「日本再生」への道

 


正義の実現こそ、日本再生への道!

 現代社会の最大の問題は、社会が目指すべき方向が多極化し、混迷を深めていることではないだろうか?混迷する原因は「真の正義」が判らないからである。 思想、信条、価値観が異なれば、正義の内容は異なり、思想、信条、価値観の数だけ「正義」が存在する。社会にとっての「正義」は存在しないという意見さえある。

 ユダヤ教、キリスト教とイスラム教は同根で教義のパターンに共通性があるのに、お互いを敵視して聖戦の論理を生み、異教徒間の争いを際限の無いものにしている。多様化、混乱している正義の内容を統一出来なければ争いに終止符は打てない。

 一つの国の正義は一つに集約する必要があり、どうしても正義の内容を集約出来ない場合は、国家を分割し、異なる法体系ごとに国家を編成する以外に正義を実行する方法は無い。連邦国家の創設は、集約が難しい多様な価値観を共存させながら、国家を統合するための具体的方策の一つとみてよいだろう。
 世界の恒久平和の実現には、国境を撤廃して土地への執着を断ち、多様な法制度の選択を可能にする世界連邦の構築が望まれるが、自己中心的な宗教的信条やイデオロギーを排除しなければ実現は難しい。

 わが国の現状を見ると、国内は勿論、信条を等しくする筈の政党内でも異なるイデオロギーや価値観を持つ集団が存在し、正義の内容がばらばらだ。これではまともな政治はできる筈がないし、仮に政権交代が行われても混迷は続き、重要問題の解決は先送りされるだろう。国内で政権を目指す「政党」は、党内で徹底的な議論を重ね、国民に選択を迫るべき「正義」の原則を一つに集約すべきである。

 明治維新により、士農工商の身分差別は天皇主権と四民平等の価値観に姿を変えたが、第二次大戦後は国民主権に基づく民主制の諸制度が現代日本の「正義」の内容を構成している。
「自由」と「平等」は民主制における「正義」の2大原則である。しかし、「自由」を尊重するためには規制が少ない「小さな政府」を必要とし、「平等」を実現するためには規制が多い「大きな政府」が求められる。

 日本は伝統的に「自由」より「平等」を重視する人々によって支配され、さまざまの規制によって貧富の格差を少なくし、税制により所得を再配分してきた。
 「平等」を実現するためには、公的セクターの肥大化が避けられず、日本のGDPの6割が公的資金による非効率な官製事業で占められ、日本は世界でも稀な資本主義の顔をした「社会主義」国家になってしまった。

「社会主義」国家では、貧富の格差を是正する代償として、個人の自立は抑制され、自立できない弱者の集団を生みやすい。「受益」と「負担」、「権利」と「義務」の乖離が大きくなり、受益者の「権利」が幅を利かせ、負担の「義務」を課すことを難しくする。公益の名を借りた私益が横行し、権力者の腐敗と官僚の専横が蔓延りやすいのだ。必然的に少数の権力者による専制政治か、または多数の既得権者による衆愚政治に陥り、経済合理性は無視され、国家は財政破綻への道を歩むことになる。

 「社会主義」国家の弊害が極限に達したため、ソビエト連邦は崩壊し、中国では「自由」を尊重する市場経済の原則を導入して「正義」の内容を書き換えてしまった。中国では国有銀行の国有企業に対する融資の50%以上が不良債権化していたといわれているが、倒産寸前の国有企業を市場の競争原理に曝すことによって中国経済は蘇った。共産主義のイデオロギーに囚われていたら中華人民共和国もソビエト連邦同様、崩壊に向かっていただろう。

「自由」と「平等」は、いずれか一方だけでは普遍的な「正義」にはなり得ず、「自由」と「平等」という2大原則さえも、状況に応じて変化するのだ。「正義」は人間の浅はかな頭脳で判定することは難しくても歴史が証明するのである。

 わが国の現状に照らせば、受益と負担を乖離させる行き過ぎた「悪平等」を是正し、多過ぎる公的規制を排除するために中央省庁は縮小解体し、国民の安全と最低生活だけを保障する「小さな政府」を目指すことが正しい道だろう。公的年金の過去債務480兆円も含めて、1000兆円(GDPの200%)をはるかに超える日本政府の巨額債務は、非効率な公的セクター(Tax Eater)を大幅に縮小し、民間セクター(Tax Payer)による自由な経済活動を拡大させることによって、GDPを倍増させることができなければ解消は不可能である。巨額の補助金と公的資金による既得権益保持者に対するバラマキ行政や、公的年金制度にみられる議員、公務員への優遇給付、世代間不公平は正義に反するものであり、一刻も早く是正すべきである。

 日本再生のために、「受益」と「負担」、「権利」と「義務」を一体化させて、モラルハザードを回避し、日本社会に正義を取り戻さねばならない。日本経済のGDPを倍増させるためには、「量」から「質」へ、「所有」から「利用」へ、「有形」から「無形」の財産へと、保護すべき財産権の内容を書き改め、土地と金融資産の有効活用を図り、日本経済の付加価値を飛躍的に高める必要がある。価値観を改めて、「正義」の内容に変更を迫り、抜本的な税制改革と社会制度の変革を実現しなければ、日本の再生は難しいのだ。

 個人の自立を助ける施策は重要であるが、受益と負担を別会計とする税制と既得権益を温存する補助金漬け縦割り行政の諸制度は、原則として廃止すべきである。所得の再配分を目的とする課税は少なくして、格差を生む資産への課税を重視し、「権利」を求めるすべての国民の納税「義務」を徹底しなければならない。資産、資源の有効活用から生まれる付加価値に対する課税(=消費税と資産課税)で受益者負担を徹底し、公平な課税で国民の担税能力を高めることが可能になれば、巨額債務の累積と財政破綻は回避され、日本経済は間違いなく再生への道を歩むことになるだろう。「正義」の実現こそ、日本再生への道なのだ!

文京区 松井孝司


生活者通信第105号(2004年5月1日発行)より一部修正して転載

●政府とは何か?

●政府の巨額累積債務をどうする?−歴史からの教訓−

●小さな政府で大きな公共サービスを!

●「官」から「民」へ−法人改革を考える−

●道州制で縦割り行政の解体を!

●「公地公民」の経済政策を!

●歴史に学ぶ財政破綻回避への道

●アベノミクスは成功するか?

●日本経済の長期停滞と持続的成長−歴史は繰り返す−

●マイナス金利とイノベーション

●日本の政党政治−求められる政策集団

●資本主義は持続可能か?

●21世紀の資本主義−「反」ではなく「非」の哲学を!