2000年1月上旬の日記

1月1日から2日にかけて、長*さん(銀河の彼氏)の自宅に招かれ、長*さんのお母様も交えて3人でお正月をお祝いしたのが最大のできごと。「お嫁さん」として「一家団欒」を体験。1月9日には、久しぶりにこの世でいちばん大切なお友だちと会って、6時間も話し込みました。(2000年1月11日記)

1月1日(土) 長*さんの自宅でお正月をお祝いする(前編)。
[日記]午前中は半分ウトウトしながらぼんやり過ごし、10時過ぎにのろのろと起きだす。郵便受けをのぞき込むと年賀状が1通だけ来ていた。この世でいちばん大切なお友だち(だれのことかは「銀河の事情」を最初から読んでいる人にはすぐにわかるはず)からのものだった(銀河が今年出したただ1通の年賀状も彼女に宛てたものだったんだけどね)。長*さん(銀河の彼氏)から催促の電話がかかってきたので、速攻でお泊まりの支度とお化粧を済ませ、11時過ぎに新宿で長*さんと合流。小田急線に乗って世田谷区にある長*さんの自宅へと向かう。長*さんは5年前にお父様を亡くして以来、お母様と2人暮らし。「元旦はうちにおいで。2日まで泊まっていけばいい。母親と2人だけの正月は気詰まりだし、銀河もひとりだとさびしいだろう。それに、銀河はもう家族のようなものだから」って、長*さんが誘ってくれたのだ。
銀河は毎日のように長*さんの事務所に顔を出している。時間があるときは長*さんの仕事のお手伝いをすることもある。だから、長*さんのお母様(平日は毎日事務所に出勤されている)にもやさしく接していただいているし、お食事をご一緒したことも何度もある。でも、自宅を訪れるとなると話は別。事務所は長*さんのテリトリーだけど、自宅は明らかにお母様のテリトリーだからだ。長*さんの「うちの母親も銀河のことは十分に認めているから」という言葉で、喜んで招待に応じることにはしたものの、緊張せずにはいられない。
最寄りの駅からバスに乗り、長*さんの自宅に到着したのは正午過ぎ。お母様が作られたおせち料理とお雑煮が待ちかまえていた。銀河はもう20年ほど正月に実家に帰ったりはしていないので、本当に久しぶりのおせち料理だ。お母様に三つ指をついて(笑)ご挨拶し、さっそくいただく。お母様のなさる屋久島(長*家の出身地)のお話をうかがっているうちに、緊張していた気持ちが少しだけほぐれてきた。お母様が用意してくださった手料理なので、失礼のないように、ふだんだったら残してしまうようなものまでゆっくり時間をかけて全部いただいた。
3時ごろから、長*さんとお散歩に出かける。途中、コンビニに寄ったり、デニーズでお茶を飲んだり(デニーズでも長*さんは睡眠モードに入っちゃったけど)。再び長*さんの自宅に戻り、テレビで「筋肉番付」(ケイン・コスギってスゴイ!)などを見ているうちに、夕食の時間。屋久島風のおそうめん(豚肉やお野菜が入っている)が美味しい。お母様には、亡くなったお父様のアルバムなどを見せていただく。神経が張りつめていたせいか、10時前にはもう眠くなってしまった。お化粧を落とし顔を洗い持参したパジャマに着替え、お布団を敷いていただく。銀河は長*さんと一緒の部屋(お母様はお隣の部屋)。お布団は別々だった(当然かな)けど、長*さんが手をつないでくれる。1時ごろに目が覚める。すごく寂しかったので長*さんのお布団に潜り込む。長*さんの体が暖かくて涙が出そうだ。お隣の部屋にお母様が寝ていらっしゃるので、遠慮しながらちょっとだけエッチ。
[BGM]侯美儀、小黒、小萍萍『歓慶富貴年』。クリスマス・ソングのアルバムはたくさん出てるけど、新年の歌のアルバムなんてないなあと思いながら自宅のCDの山のなかを探していたら、これが出てきた。マレイシアの華人歌手3人(小黒だけが男性)による新年を祝う歌(伝承曲もあれば新曲もある)12曲のオムニバス。ドラがにぎやかな音を立てて、いかにもめでたい。マレイシアも華人(特に福建出身)の多い国なので、華人マーケット向けに華人歌手が活躍する余地がある(音の方は垢抜けない香港ポップスという感じ)。数年前にずいぶんはまって大量にCDを買い込んだうちの1枚がこれだ。少女歌手、小萍萍は特にお気に入りのひとりだった(最近は大型CDショップでもマレイシアの華人歌手のCDってあまり見かけなくなったけど、現地ではどういう状況なんだろう)。

1月2日(日) 長*さんの自宅でお正月をお祝いする(後編)。
[日記]8時前に目覚める。同じ布団のなかには長*さんがいる。ああここは長*さんの家なんだなと思いながら、しばらくのあいだ幸福感に浸ったまま。長*さんも目を覚ました。お母様もそろそろ起床されるご様子。起き上がってお布団をたたみ、顔を洗う。長*さんがそのままでいいって言うから、お化粧もせずに素顔のまま、昨日着てきたスラックスとセーターに着替える。台所まで出ていらっしゃったお母様にも朝のご挨拶をする。
テレビをつけると箱根駅伝が始まろうとしていた。駅伝を見ながら朝ご飯をいただくことになる。長*さんのお母様は駅伝がお好きなようで、昔の駅伝選手の話を熱心になさってくださる(重松森雄とか佐々木精一郎といった九州の選手の話ね)。九州は昔から駅伝の盛んな土地柄だから、駅伝にくわしい人が多いのだ。序盤の法政大学の快走に拍手を送りながらも、3人で銀河の出身大学を応援する。のんびりとしたお正月らしい朝。長*さんは終始上機嫌。「父親が亡くなって以来5年ぶりに、3人で食卓を囲む正月になってうれしい」というようなことを何回もくり返している。
このまま時間が止まればどんなにいいだろう。そう思うが、午後からは親戚の方がいらっしゃるというので、お母様に2日間のお礼のご挨拶をし、事務所に寄るという長*さんと一緒に11時に家を出る。新宿西口のヴェローチェでお茶を飲み、長*さんとはお別れ。ひとりで自宅に戻る。
ひどく緊張はした。夫の実家を訪れる妻の気持ちってきっとこんな感じなんだろう。でも、すごく幸せだった。普通の女ではない銀河に、いわば「お嫁さん」として「一家団欒」を体験する機会を与えてくださった長*さんとお母様には、どんなに言葉を尽くしても感謝しきれるはずがない。そして、お母様にも親しいお友だちにも、銀河のことを一生のパートナーとして紹介してくれる長*さんの心の大きさに、銀河は何をすれば応えることができるのだろう。
[BGM]Kiyoshiro meets de-ga-show『Hospital』。片山広明(テナー・サックス)、林栄一(アルト・サックス)を中心とするジャズ・コンボ、デ・ガ・ショーに、忌野清志郎がヴォーカルとアルト・サックス、フルートで客演した97年のアルバム。演奏はかなりR&B寄り(ルイ・ジョーダンやジョニー・オーティスあたりの感じだ)。熟達の達人たちのノリのよい演奏に、清志郎の即興的なヴォーカルと(テクニック的には下手なんだけど)緊張感のある(そして暴走気味の)サックスとフルートがからむ。とにかく圧倒的に楽しい音楽だ。ここ数年でいちばん清志郎が生き生きとしているアルバムじゃないかな。篠原涼子(清志郎との共演シングルを出した縁での参加だろう)のコケティッシュなバッキング・ヴォーカルもいい味。

1月3日(月) 今日から仕事が始まった。
[日記]世間はまだ正月気分だが、冬期講習の最終タームが始まった。今日からの5日間はちょっとハードなスケジュール。午前中に埼玉県内の某校舎で授業をした後、午後からの授業がある千葉県内の某校舎へと、大移動しなければならない。時間割の打診があったときに担当者に文句を言ったんだけど、「生徒数が減少しているので、こうでもしないと、コマ数を用意できません」と軽く一蹴された。というわけで、この5日間はかなり疲労がたまりそうだ。でも、やっぱり久しぶりに生徒たちを前にするとうれしいよね。
[BGM]『プログレマン 遠藤賢司トリビュート・アルバム』。96年発売のこのアルバムは、遠藤賢司(以下エンケン)をリスペクトするミュージシャンたちがエンケン作品を演奏したもの。トリビュート・アルバムってむずかしいんだよね。どうしてもオリジナルの演奏をなぞるだけになりがちだし、特にトリビュートされているミュージシャン自身の個性が強いと、並大抵の演奏ではオリジナルには太刀打ちできない(ユーミンのトリビュート・アルバムにおける椎名林檎「翳りゆく部屋」はオリジナルを超えた希有な例外だ)。エンケンの場合は作品自体の力が強いから、その分救われているが、フラワーカンパニーズ「東京ワッショイ」も大槻ケンジ「不滅の男」も(悪くはないんだけど)エンケンのオリジナルには遠くおよばない。そんななか、強烈な存在感で耳を引きつける演奏を聴かせるのが佐野史郎「Hello Goodbye」と遠藤ミチロウ「おやすみ」。キャラが立っているって、こういうのを言うんだろうな。

1月4日(火) 2日目でもう疲れてきた。
[日記]仕事開始2日目にしてもう疲れてしまった。自宅から埼玉県内の校舎まで50分、埼玉県内の校舎から千葉県内の校舎まで70分、埼玉県内の校舎から自宅まで50分。移動だけでクタクタだ。自宅に戻ってきても、翌日の授業の準備をし、ホームページを更新すると、あとはもう何をする時間もない(せいぜいお風呂に入るくらいだ)。あと3日。なんとか乗り切ろう。
[BGM]"Paint It, Blue - Songs of the Rolling Stones." ローリング・ストーンズの作品を、ストーンズに影響を与えたブルース・シンガーたちがカヴァーするという企画盤。企画盤という以上の意味はないアルバムだけど、本家本元たちが聴かせる余裕たっぷりの歌唱がいい味を出しているので、ストーンズのCDを聴くときについでに一緒に聴いたりしている。個人的にはオーティス・クレイの「ワイルド・ホーシズ」が特に好き。笑ってしまうのはボビー・ウーマックの「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ」。この曲はボビー・ウーマックの作品で、それをストーンズが取り上げてヒットさせたもの。つまりボビー・ウーマックって、ストーンズの作品を演奏するという企画で、自作を演奏してるんだよね(笑)。

1月5日(水) スカートって機能的じゃないからなあ。
[日記]千葉県内の某校舎の最寄りのJR駅の駅ビルで、スリットの入った膝丈のスカートと膝上5センチほどのスカート(ちょっと短すぎたかも)を購入。買い物をしているところを生徒に目撃されていたようで、授業後に講師室に質問しにきた女生徒に「先生、さっきスカートを買ってたよね」って言われる。「たまにはスカートをはいてくればいいのに」とも言われるが、仕事のときってスカートだと機能的じゃないんだよね(仕事のときにスカートをはくことって年に数回ほどしかない)。でも、せっかくそう言ってくれたんだから、今度1回だけサービスで(何のサービスだ?)スカートにしてみよう。
[BGM]Yulduz Usmanova"Binafscha." 中央アジアのウズベキスタンの歌姫という以外のことは何もわからないドイツ盤のCD(96年発売)。サウンドはトルコの現代ポップスに似ている。打ち込みによるヒップホップ風の音の上を、ウズベキスタンの伝統的弦楽器と打楽器が疾走。ややハスキーな声が微妙なメリスマを効かせながら、ささやいたり浮遊したり。トルコの人気女性歌手たち(例えばセゼン・アクスなんか)と比べて、作り物っぽさが希薄なところが気に入って、正体もよくわからないままにここ数年愛聴盤の1枚にしている。
[読書記録]天童荒太『永遠の仔』(幻冬舎)。各メディアの99年ミステリー第1位を東野圭吾『白夜行』と争った作品。あれこれ感想を書きつづるよりも、「豊潤な味わいの傑作」というひとことだけを述べて終わりにした方がよいのかもしれない。親による虐待を受け、それが心の傷として残ってしまった3人の少年少女が主人公。『白夜行』とテーマ的にはかぶっているんだけど、東野が心理描写を一切排除して、事実の積み重ねだけで精密機械のようなムダのない作品『白夜行』を書き上げたのに対し、天童の方は丁寧な心理描写を塗り重ねていくことで『永遠の仔』を立体的な作品に仕立て上げている。悲劇に悲劇が重なるつらい展開だけど、最後の2行がすべてを洗い流してくれる。

1月6日(木) 目のまわりは薬指一本で洗うこと。
[日記]千葉県内の某校舎での授業が終了後、速攻で渋谷へ。長*さんと一緒に取り組んでいるネットワーク・ビジネスの事業計画発表会に出席する。司会はケント・ギルバート(彼もこのネットワークの会員)。
今日の発表会では、ためになることをひとつ学んだ。目のまわりを洗ったり、目のまわりにクリームを塗ったりするときに注意すべき点についてだ。目のまわりの皮膚って非常に薄くて傷つきやすいので、力を入れてゴシゴシこすると、簡単に傷がついたりしわができたりする。そうやって一度できた傷やしわはそのまま回復しないことが多いらしい。そういう危険を回避するためには、目のまわりを洗ったり、目のまわりにクリームを塗ったりするときに、薬指を使うとよいのだそうだ。薬指は人間の指のなかでもいちばん力が入らない指なので、目のまわりをケアするのにはちょうどよいということらしい。全然知らなかった。これはいい勉強になった。
発表会終了後は、居酒屋で食事。仕事が忙しくて長*さんとは3日間会ってなかったから、ちょっと甘えてみる(笑)。
[BGM]Patti Page,"Million Seller Hits." ロックとかが登場する以前のアメリカ大衆音楽のメインストリーム。こういう家族みんなで聴ける健全で上品な白人ヴォーカル音楽ってのも、意外と好きなんだ。男性歌手ではフランク・シナトラは趣味じゃないけど、ビング・クロスビーは大好き。女性歌手で圧倒的に好きなのは「テネシー・ワルツ」のヒットで知られ、「ワルツの女王」と呼ばれるパティ・ペイジ。このCDは、パティの全盛期(1950年代)のミリオン・セラーを15曲収録したもの。歌はうまいし(シンコペーションが絶妙)声はさわやか。疲れているときに聴くとほっとする。

1月7日(金) 「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」新年会に参加した。
[日記]冬期講習は今日で終わり(やったあ)。千葉県内の某校舎での授業終了後、疲労のたまった体を引きずるようにして、新宿へと向かう。長*さんと一緒に「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の新年会(トークライヴ)に参加するためだ。今回は新年会ということで、いつもの催しとは違い、一般のお客さんが自由に出入りできる新宿のロフトプラスワン(居酒屋形式のトークライヴハウス)が会場。7時過ぎに会場に入る。会場内を見渡してみると、ずいぶん雰囲気が違う。いつも顔を見かけるTG/TS(用語についてを参照)の当事者の人たちの数が少なく、見たことのない非当事者の人たちが多いからだろう(当事者の比率は全体の4割程度かな)。
7時半から始まったトークライヴは、「トランスジェンダーが語る恋愛とその先の深〜いハナシ」というタイトル。TG/TSの当事者が自分にとっての恋愛とエロスを語るという趣向。出演者は、MTF(用語についてを参照)のあやさん、小林知日(ともか)さん、嶋田啓子さん、野宮亜紀さん、森本エムさん、FTM(用語についてを参照)の山路明人さん、鷹野翔さん。ゲストが作家の斎藤綾子さん(代表作は新潮文庫に入っている『ルビーフルーツ』)。司会進行役は、あやさんと森野ほのほさん(「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の主宰者)。いつもの催しよりもざっくばらんな雰囲気で、ずっしりと重たい話(離婚歴のこととか)もちょっとエッチで軽い話も。トランス前のご自分の写真を公開される方もいて、会場は盛り上がる。長*さんは当事者(特にFTM)の生の声を聞くのが初めてだったせいか、ずいぶんショックを受けていたみたいで、「俺はなんで自分のことを男だと思ってるんだろう」としばらく考え込んでいた。
会場の椅子が、長時間座っていると腰が痛くなる代物だったので、途中から長*さんと、ソファーのあるVIPルームみたいなところへ移動。イベントは徹夜でおこなわれる様子だったので、12時過ぎに中座する。その後は朝まで、会場近くの長*さん行きつけのスナック(普通のスナック)で過ごす。長*さんと一緒にクリスマス・イヴを過ごしたスナックだ(12月24日の日記を参照)。夏樹さんって方がママさんなんだけど、前回とても仲良くなったので、今日も長*さんに頼んで連れていってもらったのだ。
ところで、次回の「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」の催しは「トランスジェンダー・ワーカーズのサバイバル法」というタイトルでおこなわれますが、銀河も話し手のひとりとしてスピーチすることになりました(チラシができたあとで依頼を受けましたので、チラシには名前は出ていませんけど)。1月22日(土)です。もしもよろしければ、ご来場ください。

1月8日(土) 今日から10日間、お休み。
[日記]疲れをとるために十分に睡眠をとる。今日から10日間、お休み。夕方から新宿に出て長*さんと夕食をいただく。
今年の冬期講習、直前講習は、ひどくいびつな日程だ。いきなり、12月15日から24日まで10日間連続休みなしで仕事。その後、12月25日から1月2日まで9日間お休み。1月3日から7日まで5日間仕事をした後、1月8日から17日までの10日間がお休み。そして最後の修羅場が、1月18日から29日まで。なんと12日間連続休みなし(!)で仕事だ。1月30日に1日だけ休んで、1月31日と2月1日の2日間仕事をすると、今年度の契約上の仕事は終わり(もう少しバランスのよい授業日程を組んでほしかったなあ)。以降は、3月25日から始まる春期講習まで、拘束される日は特別公開授業(生徒募集のための客寄せ)の2日だけだ。
最後の修羅場に備えて、この10日間は十分に体を休めておくことにしよう。
[BGM]知名定男『赤花』。現在の沖縄音楽界で間違いなく最高の作曲家/歌手/プロデューサー、知名定男がまだ新進気鋭と呼ばれていた78年(当時33歳)の本土デビュー・アルバム。知名のうたい方は従来の沖縄音楽とは大きく異なる。従来の沖縄伝統音楽の男性歌手たちの間ではピリピリとした緊張感にあふれたキーの高いヴォーカルが主流だったのに対して、知名は地声の低音を前面に押し出した革新的なうたい方を確立し、聴き手に過度の緊張感を押しつけることのない余裕のあるヴォーカルを聞かせる。そのスタイルの原型は、本アルバムの時点ですでに完成している(無論、後年の知名のヴォーカルに漂う濃密な色気はまだない)。発売時には、ほぼ同時期に本土デビューした喜納昌吉のインパクトの陰で地味な印象を受けたが、いまの耳で聞き比べると、古くささを感じさせないのは知名の方だ。
[読書記録]酒見賢一『周公旦』(文藝春秋)。銀河という名前の由来となった『後宮小説』(新潮文庫)の作者、酒見賢一の最新作。酒見が最も得意とする中国史に材をとった作品。酒見は現在『小説新潮』に孔子の弟子顔回を主人公にした大長編小説『陋巷に在り』を連載中だ(単行本も10巻まで出版されている)が、孔子が夢にまで見た至高の聖人で、周を全盛期へと導き「礼」を改編整備した周公旦を主人公にした小説がこれだ。味わいは『墨攻』(新潮文庫)と共通するものがあり、酒見による中国史の解釈と周公旦を主人公にしたお話とのふたつのパートが交互に展開していく。古代中国の呪術的精神世界を生き生きと描いて、見事。白川静(中国学の泰斗)の著作(『孔子伝』など)と、酒見賢一の小説、そして諸星大二郎のマンガ(『孔子暗黒伝』など)の3点セットで、古代中国の理解は立体的なものになるはず。

1月9日(日) この世でいちばん大切なお友だちと久しぶりに会う。
[日記]久しぶりに、この世でいちばん大切なお友だちと会った。この日記にも何回も書いたが、だれのことかは「銀河の事情」を最初から読んでいる人にはすぐにわかるはずだ(わからない人はわからないままで結構です。銀河にとって最愛の仲間だということだけ理解しておいてください)。彼女は以前に使っていたトランス(用語についてを参照)上の名前を破棄したので、以後ここではS(愛情を込めて呼び捨て)と呼ばせてもらう。
午後1時に新宿で待ち合わせ。以後、7時まで、2軒のティー・ルームをはしごして延々6時間(!)語り合う(しゃべっていた時間はSが3分の1、銀河が3分の2といったところだけど)。お互いの近況、今後の展望についてが話題の中心。内容については、ここではくわしいことは書けない(銀河も他のだれにも話せないことをすべて吐き出した)。でも、どういう状況にあっても、相変わらず強くて芯のしっかりした人だということが確認できて、うれしかった。自立した人間同士として、寄りかかり合うことなしに、しかしながら必要なときには助け合いながら、同じ道を進んでいく。そういう理想的な関係をSとの間にはこれからも維持できていけばよいと思う。
Sに関しては、「どうしてる?」とか「会いたい」といった類の問い合わせが、これまでにも銀河のもとにたくさん寄せられた(主として今年の4月以前の知り合いの方々から)。それに対しては、申し訳ないが、「放っておいてくれ」としか答えられない。Sには以前の知り合いと連絡をとったり会ったりする意志はまったくない(その辺は銀河も基本的に同じだが)。彼女にとっていま大事なのは、必要なことをひとつひとつクリアしながら、毎日の生活を淡々と過ごしていくこと。あとは、「TSとTGを支える人々の会(TNJ)」のような自助グループの集まりに時々顔を出すくらいだろう。仕事も順調で、元気で暮らしている。それだけで勘弁してほしい。
翌朝早くから仕事があるというSと7時頃別れた後、長*さんと合流。夕食をいただきお茶を飲んでから、久しぶりにホテルへ。朝までゆっくり眠る。

1月10日(月) 芥川賞候補にMTFの藤野千夜さん、直木賞候補に東野圭吾。
[日記]第122回の芥川賞、直木賞の候補作品が発表されている(Yahoo! JAPANここを参照)。芥川賞の候補作品は以下の7作品。
吉田修一「突風」(『文學界』12月号)
●藤野千夜「夏の約束」(『群像』12月号)
●宮沢章夫「サーチエンジン・システムクラッシュ」(『文學界』10月号)
●濱田順子「Tiny,tiny」(『文藝』冬季号)
●赤坂真理「ミューズ」(『文學界』12月号)
●楠見朋彦「零歳の詩人」(『すばる』11月号)
●玄月「蔭の棲みか」(『文學界』11月号)
トランス
用語についてを参照)系のWebサイトではまったく話題になっていないようだけど、なんと言っても注目されるのはMTFTS用語についてを参照)の藤野千夜さんの名前が挙がっていること。藤野さんは96年に『少年と少女のポルカ』(ベネッセ)を発表し、世に知られるようになった。この作品はゲイの男子高校生と、玉抜きをしホルモン注射を打ちスカートをはいて高校に通うMTFと、電車に乗れなくて高校に通えなくなった女の子の3人が主人公の佳作。まだ読んだことのない方には、一読をお勧めします。候補作品がどんな内容なのかは知らないんだけど、受賞するしないにかかわらず、これからも作家として順調に活動していっていただきたいなと思う。ちなみに有力候補は宮沢と赤坂かな。
直木賞の候補作品は次の5作品。
●東野圭吾
『白夜行』(集英社)
●馳星周『M(エム)』(文藝春秋)
●福井晴敏『亡国のイージス』(講談社)
●なかにし礼『長崎ぶらぶら節』(文藝春秋)
●真保裕一『ボーダーライン』(集英社)
銀河の大好きな
東野圭吾さんが候補に。広末涼子さんの主演で映画化された前作『秘密』(銀河的にはこちらの方が好き)は、直木賞候補となりながらも惜しくも落選したので、今回はぜひ受賞を期待している。卓越した構成力を見せる『白夜行』の方が選考委員受けしそうだしね。しかし、だれが受賞してもおかしくない強力なメンバーだなあ、今回は。とりあえず、本命が東野、対抗が真保、穴がなかにしと予想しておこう。でも、前回、天童荒太『永遠の仔』を落選させた選考委員だしなあ。
発表は14日。どういう結果が出るか、楽しみに待っていることにしよう。
[BGM]"Sakanatiki Arbaila Ttipira." 4本の長い材木を台の上に並べ、2人の演奏者が向き合って、両手に握った50センチほどの棒をその材木の上に垂直にコトンと落として演奏するバスクの不思議な旋律打楽器、チャラパルタ。そのチャラパルタの演奏を聴かせる貴重な作品だ。チャラパルタの演奏は、スペイン領バスクのギプスコア県で15世紀ごろからおこなわれていたらしいが、このCDは、チャラパルタの名手、ヘシュス・アルツェ(Jexux Artze)とその仲間たちによる99年の録音。解説によれば、伝統を守りながらも、テンポを速めたりピアノと共演したりして現代的な感覚をとりいれているらしい。これ以上ないほどシンプルな楽器なんだけど、そこから生み出される複雑で精緻なリズムには驚嘆するばかり。私自身、旋律打楽器が大好きということもあるのだが、最近買ったCDのなかではいちばんの愛聴盤だ。


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