レジリエンス認証を取得しよう
<BCPの取り組みを国がバックアップ>
平成28年度からレジリエンス認証制度がスタートした。
これは、BCPに積極的に取り組んでいる企業などの民間団体を国が応援しようという制度だ。
いま、国は国土強靭化政策を強力に推し進めている。
首都直下地震や南海トラフ巨大地震が起きると、国家基盤を崩壊させかねない深刻な被害が予想される。
その被害を最小限に食い止めるために、事前の備えを行なっていかなくてはいけない。
それを我が国の重要課題として位置づけ、計画的に実施していこうという国家プロジェクトだ。
この国土強靭化は、行政側だけの努力で実現できるものではない。
一般企業や病院・学校などの各種団体にも努力してもらわなくては意味がない。
ところが、民間団体の方は、BCPの取り組みが必ずしも十分とは言えない状況にある。
地震大国の日本で事業を行っている以上、地震への備えが必要なのは誰もが理解しているものの、実際の行動に結びついていないのが現状だ。
民間の取り組みがなかなか進まないのにはいろいろな理由がある。
「日常業務の忙しさの中で取り組む余裕がない」
「どうやって取り組んだらいいのか分からない」
「取り組むことのメリットが感じられない」
従来、日本におけるBCPの取り組みで課題になっていたのが、せっかくBCPに取り組んでも、それが確かなものであることを証明する手立てがなかったことだ。
「我が社はBCPを作りました」と言ったところで、それがどの程度のものなのかは、外部からは確認のしようがない。
完成度の高いBCPができあがっているのかもしれないが、もしかしたら、ほとんど実効性のない形だけのBCP文書を作っただけかもしれないのだ。
せっかくBCPを作っても、誰にも認められない。
作った本人らも、本当にこれでいいのかどうかの自信が持てない。
こんなことでは、BCPに取り組もうというインセンティブが働かないだろう。
BCPの必要性は認識されていながら、それがなかなか実行段階で浸透していない理由はこういうところにあった。
そこで、積極的にBCPに取り組んでいる民間団体を国が認証し、その活動を応援しようということになった。
これが、レジリエンス認証だ。
政府の内閣官房国土強靭化推進室が主導で進めており、国土強靱化の趣旨に賛同し、事業継続に関する取組を積極的に行っている事業者を「国土強靱化貢献団体」として認証する。
実際の制度の運営は、「一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会」が行なっている。
レジリエンス認証制度の解説の中に「BCP」という言葉は出てこない。
すべて「事業継続」という言葉で表現されている。
BCPは、欧米で生まれた言葉で、世界中で使われている。
ISOの規格の中にも存在し、いまや国際語と言ってもいい。
そのために、誤解や混同を避けるために、敢えてBCPという言葉を避けたものと思われる。
国土強靭化政策は、あくまでも日本の政策であり、今回のレジリエンス認証は、日本国内の諸団体向けの制度だからだ。
<レジリエンス認証のメリット>
レジリエンス認証を取得することのメリットは、いろいろある。
・我が社のBCPを第三者の目で評価してもらえる。
・BCP取り組みの到達目標にすることができる。
・我が社の取り組みを積極的にアピールすることができる。
特に、我が社のBCPを第三者の目で評価してもらえるのは、今までにはないメリットだ。
十分な評価が得られれば、自信を持ってその方向で進めていけばいいし、足りないところがあれば、今後の課題がはっきりする。
この認証取得を目標にすることで、何をどこまで取り組めばいいのかがはっきりし、BCP策定へのインセンティブも働く。
更に、認証取得した後は、会社名が公表され、自社PRに絶大な効果がある。
認証マークは、名刺やパンフレットなどで利用でき、我が社のBCPの取り組み姿勢を堂々とアピールすることができる。
<BCPはアピールしなければ意味がない>
BCPは単なる地震対策にしてしまってはもったいない。
地震対策と捉えてしまうと、地震が起きてみないと役に立つかどうか分からない地味な取り組みになってしまう。
だが、我が社のイメージアップのためのツールと捉えると、まったく意味が違ってくる。
BCPに取り組んでいる企業ということは、緊急時にも責任ある対応ができる体制で準備をしているということになる。
こういう事業者は、緊急時だけではなく平常時でもきっちりした経営方針で事業を行なっていると予想されるので、取引先にとって、普段から安心して付き合える会社だと評価される。
BCPは地震の時にしか役に立たないものではない、いまの企業の信用力を向上させることにつながるものだ。
だから、BCPをせっかく作ったのなら、それを積極的にアピールしなければ意味がない。
その意味で、このレジリエンス認証の取得を目指す価値は高い。
<レジリエンス認証の手順>
申請から認証までの流れは以下の通り。
1.申請書類の提出
↓
2.審査料の納付
↓
3.1次審査(書類審査)
↓
4.1次審査結果の通知
↓
5.2次審査(面接審査)
↓
6.審査委員会での検討
↓
7.2次審査結果の公表
↓
8.登録料の納付
↓
9.認証登録証の交付
※従業員100人の場合、審査料:30,000円、登録料:20,000円。
申請書類の提出から認証取得まで約3か月かかる。
申請の募集は年3回行われている。
<認証取得は難しくない>
レジリエンス認証は、国土強靭化政策の一環として、民間団体にBCPを普及することを目的としている。
だから、まじめにBCPに取り組んでいる企業を積極的に応援していこうという姿勢だ。
無意味に厳しい審査基準を設け、不合格を出すことを目的としていない。
全国展開している大企業と、地方の零細企業が、同じ審査基準で画一的にチェックされるということもない。
その企業の業種、業態、業容にあったBCPの取り組みが行われていれば、審査は合格する。
地道にBCPの取り組みを続けている企業であれば、認証取得は難しくない。
公開されている主な審査基準は次の通り。
(1)事業継続に係る方針が策定されている
(2)事業継続のための分析・検討がされている
(3)事業継続戦略・対策の検討と決定がされている
(4)一定レベルの事業継続計画(BCP)が策定されている
(5)事業継続に関して見直し・改善できる仕組を有し、適切に運営されている
(6)事前対策が実施されている
(7)教育・訓練を定期的に実施し、必要な改善が行われている
(8)事業継続に関する一定の経験と知識を有する者が担当している
(9)法令に違反する重大な事実がない
<審査員はここを見ている>
これらの審査基準は、まじめにBCPに取り組んでいる企業にとっては何でもないことばかりだが、中途半端な取り組みでは、すべての項目を同時にクリアするのはハードルが高い。
「にわか仕込みで取り合えずBCPの形を整えました」というだけではとても合格しない。
審査では、特に次のポイントが重点的にチェックされる。
・経営トップがBCPの内容を理解し、積極的に関与しているか。
よくあるのが、BCPの取り組みは総務の担当者に丸投げで、社長は関知していないというケース。
BCPは企業の生き残りをかけた重要な取り組みなので、総務の一担当者だけでできるものではない。
経営トップが積極的に関与し、主導していかなくてはいけない。
だから、レジリエンス認証でも2次審査で社長面談が行なわれる。
この面談では、社長がBCPの内容を理解しているか、日頃のBCP活動に関与しているかがチェックされる。
社長が自社BCPの中身を知らなかったり、BCPを単なる防災対策と勘違いしているようでは、審査は通らない。
・BCPに基づいた活動実績があるか。
BCPは文書を作り上げれば終わりと捉えられがちだが、文書作成はBCPの目的ではなく、手段に過ぎない。
本当のBCP活動は、BCP文書ができてから始まる。
BCPでは事前対策についていろいろ決定したはずだが、それを実行に移しているか。
地震発生後の社員の行動計画も取り決めたはずだが、それに基づいた教育訓練を実施しているか。
BCPの内容も常に見直しをかけて、完成度を高めているか。
これらの活動の実績があり、それぞれについて経営トップがしっかり関与しているかどうかが審査される。
だから、どこかからBCPの雛形を持ってきて、それを引き写して文書を作っただけというのは、第1次審査を通過できない。
更に、活動実績は、自社BCPに基づいた実績であり、避難訓練や消火訓練のような単なる防災活動は対象とならない点も留意が必要だ。
活動実績は、1〜2年の記録が求められる。
・今後も継続的にBCPを進めていく体制ができているか。
BCPはレジリエンス認証に合格したら終わりではない。
レジリエンス認証では、日頃のBCP活動が認められたにすぎず、今後もその活動を継続して、より実効性の高いBCPに、より完成度の高いBCPにバージョンアップしていかなくてはいけない。
そのBCP活動が今後も継続できる体制になっているかどうかが問われる。
<レジリエンス認証制度の今後>
第1回レジリエンス認証では44社、第2回では20社が認証登録された。
登録企業はウェブ上で公開されており、その顔ぶれを見ると、東京都に本社を置く大企業が圧倒的に多いのが目につく。
地方の中小企業はまだまだ少なく、製造業も意外に少ない。
この理由はよく分からない。
レジリエンス認証は活動実績に審査のポイントが置かれているので、既にBCPを策定し活動を続けていた大企業がまず通りやすかったということかもしれない。
ただ、この認証制度は、広く国内の中小企業や学校・病院などの諸団体にBCPを浸透させることを目的に設けられたもの。
制度設置の趣旨を考えると、中小企業こそレジリエンス認証が必要だと言える。
国は、今後もこの制度を強力に推し進める意向だ。
レジリエンス認証の認知度が高まるにつれて、どの企業でもクリアすべき1つの到達点という位置づけになっていくだろう。
既に、レジリエンス認証の取得が公共事業の入札要件に含まれるようになったり、銀行融資での金利優遇の条件になったりという動きが出始めている。
BCPに取り組むのであれば、レジリエンス認証を取得できるぐらいの取り組みでなければ意味がない。
今であれば、早期取得の価値も高い。
これを機会にレジリエンス認証にトライされることをお勧めする。
(上記は、kindle版『レジリエンス認証を取得しよう』の要約です。詳しい解説はkindle版をご参照ください)
東海地震が切迫している理由
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中日新聞「備える」
2012.1.16
「BCP―識者に聞く」 上級リスクコンサルタント
平野喜久さん
「会社信用度」の物差しに
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