歯科技工士は、インプラントを埋入した後、口の中で機能する頭の部分に、詰め物や被せ物などを製作し、歯科治療の重要な役割を担います。ある意味では歯科技工士の技術によって、歯科治療のゴールは大きく左右されるといっても過言ではありません。適合が悪い(きちんと合っていない)製作物は虫歯の再発の原因になったり、噛み合わせの異常を引き起こしたりします。
また、前歯に被せるセラミックの製作の場合、不自然な形や色でいかにも作り物といった感じの歯になっている口元を目にしたこともあるでしょう。患者さんにとって最終的な修復の美しさは大きな問題です。
しかし、歯科技工士は、ぴったり合った、あるいは自然な色合いの美しい製作物を作ればそれでいいのでしょうか。
いいえ、歯科技工士は、使われる材料の特質ばかりでなく、製作物が患者さんのお口の中でどのように機能し、その形態によってどのような影響が起きてくるかまで、十分に理解していなければ、本当のプロとは言えません。人工的なものをきちんと機能するように作り上げるのは並大抵のことではすまないのです。
歯科技工士と歯科医師の関係はどうでしょうか。歯科技工士が、歯科医師からの制作方法や形態の指示に納得できなければ、対等に意見を言える存在でなければ、患者さんにとって本当に最善の治療のゴールにはたどり着けません。
そうしたことから、私は院内技工士は患者さんにとって必ずしも良いことばかりではないと考えています。院内での技工は、院長にとっては自分の方針の通りに製作を依頼できる都合の良い形かもしれません。しかし多くの側面から、その患者さんにとって最善のものを提供するためには、妥協をせずに歯科医師と対等に意見を戦わせる知識と技術と経験を備えた歯科技工士の存在が必要になるのです。
ここで少し見方を変えてみましょう。日本で有名な歯科技工士のほとんどは勤務技工士ではありません。全部とは言いませんが、歯科医師も自分の技術に自信がつくと、自分のオフィスを構えて開業することがほとんどです。歯科医師でも歯科技工士でも、勤務と開業の場合、仕事に対する心構えが自ずからちがってくることが多いのではないでしょうか。
当院の技工士は、長野で開業しています。
技工物は、細心の注意を払って高価な陶器を運ぶように、長野と東京を往復します。歯科技工士とは、型を採る材料、流し固める石膏の種類、練り方、搬送時の包装にいたるまで細かい所まで意見を出し合いました。それぞれの患者さんのお口の状況から、顔貌、会話時の口唇の位置、噛み合わせの記録など、レントゲンやデジタルカメラを駆使して十分な資料も共有します。電話や電子メールでのやり取りもまめに行われます。
知識と、技術と、経験と、仕事に対する真摯な姿勢を持つ歯科技工士だけが、機能的にはもちろん、患者さんの審美的な希望にも的確に応えてくれるのです。
当院では、精度、噛み合わせ、色、形、どれをとっても最高の仕事のできる歯科技工士とチームを組むことを、何よりも大切に考えています。
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