世界のトイレ事情

中国のトイレ事情

1.中国のトイレ概況

 中国では最近トイレ中央政府、地方政府ともにトイレ問題に関心を持ち、観光地ではかなりグレードの高い公共トイレが整備されるようになってきた。しかし、トイレがない住宅がきわめて多く、トイレの普及率は平均して35%にすぎない。われわれが訪ねた甘粛省では24%となっている。

 一般的に、各家庭では「馬桶」(マートン)という所謂おまるを使って用を足し、昼間は公共トイレを使う。公共トイレは馬桶のし尿を捨てる場所でもある。「中国の公共トイレは仕切やドアがない」とよく言われるが、これは観光客向けではない住民用の公共トイレのことである。

 中国政府はこうしたトイレ事情を改善するために2000年までにトイレ普及率40%を目指している。このためには1200万個のトイレを作らなければならない。

 外国人や観光客が使う都市部のトイレは水洗トイレが多い。中国も他国と同様に衛生的なトイレとして水洗化を進めてきた。しかし水不足や排水による環境汚染が深刻な問題となっている。中国の下水処理場は168カ所にすぎず、86%以上の排水は環境中にそのまま放流されている。その結果、深刻な公共水域の汚染が進み、98年には22回の赤潮が近海に発生した。

水洗化にともなう水不足や水質汚染への対策として、中国政府は97年に尿と糞を分離する方式(Eco-Sanシステム)のトイレをスウェーデンから導入している。糞尿を肥料として使うことは長く日本で行われてきた方法であるが、中国では必ずしも一般的ではない。 

日本でのし尿の肥料としての利用は、弥生時代以来の歴史があるとされ、17,8世紀の江戸の繁栄を支えた裏側には、し尿を肥料として利用する技術の発達があったといわれる。昭和初期には寄生虫の蔓延に対して、便槽を3槽に区切り、3ヶ月ほどかけて3槽目の便槽に到達する頃には、腐塾する過程で寄生虫卵や病原菌が滅殺されるという「厚生省式改良便所」が開発された。戦後、神奈川県の衛生研究所では、糞と尿を分離する便器の開発を行っている。つまり寄生虫や病原菌は糞に存在するのであって尿は清潔であることや、肥料としての有効成分は尿にあることから、これらを分離して尿だけを有効利用しようとしたものである。

このような試みも残念ながら化学肥料の普及や水洗化の流れの中で普及しなかったが、Eco-Sanシステムも同じ発想である。つまり、尿だけを肥料として利用し、糞は廃棄物として処理する。

 Eco-Sanシステムは中国の南部と北部でそれぞれ実験的に導入して成功をおさめた。政府は中国の自然条件にも合致するということで、普及を図る予定である。

 (データは「The Development and prospects for the Eco-San Toilets of China」Lin Jiang -Guangxi committe of the Jiu Shan Society(広西省)(アジア太平洋トイレシンポジウム‘99資料集所収)によるものである)

 


2.トイレの実態

(1)農家のトイ

定西県の農家のトイレを見た。昔の日本の農家のように、トイレは住宅と離れて建てられている。どこの農家でも住宅は清潔であるがトイレはきわめて汚い。小便器はなくしゃがみ式のトイレだけである。日本の汲み取りトイレではトイレの床下に便槽を設けているが、ここでは便槽はなく地面を30センチ程度掘り下げてその上にモルタルで30センチ程度の高さの台を設けて足場としている。穴が二つ並列しているのが面白い。

この農家ではトイレと豚舎が併設してあり、「豚に食べさせてはいない」とのことであったが豚が糞を食べることもあるだろうと推察される。乾燥した地域であるから水分は地面に浸透し、固形分だけ掻き出して処分するものだろう。

 この地域にとって糞尿はきわめて大切な有機肥料として活用できるはずであるが、実態はそうなっていないのは残念である。

 

(2)小学校のトイレ

 小学校のトイレは煉瓦づくりの建物で床に穴があいており、1メートルくらいの高さのしきりがあった。ドアはない。内部は清潔で清掃が行き届いていた。糞尿は床下の便槽に溜める。後の処理は不明であるが、有効利用している様子は感じられなかった。

(3)定西行署招待所

招待所のトイレは水洗で、ドアもあり、われわれも十分使用に耐えらる。大便器は日本の和式便器とほぼ同じ形状である。ただ、便器の取り付け位置が、日本ではドアに平行して壁を向いて用を足すようになっているのに対して、こちらではドアに向かって用を足すように取り付けてある。またペーパーは流さずにくずかごに捨てる。小便器はタイルで作られており、手洗いと間違えそうである。

(3)蘭州の公共トイレ 

蘭州市内には各所に公共トイレがある。これらのトイレは有料で、1回3角(約5円)。管理人に料金を払うと紙を一枚くれる。内部は清潔で、市街地のものは水洗であった。ドアや仕切りもある。こうしたトイレは住宅地の共同トイレとは区別されるものであろう。北京、上海などの主要観光都市では「公共トイレ革命」が進められているが、蘭州も公共トイレ整備に取り組んでいると推察される。

 

 

 

(「雨水利用を進める全国市民の会」中国・バングラデシュ調査より/禁・無断転載)

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