宣誓11

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宣誓 I'll swear royalty and love to him.

11.





触れ合わせた唇を一旦離しベジータの顔を覗き込むが、相変わらず目を覚ます様子は無い。幼げな表情のまますうすうと寝息を立てている。その頬を指でなぞりながらカカロットはひどく困惑していた。自分の心臓がずきずきと痛む程に激しく脈打っている。得体の知れない感覚に体が細かく震えだすのを感じる。


目の前で無防備に眠る彼の姿、淡い息遣い、汗の匂い、指で触れる頬の滑らかさ、舌先に残る唇の味。その全てが、鋭くなった自分の五感に生々しく訴える。何者かに急き立てられるかのように再び唇を押し付ける。最初は触れ合うだけだったそれに、次第に力を込めて深く口づけた。
「……ぁ……」
小さな声が彼の唇から洩れ、背筋をぞくりと何かが走り抜けていくのを感じて身震いする。そっと唇の中に舌を差し入れて口腔内をまさぐる。その頃になってずっと固く閉じられたままだったベジータの瞼がようやくゆっくりと持ちあがった。
「……ん……?」
思い切り寝ぼけているかのような声がその喉元から洩れる。あわてて顔を離したカカロットは、しかしベジータの体の上に覆いかぶさっている自分の体を離そうとはせず、じっとその覚醒の様子を眺めていた。
「…?!おい…貴様何してやがる!」
やっとベジータが覚醒して、いつもの彼らしい声を上げその手の内から白い布が滑り落ちるのを目にした時、体が再び反応を始めた。心臓が一層激しく脈動する。吐き出す息が嵐のように速くなる。体の外から強大なエネルギーを注ぎ込まれるように体が激しく震えだす。同時にひどい渇望を感じた。それは空腹でも無く喉の渇きでもない。これまでに感じた事のない類の、自分を突き動かすような強烈な飢えだった。



欲しい 欲しい 欲しい 



身の内で血がたぎる。自分の中に流れる、紛う事無い獣の血が目を覚ます。
「貴様なんで人の上に乗ってやがる、重てえからさっさとどきやがれ!」
自分の肩のあたりをぐいぐいと押してくる彼のその手を掴んで、逆に強く地面に押さえつける。
「………?!」
ベジータは驚きに目を見開いた。自分の身の上に一体何が起こっているのかさっぱり分からない。目を覚ますと突然、黒い影のようにカカロットが自分の上に圧し掛かっていたのだ。ただ押さえつけられた腕を振りほどこうと身もがくが、強い力で押し付けられる手はいくら力を込めても振りほどくことができない。覚醒直後で咄嗟に反撃の態勢を取りそびれた事に加え、ここ数日で彼の力はすっかり弱くなってしまっている。それならばと反対の手で圧し掛かる相手の体を押し戻そうとするが、それは驚くほど重くびくともしない。
拘束から抜け出せない自分の弱さに困惑していた彼は、次の瞬間、今度は恐怖に身を震わせた。自分を抑えつけていた相手の片手が、今度は自分の体を弄り始めたのだ。明らかに性的な意図をもって。
「よせっ!…カカロット、やめろ…!!」



ベジータの体を抑えつけながら、カカロットもやはり混乱の最中にいた。自分の体の下で身もがき嫌がっているベジータの様子を見て、『止めなければ』と思う反面、彼が自分から逃れようとする事に腹が立って仕方が無い。怒りと興奮で息が荒くなり、次第に自分を抑えていた理性が消えていく。
ベジータの胸の上を彷徨っていた手が、邪魔なシャツを引き裂こうと布地を強く引く。しかしそれは強い靭力を持っていていくら引っ張っても破く事は叶わない。するとその手は苛立ったように、シャツの裾を掴んでベジータの顎下まで一気にめくり上げた。
「…カカ…ッ…!」
叫ぼうとするベジータの顎を力任せに掴み口付ける。顎の骨を圧迫されて強制的に口を開かされたその内に舌を差し入れる。
「んぅ…っ!!」
ベジータは眼を見開き、必死で頭を振ろうとした。けれど離すものか。顎を掴む手の力を更に強め、縦横無尽に彼の口腔を侵した。
「……っ!!」
再び抵抗を始めた彼の腕を大地に縫い止める。息苦しさにベジータは固く眼を瞑った。捕らえ損ねたもう片方の手は圧し掛かる者の肩を必死で押し返そうと無駄なあがきを続けている。肌蹴た胸に手を這わせると、びくり、とその体が震える。今度こそ必死で首を振りベジータは口付けから逃れた。
「……っあ!やめ、ろ……っ!」
再び振り上げられた腕を、今度はもう振りほどかれないようにしっかりと掴んだ。
息を荒げベジータは身をよじった。震える手が伸ばされ掴んだ草を引きむしる。腹這いに逃れようとする動き。すかさず獲物を逃がすまいと背を向けた彼の、禁欲的な紺色の戦闘服に手をかけ、腰骨あたりまでずり下がっていたそれを下着ごと一気に引き摺り下ろした。
「いやだ……っ!」
細くくびれた腰に日に焼けた事の無い真っ白な双丘が露わになり、彼の頬が羞恥に赤く染まる。柔らかい稜線に否応無く魅了され、その肌に歯をつき立てたい衝動に駆られる。上体を倒し体重をかけて小さな体を抑え込み、膝の辺りに蟠っていた邪魔な衣服を抜き取る。身を守るものを奪われた感覚に肌が竦む。ベジータは明らかに震えながら、肩越しにこちらを見上げてくる。
怯えきったまなざし。どうして突然こんな扱いを受けるのか全く理解できないという風に。けれどそんな様を目にしながら、意識は一層冴え渡って高ぶっていき、目の前の獲物を引き裂きたくてうずうずする。
「……あっ…あ…や…だ……っ」
上体を伏せさせ、尻を高く突き上げさせて獣の体勢をとらせ、背後から小さな身体を弄った。性急に胸の飾りを指先で捏ね回す。たちまち芯を持ち、つんととがったそれを乱暴に捏ねながら時折強くつねり上げる。
「痛っ!……よせ、やめろ……っ!!」
高く上がる悲鳴にますます興奮を煽られて、その白い肩に力を込めて噛みついた。すると一層高くなる悲鳴がますます甘美で耳に心地良い。流れ出す血の味に酩酊し切って、夢中になって傷口にむしゃぶりつく。
「くそっ……痛ぇ……離せ、離しやがれっ……!!」
引っ切り無しに上がるその悲鳴すらも喰い尽したくて、強引にこちらを向かせて今度は彼の肩越しに噛みつくように口付けた。


混乱と恐怖の中で唇を貪られながら、半ば恐慌状態でベジータはいつの間にか涙を流していた。今自分の上に起こっている事が未だにどうしても理解できないし、したくない。きつく閉じられた瞼の裏に浮かんだ姿、いつまでも子供っぽいカカロット。無邪気で甘い笑顔と自分に向けられていた無償の好意。それが今、自分を抑えつけ、こちらの意思など関係無く自分の体を蹂躙する男と同一人物などと、考えたくも無い。
自分は裏切られたのだ。何よりも大切だと思っていたものに。信じていたものに、裏切られたのだと思うと、涙が止めようとしても後から次々あふれ出た。


涙を流し続けるベジータの唇を激しく貪りながら、カカロットの手が彼の足を乱暴に開かせる。教えられなどしなくても本能が知っている。ここを犯してやればいいのだと。その足の狭間では小さな性器が、怯えて一層その身を縮こませながら揺れていたが、カカロットはそれには一切興味を示さなかった。彼の性器には一切手を触れず、片手でその双丘を割り開きながら、そのまま慣らしもしないで双丘の谷間に指を一本捩じ込んだ。
「……っ、あ、あああああっ!!」
痛みと衝撃にこれまでより一層高い悲鳴が上がる。
「あっ!いやだ……ぁっ!やめ……!」
涙混じりの声が暗い森に響き渡るが、構わず粗暴な手つきで狭い内壁に指をぐいぐいと侵入させていった。あまりに過ぎる怯えに体内すらも震え縮こまっている。そこへ無理やり異物を捩じ込まれ、たったそれだけで小さな裂傷ができた。その体はいくら強靭でも、体内はひどく柔らかく繊細だった。強引に侵入する指を赤い血が一筋伝い落ちていき、その暗い赤がますます侵入者の興奮を煽る。再びその小さな背に歯を突き立てて、流れ出す血を啜る。もはやその脳裏から理性は完全に消し飛んでいた。
「いた、い…っ、痛っ……!!カカ……やだ……やめ……っ!」
ベジータの声は完全な泣き声になり、指を増やすと悲鳴はますます高くなった。傷が広がり血が一層ひどく流れ始めたが、怯むどころか更に興奮してその指を激しく抜き差しした。出没する指はもはや血に染まりきっている。
「痛い……カカ……痛い……」
悲鳴の上げすぎで擦れ始めた声で、顔を伏せ頭を振りながら、ベジータは止めてくれと懇願し続けた。



抜き差ししていた指をベジータの中から引き抜いて、興奮の頂点の中でカカロットが自分の衣服の帯を解く。前たてを寛げる間ももどかしい。鮮血に染まった手で、自分の張りつめた性器を掴みだした。さあ早く。早く早く。誰かに取られる前にこの極上のご馳走を喰い尽してしまおう。



その様子をベジータが、涙に霞みきった目でぼんやりと眺める。……いやだ、このまま自分は犯されてしまうのか。視界の隅に白いものが映る。カカロットが取り落とした手布だ。彼の戻りを待ちながら、自分が手にしていたものだ。
……楽しかったのに。気恥しくて口にした事は無かったけれど、自分にとって、こいつといっしょにいられる時が何よりも幸せな時だと思っていたのに……
もはや殆ど力の残っていない体で、それでも懸命に逃れようと腕を伸ばすと、ベジータの指先に何か円筒状の滑らかな質感の物が触れた。
「……―――――っ!!!」
その正体を確認する前に、ベジータは夢中でそれを掴み、最後の力を振り絞って腕を振り上げ、相手の頭上に適う限りの力を持って振り下ろした。
…円筒状の物の正体は「水筒」だった。ベジータの為にと、カカロットが中に清水を満たして持ち帰った物。


振り下ろされた水筒は、カカロットの頭上に当たって派手な音を立てて割れた。ばしゃん!と中身が溢れてその頭上に冷水を浴びせかける。



「―――――……ぅわわわわっ!つ、つべてえっ!!」
大声を上げながら、カカロットはぶるぶると頭を振る。我に返り、夢から覚めた時の様に大きく目を瞬いた。自分の前髪からぽたぽたとしずくが垂れ、アンダーシャツがぐっしょりと濡れている。
「―――――……あれ????」
一体何が起こったのか、わけが分からない。確か調子の悪そうなベジータの為に、川から水を汲んで来て、戻ってきたらベジータは眠っていた。風邪を引いてはいけないからと揺すって起こしてやろうとして、そして……
「…そうだ、ベジータは?」
手のひらで目の上に垂れた水を拭き取りながら顔を上げ、次の瞬間視界に飛びこんできた光景にぞっとして凍りつく。目の前にベジータがうつ伏せに倒れ伏している。なぜか殆ど全裸の状態で、白い肌の至る所に酷い噛み傷が付けられ、血を流している。辺りにはベジータの衣服が投げ捨てられたようにちらばり……その内股には、鮮血が筋を伝って流れおちている。


「…!!ベジータ!!」
慌てて身を起し、その体を抱き起そうと手を伸ばしかけて、再びぎょっとする。…自分の右手が、鮮血にべっとりと濡れている。自分の体にはどこにも傷など無い。一体それが誰の血なのか、考えるまでも無かった。自分の顎からぽたぽたと赤い水滴が垂れ落ちる。水滴が赤いのは先ほど血に染まった手で顔を拭ったからだ。そして口の中に残る濃厚な鉄の味の理由は…考えるだけで恐ろしい。震える反対の手で再び顔を拭うと、水に血の混じったものでその手がぐしょりと濡れた。
顔から血の気が引き、頭の中が冷水を浴びせられたように冷たくなる。先ほどの酩酊し切った意識の中で、自分が何をしようとしたのか次第に記憶が蘇ってくる。そのおぞましさに背筋が凍る。

「………」
衝撃で指一本動かせないでいたカカロットの目の前で、意識を失っているように見えていたベジータがのろのろと起き上った。
「……ベジータ……」
「………………」
カカロットが呼びかけても、ベジータは返事をしなかった。のろい動きで立ち上がり、無言であちこちに散らばった自分の衣服を拾い集める。
「……なあ、ベジータ……なあってば……」
「………………」
カカロットが何度呼びかけても、彼は一切返事をしなかった。無言のままで、拾い集めた衣服を淡々と身に着けていく。その表情はうつむいていたので良くは見えなかったが、シャツを身に付ける時に僅かに顔をしかめた事は分かった。背中の傷に布地が擦れて痛むらしい。それでも何も言わず身支度を整え、ほとんど衣服を身に着け終わった頃、危なっかしい足つきだったその膝がとうとうがくりと崩れおちる。
「ベジータ!!」「俺に触るなぁっ!」
咄嗟にその体を支えようと伸ばされたカカロットの手が、ベジータの強い力で払いのけられた。
「…………っ!!」
「貴様の顔なんか二度と見たくねえ、二度と俺の前に現れるな!!現れやがったらぶっ殺してやる!!」
崩れ落ちそうになる体を懸命に腕で支えながら、衝撃で動けずにいるカカロットを激しい怒りの目で睨みつける。その頬には涙の跡が幾筋もついていた。
それっきり、呆然と立ちすくむカカロットの事を振り向きもせず、ベジータはふらつきながら東の空へ飛び去った。
目印の大木の下に、カカロットは一人きり取り残された。東の空が白んでも、森に強い朝日が差し込む頃になっても、その場からずっと動けずにいた。