'I suppose it's a bit too early for a gimlet,'
本のタイトルからして分かるように、レイモンド・チャンドラーの <フィリップ・マーロウ> シリーズの名言集。とにかく洒落た会話のやりとりが多いシリーズなので、世界的にも有名になっている名言が多い。表題の「ギムレットには早すぎる」にしても、 <長いお別れ> でテリー・レノックスが囁く、ハードボイルド・ミステリ史上最も有名なセリフの1つである。
本書では「マーロー自身について」「私立探偵について」「女について」「アメリカについて」「酒について」「人生・友情について」「警官について」とシリーズ中の名言をジャンルわけし、その台詞が口にされた場面と、台詞そのものの簡単な解説を添えて整理されている。
本書の魅力を完全に味わうのなら、当然の事ながら <フィリップ・マーロウ> シリーズを完全読破しておく必要があるのだが、まったくチャンドラーの著書に触れたことがない人間でもそれなりに楽しめるかもしれない。
編者は郷原宏、引用された部分の新訳は山本楡美子。きちんと英語による原文も引っ張ってあるのが嬉しい。資料的価値も若干ながらあるだろう。巻末にはチャンドラーの長編作品それぞれの簡単な紹介、チャンドラー邦訳リスト、著者あとがきなどの付録がついている。
が、それにしてもシリーズから名言を引っ張ってきて解説をつけただけの本にしては、価格設定が無茶だ。たとえばチャンドラーの百科辞典のような存在で、早川書房の『レイモンド・チャンドラー読本』という単行本があるのだが、これの第2章では、本書と同じように「酒について」「女について」などとジャンル分けして <マーロウ> シリーズの名言を集めている。しかも『チャンドラー読本』は名言集だけでなくチャンドラーに関するあらゆる情報や関係者たちによるエッセイ、初公開の短編などが掲載知れていて、本書より濃く非常に充実した内容の1冊でありながら、その定価は1300円と非常に良心的である。これと比較すると、2200円という本書の価格設定に首を傾げたくもなるというものだ。2200円は高すぎる。
2004/02/21