ドイツ人気質

大町陽一郎氏だと思うのですが、「ドイツ人と一緒にいて、背の高い相手には顔を上げて鼻の位置を高くして負けない様にするのだ」と話しておられた事があります。

「私、こっちに来てから背が伸びた様な気がする」「どうして?」「毎日胸を張って生活しているからね。」「ふーん」

これは私と長谷川さん(ハイデルベルク劇場ヴァイオリン奏者)の会話です。何か間が抜けた会話なのは、留学以来音信不通だったのに、3年前(連載当時〜2002年では9年前)たまたまセレナーデ(夏の城での演奏会)を聴きに言って、奇跡的に16年ぶりの再会した時だからです。おっとりとしたお嬢さんだった彼女が、突然見事な大人の演奏家になって現れたのです。

何故に背が伸びたかも知れないか?まずはこんなエピソード。彼女がドイツに留学(エッセンのフォルクヴァンク演劇音楽大学)したての頃、同級生の男子学生が、自分を含めた全員の批評を始めたそうです。これだけの事を言うからにはかなり出来るのだろうと注目していたそうですが、彼が演奏した時「吹き出しちゃった」そうです。しかし口ほどにもない奴と言われようと、日本の様に相手の言う事ばかり聞いていては済まない世界だったのです。後年アンサンブルをしていても「まゆみは何にも言わないが何故だ。考えを言え。」と責められたそうな。「ドイツ人は相手が誰でも言いたい放題。だから口に出さないと無視されちゃうんで、随分自己主張が強くなったの。それに町を歩く時でも上を向いて無いと、具合でも悪いのかと思われちゃうから。」長谷川さんは日本人としては大柄な女性ですがここのオーケストラでは一番小さいのです。

ドイツ人との付き合い

ドイツ人と日本人の言う「話し合い」は大分趣が違う様です。ただ、ドイツ人が日本人より無神経だなんて考え違いをしないで下さい。一旦解り合えば、同様に深い付き合いが出来るのです。そうなれば年齢も性別も関係なく良い友人になれます。例えば、ハンスさん(ハイデルベルク劇場チェロ奏者)は年中Tシャツを来ているので有名なのですが、大分年下の長谷川さんに「日本で変な格好をして私に恥をかかせないでね。」なんて言われて新しい絹のシャツを買ったりしています。もっともその下は相変わらずTシャツですけど。誤解の無い様に言っておきますが、二人は夫婦でも、恋人でもありません。彼は日本が好きで、日本語に興味を持って勉強しています。漢字などはドイツ語に通じる所があって面白いらしく、なまじの日本人より知っているくらいです。昂じて昨年、遂にハイデルベルク大学の日本語科の学生になってしまいました。「いまのところ、私の方が大学の授業より進んでいるから楽だ。」なんてうそぶいています。オーケストラの演奏会にファゴットのアッツォリーニがソリストで来た時、彼の御指名でアンコールに二重奏をしたそうです。

以下は長谷川さんの言。オーケストラの中で「日本のきちんとしたやり方」から見るといい加減な所があってイライラする事もありますよ。でも、今のコンサートマスターはフランス人なんだけれど、フランスのオーケストラに比べたら、それでもきちんとしているんだって。初めてハイデルベルクに来た時はきれいでいい所だなと思いました。でも住んでみると観光地だから物価は高いんですよ。ハウプトシュトラーセの家賃や地価はベルリンのクーダムと同じくらいだって。オーケストラは忙しいですね。夏休みなんかあると下手になる様な気がしていました、若い時はね。実際夏休みは、皆何もしないから休み明けの演奏など、一寸具合の悪いことがあります。だけど、今は夏休みが無かったら身体が持たないと自分でも思います。オーケストラの居心地は悪く無いですよ。他のオーケストラから来た人に聞くと、ここはとっても楽員同士の仲が良くていいそうです。

私のオーケストラ印象記

ファミリーコンサートのゲネプロを聴かせて貰う事が出来ました。指揮は先日私が感動を覚えた[ボエーム]を指揮した第一カペルマイスターのクルベルタンツ氏でした。シェフはカルプさんと言うのですが、テンポなど私の好みから行くと、クルベルタンツ氏が気に入ってます。蛇足ながらカルプ氏はここの前はウルムのカペルマイスターだったそうです(彼のCDなどの経歴には書いてないのですが)。曲はコルサコフの「熊ん蜂の飛行」ドビュッシーの「小組曲」それにポピュラーなど、中でもオネゲルの「パシフィック231」にはシンセサイザーが入って迫力満点。

さて、オーケストラですが随分おおらかに鳴らすな、と思って聴いていました。実に楽しそうなんです。その事を長谷川さんに話すと「今日、私の友達が見学に来るけど良いかしらと、指揮者と楽団委員に言ったのね。そしたら、練習前に『今日は、まゆみの親戚が来るから張り切って行こうぜ』だって。だからいつもやり過ぎなのに、今日は輪を掛けてだから大変だったのね。」いつの間にか親戚になってしまいましたが、道理でみんなチラチラ私を見た訳だと納得。しかし、世代やパート間の対立、経済の悪化などの問題はこちらでも同様にある様です。

「弦の人に比べて、管の人は降り番が多いのに給料は変わらないし、すごくやる気のある人もいれば、そうでもない人もいますからね。経済面の理由から、欠員が出ても市の方からオーディションは暫く見合わせる様になんて事もあります。ずっと続いていた室内楽の演奏会もなくなったりしてますよ。」

管楽器と弦楽器の事など、日本のオーケストラと全く同じ図式です。確かに実力があってもソロを演奏するのは弦の場合コンマスかトップに限られるので、管に比べてもてはやされる事が無いし、テュッティだからと働きの割に得られるものも限られますよね。個人的にはともかく不公平感は分かります。私の知り合いでも、管が指揮者に苛められると嬉しいという人はいます。私は昔から弦の人とは相性がいいんですけど。

されどべるりん、ベルリン

ハイデルベルクのオーケストラで面白いエピソードがあります。連邦であるドイツでは独自の文化が大事にされる事は確かなのですが、ベルリンの影響力はやはり並々ならぬものがある様です。ピッチの高いドイツの中でも、ベルリンが特に高いと言うのは有名なのですが、「ほう!」と感じた事があります。

ベルリンドイツオペラで吹いていらしたファゴットのティアマンさんが一時日本に住んでおられました。大分前ですが、渋谷のアクタス(ダブルリードギャラリー)にファゴット製作者のヴォルフ氏を招いて展示会がありました。ティアマンさんがその楽器を手にした時大分ピツチの高い音を狙われていたので奥様(日本人です)に「かなり高いピッチで吹かれていたのですか?」とうかがった所「主人はベルリンでは低い方だったんですよ」と言われ、ひっくり返りそうになりました。

ハイデルベルクは、かつてはさほど高いピッチでは無かったらしいのですが、ベルリンのピッチが高いと聞くと負けてはならじと、上げたそうです。ただ、どうしようも無かったのがグロッケンシュピール。ピッチの高いものは売っていなかったのです。そして、最も単純にして効果的手段が取られました。鍵盤を短く切ってしまったのです。負けず嫌いですねえ。そんなところで頑張られては管は堪りません。しかし、最近はオーボエの人からも高すぎるから何とかしろと文句が出ているとも。「フィガロの結婚」を見た時、エキストラのファゴットがとてもうまい女の人だったのに、最後まで少しだけ低かったのは、これが原因だった様です。

バックステージ

ハイデルベルク劇場の内部は穴蔵の様です。通路はまるで中世の城の中をめぐっている感じで慣れないと迷子になりそうです。カンティーネも大きな土管を二つ並べた形をしています。ウルムの社員食堂然としたものより風情はありますが、一寸窮屈です。カンティーネから外に出ると駐車場で皆帰り支度をしています。町中に住んでいる人が多いらしく、徒歩と自転車の人が結構います。ハンスさんと長谷川さんも歩いて5分位の所に住居があります。楽屋口のそばにつないである自転車は大概楽員のものです。なんとチェロの人も二人自転車です。私は見ました、青いケースを肩にかけ目抜き通りを走り去る女性を。カメラが無かったのが残念。こういう光景は、劇場のオーケストラならではの事です。その理由は次回に書きたいと思います。ハイデルベルクはこの位にして、次の町に行きましょう。実は最近、合併で130人以上の大オーケストラが誕生しました。次回はそのレポートです。面白いですよ。(緑字の所は、連載当時の順番です。この通りにはWeb上では掲載しません。悪しからず。)

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