『ポーの一族』の中のマザーグース
『ポーの一族』には、マザーグースがたくさん引用されています。ここでは、マザーグースをキーワードにして、『ポーの一族』を読み解いていきます。 まずは、萩尾望都とマザーグースとの出会いから見てみましょう。
(Special thanks to TERESA and ZENKO!)
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ハンプティは元に戻らない
1972年1月。ちょうど、『ポー』シリーズの記念すべき第1作『すきとおった銀の髪』を描きあげたころ、萩尾は、ある本の広告を目にする。平野敬一著『マザー・グースの唄』(中公新書)である。
その本には、昔、萩尾がオルガンで覚えた「きらきら星」や、何かのことわざと思っていた「だれが殺したクック・ロビン」など、さまざまな唄が、解説とともに載っており、萩尾は、たちまちマザーグースに魅せられた。
このあたりの経緯は、『クック・ロビンは一体何をしでかしたんだ』というエッセイに、詳述されている。
この年の12月に、マザーグースが、はじめて『ポー』シリーズに登場する。『メリーベルと銀のばら』の「ハンプティ・ダンプティ」だ。
エドガーは、妹メリーベルの愛するユーシスを救おうとして、逆に誤って殺してしまい、悲しみの中、妹に別れを告げに行く。死んでしまったユーシスは帰ってこない。ちょうど、割れた卵が元に戻らないように。この場面では、エドガーが、もう人間に戻ることができない自分自身をも、ハンプティになぞらえているようであった。
『鏡の国のアリス』でよく知られているハンプティの唄は、もとは「卵」を答とするなぞなぞ唄であったが、この作品でも、「元に戻らないものの象徴」として描かれている。