2000年1月中旬の日記

1月17月まではお休みだったので、小説を買い込んで読みふけっていました。18日からは12日間連続で休みなしの仕事が始まり、大変な状況です。体力勝負ですね。14日に発表された第122回芥川賞をMTFTSの藤野千夜さんが受賞されたのが印象的なできごとでした。(2000年1月21日記)

1月11日(火) あべメンタルクリニックへ。
[日記]長*さん(銀河の彼氏)と新宿東口の「三国一」(手打ちうどんの店。サラダうどんが美味)の本店でお昼をいただいた後、営業活動で忙しい長*さんといったん別れ、公共料金その他の支払いへ。
午後3時過ぎに、浦安のあべメンタルクリニックへ。今日が3回目。連休明けだったせいか待合室は満杯。Yちゃん(以前、ニューハーフ業界で有名だったお友だち)(5月25日の日記を参照)がいるのに気がついたが、ここで話しかけるのも悪いような気がしたので、目で挨拶を交わすだけにしておく(元気そうだったので安心した)。
銀河の順番がきたのは午後5時過ぎ。まずは阿部輝夫先生に、職場でのトランスが公認されたことを報告し、性同一性障害(用語についてを参照)の診断書(ここを参照)を書いていただいたことに対して、お礼を申し上げる(12月7日の日記12月14日、15日の日記を参照)。阿部先生から「年末年始はどう過ごしましたか」と訊かれたので、1日、2日と泊まりがけで長*さんの自宅に招かれ、長*さんのお母様を交えて3人でお正月をお祝いしたことを話す。阿部先生は「理想的な状況で、すばらしいですね」とおっしゃってくださる(もちろん、すばらしいのは銀河ではなくて長*さんの方だと、銀河は思う)。その後は、SRS(用語についてを参照)に対する両親の同意(絶対に必要というわけではないが、あると有利らしい)を得られるかどうかという問題に関連して、子供の頃からの父母との関係や、他の家族のことをくわしく尋ねられる(ここら辺の具体的な内容はいくらなんでも公開できませんね)。銀河の方からは、SRSを受けることを前提にした場合、いまのうちに最優先でやっておくべきことは何かを質問する。「あなたの場合はすっかりできあがっているから、なんといっても改名の申請でしょうね」という答え(改名申請用の診断書は阿部先生が書いてくださるそうだ)。最後に、A4の用紙に3枚ほどの分量で「自分史」を書くという宿題が出される(必ずしも次回までに書かなければならないというわけではないけど)。「自分史」に書くべき事項が印刷されているプリントをいただいて、今日は終わり。時間は20分ほどだった。
新宿に戻り、長*さんの事務所へ。昨日が鏡開きだったので、長*さんのお母様がおもちの入ったぜんざいを作ってくださる(とても美味しゅうございました)。その後、長*さんと2人で「嵯峨野」(新宿西口にある行きつけの居酒屋さん)へ。年が明けて初めてだったので、「嵯峨野」のママさんに新年のごあいさつ。今日の阿部先生のお話を受けて、長*さんにちょっとシリアスな相談をする。長*さんはきちんと筋を通すこと(「SRSに関しては、どんなに時間がかかっても(他の病院ではなくて)埼玉医大で受けることを第一に考えること」「改名や戸籍の訂正に向けて準備を始めること」「SRSについても長*さんとの関係についても、できるだけ両親の同意が得られるように努力すること」)を望んでいる。銀河の問題はもはや銀河だけの問題ではなくて長*さんの問題でもあるのだから、長*さんの希望は何よりも尊重したい。食後は「シエン」(歌舞伎町の24時間営業の喫茶店)でコーヒーを飲んでから帰宅。
[BGM]ムーンライダーズ『ディスカヴァード』。前作『月面着陸』は1曲を除いてすべての曲のプロデュースを、曲ごとに、高野寛、桜井秀俊、斉藤和義、ASA-CHANG、テイ・トウワ、cobaといった後輩ミュージシャンたちに任せた異例のアルバムだった。所属レコード会社を移籍して初めてになる今作は、『月面着陸』とまったく同じ曲(曲順も同じ)をオリジナル・リミックスと称して、自分たちのプロデュースで聴かせる。実験的な側面もあった前作も好きだったけど、こちらのシンプルさの方が楽曲そのもののよさが素直に浮かび上がってくる。個人的にくり返し聴きたくなるのは、やっぱりこちらの方だな。

1月12日(水) 東京は初雪、小説を大量に買い込む。
[日記]午前中はずっと睡眠。長*さんからの電話で目を覚ますと、窓の外では雪が降っている。東京では今冬初めての雪だ(半分は雨みたいな雪だったけど)。
長*さんと新宿でお昼をいただき、お茶を飲む。今日は人と会う予定が何件かある長*さんと午後3時に別れ、新宿と自宅近くの書店で前々から読みたかった小説を何冊も買い込む。うち1冊は、絶対に読むまいと心に決めていた作家の本(この作家の言動やふりまく話題から判断して、銀河としては読んだら間違いなくハマるのが目に見えているんだけど、ハマると抜け出せなくなりそうで怖いから。いったいだれでしょうね。女の人です)。勢いで買ってしまったけど、やっぱり読まないかもしれない。もしも読んだら
[読書記録]で報告しますね。
[BGM]Don Byron,"plays the music of Mickey Katz." ニューヨークの実験的ライヴハウス/スタジオ「ニッティング・ファクトリー」を拠点に活動するジャズ・ミュージシャン、ドン・バイロンの93年作品のモチーフはクレツマー(クレズマー)。クレツマーというのは今世紀前半の東ヨーロッパのユダヤ系の放浪楽士たちのブラスバンド音楽。1980年代になって、ニューヨークの前衛ジャズ・ミュージシャンたちがこの魅力的な音楽を再発掘し、クレツマー的要素を取り入れたジャズを演奏しはじめる。それだけでなく現代化されたクレツマーそのものを演奏するグループ(クレツマティクスなど)も現れた。そうした流れのなかの1枚がこのアルバムなのだが、この盤をきわめてユニークで音楽的にも面白いものにしているのは、冗談音楽の元祖スパイク・ジョーンズのシティ・スリッカーズ出身で1950年代にクレツマーを取り入れたパロディー音楽を演奏して人気を博していたミッキー・カッツの音楽(当時のヒット曲をクレツマー風のアレンジで演奏したりしていたらしい)を取り上げている点。クレツマーそのものではなくクレツマーのパロディーを自分流に解釈して演奏するという二重のねじれ方によって(たとえて言うなら、喜納昌吉ではなく久保田真琴の「ハイサイおじさん」をカヴァーするようなものか、違うかもしれないけど)、ここには実に活き活きとして楽しい現代ジャズが出現している。この盤が気に入った方は、梅津和時を中心とするプロジェクト、ベツニ・ナンモ・クレズマーの『アヒル』と『ワルツ』も必聴。
[読書記録]天童荒太『家族狩り』(新潮社)。話題作『永遠の仔』(99年)のひとつ前の95年の書き下ろし作品(山本周五郎賞受賞)。『永遠の仔』同様、親子関係がテーマなのだが、ここでは親による子の虐待よりもむしろ子の家庭内暴力に焦点が当てられている。陰惨な殺人シーンのリアルな描写が個人的にはかなりキツかったが、巧妙に張られた伏線によって事件の意外な真相が次第に明らかになっていく展開や、クライマックスの映画的な描写など、重たいテーマを上手にエンターテインメント作品へと昇華させている。最後に現代の家庭のあり方に対する筆者なりの2つの解答がほのめかされている。

1月13日(木) 何もないふつうの一日。
[日記]夜7時から、長*さんと一緒に取り組んでいるネットワーク・ビジネスの会合(会合の主催者はケント・ゲルバート)に出席。終了後、近くにある(長*さんの会社の顧客でもある)居酒屋さんで遅い夕食をいただく。その後、長*さんの事務所でグダグダ過ごしてから帰宅。
1月11日に阿部先生(あべメンタルクリニック)から言われた「自分史」の宿題や、18日からの授業の準備に取り組んでいるうちに、あっという間に朝。ベッドに入り、今度は1月22日の「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の催しでスピーチすべき内容を考え始める。本を読む暇もなく、いつの間にか眠りに落ちる。
[BGM]Taj Mahal,"Senor Blues." タジ・マハールという黒人ミュージシャンは、米国黒人音楽シーンのなかではかなり特異だ。それは彼がジャマイカ出身の父親(母親はゴスペル歌手)を持ち、ニューヨークのジャマイカン・コミュニティーで生まれ育ったという事実と関係があると考えてかまわないだろう(そう言えばこの芸名にしたってカリプソ・シンガー的だ)。プロとしての音楽経歴のスタートはブルースというよりもむしろ、フォーク・ソング寄りのものだった(ライ・クーダーも在籍していたライジング・サンというグループだ)。タジが最もカラフルな音楽を演奏していたのが70年代。レゲエやカリプソといったカリブ海の音楽やアフリカ音楽の要素をミックスした独自の音楽を展開していた("Music Fuh-Ya"や"Evolution"といった名盤を生んだ)。そのタジが90年代に入ってからは米国黒人音楽の本流とも言うべきブルースやR&Bへと「回帰」し、"Dancing The Blues"(93年)、"Phantom Blues"(96年)、そしてこの"Senor Blues"(97年)という三部作を発表した。ブルースやR&Bの名曲を原曲に忠実に再現する。ただそれだけだ。でも本来ブルース・ミュージシャンではないタジが演奏しうたうブルース、微妙な違和感が聴き手の身体に心地よくひっかかる。少なくともエリック・クラプトンの演るブルースのような除菌されてしまったつまらなさは、ここにはない。言ってみれば、除菌はしたものの、何か別の正体不明な菌がとりついてるって感じかな。変な喩えでごめん(笑)。
[読書記録]本多孝好『MISSING』(双葉社)。小説推理新人賞受賞作の「眠りの海」を含むこの短篇集は、作者のデビュー作。デビュー作でありながら宝島社の『このミステリーがおもしろい! 2000年版』で国内部門10位にランクされた(ちなみに1位は天童荒太『永遠の仔』、2位が東野圭吾『白夜行』)。どの作品も生と死というテーマを、ほどよいミステリー仕立てで読ませる。読者をぐいぐい引き込むまでには至らないが、バランスがとれていてサクサク読める佳作。ただ、短編だと読み足りない感じがするのも事実。この作者が長編小説を書いたときに、また注目してみたい。

1月14日(金) 芥川賞にMTFTSの藤野千夜さん。
[日記]第122回の芥川賞(正確には芥川龍之介賞)と直木賞(正確には直木三十五賞)の発表があった(asahi.comここを参照)。芥川賞は藤野千夜さんの「夏の約束」(『群像』12月号)と玄月さんの「蔭の棲みか」(『文學界』11月号)。直木賞はなかにし礼さんの『長崎ぶらぶら節』(文藝春秋)。
芥川賞を受賞した藤野千夜さんはMTFTS
用語についてを参照)。なんのご縁もないけれど、おめでとうございます。受賞作は未読だけど、96年に発表された『少年と少女のポルカ』(ベネッセ)は、ゲイの男子高校生と、玉抜きをしホルモン注射を打ちスカートをはいて高校に通うMTFと、電車に乗れなくて高校に通えなくなった女の子の3人が主人公の佳作。このところ書店の棚から消え去っていたけど、今回の受賞をきっかけにおそらく刷り増しされるでしょうから、書店で見かけたらぜひ購入して一読されることをお勧めします。
直木賞の方は、銀河の大好きな
東野圭吾さんが落選したのは残念(昨年に引き続き2回目の落選です)。真保裕一さんや馳星周さんといった有力候補を抑えて、なかにし礼さん(作詞家)が受賞したけれど、有名人好みの直木賞らしい選考かもしれません(でも井上ひさし以外の選考委員は総とっかえした方がいいと思いますけどね)。
ちなみに、純文学(いまどき純文学ってのも変だけど)が対象の芥川賞は、作品主体の選考なので、デビュー作でいきなり受賞する作家(例えば村上龍さん)もいますし、その後目立った活躍もなく消えていく受賞者もたくさんいます。一方、大衆文学が対象の直木賞は、その作家が今後も流行作家として活躍していけるだけの資質を持っているかどうかが重視されますので、ある程度キャリアのある作家やすでに人気作家の仲間入りをしている人が選ばれることが多いようです(例えば昨年の宮部みゆきさんや桐野夏生さん)。
[BGM]INU『メシ喰うな』。せっかくだから芥川賞受賞作家のCDを。町田町蔵こと町田康。伝説のパンク・バンドINUのヴォーカリストとして77年頃から活動を開始し、81年発表のこのアルバムでデビュー。その後ソロになり、町田町蔵の名で何枚ものCDをリリース、そして現在は本名の町田康名義で活動中。このデビュー作は当時のパンク・ロック・シーンのなかでは異彩を放っており、リアルタイムで聴いたときには少々違和感を覚えたものだった。というのも、破壊的なサウンドと単刀直入な歌詞で内面のなにかを外に向かって放出するバンドたちとは違い、歯切れのよい言葉の洪水で聴き手の脳内麻薬を生成させるような音楽だったからだ(ある意味、ラップ以上にラップ的と言えるだろう)。小説家「町田康」を知る人には、あの独特の文体がそのまま音楽になったようなものと言えばわかってもらえるだろうか。デビュー作を何回も聴き直してみると、後年作家活動に進出したのも必然なんだなと素直に納得できる。

1月15日(土) 今日から大学入試センター試験。
[日記]今日と明日は大学入試センター試験。今日は外国語と地歴と数学、明日は国語と理科と公民だ。一般社会人のなかにもセンター試験マニアがいるようで、試験翌日に各新聞に掲載される問題に取り組んでみたりする人も多いようだ(銀河も数学だけは趣味で毎年トライしてみる。高校のときに習ったはずのことをだんだんと忘れていくのがしゃくにさわるが)。ところで銀河の方は、この時期は毎年まったく仕事から解放される。バブル期のように試験当日に必要以上に大勢の講師を集め、お祭り騒ぎで解答速報を作成するなんてことがなくなったからだ(ここ数年はほんの数人の講師で解答速報を作成する)。一方、大変なのは事務局サイドの職員。月曜日に生徒たちが提出する自己採点結果をコンピューターに入力し、テレビの速報番組に間に合うように各大学ごとの合格基準ラインを発表しなければならないからだ。
昨日、芥川賞を受賞された藤野千夜さんに関する記事を、今朝の朝刊各紙でチェックしてみた。特に
MTF用語についてを参照)だということには触れていない朝日新聞と、戸籍上は男性だが小学生のときに性別違和(用語についてを参照)を感じ始め云々という説明を掲載していた日刊スポーツ、同様の記述の読売新聞、毎日新聞は合格点。ひどいのは「女装作家」なる大見出しを掲げ、藤野さんの外見を揶揄するような記述が見られたスポーツ報知。藤野さんが可哀想だ。「実は男」という大見出しのスポーツ・ニッポンもちょっとなあ。個人的にはこの2つのスポーツ紙は今後絶対に買わないことにした(もっともこれまでの人生で、スポーツ報知を買ったことは一度もないし、スポニチだって数回しかないけどね)。もちろん、長*さんにも買わせない。
[BGM]The Doors,"L.A.Woman." うーん、ドアーズねえ。有名どころのロック・ミュージシャンのなかで、ドアーズ(=ジム・モリスン)がいちばん苦手だ。夭折したカリスマ、ジム・モリスン。熱狂的な信者は多い。でも、この人のヴォーカルってあんまりロックを感じさせないんだよね。すごくわざとらしくて芝居がかっている感じがする。ドアーズのアルバムのなかでなんとか聴けるのが、バックの演奏がしっかりしてる71年のこの盤(ジム・モリスンの遺作だ)。でも、ジム・モリスンのヴォーカルがなければもっといいのにって思ってしまう。反感を買うのは承知で言わせてもらうけど、ドアーズ(=ジム・モリスン)ほど過大評価されているミュージシャンはないんじゃないかな。ジム・モリスンを死に追いやったのは、そんなファンたちの妙に肥大した期待感だったのでは。

1月16日(日) ホルモン療法について、ひとことだけ。
[日記]今日は長*さんがお母様と一緒に、お友だち主催の日帰り旅行で静岡方面に出かけてしまったので、久しぶりにひとりで過ごした一日だった。
数日前のとあるできごと(この件に関してはほとぼりがさめたらこの日記にも書くかもしれない)をきっかけに、気になってトランス(用語についてを参照)関係のあちこちのWebサイト(特に個人サイト)にあるホルモン療法(用語についてを参照)関連の記述(体験記の類)を見てまわった。これまではお友だち(信頼できる人ばかりだ)の体験談しか読んでいなかったから気づかなかったけど、きちんとした検査もなく不適切な分量のホルモンをデタラメに使っている人が多くて、憮然とした。インターネットを利用した通販でホルモン剤を購入するのは薬事法及び薬剤師法違反だし(ここを参照)、ホルモンを打ってくれる病院ならどこでもよいってこともない。
2月になって仕事が休みに入ったら、このサイトのなかにホルモン関係のきちんとしたコンテンツを作ることにしたい。とにかく、自己流でホルモン投与をおこなっている人(おこなおうとしている人)は、最低限、ここ(性同一性障害の人のための、ホルモン療法の基礎知識)ここ(女性ホルモンの理解のために)ぐらいは熟読してくださいね。
[BGM]aiko『カブトムシ』。教え子のひとりに「先生、椎名林檎が好きなら、これも気に入るはずだよ」って教えてもらったマキシ・シングル。悪くはない。いや、結構気に入った。なによりも言葉の選択と、そのリズムへの乗せ方が的確。資質的には椎名林檎に近い。ただし、椎名林檎とは決定的な違いがある。椎名林檎は確信犯だけど、AIKOはまだ無自覚なんだ。彼女が自分の資質をコントロールする力を身につけたら、もうひとつランク・アップできるんだけどな(もちろん、かえってつまらなくなるかもしれないというリスクもあるけどね)。
[読書記録]柳美里『女学生の友』(文藝春秋)。12日の日記で「絶対に読むまいと心に決めていた作家の本(この作家の言動やふりまく話題から判断して、銀河としては読んだら間違いなくハマるのが目に見えているんだけど、ハマると抜け出せなくなりそうで怖いから。いったいだれでしょうね。女の人です)」って書いたのがこれ。ついに読んでしまいました。で、ものすごく面白かった(「感動した」とか「考えさせられた」とかじゃなくて、とにかく「面白かった」)。テーマからして(「仲間に溶け込みきれないコギャルと退職した老人の援交」と「私立中学受験を控える小学生たちがおこなう集団レイプ」)もっとべたべたしてどろどろした感じかなって想像していたんだけど、からっとしていてユーモアの漂う文体にびっくり。それでいて(いや逆にそれだからこそ)底の方には、筆者の底意地の悪さが見え隠れする。うまいよね、小説が(当たり前だけど)。2月になって休みに入ったら、他の作品もあれこれと読みあさってみよう。

1月17日(月) 周囲の人たちに納得してもらってトランスしたいだけだ。
[日記]夕方、美容院に行く。その後、新宿で長*さんと夕食をいただく。明日から今年度最後の山場。12日連続休みなしで仕事。その後1日だけ休んで、また2日間仕事だ。当分の間、本を読んでいるヒマはない。従って[読書記録]はしばらくお休み。[BGM]のコラムも毎日書くのはキツいので、休み休み続けていくことにする(日記は毎日更新していくつもりです)。
自分がどのようにトランス(用語についてを参照)を進めていくかということに関して、最近ようやく到達できたとりあえずの結論がある(「君子豹変す」だから変わっちゃうかもしれないけれどね)。それは、筋を通して正々堂々とトランスしたいってことだ。銀河の場合、職場では「男性」の仮面をかぶり、その他の生活は女性でというわけでもなければ、「男性」としての人生を一度リセットして、新たに女性として生きるっていうわけでもない。これまで40年間「男性」として作り上げてきた社会的関係をできるだけ崩さずに、女性として生きていくという、ある意味では非常に面倒な道を選択したのだ。そのためには、これまで銀河のことを「男性」だと思って接してきた人たち(職場の人たちも両親も友人も)にきちんと納得してもらわなければならない。自己責任でトランスするって言い方はかっこはいいけど、他人に通用しない自己責任は、銀河のケースでは自分勝手と同じなんだ。銀河は別に自分が病気だなんてちっとも思ってはいないけど、性同一性障害(GID)(用語についてを参照)の診断書が一枚あれば、世間を納得させるためにはいい武器になる。そういった意味ではGIDって概念は一種の便法だ。ガイドライン(性同一性障害に関する答申と提言)が絶対的なものだとも思わないが、ガイドラインに沿った医療を受けることで、周囲に対しては堂々と胸を張っていくことができる。もちろん他人に強制するつもりはないし、いろんなやり方はあると思うけど、銀河はそういうやり方を採用したってだけのことなの。

1月18日(火) 12日間連続休みなしの仕事が始まった。
[日記]今日と明日は千葉県内の某校舎で午前中に90分を2コマ。拘束時間は短いけれど、自宅での授業準備が大変だ(1コマ分の授業準備に4時間はかけるの)。授業終了後は新宿で長*さんとお食事してから、お茶の水のお薬屋さんへ長*さんの会社の製品の納品に行く(ほとんど社員だ)。帰宅してすぐに睡眠。夜中に起きだして、翌日の授業準備。お風呂に入るヒマがなかった。ちょっと汚い(泣)。

1月19日(水) 22日の「TSとTGを支える人々の会」催しについて。
[日記]すでにお知らせしましたように、22日(今週の土曜日)の「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の催しで話し手のひとりとしてスピーチをすることになりました。今回の催しのテーマは「トランスジェンダー・ワーカーズのサバイバル法」なのですが、銀河は、「男性」として勤務していた職場で途中からトランス(用語についてを参照)を開始し、現在では女性としての勤務が認められている希少な例として、その体験談をお話しします。当事者5人(予定)の体験談以外に、職業カウンセラーの方の貴重な講演もありますので、もしもよろしければご出席ください(ここを参照)。
というように、せっかくいただいた機会なので、いろいろ考えるところもあって、うちの職場の人事担当部署にお願いして、人事担当者のひとり(トップではなくて中間管理職的立場の方ですが)に出席してもらうことにしました。性同一性障害(GID)(用語についてを参照)の当事者を雇用している側として、私の持ち時間のなかでなにかひとこと発言してもらおうかなって考えています。
予備校という特殊な職場ではありますが、ほんの少しでもみなさまの参考になることが話せたらいいなと願っております。

1月20日(木) 職場で女性用トイレを使用する。
[日記]今日から4日間は都内の某校舎で午後から90分授業を2コマ。出勤前に自宅近くで長*さんとお昼をいただく。
実は今日、初めて職場の女性用トイレを使用した。97年の4月から、それまで10年近く「男性」として勤務していた職場で「なしくずし」的にトランス(用語についてを参照)を開始し、今日まで特に大きな問題もなく女性の姿形で勤務していたのだけれど、一緒に働いている(「男性」の姿をしていたころの銀河のことを覚えている)他の女性教職員の方々に遠慮して、女性用トイレは使わず、もちろん男性用トイレに入るわけにもいかず、職場ではトイレが使えない不便な状態だった。そういうこともあって、本部長(東京以東のうちの予備校の総責任者)に性同一性障害(GID)(用語についてを参照)の診断書を提出し、職場の女性用トイレの使用許可をいただいた経緯については、すでにこの日記にも書いた(12月7日の日記12月15日の日記を参照)。本部長から現場への通達が完了して(たぶんいろいろと根まわしもしてくださったのだろう)、昨日出講した千葉県内の校舎でも今日出講した都内の校舎でも、校舎長(省庁にたとえれば事務次官みたいなもの。それとは別に大臣にあたる名誉職の校長なるものも存在する)から「今度から女性用のトイレをお使いください」という言葉をいただいた。昨日の校舎では校舎長(女性)が直々に女性用トイレまで案内してくださった(この人とは年齢もほぼ同じで、以前から仲よくしていただいていたのだけどね)。で、昨日は特に使う必要がなかったのだが、今日の校舎では初めて女性用トイレを使用させてもらった。ありがたかった。尊重するに足る一個の人間として、きちんと遇されているという実感。なんだか感激して涙が出そうになった。


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I love you more than words can say.