(10)『秘密の花園』のポイントはマザーグース

  バーネットの『秘密の花園』(1911)は、マザーグースを強く意識して書かれている。そのことは、小説が最初はMistress Maryという題で発表されたという事実からも、よくわかる。

 'Mary, Mary' の唄は作中で2回歌われているが、1回目は頑固でひねくれもののメアリーを子供たちが唄を使ってはやしたてる場面。

 もう一ヶ所は、封印されていた秘密の花園を見つけたメアリーが、荒れ果てた花園を蘇らせようと、メイドの弟ディコンと一緒に球根を植える場面である。

 

 "They used to dance round and sing at me. They sang --'Mistress Mary, quite contrary.,How does your garden grow? With silver bells and cockle shells,And marigolds all in a row.'I just remembered it and it made me wonder if there were really floweres like silver bells. I wasn't as contrary as they were."

 「あの子たち、いつも私のまわりをぐるぐる踊って、歌ったわ。意地っ張りの女王様メアリー。あなたのお庭はどんなふう?銀の鈴とトリガイの貝殻があって、マリーゴールドが一列に並んで咲いてます。私はあの子たちほど意地悪ではなかったのに。」秘密の花園表紙

 

 やがて蘇った花園は、叔父や病弱ないとこの心もいやしていく。メアリーも蘇る花園とともに明るくなり、笑顔を見せる素直な少女へと変わっていく。

 花園(garden)が大きな役割を果たすこの物話では、主人公の名前はメアリーでなくてはならなかった。そしてメアリーは、同じバーネットが書いた『小公子』のセドリックや『小公女』のセーラのように愛らしく素直な子供としてではなく、意地っ張り(contrary)な少女として描かれている。

 これは、マザーグースにヒントを得て作られた典型的な作品である。なお、この用例のように1行目が Mistress Mary で始まっているものも多いようだ。