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スカーレット・ウィザード番外編

【The Ghost】


II.《生者》−6
 翌日、昼過ぎにケリーはヨシュアに連れられて村長とやらに会いに行った。
 無論、徒歩である。ヨシュアにとっては通いなれた道だし、ケリーにとってもどうということのな
い距離だ。
「少しは慣れたか」
「うん、まあ」
 眠れないかと思っていたが、慣れない環境で疲れていたのか、はたまた借りたぬいぐるみの効果か、
ぐっすり眠ったケリーだった。
 デイジーはなにも気にしてない様子で「おはよう」と朗らかに挨拶してケリーに「ひよこ小屋のひ
よこたち」を見せてくれて、ついでにさえずっているひよこをケリーに手渡したりした。生まれて初
めて触る生き物にケリーは硬直したが、それでもひよこが可愛いと思い、それが育つと締められて鶏
肉になると知ってショックを受けた。
「なあ、ヨシュア」
「なんだ」
「昨夜食べたローストチキンてもしかして」
「ああ。うちのいちばん若くて大きいのを潰したんだ。美味かったろう?」
 違う、と思う。そうじゃなくて。
「なんだかなあ」
 ヨシュアは笑い出した。「おいおい。弱肉強食だろ」
「だってさあ」
 小石を蹴飛ばす。「あんなにひよこは可愛いのにさ」
「村の連中に言わせるとな、感謝しながら食えばそれでいいんだと。鶏の命をいただいてこっちは生
きていく。それをわかって食い物を無駄にするなと言うわけだな」
 ため息をつくのをやれやれという表情で見る。
「おまえ、牛や豚や鶏が肉になって試験管から生まれると思ってたのか」
 首を振る。
「考えたこともなかった」
「おまえらは飢えたことが無いんだな」
 ヨシュアは言った。「良かったじゃないか。不毛な殺し合いをするにしても飢えを抱えなくてすん
で。飢えってのも辛いもんだぞ」
「腹を減らすのと違うのか?」
「そんな生易しいもんじゃないさ」
 ヨシュアは立ち止まった。彼の地所からだいぶ歩いてきており、さきほど橋を渡った用水路は《引
き網》を隠してある渓谷に流れ込む川から引いてきたものだ。このあたりは土地の改良も済んで春小
麦が刈り取りを待つばかりになっている。
「ここらの畑は麦だ。これが実って刈り入れをして、脱穀して粉にする。それを焼いてパンやケーキ
を作るわけだ。だが、飢えればこんなものでなくても食べようとする。例えばこんな雑草とかな」
 ケリーは足許の草を見た。「これ、食えるのか?」
「さあな。多分食えるだろう。というか、食えなくても食う。水が欲しければ泥水だって啜る。それ
が飢えだ」
 それきり黙ってまた歩き出す。
 ケリーもその後を歩く。彼を受け入れてくれた人たちは飢えたことがあるんだろうか。ヨシュアは
あるんだろう。ジェーンも「泥沼のような暮らし」と言っていたから飢えたことがあるんだろう。じ
ゃあ、デイジーは?
「あの子は飢えたことあるのか?」
「ん?」
 振り向いた。「誰?」
「デイジー」
「入植した年にはずいぶんとひもじい思いもさせた」
 ヨシュアはズボンのポケットに両手を突っ込み、背中を丸めた。
「あの年はな、夏の天気が不順すぎて小麦どころか蕎麦も豆もこれっぽっちも取れなかった。町の人
間は備蓄でやり過ごしたようだが、こちとら百姓だ。そんなものを政府がくれるわけもねえ。てめえ
らは種もみを喰ってろ、というわけだ。この村でも年寄りやら子どもが飢えて死んで、おれたちは自
分の食うものは切り詰めてもあいつにはなんとか食わせてたが、それでも腹を空かせては泣いていた。
村中で川で魚を捕まえ、木の実や雑草を蒸してすりつぶして子供たちに食わせたもんだ」
 到底想像できないことだった。魚はわかる。だが、そこら辺の雑草を蒸してすり潰して食料にする?
「まぁ、もっとひどい所は死人の肉を喰ってたってんだから、まだましさ」
「人間を喰う?!」
「その前に犬やらなんやら喰ったそうだがな。東との戦争をやめることにしたのは、一つはそのせい
だ。貴族連中は飢えちゃあいなかったろうが、西は東よりも土地が悪くてな。それがそもそも分裂し
た原因でもある」
 それは知っていた。市民を搾取する「偽のウィノア国家」を倒すのが自分たち特殊軍の使命だった
のだから。
 でも、自分は飢えた記憶など無い。毎日きちんきちんと食事をしていた。
「ごめん」
 唇を噛んで下を向いた。「俺は自分たちだけが不幸だと思っていた」
「なぁに、済んでしまえばそれも思い出さ」
 ヨシュアは両手をあげてみせた。「おかげで村におれたちも溶け込めた。《引き網》の合成食料生
成装置はずいぶん役に立ったからな。だからあそこに《引き網》があっても誰も文句は言わないんだ」
 2人の歩いている道は徐々に坂を下っていた。少しずつ家が出てきたが、どれも見たところヨシュ
ア達一家の家よりも大きくてがっちりした造りだった。
「あそこが村の中心だ」
 ヨシュアが指さす。「昔、宇宙に移民する以前にはよくあった町や村の作りだったんだと。今じゃ
めったに見られなくてな、時々学者さんが見物に来るそうだ」
 村は背の低い塔を付けた切妻屋根の建物とその前の広場を中心に構成されているようだった。ケリ
ーは注意深く眺めた。建物のてっぺんには十字飾りが立っている。
 市街戦の基本は習ったが、町の中心は行政府の建物である。目の前に建つ建物は行政府というより
は集会所とか倉庫に近い。
「あれは?」
 指さすと、ヨシュアは肩をすくめた。
「教会だよ。週に一度、長老連中がそこで説教する」
「説教?」
 ケリーは呆気にとられた。
「なにを怒って説教なんかするんだ? 週に1度だなんて凄い」
 ヨシュアは笑いだした。「違う違う。説教ってのは神様の教えとやらを分かりやすく皆に教えるこ
とさ。おれは神様なんて興味無いから来ないがね」
 ふと町で聞いた話を思い出す。「ここの連中は神様なんぞを信じている」とあのはげ親父は言って
たっけ。神様って何だろう?
 ふと気配を感じて振り向くと、小太りの女が広場の向こうに立っていた。
「あれまぁ。ヨシュアったら珍しい」
 近寄ってくるとヨシュアは愛想よく言った。
「やぁ、ピットの奥さん。いいお天気さね」
 女は腕になにか丸く編んだものを抱えていた。
「今度こそは夜の祈祷会に来るんだろうね?」
「いやいや、おれは不信心者でけっこうだよ。村長さんに会いに来たんだ」
「罰あたりだねえ、相変わらず」
 女は眉をちょっとしかめた。「だから村の衆にいい顔されないんだよ?」
「おれみたいなのは、今更神様だって匙を投げていなさるさね」
「神様は慈悲深い御方だよ。そっちの男の子は?」
「ああ」
 ケリーの頭がぐいと押さえつけられ礼をさせられる。
「挨拶しな、ケリー。ピットの奥さんは長老のひとりがご亭主だよ。うちの女房の遠縁が身寄り亡く
したもんだから引き取った。ケリーってんだ」
「はじめまして」
 もごもごと挨拶すると、女は笑った。
「そうかい。ヨシュアんところもだんだん賑やかになってくるねえ。刈り入れの時は人手が増えそう
で嬉しいじゃないか」                  ヤマ 「いやいや、百姓が出来るかどうか。鉱山育ちだからなあ」
 短い挨拶を交わすとヨシュアは広場を突っ切った。    カミ 「あの内儀さんは世話好きでな。その分地獄耳で噂話が3度のメシより好きだ」
 ちらと見上げると、ヨシュアは頷いてみせた。
「気をつけろよ」
「ああ」
 建物の1つに近寄ると、ドアの上のつまみ(ケリーが訊ねると「ノッカーだ」とヨシュアは教えた)
を掴んでヨシュアはドアを叩いた。
 少し待つと、ドアが開いた。
「やぁ、村長の奥さん」
 白髪混じりの痩せた女が立っていた。
「これは、ミスタ・マクニール。どうかなさったかね?」
「村長さんはいなさるかね?」
 ヨシュアの声は相変わらず愛想がよかった。「うちの女房の甥っ子が来たんで挨拶に伺ったんだが」
「おりますよ。まぁお入りなさいな。おや、怪我してるのかい」
 老女はケリーの顔をまじまじと見た。
「そうなんで。事故で身寄りが死んだうえに右目を無くしちまってね。こっちに来る前に町で義眼は
入れさせたんだが」
「そりゃあ気の毒に。食堂にいますよ、うちの人は」
 ケリーは素早く目を走らせた。村長、というとここの村の責任者なのだろう。家の作りも立派だし
内装も見事だ。床には擦り切れかかっているとはいえ絨緞が敷いてある。しかも食堂とやらはケリー
の見るところ、マクニール家の台所の3倍もの広さをもって5倍は豪華だった。
「やあ、ヨシュア」
 ケリーが見たことも無いほど見事に髭を伸ばした老人が食堂の一番いい席に座っていた。痩せてい
たが背筋はしゃんと伸びていた。襟の詰まったシャツにベストを着けている。キツイ匂いがするが、
何の匂いだろう?
「急に押しかけちまって、すいやせんね」
 老人は手を振ってみせた。
「なに。今日は夜の祈祷会の準備だけだよ」
 勧められた椅子に座ると、老女は紅茶をなみなみと淹れたカップを運んできた。
「チャレスカから連絡が来ましてね。女房の又従兄弟だかが住んでた村が山津波でやられちまいまし
てね。これが生き残ったもんで、うちで引き取ることにしましたわ」
 ヨシュアはケリーを指さした。「まぁ、山育ちだから村の衆にはなかなか馴染めないかもしれんが、
そこんところは大目に見てやってくださいよ」
「そりゃあ大変だったろうな」
 村長は相づちを打った。「なんだったら今度の集会の時にでも村の衆に紹介するかね?」
「あんなところに立ったら、この坊主は恐れをなして卒倒しちまいますよ」
 なんで俺がそんな気の小さいことになるんだとケリーは思わずヨシュアに向かって口を開きかけた
が、その爪先をごついブーツの踵が踏ん付けてケリーを黙らせた。
「そういえば、おまえさん、あれはどうなったかね」
 村長の言葉はさりげなかった。「どうだったかね、荒れ地は?」
「ひでぇもんでしたよ」
 ヨシュアは肩をすくめた。
「噂通り、特殊軍の連中は全滅でね。いやよっぽど即効性の強いやつをまいたんだろうなあ。まぁ探
知器では殆ど毒は無かったようなんで安心しましたがね。検問所の連中にも確かめてきましたよ。連
中もヤケになったんでしょうな。取り決めで禁止されている毒ガス入りのミサイルを互いにぶち込む
たぁね」
 あっけにとられてケリーはヨシュアの横顔を見つめたが、彼は澄ました顔で紅茶をすすっていた。
「戦争というものは虚しいものだ」
 村長は何やら十文字のしぐさをしてみせた。
「今度の集会では特殊軍兵士の冥福でも祈ろうかの」
「あの連中が、ここの神様の救済とやらの対象となるんで?」
「神は慈悲深き存在だよ、ヨシュア。どれほど罪深き者に対してもな」
 ケリーは怒りとともに村長を睨みつけた。誰が罪深いだと?! 俺たちを殺した連中は罪深くない
ってのか?! とたんにぎりぎりと踵がケリーの爪先を踏みにじった。呻き声を出したくなくて、ケ
リーは歯を食いしばって耐えた。
「まぁ、村の衆にはおいおいということで」
 紅茶を飲み干すとヨシュアは立ち上がった。
「役場にはどう届けを出しておきましょうかね?」
「今日中にわしが書類を書いておくから、2,3日中に郡役所に出しに行くとよかろうよ」
「わかりやした。じゃあごめんなすって」
 徹頭徹尾、ヨシュアは愛想のよさを崩さずに村長の家を辞去した。
「さて、これで今日の大方の用事は済んだな」
 広場の中程まで戻ってくるとヨシュアは呟いた。ケリーは相変わらず腹を立てていたが視線を感じ
て振り向いた。
「デイジー?」
 10メートルほど離れたところにデイジーが立っていた。なにやら白い布を被せたものを抱えてい
る。
「どうした、デイジー」
「あのね、祈祷会でのお茶菓子を届けてって母さんに頼まれたの。父さん達の用事は済んだの?」
「ああ。じゃあのんびり歩いてるから、早く置いてきな」
「うん!」
 にこっと笑うとデイジーは広場の向こうの通りを入っていった。振り返るとヨシュアはさっさと歩
きだしている。
「ヨシュア」
「黙って歩け」ヨシュアは低い声で言った。「広場の周り中の窓から見られてるじゃねえか」
「そんなことは判ってる」
 人通りは殆ど無い。しかし息を潜めてこちらを伺う気配は判る。
「判ってるならそんな今にも暴れたそうな顔してるんじゃねえよ」
 ゆっくりだが大股にヨシュアは歩を進めた。広場を抜け、坂道を歩いている間も並んでいる家の窓
から痛いほどの視線は感じていた。
 やがて家並も切れ、先程の麦畑までやってくるとヨシュアは足を止めた。
「ここらでデイジーを待ってやろう」
 柵に身を寄り掛からせると煙草に火を付けた。
「まったく好奇心だけは旺盛だな」
 ヨシュアは誰に言うともなく呟いた。「居着かないよそ者には用心するくせに、住み着こうとする
人間には好奇心丸出しだ。まぁ、だからこそ受け入れやすいんだろうが」
「ヨシュア。罪深いってなんだよ?」
「有り体に言えば、地獄に落ちるってことさ。ここ式に言えばな」
「地獄?」
「生前の行いで、死んでからきれいな場所で安楽に過ごせるか、はたまた阿鼻叫喚の血みどろの戦場
のような場所に送られるか。そんな場所に送られるのが嫌なら生きている間に神様に祈って誰にでも
優しくして功徳を積め。そういう宗教だよ、ここの連中の信じているのは」
 ヨシュアの顔を彩っているのは皮肉と侮蔑の表情だった。
「おれは基本的に神なんぞ信じちゃいねえ。自分で判断して自分の腕で切り開くのが人生だ。他力本
願なんて真っ平だ。誰かに自分の人生を左右されるのもな」
 横目でケリーを眺めて笑った。
「それでもおれがここに住むと決めたのは、ただここの連中は住み着く人間には寛容だからさ。それ
にゼロからスタート出来る開拓地なんてそうそう無いからな」
「神ってなんだ?」
「人間よりも超越した存在、と言うことになっている」
 携帯灰皿を出して煙草の灰を落とした。「世界とあらゆる生き物の創造者、というのが一般的だな。
人類の発生地ではあらゆる種類の宗教があるが、ここの連中の宗教は哲学的な宗教だ。寛容の精神と
隣人愛を説きながら異端を嫌う」
「へ?」
 目を剥くとヨシュアは苦笑した。
「だからな。同類には優しいんだが、毛色の違う連中にはナーバスで毛嫌いするんだよ」
 顔をしかめた。「つまり、『外』同士の人間だとよくて特殊軍だとまずい?」
「そういうのもあるかもしれん。歴史的に見ると自分たちと精神的に主張するものが違うと排除する
傾向がある」
「......それって西と東の戦争と、どこが違うんだ?」
「さぁて。おれは宗教学の専門家じゃないからな」
 ヨシュアは面倒くさそうに話を打ち切った。「そういうことを知りたければ、情報教育センターの
データベースに当たりな」
「情報教育センター?」
「たいしたことは教えてくれないだろうが、基礎教育のレベルでならまぁ使えるだろう。デイジーに
使い方を教わるといい」
 寄り掛かっていた柵から背中を戻した。「ここだ、デイジー!」
「父さん達、ゆっくりって言いながら早いんだもん」
 駆けてきたデイジーは息を切らしながらしゃがみ込んだ。
「うちに着くまで追いつけないかと思っちゃった」
「そりゃあ悪かったな。そら、籠を持ってやれ、ケリー」
 デイジーから籠を受け取った。中にはさっき蓋をしていたらしい布が畳まれて入っている。
「デイジー、あとでケリーに情報端末でセンターのデータベースに入る方法を教えてやりな。ケリー
もいろいろ勉強したいことがあるようだからな」
「はい、父さん。データベースも面白いけど、ライブラリも面白いのよ。昔からのいろんな本が読め
るの」
 歩きながら嬉しそうに言うのを見下ろした。この子は本当にいろんなことを楽しがって生きてるん
だな。俺は戦闘に出ていくのが楽しかったけど。
「楽しい?」
 気がついたときにはそう訊いていた。
「なにが?」
 見上げてくる瞳は無邪気だった。
「なんていうか......」自分で訊きながらたじろいだ。「生きるとか人生とか、まぁいろいろ」
「とっても楽しいわよ」
 頷いてはっきりと言う。「いろんなことを知っていろんなことに気がつくの。ケリーにも会えたで
しょう?」
 にっこり笑って言うのを不思議に思った。「そう?」
「あたしの知ってる世界はとっても小さいの」
 両手をあわせて微笑んだ口許に持っていく。「だから知らないこともいっぱいあるでしょ? 知ら
ないことを知っていくのってわくわくしない?」
 わくわくする?
 ケリーは考え込んだ。
 俺がわくわくしたことっていうと、初めて銃を持たせてもらった時とか、新しい機械の動かし方を
教わったときとか、格闘技の凄い技を思いついて試したら一発で出来たときとか......なんだか最近
もあったっけ。なんだったっけ? そうだ《引き網》と《ファラウェイ》を知ったときだ。あれでわ
くわくしたっけな。
「......たしかに知らないことを教わったり知ったりするとわくわくするなあ」
「でしょう?」
 我が意を得たりと頷く。「あたし、ケリーもきっとそうだって思ってたもん」
「どうして?」
「どうしてかなあ」
 可愛らしく首を傾げた。「あのね、会ったときに閃いたっていうのかしら?」
「ひらめく?」
「そうよ。ケリーはあたしとおんなじなんだなぁって」
 ケリーは呆れてデイジーを見た。同じ? 俺がこの子と? 特殊軍の、研究所の試験管生まれの戦
闘しか知らない俺が?
「それって......イトコってことに頼りすぎてないか?」
 まさか特殊軍の俺と、とは言えずに言う。
「そんなことないもん。だって、母さんの又従兄弟なおじさんがケリーの父さんなんでしょう? 従
兄って言っても遠いじゃない。イトコ同士の血じゃないもん」
 デイジーは口をとがらした。
「じゃあなに」
「あのね」
 少し先を歩いているヨシュアをちらりと見ると、ケリーの袖を引っ張った。つま先立ち、耳許に口
を寄せて囁く。
「外の世界を知りたい血」
「ええ?」
 眉をしかめ、ケリーは少女を見下ろした。「なにそれ」
「あら、全部教えちゃったらつまんない! ケリー、考えてみて。クイズよ!」
 声を立てて笑うとデイジーは駆け出した。「家まで競争!」
 呆気にとられていたがケリーも吹きだした。まったくなんて女の子なんだろう。
「ケリーののろまさん!」
 途中で振り返り、デイジーが叫ぶ。
「あたしに勝ったら、おやつの林檎、特別大きいのをあげるわよ!」
 負けず嫌いの性格が顔を出した。
「ようし。それじゃあ、ぶっちぎりで抜いてやるからな」
 籠を抱えて走り出した。基地の中じゃすばしっこいほうだったんだ。あんな女の子に負けるもんか。
 あっという間に追いつく。「じゃあな、亀なデイジー」
「あん、ひどい、ケリーってば!」
 笑って抜き去る。最高の気分だった。






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