萩尾望都、英国滞在

 1973年後半、萩尾は『小鳥の巣』を描き終えたあと、約5カ月間、イギリス、ブライトンに短期留学している。書店に並ぶたくさんのマザーグース絵本を見て、マザーグースがいかに身近な存在であるかを知ったのも、このときだった。

 イギリス滞在中、萩尾は、ホームステイ先のミセスに、クック・ロビンの唄を何度も歌ってもらう。この唄は、どちらかというと、淡々と朗読されることが多く、イギリス人でも歌える人は少ないだろう。

 日本のわらべ唄と違って、マザーグースは、一つの唄がさまざまなメロディで歌われている。アメリカとイギリスで、節が違うものも多い。エドガーたちが口ずさんだ唄は、いったいどのようなメロディであったのだろうか。

 私は50本ほどテープを持っているが、歌われているのは、一本だけ。聖歌隊のコーラスのような美しい合唱で、意外と明るいメロディーである。

 テープでは、第1連ー最終連、第2連ー最終連、第3連ー最終連・・・というぐあいに、最終連が頻繁に歌われている。第1連など前半は、1人で高らかに歌い、後半の最終連は、子供たちが賛美歌のように声を合わせて歌っているのだ。

 この唄のメロディを聴きたい方は、リンクの Sweet Melody で聴いて見てください。なお、このメロディの前半が第1連で、後半は最終連です。どうですか?うまく、歌詞がメロディに乗ったでしょうか?

 さて、秋から冬にかけての英国滞在の感想を、萩尾はこう記している。

 「風景は遠くまで見わたせるのに、空気のヴェールがいく重にも淡い色をかけるので、実在感のないことったら。これでは吸血鬼が出ない方がおかしい」

 霧にけむる雑踏の中に、萩尾は幾度となく、エドガーやアランたちの姿を思い浮かべたことだろう。実際、真冬の12月でも、バラのつぼみを見かけたりしたそうで、ポーの村を探しに、ふらりと旅立ちたくなったのではないだろうか。