そのことが頭のどこかに魚の骨のように引っかかったままだった。たまたま窪田理恵子さんのホームページの掲示板がプログレやジャーマンロックの話題で盛り上がっていたとき、ぽんぽんさんが東京タワーの蝋人形館にマニアックなミュージシャンの蝋人形があるという書き込みをされた。それを機に話がトントン拍子で進み、東京タワーの蝋人形館でオフ会を開催する運びになったのだ(どんな運びだ)。
午後1時に地下鉄神谷町駅近くのPRONTOに集合。メンバーは窪田理恵子さん、ぽんぽんさん、ノブさん(ネイティヴの女性。ノブさんのホームページの8月14日の日記におひとりで蝋人形館に行ったときの話が書かれている。ザ・スミスのホームページも主宰されている)、タクさん(理恵子さんの大学時代のご友人、男性)、そして銀河の5人。理恵子さんが他の全員とお友だち、ぽんぽんさんと銀河が9月3日の「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」で1回会っている以外は、みんなお互いに初対面。でもすぐに打ち解けて仲良くなった。というのも、ぽんぽんさん、ノブさん、タクさんが持ち寄ったお宝グッズでいきなり盛り上がったから。20年近く前の『Fool's Mate』(当時はユーロロックマガジンと銘打っていた)だとかELP東京公演のサイン入りパンフレット。掲載されている記事をまわし読みしながら、ドイツやフランスのプログレの話をする。ほどよくできあがったところで、いよいよ東京タワーへ。展望台とかには見向きもせずにいきなり3階の蝋人形館へ。
エントランスを入ってすぐの有名人とかの蝋人形のセクションで軽く肩慣らし。毛沢東やジェーン・フォンダの蝋人形はパスしている(蝋人形だとはバレない)(用語についてを参照)けれど、他の蝋人形はリードされている(蝋人形だとバレる)(用語についてを参照)なんてトランス業界用語で軽口をたたきながら、いよいよ「インロックブース」と名づけられたロックミュージシャンのセクションへ。入り口に飾ってあったのがいきなりGURU GURU(ドイツのプログレバンド)のポスターやグッズのコレクション。凄過ぎ。最初の蝋人形は東京タワーの守り神というキャプションのついたフランク・ザッパ(いきなりこれだ)。関連お宝グッズに囲まれ、ドン・プレストン(マザーズ・オブ・インヴェンションのドラマー)の頭をなでている。ロバート・フリップキング・クリムゾン)、トニー・アイオミ(ブラック・サバス)、リッチー・ブラックモアディープ・パープル)、ジミー・ペイジ(レッド・ツェッペリン)といった少々クセのある人選が続くなかで、特に感動したのが(王貞治風の)一本足奏法でフルートを吹くイアン・アンダースンジェスロ・タル)と巨大な時代遅れのシンセを演奏する(ナイフは突き刺してなかったけど)キース・エマースン(ELP)が並んで展示されていたこと。そう、あれは1972年の7月。当時鹿児島の某高校の1年生だった銀河は、夏休みを利用して生まれて初めてのロックコンサートを体験するために、夜行列車に揺られて上京したのだった。1学期の終業式が終わるとその足で西鹿児島発の寝台特急に飛び乗る。台風の影響で列車が遅れ、間に合わないんじゃないかと冷や冷やしたのを昨日のことのように覚えている。7月19日(水)が新宿厚生年金会館でのジェスロ・タル、その週の週末が後楽園球場でのエマースン・レイク・アンド・パーマー(ELP)。思い出すたびに、あの感激がよみがえってくる。それがここでは並んで展示されているのだ。で、よく見ると、なんとイアン・アンダースンの背後にはその来日公演のポスターが貼ってある。思わず「これ、私、行った!」と叫ぶと、理恵子さん、ぽんぽんさん、タクさん、ノブさんから、戦争中の話をしはじめたおばあちゃんを見つめるような視線が。そうだよね、他の方々にとっては紀元前のできごとなんだ。
ロックミュージシャンの後半は、お待ちかねのジャーマンロックのセクション。クラウス・シュルツ(タンジェリン・ドリーム)やファウストのメンバーはわかる。でもね、元Ash Ra TempelのManuel Gottsching(最近、東京タワー蝋人形館主催で来日コンサートをやったらしい)だとかGURU GURUの元ドラマーのMani Neumeierとか言われても、だれも知らないよね、ふつう(第一、読み方もわからない)。ここは超マニアのタクさんの解説を拝聴する。
それにしても、この蝋人形館、展示されている人形の半分がロックミュージシャン。さらにロックミュージシャンの半分はドイツ人(!)。ロックミュージシャンと言ってもストーンズもいなければパンクもない。ジャーマンロックだって、有名どころのクラフトワークもホルガー・シューカイもいない。経営者の趣味らしいのだが、この奇天烈なバランスの悪さ。うれしすぎて涙が出てきた(でもここって一応、ふつうの家族連れとかが来る観光名所だよね)。
蝋人形館を出るとすぐのところにあったのが、妙なおみやげショップ。ジャーマンプログレとかのCDやTシャツ、工作舎の売れ残った本やへんてこなおもちゃが無秩序に並ぶ。ここでも5人で盛り上がる。そのあとは2階の喫茶店でお茶を飲みながら、超マニアックな音楽話。ノブさんとたくさんの会話には濃すぎてだれもついていけない。さらに渋谷の「くじらや」(とても美味しい鯨料理のお店)に移動して夕食をいただきながら、延長戦。あまりに盛りだくさんな話題でいちいち全部は書ききれない。
それにしても、5人でワイワイ騒ぎながら蝋人形を楽しみ、濃い音楽の話ができてよかった。この気分、しばらくは尾を引きそう。オフ会を企画してくださった窪田理恵子さん、楽しい時間を共有してくださったぽんぽんさん、ノブさん、タクさん、どうもありがとうございました。次はやっぱりダモ鈴木オフですか(笑)。
P.S. 東京タワー蝋人形館の内部の写真は、空っぽな怪奇骨董音楽箱というサイトのここにあります(今とは内部の構成が異なるようですが、イアン・アンダースンの一本足奏法と上記の来日公演ポスターを見ることができます)。このサイトにはジェスロ・タルのホームページもあるようですね。
[BGM]Jethro Tull,"Thick As a Brick." 今日の気分はやはりこれ。日記で触れている来日公演の時点での新譜。1曲が40分。ケルト風味のプログレ。日本では最も過小評価されているロックバンドのひとつだと思う。英米ではジェスロ・タルの前座がELPなんだよ。

9月6日(月) 今日から新学期。
[日記]新学期が始まった。月曜日は午前中に90分授業を2コマ、夜に現役高校生向けの90分授業を1コマ。空き時間が5時間もあるが、自宅から片道20分の校舎なので、いったん帰宅して休息をとる。午前中の浪人生のクラスの生徒たちは1学期のときよりもさらに熱心。9月になりゴールの存在を身近に感じ始めたのだろうか。夜のクラスは受講者が1学期の倍近くになっていた。近年18歳人口の急激な減少により大学も以前に比べてずいぶん入りやすくなっている。高校3年の4月からではなく、夏休みを終えた9月から本格的に受験勉強に取りかかるという現役生が多くなってきているせいもあるだろうが、1学期と夏期講習の授業でがんばってきた(生徒がではなくて銀河がだよ)成果が現れてきたのかなと、少しうれしく思う。そういうこともあって、今日は全般的にハイな気分。どの授業も90分しゃべりまくり、教室中を飛びまわった(ホントに)。ついでに教壇の上で転んでしまった。
[BGM]Gene Clark,"Gene Clark." The Byrds出身のGene Clark、1971年発表の代表作。ジャンルはカントリーロック。高校生のときの愛聴盤。Gene ClarkもプロデューサーのJessi Ed Davis(LAスワンプの名ギタリスト)も今では故人。
[読書記録]
淡島寒月『梵雲庵雑話』(岩波文庫)。これはおもしろかった。西鶴再評価のきっかけを作った明治の文人で、名利を求めず趣味に生きた自由人。該博な知識を持ちながら文章を書くなどという野暮な作業を嫌い、生前には一冊の本も著さなかった。没後友人の手でまとめられた本書は、この8月に文庫本化されたばかり。幕末から明治にかけての世相・風物についての記述が興味深い。

9月7日(火) iBookとG4のこと。
[日記]日経BP社主催のWORLD PC EXPO 99が今日から幕張メッセで開幕。アップル・ジャパンiBookの販売を10月初旬から開始すると発表した。価格は198,000円。うーん、微妙だなあ。AirPortベースステーション(38,000円)とAirPortカード(12,800円)を足すと25万円強だものね。でも、AirPortの販売開始は12月の予定。AirPortはIEEE(米国電気電子技術者協会)が策定中の国際標準仕様(IEEE802.11b)の草案に準拠した製品として登場したのだが、日本でIEEE802.11bが正式認可されるまでは発売されないということらしい。AirPortを待たずにまずはiBookだけ手に入れるという選択肢もあるんだろうけど、インターネットに接続したまま家の中を持ち歩くってのがやりたいのになあ。すごく欲しいけど、AirPortの発売まで待とうか。そのころにはMac OS 9をプレインストールしたヴァージョンが出るんだろうしね。ところで、WORLD PC EXPO 99に行かなくてもiBookの実物が見られる場所がある。有楽町西武だ。晴海側の入り口のウィンドウのマネキンの横にiBookがディスプレイされているらしい(MacWire Onlineここを参照)。数日中に見てこようかなと思う。
一方のPower Mac G4。パフォーマンス向上は従来の2倍から30倍で、スーパーコンピューター並みの性能だという話なのだが、あまりにもすごすぎて見当がつかない。シルバーとグレーとクリアのデザインは気に入った。あのフォルムにはG3のブルーとホワイトよりもずっと似合う。これだったら「まともな神経の男」にもぴったりだよね(8月10日の日記を参照)。でも、「史上最大の作戦」のテーマ音楽をバックに戦車4台に囲まれたCMは、はっきり言って趣味が悪いと思う。アメリカ人はああいうのが好きなのかなあ。人殺しの道具はキライです。
[BGM]Assagai,"Assagai." 南アフリカのジャズ・ミュージシャンDudu Pukwana(サックス奏者)を中心にロンドンで結成された、南アとナイジェリアの混成グループ。71年の発売当時は、ガーナ出身者のグループOsibisaとともにアフロ・ロックなるキャッチフレーズで日本でも結構評判になった。いま聴くとザイールのルンバロックを基調にしたアフリカ・ポピュラー音楽の傑作。とくに'Hey Jude'は無数のビートルズ曲のカヴァーのなかでも最高級の出来。

9月8日(水) 広島大の学園祭で「性同一性障害に関するシンポジウム」。
[日記]水曜日は東京に隣接する某県の校舎に出講。午前中に90分授業を2コマ、夜に現役高校生向けの90分授業を1コマ。あまり面白味のある町でもないので、5時間もある空き時間はもっぱら講師室のすみのソファーで読書をしたり、仮眠をとったり。
ところで、11月13日(土)、14日(日)に開催される広島大学医学部歯学部学園祭「霞祭」で「性同一性障害(用語についてを参照)に関するシンポジウム」が実施されるらしい。医学部の有志の学生さんたちが自主的に企画したものだそうで、シンポジウムの目的は、「 GID(性同一性障害)について正しい知識と認識を広めること」および「 少しでも多くの人にGIDに苦しむ患者さんに対して暖かい理解をしてもらうこと」の2点だという。将来お医者さんになる若い人たちにGID(性同一性障害)に関心を持ってもらえるのは、本当にうれしいことだ。近くにお住まいの方、お時間に余裕のある方は、ぜひお出かけになってはいかがだろうか。日帰りが可能なら、銀河も行ってみたいのだが。くわしい内容については窪田理恵子さんのホームページここを参照してください。
[BGM]Salif Keita,"Papa." マリ出身のアフリカ・ポピュラー音楽を代表するアーティストの4年ぶりの新作。いつもより抑え気味の歌唱と明快なリズム。クラブミュージックのファンに聴いてもらいたい一枚。
[読書記録]
鶴岡真弓『図説 ケルトの歴史 文化・美術・神話をよむ』(筑摩書房新社)。近くの本屋の新刊コーナーでたまたま目にし、買ってみた。写真が豊富で楽しい。ヘレニズム(古代ギリシア)とヘブライズム(ユダヤ・キリスト教)に起源を持ち、絶対神や真理に支配されるヨーロッパの中心文化に対し、ケルト文化の特徴は「変化という不確かさ」にあることが視覚を通して理解できる。

9月9日(木) 東野圭吾さんの「片想い」を読みながら考えたこと。
[日記]木曜日は東京に隣接する某県の校舎。水曜日とは違ってかなりにぎやかな町。午前中に90分授業を2コマこなせば仕事は終わり。
今日発売の『
週刊文春』9月16日号を買う。連載4回目の東野圭吾さんの小説「片想い」。9月2日(木)の日記にも書いたが、主人公(男性)と10年ぶりに再会した大学時代のアメフト部のマネージャーがFTM用語についてを参照)という設定。先週号から、元マネージャーの告白と主人公の心理描写がつづく。銀河の数少ないFTMの友人たちから聞いた話と重なる部分が多くリアルだ。男の声を作るために声帯を金串で傷つける話も耳にしたことがある。東野さんのこれまでの小説と同じように、綿密な取材による正確な知識に裏打ちされていることがうかがえる。読み進むうちに胸が痛くなる。
「もしも男の身体が手に入るなら、オレはどんなことだってする。命を切り売りしたって構わない。オレは、この身体を作った神様のしくじりを訂正するんだ」。そうだよねって思った。97年の3月に女性ホルモンを使用しはじめたとき、銀河は「健康を損なってこれで命を失うことになってもかまわない」と思った。「何が起こっても後悔しない」と思った。もちろん、定期的に血液検査はしているしメンタルクリニックにも通っている。でもね、正直に言えばそれらはアリバイ作りに過ぎない、胸を張ってホルモンを使うための。健康で長生きできればそれが幸せだなんて思わない。本当に欲しいものなら、何を犠牲にしても手に入れてみせる。トランスする
用語についてを参照)って、そういう覚悟がなければ絶対に不可能だ。ましてや、これから自分の体にメスを入れようとしているんだから。
ここまで書いているうちに気がついたことがある。これまで「ホルモンを使いたい」とか「手に入るルートを教えてほしい」という相談や質問を何度となく受けてきた。でも、いつも冷たく無視したり、腹を立てたりといった対応しかしてこなかった。以前にとある女装系雑誌から原稿を依頼されたときにも、安易にホルモンを使おうとする風潮に批判的なスタンスの文章を書こうとした。自分もホルモンを使っているのに、なぜ他人が使おうとするのに文句を言いたくなるのか、自分でも不思議だった。でも、今はっきりわかった。だってみんな、命を懸けてないんだもの。命を懸けるつもりがないんだったら、ホルモンを使わなくったって、別の方法で性別違和(用語についてを参照)と折り合いをつけていくことができるはずだ。そういえば、たったひとりだけホルモンを斡旋してあげようと思ったお友だちがいた(すぐに本人が自分でホルモンを注射してくれる近所の病院を探し出してきたけど)。なぜ彼女にだけは親切にしてあげたのかなって、ずっと思ってた。でも答えは明白だ。彼女は「病院でホルモン注射を打ってもらうたびに、いまこの瞬間に死んでも仕方がないと覚悟している」と言っていた。そうだよねって思った。命懸けだったから、たぶん彼女にだけは仲間意識を強く感じたのだと思う。

9月10日(金) 現金10万円が当たった同僚にお昼をごちそうになった。
[日記]金曜日は自宅から片道10分強の至近距離にある校舎。都会の繁華街。午前中に90分授業を2コマで1週間の仕事はおしまい。仲良しの同僚の講師(女性)と一緒になるので、とあるブランドのお店で2人でお買い物を楽しみ、お昼をいただくのが毎週の習慣。ところで、いつも利用している駅隣接の百貨店ではお買い物をした金額に応じて会員カードにポイントが貯まっていくのだが、銀河はカードを作るのも面倒なので自分の分も彼女のカードのポイントにしていた。それがこの8月にカード会員全員を対象に貯まったポイント数に応じての抽選があり(つまりポイントが多ければ当たる確率も高くなるという仕組み)、なんと彼女に現金10万円が当たったというのだ。彼女のポイントには銀河もかなり貢献しているので、今日はスペイン料理をごちそうしてもらった。おいしかった。
銀河は「くじ」の類に当たった記憶がまったくない(食あたりの経験はあるけど)。ギャンブルは大嫌いだから(高校生のときに一度だけパチンコをしたことがあるのを除いて)やったことがない。でも、人がなにかに当たったっていう話を聞くのはイヤじゃない。純粋にすごいなあって思える。そういえば長*さん(銀河の彼氏)は数日前に「ルノアール」(喫茶店)の抽選で携帯電話が当たった(一緒に応募した銀河は当然なにも当たらなかった)。資金繰りで苦労していた先月は、パチンコで10数万円儲かって、それで事務所の家賃を払った。すごいなあ。でも、お薬を売って儲かれば、もっといいのにね(長*さんは薬屋さんの社長さん)。
P.S. 昨日の日記に補足。「命懸け」って、命を粗末にするのとはまったく違うからね。
[BGM]Van Morrison,"Astral Weeks." アイルランド出身の魂の歌手、68年のワーナーブラザーズでのソロ第一作。バックはジャズ畑のミュージシャンが中心。R&Bっぽいヴォーカルとケルト風味の曲調、そして演奏はジャズ。不思議な味わいのアルバムだ。


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