コガタスズメバチの生活史

コガタスズメバチの一年は春とともに始まります.前年の秋に羽化し,半年間にも及ぶ長い越冬期間を終えた女王バチは,4月下旬〜5月上旬にかけて出現します.樹液や花の蜜,アブラムシの甘露などをなめて体力を回復し,5月中旬頃から単独で営巣を開始します.

最初の働きバチが羽化するのは6月中旬で,その後次第に数を増して,巣の規模が大きくなり活動も活発となる9月〜10月には100頭を越えます.オスと新女王は9月〜11月に羽化し,新女王のみが朽ち木内で越冬します.

コガタスズメバチの生活史は,@ 前営巣期(女王バチの越冬終了から営巣を開始するまで),A 女王バチによる単独営巣期,B 女王バチと働きバチの共同営巣期,C 女王バチと働きバチの分業期,D オスバチおよび新女王バチを産出する時期,E 新女王バチの越冬期の6段階に分けることができます.名古屋市における生活史は,これまでの調査結果を参考に整理すると,次のようになります.


産卵から成虫になるまでの期間は約1ヶ月(32日)で,内訳は卵が5日間,幼虫が12日前後,蛹が15日前後となっています.この発育期間は営巣初期には一般に長く,働きバチの数が増えると短くなる傾向があります.

成虫の寿命についてはよく分かっていませんが,女王バチが秋の誕生から翌年の秋までの約1年近く生存する他は,働きバチで1ヶ月〜1ヶ月半程度となっています.





単独営巣期

誘引トラップによるスズメバチ類捕獲調査では,5月上旬から越冬女王バチが捕獲されていることから,早い個体では4月中旬頃には活動を始めるようです.越冬を終えた女王バチは樹液や花の蜜,アブラムシの甘露などをなめて体力を回復した後巣作りを始めます.

営巣開始時期は5月上旬〜中旬で,最初の働きバチが羽化するまでの約1ヶ月半は,女王バチが単独で巣作りや子育てをします.巣はトックリを逆さまにしたような独特な形をしていて,巣盤には30個前後の育房が作られます.この時期はスズメバチの生活史の中で最も厳しい時期で,女王バチの死亡により廃巣になる割合はかなり高くなってしまいます.



女王バチと働きバチの共同営巣期

コガタスズメバチでは,卵から成虫になるまでの期間は約1ヶ月(32日)です.内訳は卵が5日間,幼虫が12日前後,さなぎが15日前後です.働きバチの羽化が本格化するのは6月中旬頃で,誘引トラップによる捕獲調査でも6月中旬頃より多数の働きバチが捕獲されます.これらを参考に逆算すると,本市におけるコガタスズメバチの営巣開始時期は5月上旬から中旬頃だと推定されます.

働きバチが羽化するとトックリ型の首の部分が切り取られ,巣は丸くなっていきます.巣穴の位置も下から次第に横へと移っていきます.働きバチの羽化後,しばらくの間は女王バチも外役に出かけますが,働きバチの増加とともに巣内で産卵に専念するようになります.



女王バチと働きバチの分業期

この頃から巣は急速に大きくなり,7月には巣盤数が2層,8月には3層,9月には4層の巣が多く見られるようになります.しかしいずれの時期においても,女王バチが生存しているにも関わらずあまり大きくならない巣も少数ながら存在します.

正常に発達した巣でオスバチが出現するのは8月中旬です.共同営巣期以降に女王バチが死亡した巣では,働きバチが産卵することが知られていますが,7月中旬頃からこうしたケースがみられます.この場合はオスバチしか生まれませんので,巣はこれ以上大きくなりことはありません.



オスバチと新女王バチの産出期

9月を過ぎると巣盤数が3層から4層の巣が大半を占めるようになります.この時期になると初期に作られた1層目と2層目の巣盤はあまり利用されることがなく,子育ては後から作られた3層目や4層目を利用して行われます.9月の終わり頃には巣の中は働きバチよりもオスバチの方が多くなります.

10月になると女王バチが死亡していなくなった巣が少しずつ増えてきます.新女王バチ(越冬して翌年女王バチとして巣作りする)は,オスバチより少し遅れて9月上旬頃より11月にかけて出現します.新女王バチは来年の営巣開始時期までの半年以上もの間,朽ち木の中で越冬するため腹部に大量の脂肪分を蓄えています.

新女王バチの越冬期

女王バチは既に羽化しているオスバチと交尾した後,越冬場所に移動して翌年の春まで長い越冬生活に入ります.巣の中は少数の働きバチだけとなり,もう子育ても行われません.こうしてスズメバチの1年が終わります.