意識的引用その3(マザーグースが話の筋を支配・決定)

 1つあるいは複数のマザーグースをもとに、作者が意図的に話を作り上げる場合がある。マザーグースが物語創作の出発点となり、物語の「筋を支配・決定」するのである。

 前項の『鏡の国のアリス』も、ハンプティ・ダンプティやライオンとユニコーンなど、さまざまな唄をもとに複雑に話が組み合わされている。また、『風にのってきたメアリー・ポピンズ』でも、'Hey diddle diddle' の唄が重要なモチーフとなっている。

 このように、「ファンタジーの補強作用」と「筋を支配・決定」とは重なり合う部分も多いが、ここではマザーグースが物語に強い影響を与え、物語の筋を支配・決定している例を検証してみたい。 

(9)アリスが出会ったハンプティ・ダンプティ

  第6章、アリスが塀の上に座った卵男、ハンプティ・ダンプティに出会う場面を見てみよう。この場面では、マザーグースはよく知られた形のまま引用され、マザーグースの筋を物語がなぞるように進行して行く。 

 Humpty Dumpty was sitting with his legs crossed, like a Turk, on the top of a high wall. 'Why do you sit out here all alone?' 'Why, because there's nobody with me!アリスとハンプティ'

 ハンプティ・ダンプティは、トルコ人のように足を組んで、高い塀の上に座っていました。アリスは、唄を口ずさんで、質問をする。「こんなところでなぜひとりで座っているの?」「なぜって、ひとりしかいないからさ!」 

  そして、落ちたらたいへんよ、と心配するアリスに向かって、ハンプティは、こう言う。

  'Yes, all his horses and all his men. They'd pick me up again in a minute, they would!'

王様の馬と家来が、すぐさまわしをおこしてくれるんだ。」 

  その後、ハンプティと別れたアリスは、森に響きわたる大音響を聞いて、ハンプティが落ちたことを知るのであった。

 さて、キャロルの引用の仕方で面白い点は、伝承のハンプティにはなかった新しい性格を付加し、「うぬぼれ屋さんで理屈っぽい性格であったため、塀から落ちた」とfallの理由付けをしているところである。

 その根底に流れているのは、聖書の 'Pride goeth before destruction, and a haughty spirit before a fall.' という一文。pride(うぬぼれ)が fall(堕落)につながる、といった意味である。ハンプティの場合は、うぬぼれたために、文字通り fall したというわけだ。

 このように、キャロルは、マザーグースのキャラクターに新しい性格を付加し、唄の筋を物語になぞらせている。マザーグースが話の筋を支配している例の一つと言ってよいだろう。