宣誓2

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宣誓 I'll swear royalty and love to him.

2.


歌が聞こえる。それは王宮付きの詩人が紡ぎだす妙なる調べではなく、市井の子供たちが口にする素朴な囃子歌だ。王宮暮らしの堅苦しさと退屈さ、そして自分が背負わされた重圧から逃げたしたくて、城を抜け出したあの日に聞いた歌だ…










『ベジータぁ、待ってくれよお』
『まったく貴様というやつは、いつまでたってもクズのままだな!空を飛ぶ事もヘタなら戦いも弱いままだ!』
『んな事言ったってよ~、おめえが強すぎるんだもん』


いかにも前時代的でみすぼらしい下級戦士達の居住区。ベジータとカカロットがまだ幼かった頃。戦の真似事に興じる子どもたちの輪の外で二人は出会った。


「なんだおめえ、一人なのか。良かったらオラたちといっしょに遊ばねえ?」
にかっと白い歯を見せて笑うカカロットは、ベジータよりもずっと年下で、背丈もベジータの胸までしか無い。
「けっ冗談じゃねえ。誰が貴様らのような汚ねえガキとなんか」
「何だよおめえだって子供じゃねえか」
いいからいいから、と強引にカカロットはベジータの手を引いて、仲間の輪に引き入れた。
「おい、貴様!勝手に決めるな!!」
「何かおめえ強そうだな~こいつらみんな弱ぇからな、オラちょうどたいくつしてたんだ!!」
「貴様、勝手に決めるなと言っているだろうが!!」
ーーカカロットは、実は先ほどから気がついていたのだ。ベジータが子どもたちの遊びの輪を遠くに眺め、寂しげな目をして佇んでいたのを。


「さっさと手を離しやがれこのクソガキ!!」
「ん、なんだおめえひょっとして戦闘がこえぇのか?そんなら離すけど…」
ベジータは苛立ってカカロットの手を振りほどこうとしたが、何気ないその一言に、彼のプライドが甚く刺激される。
「この俺に怖いだと?!貴様らごときにこの俺が負けるか!!」
「じゃあやってみればいいじゃねぇか」
「しょうがねえから付き合ってやる!!」
売り言葉に買い言葉、天性の負けず嫌いが災いして、ベジータは思わず頷いてしまった。こんな事俺の本位じゃないんだと唸りながら。
「オラ、『カカロット』って言うんだ。おめえの名前は何だ?」
「名前…」
「ああ、名前聞かねえとおめえの事呼べねえもんな。ん?おめえ、自分の名前忘れちまったのか?」
「…俺様の名は『ベジータ』だ」
名乗った直後にベジータは心の中で舌打ちする。子供とは思えぬ程の分別を既に持っている彼は、自分の名が持つ意味と、それを口にする事の重さを知っていたからだ。しかしカカロットの反応は、ベジータにとって意外なものだった。
「そっか、この星と同じ名前だ」かっこいいな、とカカロットは歯を見せて笑っただけだった。




いざ戦い(ごっこ)を始めてみると、すでに大勢の大人たちから実戦訓練を叩き込まれているベジータは、他の子供たちの誰よりも強く、身のかわしが上手く、飛ぶ事も早かった。気弾などは目をつぶっていても狙いを決して外さない。一応他の子供たちも皆、辺境の惑星送りを免れた、下級戦士にしてはそれなりの戦闘力を持つ子供ばかりのはずだが、それでもベジータには束で掛かってもまるで歯が立たない。


おまけにベジータは一切手加減をしないので、子供の中にはたちまち深刻な大怪我を負う者もいたのだが、彼らとて一端の戦闘民族、たとえ子供でも戦いで傷つく苦痛よりも、強いものを目にする興奮と感動を求めた。そんな子どもたちの目にベジータの姿は物語に登場する英雄のごとく映り、たちまち彼はヒーローとなった。ベジータとしても、自分と兄弟以外の子供の姿を目にするのは本当に久々の事で、それも美辞麗句やら下らないおべっかばかりを言う貴族の子供ではなく、何の利害関係も無い、同じ背丈ほどの彼らが純粋に自分に憧れの目を向けてくる事は、まんざらでも無かった。


そんな子供たちの中、とりわけカカロットという子供は、強い者に対する憧れが強く、彼はすっかりこの桁はずれに強い少年に夢中になっていた。白い手袋のはめられたベジータの手を握りしめ、きらきらと輝く瞳でその姿を見つめ上げた。
「なぁなぁベジータ、次はいついっしょに遊べるんだ?」
その言葉にベジータは心の中で困惑しつつ、その目線から顔をぷいと背けた。
「けっ、俺は貴様ら下級戦士なんかと違って忙しいんだ。そうそう遊んでなどいられるものか」
「えーっオラやだぞそんなの!」「いいからさっさと手を離せ」
「やだやだやだっ!!オラ、ベジータがオラとまたいっしょに遊ぶって約束するまで、ぜってぇ手を放さねえぞ!!」
たいして強くも無い癖に、カカロットの頑固な事だけは人一倍で、いくら殴ろうが蹴ろうが、たとえ血だらけになっても手を離すつもりは無いだろう。そのあまりのしつこさに、とうとうベジータは根負けした。


「ーーそうだな。それならば次は……」