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治験例集 卒業論文集
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治験例集

16:心理カウンセリング編

氏名(イニシャル)   F 性別 年令  80才 職業 主婦
主 訴 (医師による診断名) 腰痛。 3週間ほど前から寝たきりの状態になっている。

医師による診察を受けているが、原因不明。

その他の愁訴 特になし。
病 歴 年齢からくる老化は認められるが、寝たきりになるほどの異常は認められない、と医師は述べていた。指圧や針治療の往診を受けても、かんばしくなかった。
家族状況は本人(母)と長男、長男の嫁の3人家族。
本人が毎日のように大阪に嫁いでいた長女に電話をして、腰痛について嘆いている。その長女から母の相談を受けた。
診 察

他府県で4時間ほどかかるので、往診や来院することは無理であった。長女から状況を問診すると、以下のことが確認できた。
2~3ヶ月前から腰痛がひどくなり、たびたび電話がかかってきた。時間を見つけて実家に何度か帰り励ましていた。電話はほとんど毎日していた。
医師の診察でも原因が分からず、いろいろ治療を受けても改善しないので、心理的背景に要因があると考えた。
母=本人が執拗に長女に対して電話をしている。母と長女の結びつきを強化しているように思えた。逆に考えると実家内の家族環境=母・長男・嫁の間で居心地が悪く・母=長男、母=嫁の結びつきが薄いのではないだろうか・・・
しかし高齢であるので、寝たきりの状況が続くと本当に身体機能が落ちていくと考え、とりあえず対処療法を行うことにした。

治療・経過

@ 対処療法として初回のカウンセリングで長女に対して、次の母との電話で最後に「次は○月△日に帰ります」と、一言付け加えてください、とアドバイスした。
その4日後には腰痛が改善し、手押し車が必要ではあるが歩けるまで回復した。

A 2回目で立場を考えてもらうカウンセリングをした。
相談に来た長女自身も、嫁ぎ先では嫁の立場である。
だからこの長女も実家の兄嫁も、実の娘の立場と小姑の立場を同時に二つ持っている。
この点を長女に考えてもらうカウンセリングをした。

治効理論・根拠

@ 今までは「何時長女が帰るのだろうか?」という不安が、「○月△日に帰る」と言うことで、「あと何日で会える」という楽しみに転じたためストレスが解消し、腰の状態が改善したのではないだろうか。

A その後長女は実家に帰り、小姑に対して謝罪した。
理由はどうであれ、毎日のように電話をかけたり、しょっちゅう実家に帰ることは、兄嫁の立場としては嬉しくないかもしれない。当然家族内は冷ややかなものとなり、そのストレスが筋肉緊張などを起こし腰痛の原因になっていたかもしれない(推定)。
このような家族環境では母はさらに長女に対してコンタクトをとり、さらに兄嫁の立場は微妙になっていくという悪循環になっていくだろう。
    
長女と兄嫁は、立場は逆のようで実は全く同じであることに気づいた長女は謝罪することにした。

今回の長女の謝罪から数ヶ月が経って確認の連絡をしたが、その後は腰痛の再発も無いとのことである。


氏名(イニシャル)   A 性別 年令  29才 職業 OL
主 訴 (医師による診断名) 原因不明の突然の頻脈。  頻脈は数分で自然におさまる。

医師の診断は受けていない

その他の愁訴 特になし。
病 歴 2ヶ月ほど前から夜間睡眠中に突然頻脈が起こり目が覚める事があった。
最初は1週間に1~2回程度であったが、頻脈で目が覚める回数が増え、さらに仕事中や友人と話しているときにも頻脈が起こるようになった。
家族・親戚に若年での死亡例はない。
診 察

心臓病の既往歴、心臓肥大、脊柱のサブラクセーション、心経の経絡、心不全の所見などは認められなかった。
不整脈の原因も様々で多くの原因がある。生命に関わる不整脈もあるので、医師の診断を受けることを勧める必要がある。
しかし今回のケースはその所見から発作性上室性頻拍症の可能性が高いと思われた。

そこで簡単にできる「夢」分析をしてみた。
具体的な夢の内容は記憶していなかったが、最近ずっと「怖い」夢をよく見るとのことであった。

治療・経過

カウンセリングのなかで「何かから逃避したいと思っていませんか?」と質問してみた。すると何かにハッと気がついた様子で次のように話した。
「実は現在両親と3人暮らしですが、今の大阪での仕事を辞めて、都会を離れて"有機農法"で野菜作りをしていきたいと思っている。しかし両親が絶対反対すると思うので言えないでいる。」と語った。
そこで「言っても言わなくてもダメなら一応言ってみたら、何もそれで損をすることは無いのだから。」とアドバイスした。
家に帰ってすぐに言ってみる、とのことでその日は終了した。

治効理論・根拠 約10ヵ月後にかぼちゃなどの新鮮な野菜が届いた。手紙を見ると「言えに帰って両親に相談すると意外にも承諾してもらえた。今では群馬の有機農法の農家で楽しく野菜作りをしている。これは自分が作った野菜です。」とあった。気になる症状=頻脈はその日以来まったく出ていない、とのことであった。
「夢」は個人に対して「感情」を残す。その感情の目的が本人の無意識の考え・思想・目標であることが多い。無意識は田舎での生活を求め、現実はそれが求められない、そのギャップによるストレスが頻脈につながっていたかもしれない。


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