宣誓1

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宣誓 I'll swear royalty and love to him.

1.


赤い惑星ベジータの赤道よりもやや緯度の高い位置にある土地、最も栄える都の中心に、その王宮はそびえ立っていた。どちらかというと厳めしい造りが多いこの星の他の建造物にくらべ、王宮はとても華麗で大胆な姿をしており、つまりその事自体、城は他民族からの略奪品である事を示している。


王宮は、街一つに屋根と壁を設えたのかと思うほどの大きさだが、数ある部屋の中でも謁見の間は特に広大だ。大人の二抱え分もありそうな巨大な柱が並び、壁には見事な意匠の飾り彫りがびっしりと施されている。如何なる力か燃料もなく煌々と永久に灯り続ける燭台も、鈍い光沢の緞帳も、光輝く金色の留め具にたっぷりと飾られ、あまたの略奪品と共に綺羅々々しくこの星の留まることを知らない繁栄を讃えている。


謁見の間に居並ぶ近衛兵は、王と王子の身辺警護を役目とし、皆、腰が高く筋骨隆々としており、胸当ても脛当ても黒で統一された儀礼用の防具を身に着け、ぴたりと隊列を組んで玉座の左右に控えていた。更にその上座に立つこの国の重臣の一人、他の者に比べやや手も足も短い小男が、その体躯に似合わぬ優雅な宮廷用の挨拶を行った後、高らかに声を上げた。
「国王陛下、王太子殿下。この者が近頃評判の戦士にございます」


うむ、と鷹揚に頷く王に対し、王子は無言でわずかに眉のみを動かした。
広大な謁見の間のいや果て、その威光を示すかのように他の者が立つ位置よりも数段高く設えられた壇上に、黄金の玉座に深く腰掛けるこの星の王と、その右には王の後継者である第一王子の姿がある。
王はまるで小山のような見事な体躯をしており、眼光鋭い顔立ちに整えられた豊かな髭を蓄え、絢爛たる玉座に身を置くその姿はまさに威風辺りをはらうものだ。それに対して、その横に座る王子は、肌の色は透き通る乳白色、手足も体も細く、一見華奢とすら言えそうな体つきをしている。しかしその顔には並み外れた美しさと品格が備えられ、目は心の弱い者ではその直視に耐えられぬ程に鋭く光り、生まれながらにして持つ王者の威厳と秘めたる力の凄まじさは、王が持つそれを遥かに凌駕していた。

「おお、お前がかの戦士か。噂は常に聞いているぞ」
王の言葉に、広間の中央で何かが動く気配がした。人の形をした影かと見えたものは、広間の中央に片膝をつく、精悍な顔立ちの一人の男だった。
「拝謁の栄誉に浴する事、身に余る光栄にございます」
戦枯れた、やや高めの声で彼は続けた。
「矮臣の名はカカロット、どうぞお見知りおきを」


「顔を上げよ」
堅牢にして峻厳、戦士が持つ唯者ならぬ気配に、王はひどく興味を引かれた様子だった。
「何でも瞬き程の間に千人の異星人を葬るともいう、神速の戦士、なのだそうだな。それは真なのか?」
「我が力は戦場の功名にて、御目自ら御覧あれ」
王直々の問いかけに対する返答にしてはいささかそっけない口調で答えた後、彼は視線をゆっくりと壇上に向けた。その目は彼が持つ気配と同じく、言い様の無い暗さと険しさを持っている。


しかし、その目が壇上にある姿を見止めた時、驚いた事に彼はたちまちその様相を一変させたのだ。言い知れぬ瞳の暗さは一掃され、先ほどまでの彼と同一の人物とは思えぬほど幼い子供のようにきらきらと輝きはじめ、今にも感激の涙をこぼさんばかりに見開かれる、その視線は、王その人ではなく、王の右の座に居ます第一王子の面にのみ、ひたと向けられていた。


『ベジータ、ベジータ!オラ、約束守ったぞ!とうとう、おめえのそばまで来たんだ…!!』
「………」
王子はほとんど表情を変えず、ただ僅かに瞠目した様子だった。