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大藪春彦
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小野不由美
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HARUHIKO OYABU
大藪春彦
伊達邦彦全集1「野獣死すべし」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
短編連作
出版
光文社文庫
値段
¥590
初版
1997-01-20
総合
−
ストーリィ
−
技術
−
上記のデータは、「伊達邦彦全集1」として1997年01月に刊行された全9巻のうちの第1巻。収録されているのは角川版『野獣死すべし』(1979年06月)、『野獣死すべし 復讐篇』(同)、路書房版『歯には歯を』(1966年11月)の3篇。いずれも表題通り、伊達邦彦を主人公とするシリーズ作品。解説は作家・文芸評論家の野崎六助。
『野獣死すべし』は1958年「青炎」5月号に初掲載された作品で、解説によると伊達邦彦誕生篇とも言える中編である。戦後間もない当時の日本では非常に斬新な方向性を持ったヴァイオレンス小説で、強盗、傷害、殺人など主人公が様々な犯罪に手を染め、他人を巧みに利用しながら巨額の金を掴みとって成功していく様を描いている。解説者曰く、「夢見る瞳を持つヒーローが悪のサクセス・ストーリーを貫徹しようとする」物語。
学生時代(20歳前後の頃)に書かれたものだけあって、非常に青臭い。作者の妄想やら潜在的な願望やらをストレートに叩きつけたような作品で、それ故に主人公である伊達邦彦などの人間描写がかなり浅い。当時は既成概念やモラルなどに痛烈な批判を叩きつける作風が斬新だったかもしれないが、渋谷の女子高生が流行を生み、主人公伊達のような犯罪を繰り返す若者が珍しくない現代社会においてはとても通用するものではない。
大藪春彦は、その名が文芸賞のひとつとして残る程度には著名な存在らしいが、本書を読む限りそこまで大した書き手ではなかった。半世紀前の社会では目立ったかもしれないが、現代の読者にそこを評価して金を出せ――と要求するのは無理だろう。内容はともかく筆力は素人レヴェル。お勧めはしない。
ところで大藪春彦は <国内ハードボイルドの元祖> というような評価がされているようだが、これはハッキリ言って滅茶苦茶である。一般読者に「ヴァイオレンス」=「ハードボイルド」という見当はずれな図式を植え付けてしまった弊害には呆れるばかりである。そもそも、大藪春彦は江戸川乱歩に拾われて作家になれた人間だ。そしてその恩師である乱歩はハードボイルド・ミステリの開祖であるダシール・ハメットの最高傑作『マルタの鷹』にこう寄せているのだ。「マルタの鷹は探偵小説にもなっていない、読んでいて退屈でしょうがなかった」と。ハードボイルドを創設した人間の著作を解さない人間が大藪を生み、その大藪がハードボイルドの大家と謳われる。滑稽な話だ。
ちなみに著者は故人。1939年生まれ、1996年2月26日肝繊維症により他界した。
2003/11/23
OTSUICHI
乙一
「天帝妖狐」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
中編集
出版
集英社
値段
¥438
初版
2001-07-25
総合
☆
ストーリィ
☆
技術
−
最初に個人的な話をさせてもらうと、乙一に対する印象はあまり良いものがない。
彼は17歳の時に、集英社が主催する <ジャンプ小説・ノンフィクション大賞> を受賞して話題をさらった早熟な作家であった。
確かにその独特なセンスと才能は人並みを外れているし、それに疑問を持ったことはない。
しかし本来、プロフェッショナルとは人並みずれたセンスと才能とを兼ね備えた職人集団を指し示すものなのだ。彼は17歳の時にその水準に達していただけのことであって、プロの中にあってさえ飛びぬけた存在だったというわけではない。
大絶賛を受けた彼の処女作「夏と花火と私の死体」も、彼の才の片鱗を窺わせてくれる快作であり、高い完成度を誇る作品ではあるものの、それを17歳の少年が書いたという話題性でクローズアップされなければ、正直な話どこかに埋もれて見向きさえされなかった可能性も高い。
図書館で借りて読んだが、これは成功だったように思える。面白かったが、あれに金を出す気にはなれなかったのだ。
プロとして500円の本を買わせようとする以上、作者が17歳だろうと97歳だろうと、それが何の意味を持つというのだろう。
過去に出版された、また今後され得る同じ500円の傑作・名作と肩を並べて、決して劣ることのないクオリティの物語を提供する。それがプロフェッショナルだ。作者が若かろうと、それが何かの言い訳になるわけではない。500円を払う価値がない、と思われてはその時点で駄目なのだ。
そういうわけで、乙一に関する評判や噂はかなり割り引いて考える必要があると考えられる。
それでなお、本作 <天帝妖狐> には星をつけた。「A MASKED BALL」と表題作の2本を収録したこの中編集は、作者が誰であろうと1つの娯楽作品として楽しめるものだったからだ。
正直な話、乙一は物語そのものよりも彼の非凡な感性を楽しむタイプの作家だと思う。天才肌なのだ。
ところがこの中編集では、そうした乙一らしさがあまりない。いずれの作品も、彼の感性がなくたって(彼でなくても)書けそうなものなのだ。その代わり物語にはオーソドックスな楽しさがある。
不可思議な話だ。
――ここで、本書の内容を少し解説しておく。収録されているのは100ページ前後の中編が2本。どちらも分類するならホラー小説の名を冠することになりそうだ。
先に収録されている「A MASKED BALL」は、ある高校のトイレの落書きから発展する奇妙な物語である。巻末解説の我孫子武丸も指摘しているが、『匿名性』『気軽に書きこめる利便性』『人々の稀薄な関係』などの点からも、この作品で扱われるトイレの落書きはインターネットの匿名掲示板をモデルにしていると思われる。
拭けばメッセージを消すことができ何度でも書きこむことが可能となるため、一種の伝言板として機能している奇妙なトイレの壁。そのトイレの落書きを通して奇妙な交流を続けていた匿名の5人だったが、やがてこのうちの一人が学校内の不穏分子を排除して回ると宣言した。
最初は空き缶が放置されるという理由で自動販売機を破壊する程度だったそれは、やがて生きた人間の粛清にまで発展していく。
果たして過剰な行動に出た異常者は、5人のうちの誰なのか。何を起こそうとしているのか。匿名性を強調した設定を上手く利用し緊張感やスリルを演出しているあたりは見事な作品である。
表題作の「天帝妖狐」は、コックリさんという遊びを切っ掛けに呪いを受け、徐々に怪物へと変貌していく男の苦悩を描いた物語といえそうだ。
ただ単なるホラーではなく、苦悩する男と日常に生きる人間との触れ合いを通して、彼が抱くに至った唯一の救いにスポットを当てた心温まる作品に仕上がっている。衝撃を感じるほどの傑作ではないが、完成度が高いので安心して楽しめる作品だといえそう。
2004/09/22
「きみにしか聞こえない」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
中短編集
出版
角川文庫
値段
¥476
初版
2000-06-01
総合
☆
ストーリィ
☆
技術
−
角川の青少年向け文学雑誌 <ザ・スニーカー> に掲載された「Calling You」(二〇〇〇年四月号)をはじめ「傷−KIZ/KIDS−」(同十月号)、書き下ろしの「華歌」の三本を収録した中短編集。
二〇〇ページに満たない厚さの薄い本で、巻末には収録作にまつわる裏話をユーモアを交えて語った著者によるあとがきが収録されている。第三者による作品解説はない。
内容だが、まず巻頭を飾る「Calling You」は、内向的で生真面目な性格が災いし周囲から孤立する女子学生を描いたファンタジックな作品になっている。主人公リョウは、周囲の誰もが所有する携帯電話をクラスで唯一持たない少女。本人もそのことを非常に気にかけていて、想像上で理想の携帯電話を思い浮かべては己を慰めるような日々を送っている、という設定。
そんな彼女の架空携帯電話に、ある日、同じく想像上の携帯電話を持つという少年から電話がかかってくることから話は展開する。
常識人として、これを「自身の行き過ぎた妄想」および「それにによる錯覚・幻覚」だと判断したリョウであったが、ある科学的検証で少年が実在の人物であることが証明されてからは、素直に彼と打ち解けるようになる。
頭の中の携帯電話は、過去や未来の人間同士をつなぐという意味で、普通の電話とはまた違った特性を持っているのだが、この設定をうまく利用した展開とオチは良く考えられていて好印象。
反面、時間差ネタを取り入れた物語ということで、ある程度先が読めてしまうというリスクを犯した作品でもある。
二本目の「傷−KIZ/KIDS−」も、他人の肉体的損傷を自分の身体に移すことができるという特殊能力をもった少年を描く、やはり幻想的な要素をもった作品。
陰惨な話ではないが、一種のホラーとして読むこともできる物語だろう。
テーマや主人公の性別こそ違うが、周囲から孤立した若者が同類を見つけて交流を深めていくという流れは「Calling You」と共通する部分も多い。その同類との触れ合いを通して成長していく主人公たちのジュブナイル(成長物語)と捉えれば、さらに上記二作の距離は縮むだろう。
最後に、本書唯一の書き下ろし作品である「華歌」だが、これは舞台設定を昭和に移したような少し毛色の異なる作品に仕上がっている。
主人公は、駆け落ち相手の恋人を交通事故で亡くし、自身も入院することになった若者と、年齢設定も「Calling You」「傷−KIZ/KIDS−」とは一味違う。
ただ、この話にも少女の顔を持つ奇妙な花が登場し、それが鼻歌のようなメロディを口ずさむという超自然的な要素が取り入れられている点では他二作ど同様。また、最後に一種のどんでん返しが用意されている点でも共通点が見られる。
ただし、「華歌」のそれは、ちょっとあざとさの目立つ演出になってしまっているのではないか。
この仕掛けを成立させるために、わざと誤解を誘発させるような描写を多用せざるを得なかった時点で、少なからず苦しさがうかがえるのだ。話としては悪くなかっただけに、その点が若干ながら気になった。トリックとしても決して珍しいものではなかっただけに残念。技術に星を献上できなかった最大要因でもある。
――以上のように問題点は皆無というわけでもないが、三作通じて楽しみどころのはっきりした、まとまりの良いエンタメテメント作品であったことは否定のしようがない。ストーリィも起承転結を抑えた基本的な造りにのっとっている分、大きなハズレを引く心配はない。それどころか個人的には調理の上手さに感心させられる部分もあった。目立った癖やアクの強さなどもないため、広くお勧めできる書になっている。傑作とは言えないが、手堅くまとまった中短編集。
2007/07/27
FUYUMI ONO
小野不由美
「屍鬼」上下(文庫全5巻)
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
新潮社
値段
¥2200+2500
初版
1998-09-30
総合
☆☆
ストーリィ
☆
技術
☆☆☆
今ではもうライトノヴェル部門だけに止まらず一般部門でもベストセラー作家と言ってしまえるだろう、小野不由美女史が書き下ろした渾身の大作。彼女の代表作でもある。
単行本は上下巻構成で、総額4700円。文庫版は全5巻に分けられ、総額3372(743+667+590+743+629)円の買物となる。コストパフォーマンスを考えると文庫本がお勧めだが、解説者である宮部みゆき女史が勧めているように、本書はハードカヴァー(単行本)で読んだほうが雰囲気がでる。
話の舞台は人口1300人、三方を尾根に囲まれた、未だに古い慣習と独自の地域文化の根付く「外場村」。ある夏、この閉鎖的な町で死者が続出する。生気を失ったように寝込み、やがて死に至るという同様の症例が流行り病のように広がりだしたのである。これは果たして異常気象の猛暑がもたらした偶然なのか、それとも恐るべき伝染病の類なのか――
解説で宮部氏が指摘している通り、著者は
スティーヴン・キング
の熱狂的なファンで、本書もキングの代表作である「Salem's Lot」(邦題:呪われた町 )へのオマージュとして創られた作品である。そのことは、中扉のタイトル脇に添えられた謝辞にあるTo Salem's Lotの文字からも明らか。しかし、キング作品とはまた違った面白さを備えた作品になっているので安心されたい。
『魔性の子』しかり『黒祠の島』しかり、小野女史はこうした閉鎖された辺境の集落を描かせると非常に卓越した手腕を見せ付けてくれる。その空間特有の雰囲気、文化、思想、そこに根付いた人間それぞれの生活、これらの圧倒的な表現力は日本でも五指に入るだろう。というか、随一かも。
結局のところ、この「屍鬼」の怖さは伝染病やら死人が甦る伝説やらよりも、そういった人間の本質や拭いがたい愚かさ、閉鎖的性格の弊害、社会システムの抱える諸問題などが圧倒的リアリティを以って演出しているような気がする。お勧め。
2003/11/23
「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
−
「タイトル」
形態
文庫
種別
ノヴェル
部門
長編
出版
講談社
値段
¥648
初版
2003-08-15
総合
☆
ストーリィ
☆☆
技術
−
I N D E X