誰が殺したクック・ロビン

 翌年、1973年5月。萩尾は、マザーグースを軸にして構成した物語を発表する。傑作の誉れ高い『小鳥の巣』である。

 少年ロビン・カーを探して、西ドイツのギムナジウムに転校してきたエドガーとアラン。しかし、少年は死んでいた。

 二人は歌う。 

「だあれが殺した?クック・ロビン」

 「それはわたし」とスズメがいった。

 「わたしの弓と矢羽で。

わたしが殺した。クック・ロビンを」

 十四連もある長い物語唄だが、殺したと自白しているスズメをだれも責めようとはしないという、不思議な唄である。 

 萩尾の訳は、北原白秋の訳とほとんど同じだ。ただ、「駒鳥の雄」が「クック・ロビン」に変わっているだけである。

 たいていの本では、コック・ロビンとなっているのに、萩尾がなぜクック・ロビンに変えたのか、その理由はわからないが、ここでは、萩尾にならって、便宜上「クック・ロビン」と記すことにする。

 クック・ロビンとは、コマドリの雄のことだが、雄も雌もよく似た色なので、昔はコマドリはすべて雄だと考えられていた。それゆえ、クック(雄の)ロビンと呼ばれ、ヘン(雌の)ロビンという表現はない。

 赤胸のクック・ロビンの姿は、ビアトリクス・ポターの『ピーターラビットのおはなし』で、目にすることができる。

 ラディッシュをかじるピーターの傍らでさえずったり、落とした靴を見つけたり、ずぶぬれになったピーターを心配そうに見つめたりと、ピーターを優しく見守り続けていたのが、クック・ロビンであった。

 クック・ロビンの唄は、他の漫画にも登場している。由貴香織里の『少年の孵化する音』には、『誰がこまどり殺したの?』という物語が収録されている。

 そうそう、『パタリロ!』もある。ただし、この「だーれが殺したクックロビン」は、マザーグースの引用というよりも、萩尾の『小鳥の巣』のパロディだ。それは、「すばらしい。小鳥の巣以来の感激だ」というセリフからも見て取ることができる。

 なお、この漫画がテレビ化されたときに、『クックロビン音頭』はテーマソングとなり、一躍有名になった。