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スカーレット・ウィザード番外編

【The Ghost】


II.《生者》−4
 夜中過ぎ、ケリーはヨシュアに連れられて建物を出た。振り返ると見たこともないくらいに小さな
建物だった。
 平地のはずれには渓谷が有り、川が流れているらしい。ヨシュアはケリーの手を引っ張りながらず
んずん谷を降りていく。怒涛の音がして、何かと思ったら滝つぼがあった。
「こっちだ」
 月明かりの中、滝つぼの脇の斜面をちょっと登り、降りていくと大きな岩があった。そのどこかに
手をやると、かちりと音がした。
 ヨシュアがケリーを岩の中に連れ込む。足許が硬化プラスチックなのに気がついた。扉を閉めてヨ
シュアは懐中電灯を灯してさらにケリーを引っ張っていく。
 やがて再び扉を通過すると、ヨシュアは手許を照らしながら、奥の壁をごそごそといじっていた。
 ポーン、と音がした。
 壁にはめ込まれているインジケーターが点灯し、みるみるうちに部屋が明るくなってきた。
「お帰りなさい。マスター」
 中性的な合成音声が聞こえた。
「おうよ、《ファラウェイ》。お客を連れてきたぞ」
「感知・しました。登録・しますか?」
「ああ、頼む。しばらくおめえに預かってもらうからな」
 ヨシュアはケリーを手招きした。「来な。乗務員登録すっからよ」
 掌を掌紋登録面に載せ、左目を網膜登録させる。名前を言わせて音声登録もする。
「ようこそ、ケリー。わたしは・外洋船《引き網》の・感応頭脳の《ファラウェイ》です」
 ケリーは物珍しく周囲を見回した。
「これなんだ?」
「宇宙船です」
 《ファラウェイ》はあっさりと答えた。
「マスター・ヨシュアの・持ち船です」
「あんた、宇宙船もってたのか?!」
「ああ。これでもな、船持ちの海賊だったんだぜ、おれはよ」
 ヨシュアは操縦席に腰掛けて、にやっと笑った。
「ちんぴらで個人の船持って海賊団に入るってのも珍しいらしいんだがな。おれの入った海賊団のお
やっさんが出来た御仁でな。さしあたりは独りだがそのうち子分をつけてやるって言われてたのさ。
子分が出来る前に嬶と一緒になって海賊から足を洗うことになったんだがよ」
 振りかえる。
「《ファラウェイ》。1週間かそこらだが、こいつをおまえさんの権限で預かっておいてくれ。いろ
いろ教えてやりな。ただし無用に外に出したり船を動かすような真似はさせるな。軍の監視衛星にひ
っかかるなよ」
「わかりました」
「それとな。医療脳にこいつの傷を見せてくれ。義眼入れなくちゃならん」
 なにやら入ったバッグを天井から伸びてきた自動腕に渡す。
「了解」
 指示を与え終わるとヨシュアは立ちあがってケリーの肩を叩いた。
「なあに、1週間なんてすぐだ。《ファラウェイ》はいい奴だからな。寂しくなんてないぜ。じゃあ、
留守番頼むな、坊主」
 そのまますたすたと歩き去った。取り残されたケリーは部屋を改めて見渡した。
「ええと。《ファラウェイ》?」
「イエス。ケリー」
 天井から返事が返ってくる。
「この船の構造図みせてくれ」
 1週間でこの船のことを知り尽くしてみよう。
 

 1週間後にヨシュアがやって来た時、ケリーは動かす以外では《引き網》と《ファラウェイ》の機
能全てとヨシュアの過去のことはほぼ知り尽くしていた。
 3万トンの小型外洋型宇宙船。出来てからほぼ40年。《ファラウェイ》はその間ずっとこの船の
感応頭脳として搭載されてきた。感応頭脳としては長寿である。旧式だがその分蓄積されてきたデー
タも膨大だった。ヨシュアはこの船を前の所有者からカードで巻き上げた。前の所有者は『外』で道
楽でゲートハンターをやっていた金持ちのボンボンだった。
 《引き網》はヨシュアと共にあちこちの宇宙を渡り歩いたが、そのうち《銀河の覇者》の異名を取
るシェンブラック配下の海賊団に入った。無論、泡沫部下・お目見え以下である。そこで5年ほどい
わゆる「海賊稼業」にいそしんだ後、ヨシュアは情報屋となり、やがて女房となったジェーンと生ま
れたばかりのデイジーを連れてウィノアに戻ってきた。
 それから10年、《引き網》は宙港でもないこの場所に隠され、《ファラウェイ》は働いていた。

 それだけの情報をたった1週間で《ファラウェイ》から引き出したのを知って、ヨシュアは舌を巻
いた。
「特殊軍てのは、コンピュータのセキュリティ破りまで教えるのか?」
 荷物から肉とパンの塊を出しながらヨシュアは訊いた。
「それともそっちに適性あるのか? 《ファラウェイ》を丸め込むたぁな」
「そうかな」
 ケリーは首をかしげた。
「俺たちはいろんな機械の動かし方を教わってきた。バイクも機甲兵も宇宙船も。管理脳とは馴染み
があるけど、感応頭脳は初めてだよ。《ファラウェイ》はものすごく親切なんだ。この星のことで俺
の知らないことも教えてくれたし、あんたがどういう人なんだって訊いたらあっさり教えてくれた」
「なるほど、正攻法で素直に訊いたら素直に答えてくれたってわけか」
 肉をパンに挟むと差し出した。
「食いな。うちの農場の塩漬け肉とパンだ。町でも結構評判はいい物だぞ」
 受け取って齧る。目をみはった。
「すごい。この間のシチューも美味しかったけどさ。宿舎のメシよりずっと美味しいや」
「宿舎っていうと、軍のか。うちの村はちょっと変わり者の村でな。出来るだけ自然に近いやりかた
で生きていくってのがモットーなんだ。それが神様に近づけるとかいうお説でな。よその連中とはそ
う付き合わないが、村の農作物は商売品としては評判良くてよ。あちこちから引き合いが来る。首都
の金持ちとかな」
 ケリーの琥珀の瞳が鋭く光った。
「あんたさ」
「なんだ」
「俺のこと、まだ逃がすとか考えてるのか?」
「少なくとも、無駄死にさせるつもりはない。俺の目の黒いうちはな」
 造り付けの椅子とテーブルがあるだけの殺風景な部屋で、ふたりはお互いを見た。
「おまえ、うちの娘を見たろう?」
 ヨシュアはため息のように言った。「わざわざ助けた娘と同じ年頃の子供が、しなくてもいい苦労
をして死ぬってのは、子を持つ親としてはつらいもんさ」
 ケリーは顔をそむけた。
「山のように死んだけどさ」
「だから、せめて生き残ったおまえさんくらいは、寿命を全うして欲しいと思うわけだ」
 ケリーは上目遣いにヨシュアを見た。
「あと一人くらいさっさと死んでも大して変わらないと思うけど」
「死ななくても良かった10万の兵士から、おまえさんは代表で生き残ったようなもんだ」
 ヨシュアは首を振りながら言った。
「政府はあの一件はしらばっくれたいらしいがな。だが、おまえさん達が生きていた、存在していた、
政府に殺されたというのは事実だ。今は無理かもしれん。だがな、あと20年、30年経ったときに
おまえさんたちについて誰かが知っている限りの真実を伝えなくちゃならん。そうやってこそ、特殊
軍のお仲間さん達は浮かばれるんじゃないのか?」
「仲間のためなら、やり返すだけだ」
 ケリーはサンドウィッチを見つめながら硬い声で言った。
「それが俺達の流儀だ」
 ヨシュアは口をへの字に曲げた。自分のサンドウィッチを齧っていたが、やがてため息をついた。
「わかった。やり返したいのなら、手伝ってやろう」
 ケリーは顔を上げた。「本当?!」
「ああ。ただし、条件がある」
「条件?」
「そうだ。性急に事を運ばない。無茶はしない。犬死にしようなどと考えずに生き残ることを考える
こと。そして、復讐が終わったら死んだ仲間の分も前向きに人生を生きてみること。どうだ?」
 大急ぎで検討する。
 性急に事を運ばない。無茶はしない。犬死にしようなどと考えずに生き残ることを考える。そして、
やり返したら死んだ仲間の分も前向きに人生を生きてみる。
 たしかにそう悪い条件ではない。
「なんでそう、俺のこと生かしたいわけ?」
「じゃあ、なんでおまえはそう死にたがるんだ?」
 ケリーはしげしげとヨシュアを見つめた。
「死にたがる?」
「死にたがってるようだぞ。おれから見てるとな」
「どこが?」
「じゃあ、これからどうするつもりなんだ、おまえは」
「だから、俺たちを殺そうとしたやつらを殺す」
「で?」
「で?」
 ケリーは聞き返した?「で、って?」
「それからあとはどうする」
 ケリーは考え込んだ。「......そんなこと、考えてなかったもんなあ」
 ヨシュアは頭を掻いた。
「まぁな。12やそこらの餓鬼に人生の行く末を考えろというのも難しいかもしれんがな。だがな。
人間今じゃ100まではざらに生きるんだ。復讐に10年掛かったってあと80年近く寿命はある。
おまえさん、じっくり考えるのもよかろうぜ。生きるってことをな」
 たちあがった。
「さて。難しい話は脇に置いてだ。右目の具合はどうだ?」
 ケリーの脇に座りなおす。「包帯はまだ取れないって?」
「うん。あと3日だって医療脳は言ってた」
 手を伸ばして巻いてある包帯に触る。
「ちょっとな。瞳の色が自前と違うかもしれん。おまえさんの色ってのがなかなか難しくてな」
「いいよ」
 微笑した。「見えさえすれば困らない。あんた、いい人なんだ?」
「そうかねえ」
 ヨシュアは苦笑した。「おれは十分、悪党のつもりなんだが」
「俺、『外』の人間にこんなにしてもらったの初めてなんだ。自衛軍とかいう連中は威張ってたし。
失礼だよな、俺達を戦わせておいて、自分達はのうのうと生きてやがる」
「まぁ基本的には異論は無いが、そもそも40年前に阿呆なことを始めた政治屋どもが悪いんだから
なあ。おまえさん達には済まないと思ってるよ」
 ケリーは吹き出した。
「あんた、変わり者だって言われてないか?」
「言っただろう。うちの村は変人の集団なのさ。さて、もうちょっとしたらおまえさんをつれてバギ
ーでまた一走りせにゃならん」
「どこか行くのか?」
「山を越えて隣町にな。テルノンてところだ。いいか、おまえさんの立場はこうだ」
 ヨシュアは人差し指を立てた。
「おまえさんは、うちの女房のジェーンの又従兄弟の息子でな。つまり居るのも知らないくらい遠縁
の子供だ。チャレスカの鉱山の小さな村にいた。まぁ、チャレスカがそもそも鉱業の星だからな。そ
こで山津波で村が全滅した。生き残ったのはおまえさんだけだ。むろん、おまえさんの右目はそれで
無くしたんだ。
 で、つてを頼ってうちにやってくることになった。《連邦》の人間の来るごたごたに紛れて交易船
に乗っけて貰ってきたんだ。で、一度うちまで来たんだが具合が悪いんで郡都の病院に連れていって
義眼を入れたのさ。今日の夕方になんとか隣町のテルノンまでたどり着いたんでおれが迎えに行った。
明日の夕方には村に着く。いつまでいるかはわからないが、暫くはうちにいることになる。そら」
 ポケットからカードを出して差し出した。
「おまえさんの身分証だ。見たことねえだろう」
 受け取ってみると、名刺大のカードだった。本来ケリーの顔が写るだろう場所が空欄になっている。
名前の部分を見て、ケリーは首を傾げた。
「ケリー・ユーウェン・ルイス? なんだ、これ?」
「ケリー・エヴァンスなんて本名使うわけに行かないだろうが。エヴァンス(Evans)をもじってユーウ
ェン(Ewen)にした。ルイスはうちの女房の祖母さんの結婚前の姓だ」
 ヨシュアはテーブルの上に指で綴りを書いてみせた。
「チャレスカはうまい具合にな、国民全員にこういうカードを配っている。事故に遭ったときに対応
が早くできるからなんだが、おかげで余程のことが無い限り本国の管理台帳にアクセスしようなんて
考えねえ。これを偽造できる奴はそういねぇしな」
「認識票とどう違うんだ?」
 こねくり回しながら訊ねる。「俺の認識票だって血液型とか書いてあるけど」
「指紋や網膜様式や遺伝子型まで情報入ってるか?」
 ヨシュアは笑ってカードを取り返した。
「そいつがあればな、どこの国にも入出国自由だ。普通は身分証ってのは国民番号の情報しかないん
だが、そういうわけでチャレスカはちょいとうるさくてな。その分、偽造すればそう困りゃしねぇ。
さて。ちょいと包帯外しな。顔写真撮るからな」
 壁の前に立たせて天井から降りてきたカメラでケリーの顔を写すと、ヨシュアは手招きした。
「来な。ついでだからおまえさんにおれの仕事場をみせてやろう」
 包帯を巻きなおしながら通路を付いて歩く。
「もしかして、《ファラウェイ》が入れてくれなかった部屋?」
「おうよ。おれの飯の種だったし、迂闊に見せればこっちはサツに捕まるからな。まぁおまえさんに
はやり方を伝授してやるよ。生身のユーレイってのは物語のような楽な生き方じゃねえからな」
 初めて入った部屋は訳の判らない機械が山のように積み上げられていた。順番にスイッチを入れて
いくと、ヨシュアは真ん中の作業台の前の椅子に座った。
「そこの椅子に掛けてな」
 顎で小さな椅子を示す。ケリーが座ると軋んだ音を立てた。こわごわ振り返ると背もたれに紅い花
模様がついている。
「うちの娘がチビの頃使ってた椅子さ」
 カードを機械に挟みこみながらヨシュアは笑った。「女房は酒場で働いていたんでな、子守りはお
れの仕事だった。ウィノアに来るまでの旅でもしょっちゅうここで遊んでたもんさ」
 言われて思い出した。顔は覚えていないが声がマルゴにそっくりだった。
「あの子、いくつなんだ?」
「秋の初めにな、12になる。そうさな、あと3カ月てところか。おまえさん、いくつだ?」
「俺? 俺はとっくに13さ。あの子、俺のこと知ってるのか?」
「いんや。あいつには遠縁の子だと言ってある」
 俺をイトコだと信じて俺に騙されるのか? 祖国が俺達を騙したように?
 ヨシュアは画面を眺めながらすばやく指を走らせた。なにやら指折りながら数え、ぶつぶつ呟きな
がら貧乏ゆすりを始める。それでも指はキーボードを走り回り、その目は画面を覗き込んでいた。
「3、5、0、6、と。よしよし。さあ出来たぞ」
 振り向きもせずにカードをケリーに突き出した。
「いいか、命の次に大事にしろよ。これがねぇとこの星じゃゴキブリ以下の扱いしかされねえからな」
「ゴキブリ以下? じゃあ俺達はなんだったんだ?」
「おもちゃさ」
 ヨシュアの声は厳しかった。「見世物だったのさ、おれ達の血肉で作り上げたな。なにせウィノア
の人間は16になるとみんな精子と卵子を提出させられているからな」
「俺達もそうだ」
 ケリーは肯いて言った。「隊長が言ってた。優秀な兵士が生まれて祖国のためになるんだ、それで
俺達が生きてきた証になるんだって」
「物は言いようさ。それももう中止になる。特殊軍はなくなったからな」
 ケリーの背を押して部屋から出る。先ほどの部屋に戻ると荷物から小さな包みを出した。
「着替えだ。おれの服を着てるわけにはいかんだろ。着替えたら出発する」
 包みを開けて見たことも無い衣類を眺める。
「なんだ、これ?」
「普通の服さ。Tシャツにジーンズ。古着だが気にするな。着替えは自衛軍の放出品になるが、まさ
かよそ者がそんな物を着て村に出てくるわけにもいかんし」
「俺の服は?」
「とっくに焼いちまったよ」
 肩をすくめた。「特殊軍の証拠は残さない。装備は残してあるが、ありゃあ自衛軍と同じだからな。
それと、これが靴だ」
 ズック靴を投げてくる。「多少デカいかもしれんが気にするな。ほら、行くぞ」
 慌てて靴をはいて後を追う。「《ファラウェイ》は?」
「ああ?」振りかえった。「ああ、こいつはいいのさ。じゃあな、《ファラウェイ》」
「イエス、マスター」
 今まで黙っていた《ファラウェイ》は何事も無かったように返事をした。
「いつもの時間に連絡くれ」
「イエス」
 船の外にでると木々の隙間から満月が見えた。大型トラックが崖の上に駐車していた。ケリーを後
部座席に乗せると毛布を渡す。
「よくくるまって寝てろよ。朝になったら起こしてやるからな」
「どのくらい走るんだ?」
「ざっと500キロ」
 ケリーは嫌な顔をした。「丸1日かからないか?」
「こいつは300キロは出るぜ。迂回していくから、まぁ3時間てとこだな」
 スタートして月を右手に見ながら走り出す。ケリーは窓の隅から月を眺めながら横になってため息
をついた。
 どうなるんだろう、俺。
 一刻も早くみんなの仇を討ちたいのに。そりゃあ義眼を入れてくれたのは感謝してるけどさ。俺の
こと、ただの子供と勘違いしてるんだな。
 ただの子供、というのであの少女のことを思い出した。デイジーよ、イトコさん、か。そうか、あ
の子はデイジーって言うのか。あの子は俺が特殊軍だとわかったらやっぱり嫌な目つきで俺のことを
見るんだろうか? この男はそんなふうじゃないし、女房とか言う女もそうじゃなかったけど。
 ふと気がつくと、顔に朝日があたっていた。いつのまにかうたた寝していたらしい。
 いびきが聞こえた。顔を上げるとヨシュアとかいう男は運転席で身体を伸ばして居眠りをしていた。
 もしかして、ここでこの男と別れるべきだろうか? でも手伝ってくれるとも言ってたしなあ。
 いびきが止んで、男は薄く目を開けた。
「起きたか、坊主」
 伸びをすると首をぐるりと回して肩を叩いた。「さて。町に入って少々買い物をせにゃあな」
 ハンドルを握りなおすとゆるゆると車は動き出す。少し走るとヨシュアは車を停めた。
「町をぶらつくぞ。来な」
 何のためにと思わないわけではなかったが、『外』の連中が住んでるところも見てみたくて付いて
いくことにする。
 小さな町だった。足元は小さな石を敷き並べられていて、車を停めたところは駐車場だったらしい。
トラックの類が雑然と停められている。どうみても自分達の住んでいた基地のほうが規模が大きい。
「こっちだぞ」
 呼ばれたほうを振り向くと、ヨシュアは古ぼけた建物に半分身体を入れていた。
「おはようさん」
 はげ頭が振り向いた。
「おや。ジョッシュじゃねえか。どうした? えらく早えぇじゃねえか。なんだ、そっちのガキは」
「女房の遠縁だとよ。身寄りが死んだんで、うちにたらい回しになってきたのさ」
「へええ。まあ、手が増えてよかったじゃねえか」
「さあてねえ」
 ヨシュアは苦笑しながらカウンターのスツールに座るとケリーに隣のスツールを叩いてみせた。
「ここに座りな。なにが食いたい?」
「食う?」
「朝飯だよ。ホットドッグくれ」はげ頭に言う。
 訊いたことも無い単語だったが、それにすることに決めた。「じゃあ、俺も」
「あいよ。デイジーの婿候補か?」
 はげ親父はケリーを見てにやっと笑った。
「馬鹿言うんじゃねえよ、スタンリー。こいつは鉱山育ちで百姓向きじゃねえ。そのうち職業適性検
査でも受けさせるさ」
 ヨシュアはカウンターから出てきた大ぶりのカップをすすった。ケリーも見習ったが舌を火傷する
かと思うほど熱いコーヒーだった。むちゃくちゃ苦い。
「じゃあ、おめえは百姓の出なのかよ?」
「そうさ。ペリテーさ。口減らしのうちだったがな」
「ペリテーじゃあしょうがねえな」
 大人達がげらげらと笑うのを、ケリーはぼんやりと見ていた。
「おめえ、なんて名前だ」
 はげ頭に聞かれてはっとする。「ええと、ケ、ケ」
「ケリーってんだ」
 どもりかけるのをヨシュアがフォローした。「13だとよ」
「どこだって?」
「チャレスカさ。おい、パンが焦げてるぞ」
 はげ親父は慌ててパンを取り出すと焦げをナイフで切り落とした。そのまま皿に1つずつ載せて出
す。ケリーにとっては初めて見る代物だった。ヨシュアが何やら掛けるのを見よう見真似で掛けてか
ぶりつく。焦げ臭かったがソーセージが美味しかった。喉詰まりしそうなところに水の入ったグラス
が出される。慌てて呷ると背中をヨシュアが叩いてくれた。
「そう慌てて食べなくて大丈夫さ。この位のガキの服ってどこで売ってたかな?」
「ああ? 十番通りの市で売ってんじゃねえのか? よくガキどもがそこにたむろってるからよ」
 ヨシュアが席を外すと親父はケリーのほうに身をのりだした。
「おめえは運がいいぞ、ケリー」
「そうか?」
 ケリーが怪訝な顔をすると親父は肯いた。
「ヨシュアは俺達なんかよりよっぽど世間を知ってる奴さ。おめえみたいなガキが知ってるかどうか
知らねえが、この星はな、いままで国が2つあったんだ。この西ウィノアと東ウィノアさ。俺たちの
爺さんたちの代からドンパチやってたのが今度は仲良くやるんだとよ。俺たちにとっちゃ寝耳に水の
出来事だが、ヨシュアに言わせるとありそうな話なんだとよ。《連邦》って入るとそんなに旨い場所
なのか?」
 聞かれても答えようが無い。
「俺、知らない」
「そうか」頷いた。
「でな、ヨシュアはあの村では村長程度に頭の切れる奴さ。村長はジジイだから当たり前だが、あの
村の連中ときたら、お祈りしてれば空から食い物が降ってくるとでも信じていそうな連中でよ。その
中じゃヨシュアは、なんてったっけな、羊が黒いとかいうらしいんだが、それでも村から来る連中で
は一番話の通るやつさ。奴は腕に覚えがあれば人間どこでだって生きていけるってのが持論でよ。き
っとおまえさんがひとりでやってけるように仕込んでくれるさ」
 ヨシュアが言う以上に変人揃いの村なのだろうか?
「あんまり村の悪口を吹き込んでくれるなよ、スタンリー」
 トイレから戻ってきたヨシュアは苦笑した。「住みにくいだろ、偏見持たせると」
「町の連中の噂だよ、噂」
 親父はポケットから出した小銭をカウンターに置くヨシュアに手を振ってみせた。
「こいつはガキだし、山奥に住んでてそう他人に馴れちゃいないらしいんだ。よそ者だからまわりの
目もキツイだろうしな。あんまり村で目立ったことはさせたくねえ」
「目立つと言えばよ。特殊軍の連中、死んだんだってな」
 何気ない親父の一言だったが、ケリーはぎょっとして振り返った。
「ニュースかなんかか?」
 ヨシュアが聞き返すのに頷いた。
「なんでもな、航路を塞ぐ形で相討ちになったってんで、政府はうんざりしてるらしいぜ。全く、は
た迷惑な連中だぜ。どうせ相討ちになるんなら太陽にでも突っ込んで共倒れになってくれりゃあよ。
しかも、このあたりでもなんかドンパチやってたって?」
 親父は皿を下げながらうんざりしたように言った。
「こっちにとばっちりがきたらどうするつもりだったんだよ。まったくあのカス共ときたら。俺たち
一般市民への迷惑なんぞなんも考えてないんだからな。なあ?」
「ケリー、ほら、買い物行くぞ。おまえの物を全部買いそろえて帰るからな。じゃあな、スタン」
 それには答えず、ヨシュアはケリーの腕をぐいと掴むと引きずるようにして歩きだした。
「ヨシュア!」
「とっとと歩け。働かざるもの喰うべからず、だぞ」
「ジェーンとデイジーによろしくな、ジョッシュ」
 背中から掛かる声にヨシュアは片手を上げて答えるとそのままケリーとともに店を出た。
「特殊軍にいちいち反応すんじゃねえよ」
 小さい声でヨシュアはケリーにぴしゃりと言った。
「あとで溜まったものは聞いてやる。町なかで騒ぎを起こすな。ここで捕まったら一巻の終わりだぞ」
 一巻の終わり、でケリーはヨシュアの手をもぎ離そうとするのをやめた。
 歩くうちにだんだん町の通りに人が出てきた。角を曲がるとにぎやかな騒めきが耳を打つ。
「ええと。着るものさえ買っちまえばいいか。はぐれるなよ。迷子になったら捜しきれないからな」
 ケリーの手をヨシュアがしっかり握る。大きくて分厚くて温かい手になんだか胸がいっぱいになっ
た。慌てて拳で涙をぬぐう。
 ヨシュアはケリーのサイズに合わせてシャツやらズボンやら長靴やら細々したものを買い込むとケ
リーに持たせた。
「ついでに村の連中に頼まれたものを買っていくからな。はぐれるなよ」
 足早に歩く後についていったが、どんと突き飛ばされて荷物を取り落とす。
「ノロノロ歩いてんじゃねえよ、くそがき!」
 誰かの罵り声。慌てて荷物を拾って顔を上げるとヨシュアの見えていたはずの背中が見えない。
「ヨシュア?!」
 呼んでみるが返事はない。慌てながら人込みをすりぬける。狭い通りだからすりぬけるのも大変で、
やっとヨシュアらしい背中を見つけてほっとしたが、追いついて見上げた横顔が違うのに愕然とする。
 振り返った。
 細い路地が延々と繋がっている。足早に戻るがどこをどう曲がったのか、市にすら戻れない。基地
では迷うことは無かったのに、こんな小さな町で迷うなんて。
 がらんとして人気の無い路地。ゴミが石畳の隅に溜まってすえた臭いがする。
「ヨシュアァ!」
 叫んでみるが返事がない。うろうろと視線を彷徨わせると、見たことも無い程年老いた老婆が路地
の向こうで椅子に腰掛けて座っている。おそるおそる近寄って道を聞く。
「あの、市ってどっちですか?」
 老婆はしかめ面をさらに歪めなにやら聞き取れないほどの声で罵ると、ぺっと唾を吐きかけてきた。
 怖くなって後ずさりすると、そのまま駆け出した。先程の親父の台詞以上に老婆が自分たちを罵っ
ていたような気がした。侮蔑されるほどの存在だったのか、俺たちは? 誇り高い特殊軍はカス共と
罵られる存在だったのか?
 どん、と誰かにぶつかった。
「いてぇじゃねえかよ」
 ちょうどジャイくらいの年頃だろうか。ニキビ面の年嵩の少年がケリーを見下ろしていた。
「あ、ご、ごめん。市はどっちだい?」
「ごめんだぁ? ごめんで済みゃあな、世の中警察なんか要らねえんだよ」
 ケリーの胸倉を掴んだが、突き飛ばして手から包みを奪う。
「これで許してやらあ。このくそがき!」
 腰を蹴られて石畳にひっくり返る。
「ペリー、そいつから財布取っちまえよ」
 見ると向かい側の古ぼけた階段に何人かの少年たちがたむろっている。
 少年はナイフをとりだすとケリーの頬にぴたぴたと当てて寄越した。怪我をしていると見てなめて
かかっているらしい。
「金だしな。詫び料に貰ってやらあ」
「金なんて無い。それ、返せよ」
 むっとして言い返す。「謝ったろ」
「生意気言ってんじゃねえよ、ガキ!」
 振り上げた腕をよける。なんて隙だらけなんだ? 素早く間合いを詰めて拳を腹に叩き込む。少年
は吹っ飛んだ。その手から包みを取り返す。
「この野郎!」
 少年たちは総立ちになってケリーにつかみ掛かってきた。ナイフや空き瓶を掴んでいたが重心は上
過ぎるし体勢がなってない。あっという間にたたきのめす。
「市はどっちだよ?」
 最後に殴った少年の胸に足を載せながら訊く。前歯を折られ、鼻血を出した少年は路地の先を指さ
した。
「あ、あっちの2つめの角を左に行ってもう一つ先を右だ」
「そうか」
 そのまま鳩尾に蹴りを入れて失神させると包みを拾って歩きだした。なんだかもやもやがすっきり
した気分だったが、ようやっと市に出るとため息が出た。
 この人込みからヨシュアを捜すのは一苦労だ。
 迷ったら出発地点に戻るのが鉄則だと叩き込まれたが、ヨシュアの背中ばかり見ていて自分の位置
を確認仕損なっていたのをケリーは自覚した。
「懲罰ものだな」
 ため息をついた。南北どちらからかこの町に入ったと思うんだけどな。
「あの、済みません」
 通りがかった人に訊ねる。「この町の駐車場って南北どっちになるんですか?」
「なんだ? 迷子か?」
 夫婦連れらしい男がじろじろとケリーを見た。
「東西南北、どの門にも駐車場なんてあるが」
「あんた、この町の子じゃないね。どっから来たんだい?」
 女が訊ねる。
「ええと、ヴァレンツ、だったかな」
「ヴァレンツだと東の門から来るんじゃないかねえ。でも、こっちの市だと東門とは丸きり反対だよ。
ここは西の市場だもの」
 ぎょっとした。一生懸命ヒントを考えたが、思いだした。
「十番通りってどこですか?」
「そりゃあ、ここだな。だが、この通り沿いに東西の市場があるからなあ」
 男はぐるりと宙に円を描いて見せた。南北両方の駐車場に行ってみると言うと、夫婦は親切にも道
を教えてくれた。近いほうの北の駐車場に行くと、そこはトラックを降りた場所とは違う。慌てて南
に市を突っ切っていく。
「俺ってなんだか馬鹿みたいだ」
 歩きながら呟いた。「ヨシュアに会ってから、丸きり調子狂ってるや」
 寝てて車から降ろされても目が覚めないし、人込みの中ではぐれてしまうし。基地ではどんな気配
にも目が覚めたし、人込みがあっても迷わなかった。東の国境を越えて行った先でもそんなことは無
かったのに。
「たるんでるのかな」
 南の駐車場に着くと、たぶんこれだろうと思われるトラックがあった。しかしヨシュアはまだ戻っ
ていないらしく、鍵がかかって入れない。こじ開けるかとも思ったが、騒ぎを起こすな、という台詞
を思いだしてやめた。
 トラックの前に座り込む。包みを抱えているとまた涙が滲んできた。
「何なんだよ、もう」
 ごしごしと目許をこする。
「13にもなって赤ん坊みたいになんで泣くんだよ、俺」
 マルゴの「子供のくせに」というからかいの声を思い出す。マルゴ。きれいなマルゴ。上等の陶器
のような白い肌にふっくらとした真紅の唇。鮮やかな緑の瞳。
 隊長に振られたんだって、とルシールに教えてもらったとき、ほっとした。隊長がどうしてあのマ
ルゴを振ったのかよくわからなかったが。好きだと言った時、笑いながら「子供のくせに生意気だよ」
と言ってたっけ。
 でも、そのマルゴも居ない。隊長もルシールもジャイも皆が。
「ちくしょう」
 身体が屈辱で熱かった。きっと仇は討つから。俺たちを馬鹿にした連中は見返してやる。
 ぽつん、とあたまになにかが当たった。手をやると雨が当たる。空は真っ黒に雲に覆われている。
雷鳴までも聞こえる。
「どうしよう」
 濡れるのは真っ平だった。トラックの後ろに回り、幌の紐を緩めて中に潜りこむ。これなら吹き込
んで来ても困らない。座りごこちも石畳よりはよさそうな木箱を見つける。
 がらがらという雷鳴と共に大粒の雨が降り出した。風も吹き出して幌がばたばたと音を立てる。
 宿舎では夜中に雷雨になるとベッドを抜け出し、わくわくしながら窓にかじりついていた。雷のは
じめがどんなふうなのか、その先端はどんなふうなのか、見えないかと目を凝らしていた。ほんの数
日前のことだったのに、手の届かないところに行ってしまった。
 びちゃびちゃと音の立つ中で気配を感じて幌から顔を出すと、ずぶぬれになったヨシュアがドアの
鍵を差し込んでいた。
「ヨシュア!」
 怒鳴るとヨシュアは顔を上げ、大きな笑顔を作った。
「おお、戻ってたか。はぐれたときはどうしようかと思ったが」
 幌の中に上がってきた。シャツを脱ぐと絞って水を切る。
「おまえは濡れなかったのか」
「うん、怪しそうだったからここに入ってた」
 どぉんと地に響く雷鳴。
「これで放牧場の草もよく生えるってもんだ」
 ヨシュアはズボンの尻ポケットから煙草とライターを取り出すと火を付けた。紫煙が揺れる。
「この春は雨が少なかったからな。牛も羊も放牧場で一息つけるだろう。うちはな、まだ農地が肥え
てないんで家畜が専門なんだ」
 ヨシュアは柔和な視線をケリーに向けた。
「開墾して10年は、荒れ地じゃまだまだ小麦も収穫できない。豆とか蕎麦がやっとさ。おまえんと
ころの基地じゃ、なんか作ってたのか?」
「そんなことしないさ」
 煙の揺らめく様を目で追いながら呟いた。
「修練して出撃して勝ち残ってきた。俺たちの小隊は、物凄く成績良かったんだ。いつも同じ年頃の
小隊ではトップを走ってた。国境線近くって岩場でさ、隠れながら進むのに丁度いいんだ。俺たちは
まだナリが小さくてすばしっこいからゲリラ戦向きだって中隊長に言われて、よく国境越えては東の
施設を破壊しに行った。面白かったな。ダイナマイトとかプラスチック爆弾もよく使ったけど、俺た
ちの得意なのは発電機を即席の時限爆弾に変えることだった」
「へえ」
「制御タイマーを即席で改造してさ、それから出力計をちょっといじると暴走するだろ。建物のあち
こちに爆弾しかけて陽動させて、さっさと引き上げる。国境越えるころとかにドッカンさ。隊長がみ
んなにやり方教えてくれて、自由時間に壊れた時計を持ち寄っては競争した」
 ヨシュアを見上げて笑った。
「俺は12人中で真ん中位だったかな。格闘技はザックスが一番強かった。二番目が俺で三番目がマ
ルゴだった。銃は皆そんなに腕前は変わらなかった」
「補給はどうしてたんだ?」
「月に一度、南の補給基地から来てたよ。その日はそう御馳走は出ないけど、その次の週の出撃で一
番いい成績取った小隊には御馳走が出るんだ。みんなその時は物凄く張り切ってた」
「御馳走とは豪勢だな」
「うん。基地の料理用の管理脳がフルコース作ってくれて、正式のディナーなんだ。司令官の食堂に
招待されて、正式の軍装で出席するんだ。とっておきのシャンパンとか飲ませてくれて、大人扱いさ
れてさ」
「羨ましいこった」
 ヨシュアは2本目の煙草に火を付けて笑った。
「おれなんかそんなこと、経験したこともないぞ」
 不意に胸が詰まった。涙があふれる。
「そのくらい、俺たちは強かったんだ。なのに」
 ヨシュアの手がそっとケリーの頭を引き寄せる。
「泣いていいぞ。仲間のために泣くことは恥ずかしいことじゃない」
「お、俺、誰も助けられなかった」
 しゃくり上げる。「マルゴも、パヴェルもランディも。俺、置いてかれたんだ。皆に」
「おまえは仲間の仇を討つために生き残ったのさ」
 ヨシュアはケリーの身体を抱き寄せた。「そうなんだろう? ん? ケリー」
「俺、みんなに会いたいよ、ヨシュア」
 泣きだしたら止まらなくなった。
「寂しいんだ。怖いんだ。さっきもどっかのお婆さんに罵られて唾を吐かれて。俺たちって存在しち
ゃいけなかったのか?」
「おまえたちは、おれたちの罪を全部引き受けてくれてたんだ」
 ヨシュアの手が背中を撫でてくれる。
「本当はおれたち自身が戦うべきだったのにな。おれたちは弱虫でわがままで、だからおまえたちに
全部押しつけてしまった。おれたちは自分たちの罪から目を背けたくて、おまえたちを汚いもののよ
うに扱ってきた」
 ヨシュアはため息をついた。
「おれはな、食い詰め百姓の息子でな。ウィノアに嫌気が差して飛び出したんだ。でも外の世界を見
て、宇宙で艦隊戦やってる特殊軍の連中とも知りあって、おれがなんとか出来る分はしようと思って
この星に帰ってきた」
 だから海賊をやめて情報屋になり、ウィノアを足がかりに生きようとした。
「でもな、なかなか特殊軍の連中を助けてやれなくてな。おまえが最初で最後かもしれん、ちゃんと
助けられるのは」
 おまえが最後の特殊軍の兵士だから。
 ヨシュアの言わない言葉がケリーには判った。息をつくと言った。
「俺、ちゃんと生きるよ、ヨシュア」
「ああ」
「仇も討って、殺された皆の分も生きる」
「ああ」
「そして、いつか本当の俺たちのことを知ってもらうんだ」
 俺たちがどんなに誇り高く戦ってきたかを。どんなに祖国のことを想っていたかを。
「そうだな」
 ヨシュアはケリーの肩を掴んで身体を揺さぶってやった。
「おまえはウィノアの子供だ。どの親から生まれたんでもどんな政府から生まれたんでもない。この
ウィノアの大地から、ウィノアと言う惑星から生まれた子供だ。おまえたち特殊軍はそういう子ども
たちなんだ」
 ケリーは笑ってヨシュアの顔を見た。
「凄いな。ヨシュアって詩人だ」
「生意気言ってるんじゃねえよ」
 ばんと背中を叩くとヨシュアは立ち上がった。
「さぁて。雨も上がったからな。荷物を集めて積みこまにゃならん。手伝ってくれよ、ケリー」



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