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Part 4 · 自動運転のしくみ

4.5 予測と経路計画

周りの動きを読んで走り方を決める

読了目安 10分前提:4.2 システムの全体像、1.4 期待値と分散▶ 動画(約6分)

この回で分かること

  • 周りの動きの 予測 を「確率つきの複数の未来」として扱う理由と、経路計画 の3つの段階(ルート・行動・軌道)を説明できる
  • 候補の走り方を 期待コスト で比べ、確率が小さくても危害の大きい未来を考えに入れる理由を計算で確かめられる
  • 早く判断するほどやさしく止まれることや、前の車が急に止まっても止まれる車間距離を、簡単な式で見積もれる

直感で理解する

4.2 の「判断」の中身が、この回のテーマです。上手な運転者は、横断歩道の近くの歩行者を見て「渡るかもしれない」と考え、早めに速度を落とします。自動運転システムも、まず周りの車や歩行者がこれからどう動くかを 予測 し、それを踏まえて自分の走り方を 計画 します。

予測で大切なのは、未来を1つに決めつけないことです。歩道で立ち止まっている人は、そのまま待つかもしれないし、渡り始めるかもしれません。そこで予測は「待つ 70%、渡る 30%」のように、確率つきの複数の未来 として出すのがふつうです(マルチモーダルな予測)。周りの車の動きの予測には、過去の走行データから学んだ機械学習もよく使われます。

計画は、大きく3つの段階に分かれます。

段階決めること例立て直す間隔(目安)
ルート計画目的地までの道順カーナビの経路探索数分〜(渋滞や通行止めで変更)
行動の決定次に何をするか前の車についていく、車線を変える、止まる、道をゆずる数秒
軌道計画数秒先までの位置と速度「3秒後に 25 m 先で時速 20 km」のような、なめらかな走り方0.1 秒ほど

軌道計画では、いくつもの候補の走り方を作り、それぞれを「危なさ」「乗り心地」「進み具合」「交通ルール」で評価して、最もよいものを選びます。そして新しい測定と予測が入るたびに、計画を立て直します。

進んだ距離(m) 0 10 20 30 40 0 1 2 3 4 5 6 時間(秒) 横断歩道 歩行者が渡るとふさがる(30%) A:今の速度のまま B:横断歩道の手前で止まる
時間(横)と進んだ距離(縦)で走り方を描いた図。線の傾きが速さを表し、水平になると止まっている。予測でふさがる範囲に入らない走り方を選ぶ(秒速 12 m = 時速 約43 km の例)。

数式で確かめる

① 確率つきの未来を、期待コストで比べる

図の場面で、案A(今の速度のまま)と案B(手前で止まる)を比べます。それぞれの結果の「悪さ」を コスト という数で表し、1.4 の期待値で比べます。

$$E[\text{コスト}] = \sum_i p_i\,c_i$$
案歩行者が渡る(30%)渡らない(70%)期待コスト
A:今の速度のまま1000(ぶつかる危険)00.3 × 1000 = 300
B:手前で止まる3(止まって待つ)3(止まる必要はなかった)3

コストの値は説明用の重みです。期待コストの小さい B を選びます。A のほうがよくなるのは、1000p < 3、つまり渡る確率 p が 0.3% より小さいときだけです。確率が小さくても、危害が大きい未来は、判断を大きく左右します。最も確率の高い未来(渡らない)だけで計画すると、A を選んでしまいます。

一方で、少しでも可能性があれば毎回止まる、というのでは車は進めません。危害と遅れにどんな重みを付けるかは、安全と進み具合の釣り合いをどう取るかという判断そのものです。実際には「減速して様子を見る」という中間の案もあり、0.1 秒ごとに立て直せることを生かして、決めるのを少し待つこともできます。

② 早く判断するほど、やさしく止まれる

案B で、秒速 12 m から d m 先で止まるのに必要な減速度は、0.2 の制動距離の式 \(s = v^2/(2a)\) を a について解いて

$$a = \frac{v^2}{2d}$$

です。いま止まると決めれば、d = 28 m で a = 144 ÷ 56 ≈ 2.6 m/s²(乗っている人が驚かない程度のブレーキ)。1秒迷うと、その間に 12 m 進むので d = 16 m となり、a = 144 ÷ 32 = 4.5 m/s² の強いブレーキが必要です。2秒迷うと d = 4 m、a = 18 m/s² となり、乾いた路面でも出せない(限界は 8 m/s² 程度)減速度になります。予測でリスクに早く気づくことが、やさしく安全に止まるための鍵です。

③ 前の車が急に止まっても止まれる車間距離

前の車についていくときに、どれだけ車間をあければよいかも式で決められます。前の車が最大の減速度 \(a_f\) で急ブレーキをかけても、自車が反応時間 ρ のあと、確実に出せる減速度 \(a_r\) でブレーキをかけて止まれる車間は、

$$d_{\min} = v_r\,\rho + \frac{v_r^2}{2\,a_r} - \frac{v_f^2}{2\,a_f}$$

です(\(v_r\) は自車、\(v_f\) は前の車の速度)。自車が止まるまでに進む距離から、前の車が止まるまでに進む距離を引いたものになっています。これは RSS(Responsibility-Sensitive Safety)と呼ばれる考え方の中心の式を簡単にしたものです。どちらも秒速 25 m(時速 90 km)、ρ = 0.5 秒、\(a_r = 4\ \mathrm{m/s^2}\)、\(a_f = 8\ \mathrm{m/s^2}\) なら、

$$d_{\min} = 12.5 + \frac{625}{8} - \frac{625}{16} \approx 12.5 + 78.1 - 39.1 \approx 52\ \text{m}$$

になります。運転の教本などでよく言われる「2秒の車間」(秒速 25 m なら 50 m)と、ほぼ同じ距離です。

SOTIF・安全との接点

  • 予測は外れる前提で計画する:確率の低い未来も含め、考えられるどの未来になっても安全に止まれる余地を残すように計画します。まだ誰も想定していない振る舞い(逆走、急な横断)があることも忘れないようにします。→ 5.2 4つの領域
  • 慎重すぎても危険:不要な急停止は、後ろの車からの追突や、周りの交通の混乱につながります。①の重みの決め方は、見逃しと空振りの釣り合い(2.7)と同じく、根拠を説明できるようにしておく判断です。→ 2.7、5.5 受入れ基準と妥当性確認目標
  • 予測モデルもデータから学ぶ:学習データの地域の運転の癖に合わせて学ぶので、国や地域が変わったり、見慣れない動きに出会ったりすると、予測が当てにならなくなります。→ 2.8
  • 計画を外から見張る「安全の枠」:③のような式で、計画した軌道が安全な車間などを守っているかを別に確かめ、守れていなければ安全な軌道に置き換えます。複雑な計画の中身をすべて確かめきれなくても、外側で安全を保つ考え方です。→ 4.2、4.7 安全の3本柱
  • 難しい場面を集めて試す:割り込み、飛び出し、見通しの悪い交差点など、予測と計画が難しい場面を集め、条件を変えながら試験します。→ 5.6 シナリオベース検証

まとめ

  • 判断は、周りの動きの予測と、ルート・行動・軌道の計画からなる。予測は確率つきの複数の未来として扱い、候補の走り方をコストで評価して選び、短い周期で立て直す
  • 確率が小さくても、危害の大きい未来は期待コストを大きくする。早く判断するほど、やさしいブレーキで止まれる(a = v²/2d)
  • 前の車が急に止まっても止まれる車間距離は、反応時間と双方のブレーキ性能から式で決められる(RSS の考え方)。計画をこうした「安全の枠」で見張ることが安全につながる

確認クイズ

Q1. ②の例(秒速 12 m)で、横断歩道の 20 m 手前で止まると決めたとき、必要な減速度は?

a = 12² ÷ (2 × 20) = 144 ÷ 40 = 3.6 m/s² です。28 m 手前で決めたとき(約 2.6 m/s²)より強いブレーキになります。

Q2. ①の例で、歩行者が渡る確率が 1% だったら、A と B の期待コストはそれぞれいくつ? どちらを選ぶ?

A は 0.01 × 1000 = 10、B は 3 なので、B(止まる)を選びます。確率が 0.3% より大きいうちは B のほうがよい、という計算どおりです。

Q3. ③の式で、自車も前の車も秒速 20 m、反応時間 0.5 秒、a_r = 4 m/s²、a_f = 8 m/s² なら、必要な車間は?

20 × 0.5 + 400 ÷ 8 − 400 ÷ 16 = 10 + 50 − 25 = 35 m です。

Q4. 「予測でいちばん確率の高い未来だけを使って計画すればよい」。この考えの問題点は?

30% の飛び出しのように、確率は低くても危害の大きい未来を無視してしまいます。複数の未来を考えに入れ、どの未来になっても安全に止まれる余地を残す必要があります。

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