設計事務所の業務とは?

このページでは設計事務所が行っている業務を解説しています。

一般に、設計事務所として行う業務には次のものがあります。

建築物の設計] [建築物の工事監理] [その他の業務

 

1.建築物の設計

一口に“設計”といっても、建築設計はその範囲が非常に広く、
ちょっとした企画立案から詳細図面まで多種多様に渡ります。
ここでは、依頼をいただいてから竣工に至るまで順を追ってご説明いたします。

※依頼される設計事務所によって多少の差異があります。
ご了承くださいm(_ _)m

設計とは(建築士法第2条第5項)
   その者の責任において設計図書を作成することをいう。
設計図書とは(建築士法第2条第5項)
   建築物の建築工事実施のために必要な図面(現寸図その他これに類する
   ものを除く)及び仕様書をいう。
1)依頼主から依頼をいただいて
まず、建築される敷地がどこにあるのか、その住所(おわかりになれば地名・地番も)を伺います。
敷地図があれば、一旦お預かりして現地を確認させていただきます。
どんな建物にされたいか、この段階で依頼主がイメージされていることをお伺いしておきます。
住宅であれば、ご家族の構成ご家族の年齢ご職業などをお伺いし、○○様邸の現状を把握します。
ご予算ご希望の工事時期資金の調達方法等をお伺いいたします。
施工を担当される工務店等が既にお決まりの時には、お知らせ下さい。
2)敷地のチェック
実際の敷地を拝見させていただき、必要に応じて建築測量を実施いたします。

 

崖地やその他一般には測量できない場合には、測量事務所に現況測量を依頼していただく必要が出てくるケースがあります。
その際、建築工事の支払いとは別にお支払いいただくようになります。
敷地図(現況図)を作成します。
あらかじめ敷地図がおありになる場合には、その敷地図を元に現況との照合をいたします。
3)法令等のチェック
市(区)役所・都県庁・消防署等関係省庁へ出向き、建築に係る諸法規・条例等をチェックいたします。


法務局に出向き、公図のコピー及び登記簿謄本を確認した上で謄本の申請、地積測量図の有無を確認し、あればこれもコピーをとります。
4)企画案の立案
依頼主の要望と敷地・法令のチェックを踏まえ、ここで初めて企画案を立て始めます。


事務所によってまちまちですが、ここで作成する図面はおおむねA3〜A2の用紙で配置図・平面図・立面図などです(主に 1/100〜1/200の提案図)。



この段階では、まず間取りや敷地に対する建物の位置の検討が主なため、細かい図面は作成しません。
間取りと全体イメージの把握が重要です。
※設計事務所によってはスタディ模型を作成したりパース図を作成しているところもあります。
5)基本設計
依頼主のOKがいただけたら、次に具体的な建物の設計に移ります。
基本設計とは
   建築主の意図を十分理解した上で基本構想をまとめ、
   建築物の空間構成を具体化した設計図書を作成する業務をいいます。


作成図面は、A2〜A1の用紙(住宅の規模ではA3の場合もあります)で案内図・配置図・平面図・立面図・断面図・矩計図などで、細かなスペックもここで煮詰めていきます
採用したいメーカーの製品がおありになる場合、この段階くらいまでにご相談下さい。
構造計算が必要な物件は、あらかじめ部材の目安を付けておく作業が必要になります。



木造2階建ての一般的な建物であれば 500 u まで構造計算は不要ですが、軸組の計算をおこなって必要壁量を確保する設計を行います。
もちろん、企画案立案の際に目安をつけておかなくてはなりません。


お施主様から施工業者(工務店)の指定が無い場合は、建築士が工務店選定のお手伝いをいたします。
お施主様が工務店を選定する場合は、工務店の見積もりを取る段階で2〜3社に絞っておくようにします。



この段階で見積もりは工務店にとっても概算の工事費となる場合が多く、お見積書も概算のお見積と捉えておきましょう。
※正式のお見積書は次の『実施設計』終了後の積算によるものがほとんどです。
6)実施設計
依頼主のOKがいただけたら、次に建物の詳細設計に移ります。
実施設計とは
   建築主による基本設計承認後、これに基づいて工事の実施に必要で、
   かつ工事施工者が工事費明細書をつくるために必要で十分な設計図書
   を作成する業務をいいます。





構造計算が必要な物件は、この段階で構造計算を行います
2階建ての木造以外は自社で構造設計が行える事務所は限られているため、一般には構造設計事務所に依頼します。
※遅くとも平成20年12月20日までには、一定規模以上の建築物の場合は新設される構造設計一級建
  築士による法適合チェックが義務付けられます。




設備設計が必要な物件は、この段階で設備設計を行います
自社で設備設計が行える事務所は限られているため、一般には設備設計事務所に依頼します。
※遅くとも平成20年12月20日までには、一定規模以上の建築物の場合は新設される設備設計一級建
  築士による法適合チェックが義務付けられます。


確認申請の前に事前申請がある場合には、その必要な申請から手続を行います。この段階から手続きをしておく必要があります。


基本設計の図面の他に、仕様仕上表・面積計算図・平面詳細図・階段詳細図・各部詳細図・展開図・天井伏図・建具配置図・建具表・電気関係設備図・給排水衛生設備図・空調換気設備図等を作成します。
一般住宅の場合、電気関係設備図・給排水衛生設備図・空調換気設備図は
省略または簡素化されるケースが多く、平面図に器具位置のみ記入される
場合があります。
また、一般の工務店に依頼する場合、階段詳細図・各部詳細図・建具配置図
などは省略される傾向があります。



木造2階建ての住宅であれば、基礎伏図・基礎断面図(基礎詳細)・土台伏図・床梁伏図・小屋伏図等は設計事務所が作成します。それ以外の建物の構造に関する図面は、一般に構造計算を依頼された構造設計事務所が構造計算書と共に『構造図』として作成します。
構造設計、設備設計も含めて設計図書一式を作成し終えたら、ひとまず実施設計は終了です。
7)確認申請



実施設計が終わった図面をもとに確認申請書を作成し、所轄の特定行政庁または指定民間確認検査機関に対して確認申請を行います。どちらに申請してもOKです。
事前申請がある場合には、この時点までには必要な手続を終えている必要があります。



建築計画が建築関係規定に適合していない場合、申請者に対して適合しない旨の通知書が交付されます。これが交付された場合は当然建築不可なので、適合するように計画を変更し、再度確認申請を行う必要があります





確認申請添付図書の記載事項について、図書又は図書相互における不整合があり、建築基準関係規定に適合するかどうかを決定できない場合は、図書の差替え又は訂正による申請書の補正は認められず、申請者に対して適合するかどうかを決定することができない旨の通知書が交付されます。
これが交付された場合も当然建築不可なので、図書又は図書相互における整合性を取った上で再度確認申請を行う必要があります
平成19年6月20日の建築基準法の大改正後しばらくの間は、申請途中の訂正や差し替えが認められず、疑義があった場合には補正期限が記載された「適合するかどうかを決定することができない旨の通知書」が交付され、その後に追加図書をもって補正する(補正前の図書は×印をして図書の後ろに残しておく)という“手間”を強いられていましたが、平成22年6月1日から建築基準法の運用方法が大幅に変更(緩和)となり、よほど重大な不整合がない限りは「適合するかどうかを決定することができない旨の通知書」は交付されなくなり、また審査機関が補正を求めた図書に限り、新たな図書にて補正する(補正前の図書は抜いて差し支えない)ことが可能になりました。
    





行為としては「差し替え」に近いのですが、「差し替え」との決定的な違いは、「差し替え」が申請者都合で図書を入れ替える行為も含まれるのに対し、「新たな図書にて補正」は“審査機関が補正を求めた図書に限り”その図書に限って新たな図書に入れ替えることができる、という点です。従って、例えば申請途中に計画の一部が変更になった等の申請者の都合で図書を入れ替えること(=差し替え)はできず、あくまでも審査機関から“補正を求められた図書”に限って補正することができます。

なお審査期間中に建築計画の変更があった場合についての運用は、従前と変わらず訂正及び図面差し替えは認められていません。計画が変更になった場合は、一旦申請時の設計で確認済証を取得した後、あらためて「計画変更確認申請」を行って変更するか、もしくは一旦申請を取り下げて、新たな計画内容で申請し直す必要があります。

再度確認申請を行う際には、申請手数料も再度必要になります。
建築計画が建築関係規定に適合していることが確認されれば、確認済証が交付されます。
8)正式見積もり



実施設計が終わったら、設計事務所は工事施工会社(工務店)に設計図面を全て渡して正式見積書を作成してもらいます(※)。この作業は確認申請と並行でかまいません。
※設計と施工が同じ会社の場合は、この限りではありません。


正式見積書ができあがったら、設計事務所は各項目ごとに設計内容と 合致しているか、また客観的に見て不当な金額となっていないかをチェックします。



正式見積書のチェックが済んだら改めてお施主様にご提示いたします。
その際設計事務所だけで伺うか工事施工会社と同伴で伺うか、また工事施工会社が単独で行うかはケースバイケースです。
設計事務所の“設計業務”としての役割はここまでです。

ここまでの作業全てが、一般に“設計”と言われている業務です。

9)施工会社との工事請負契約
正式見積書の金額でOKならば、工事施工会社(工務店)との間に工事請負契約を締結します。




細かな仕様(例えば壁クロスの柄や便器・キッチン等設備機器など)は 直接工事施工会社との打ち合わせにより決定していきます。
ただしあらかじめ採用したい仕様がおありの時には、設計事務所と打ち合わせておけば図面内に反映しておくことができます。
地鎮祭・上棟祭の有無や工事日程などの詰めは工事施工会社との打ち合わせによります。


確認済証及び返却された確認申請書は、工事が完了するまでは工事監理業務で必要なため設計事務所でお預かりさせていただき、竣工の際にお施主様に返却いたします。
設計事務所は、施工会社から要請がある等必要に応じて施工図を作成いたします。
10)工事の着手(着工)
工事施工会社は基本的に設計事務所が作成した図面(設計図書)を元に工事を進めていきます。


設計事務所(設計を担当した事務所とは限りません)は設計図書に照らして、設計図書の通りに工事が行われているかをチェックする業務を行います。これを工事監理業務といいます。


途中、着工時には地鎮祭、上棟時には上棟祭(建前ともいいます)などの祭祀を行います。
祭祀の方法はそれぞれの建築主や地域によってまちまちです。行わないこともあります。
11)中間検査




特定工程にかかる規模の建物の場合、特定工程に達したら所轄の特定行政庁または指定民間確認検査機関による中間検査を受けなければならないため、工事監理を担当している設計事務所は中間検査申請書を建築主に代わって特定行政庁または指定民間確認検査機関に申請します。
※特定工程として指定される工程は、役所(特定行政庁)ごとに異なります。



中間検査を受けなければならない建築物の場合、特定工程にかかる工事を終えてから中間検査合格証が書面にて交付されるまでの間は次の工程に進む(工事を進める)ことができませんのでご注意願います。
※中間検査を受けなければならない特定工程は1回とは限りません。
12)竣工



工事が完了し、工事監理も終了したらいよいよ建物の完成です。
完了検査申請書を特定行政庁または指定民間確認検査機関に申請し検査に合格すれば検査済証が発行されます。


万一役所の工事完了検査が合格できなかった場合には、是正すべき事項を役所から指示されますので、是正工事終了後に検査済証が発行されます。


設計事務所は工事監理が終了したら、お施主様に対し『工事監理報告書』の書面をもって工事監理内容の報告をおこないます。


工事施工会社に所定の建設費をお支払い下さい。分割支払いなら残金をお支払い下さい。
融資の場合は引き渡しまでに工事施工会社の口座に振り込まれるように銀行とご相談下さい。


この段階で完成・お引き渡しとなります。
設計事務所からは上記の『工事監理報告書』並びに『確認申請書・確認済証』をお受け取り下さい。


2.建築物の工事監理
  

前出の8)に出ている工事監理業務を行います。 
工事監理とは(建築士法第2条第6項)
   その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおり
   に実施されているかいないかを確認することをいう。
工事監理者とは(建築基準法第2条第11号)
   建築士法第2条第6項に規定する工事監理をする者をいう。
工事監理業務とは
   設計意図を把握し設計図書を理解したうえで、建築物へと具現化していく
   業務です。
   ここで注意していただきたいのは、工事監理者はいわゆる現場監督や
   工事監督と呼ばれる「監督」ではない
、ということです。
     ⇒詳しくは[工事監理と工事監督]のページへ



工事監理者は第三者的立場に立ち、常に公正な立場でなくてはなりません。
またその分責任も重大で、先の阪神大震災で全ての工事監理が適切になされていれば、あれほどの被害・損害にはならなかったのでは、とも言われています(もっとも火災による被害も大きかったですが)。


設計と施工が一体の会社の場合工事監理に対する認識・意識が甘い傾向があり、中には現場監督にまかせっきりで工事監理者が一度も現場チェックしていないケースも見受けられます。




設計業務・施工会社・工事監理業務はそれぞれ別の事務所・工務店が担当するのが理想ですが、その分費用がかかってしまうのが難点です。
次善の策として、設計者(設計業務)と工事監理者(工事監理業務)は同じ事務所に依頼し、工事施工会社と分離させられるよう努めましょう。


3.その他の業務
 

上記の他に、業務として次のことを行います。
1)建築工事契約に関する事務 工事請負契約書を作成し契約調印に立ち会います。
2)建築工事の指導監督
注:

「現場監督」や「工事監督」ではありません。



「指導・監督」と記した方がわかりやすいかもしれません。施工会社に対して行う「指導・監督」が主で、施工会社が立てた施工計画を検討し、何か問題があれば施工会社・建築主双方に助言する業務です。



ただ、これについては単独で業務契約することはまず無く、ほとんどは設計から工事監理に入る過程の中で必要に応じて対処していることがほとんどだと思います。報酬も特には請求していないでしょう。
3)建築物に関する調査・鑑定

現在建っている建物の調査・鑑定はもちろん、これから計画する建築物の敷地を測ったり役所調査等も行います。
4)建築に関する法令又は条例
  に基づく手続きの代理



建築を行う際に必要な役所への申請手続きを建築主に代わって行う業務です。確認申請等の手続きは建築士の資格を持つ者でないと行えないため、建築主に委任された建築士が代行します(委任状が必要です)。
通常、確認申請に関しては実施設計を行っている設計事務所が、中間検査申請や完了検査申請は工事監理を行う設計事務所が受け持ちます。

以上が設計事務所として行う業務です。各業務ごとに業務報酬は発生します。設計業務と工事監理業務を一括して同じ事務所に依頼する場合も、業務範囲・内容が異なるため別々に業務報酬は発生します。
※業務報酬額については依頼される設計事務所にお問い合わせ下さい。


TopPage][設計事務所の業務とは?][構造形式について][住宅の新築・建て替えをお考えの方へ

知っ得ページ][素朴な疑問Q&A][建築・設計 用語集][設計物件][趣味のページ][リンクのページ