! ・・ パバロッテイヘブン(2) ・・ !




さて、私がパバロッティにハマるきっかけになったのは、3大テノールパリ公演 で歌われた「カルーソー」であります。

カルーソー(非常に有名なオペラ歌手ですね)が死期を悟った時期をテーマに した歌で、海に面したベランダ(多分イタリアの自宅か別荘なのでしょう)で 夜釣りの漁船の軌跡を見ながら、自分の人生だってあの程度のものだったんだ な・・・と沈んでいたカルーソーが、側にいる恋人の瞳をのぞき込んで、それ から自分の好きな歌を歌いながら陶酔して行く・・・ という、芸術に対する 官能のようなものを歌った歌です。
−−−これがもう、クラクラするくらいに良い!

もともとパバロッティはドラマティックなものよりも、何かきれいなイメージ のものとか、象徴的なイメージを歌わせると魅力の出る人ですが、「カルーソ ー」は、死に向かって沈んでいくカルーソーの(どちらかというと人間的な弱 々しい)イメージと、気を取り直して歌い出し、一転迫り来る死の恐怖もこれ までの人生も全部忘れ去ってひたすら歌うという行為に陶酔して行く、芸術家 の強い官能のようなものへのイメージが、互いに絡まりながらつながっていて、 それが恋人への愛の歌の形になって「あなたが好きだ、とてもとても好きだ、 あなたは私の魂を解き放ってくれる・・・」と歌い続ける−−という二律背 反的な構成になっています。

この、カルーソーが現実の鎖を抜けて歌い出すところの解放感がものすごくイ イんですね。

ちなみにBSで見たので、ここに日本語字幕がついていたのが非常によかった!
字幕がなくて、歌詞の意味がわからなかったらここまでハマらなかったかもし れません。
LDで買ったものはどれも当然ながら字幕なしです(しくしく、何を歌ってい るのかわからない歌があるぞ)
この人の歌はイメージを歌うものが多いので、字幕がないと本当にダメだ・・ ・!(イタリア語わからないし)

3大テノールパリ公演のBSを、標準モードの保存版で録っておけば良かった! (まさかこんなにハマる事になるとは思わなかったので状態の悪いテープに 3倍モードで録ってしまった)−−−と、死ぬほど後悔しているワタシです。

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さて、同じくパリ公演の時のもう1つのヒットが「穏やかな夜に」であります。

信じていた恋人が裏切ったという証拠の手紙(どうやら偽手紙らしい)を見せ られた主人公が「あの女は悪魔のようで心の中は真っ黒だったんだ・・・」と 彼女への呪いの言葉を吐きながら「でも庭で逢った時の彼女は僕の手を取って 愛していますと言って、まるで天国から来た人といるみたいだったのに−−−」 と歌う、怒りと悲しみと恋情がぐるぐるする歌なんですが、彼の会った天使の ような彼女と、手紙で見た下劣で汚い女との、2つの相反するイメージがどち らも(彼にとっての)現実として同時に存在してしまい、「この両立しない2 つのイメージを、いったい自分はどうやってかみ合わせれば・・・??」とい うアンビバレンツな状況のまま立ちつくしてしまうという、そういうスレスレ の状態の描写がすばらしく良いのであります。

おまけに、その「天国的な」女性との邂逅のシーンのイメージが、ルネサンス の名画のようにキレイなんですね。
なんかもう、暗くて美しいものの好きなパバロッティの面目躍如という感じで す。

・・・で、これはこういう内容の歌なのかと思っていると、3大テノールのロ ス編ではドミンゴが同じ歌を歌っていて、こちらはドラマチックなドミンゴら しく「うわーー怒ってる! ものすごく怒ってるよーー!」という感じ

「あんな事もこんな事もこんな優しい事まで言ったくせに全部ウソだったのか よー! よくも騙しやがったなこの売女、このままで済むと思うなよ!」と いう感じで、今すぐにでも刃物持って女の部屋に押しかけそうで(こらこ ら「オテロ」じゃないんだから)、怒髪天をつくという感じになっています。
「そうか・・・歌う人によって内容が変わるのか」と、歌の解釈と変化に、今頃 気がついたワタシでした。

たとえばパリ編のほうでパバロッティが歌っている「グラナダ」ですが、これ がワタシの知っていたグラナダと違う・・・
いや、正確に言うと、私は「スペインのグラナダ賛歌」だとずっと思っていて、 それにしてはやけに象徴化された、現実感を排除したイメージがガンガン来る んだけど、いったいどうなってるんだ??−−と思っていたところ、曲の解説 を読んでわかったのですが曲の作者はグラナダに一度も行った事がなくて、心 の中にある遠い憧れの故郷(この人はスペイン人らしい)グラナダの理想のイ メージを曲に作りました・・・という事らしいのであります。

で、本物のスペイン人であるカレーラスは、ローマ編で歌うときにちゃんと 「現実のグラナダ」を讃えて歌い上げている感じで、彼は「現実の本物のグラ ナダ賛歌」として歌っているわけ。
喩えて言うと、カレーラスが歌っている場所が現実に存在する聖地の「エルサ レム」だとすると、パバロッティの歌っているのは至福千年の後に天から降り てくる、誰も現実に見たことのない、イメージとしての「光り輝く象徴として のエルサレム」。
同じ「グラナダ」でも、2人の歌っているグラナダの町が全く別ものだった 訳です。

この「心の中で構築された象徴的なグラナダ」というちょっと耽美的なイメー ジはいかにもパバロッティの好きそうなテーマなのですが、見かけが太った ダルマというか、ビヤ樽に手足をつけたようなコロコロのコワイ顔のオヤジ の、いったいどこにこんな観念的な耽美趣味があるのか・・・どう見てもパ スタの食い過ぎで巨大化しただけのオヤジなのに(こらこら)全く不思議で あります。

ところで若い頃のパバロッティは、ひたすら人のイイ、デブでアタマの足りな いマヌケで単純なにーちゃんという雰囲気で、「恋の妙薬」の主人公の性格に 本当にピッタリ!なんですが、年をとってからなんだか顔に貫禄と深みが出て きて、クセの強い悪役風に表情が強烈で、雰囲気がまことによろしくなりまし た。

特に98年の「パバロッティ&フレンズ」のラストで、スティービーワンダー とPeaseWantedJustToBeFreeを歌うときに、最初は ピアノの横に座って、ピアノの上に置いた歌詞を見て歌ってるんですが、 ラストのあたりで譜面から目を離して上目遣いで歌い始めるところのアップが なんかこりゃもうシェイクスピア役者みたいじゃないの・・・と、まぁファンの 欲目というか、恋は盲目状態というか(おいおいっ!)すっかり見惚れて頬が 緩んでしまったりするわけです。

いいなぁ、このコワイ顔のオヤジって・・・(こらこら)

おっと・・・ またうっかり「盲目」なんて書いてしまいました・・・雑誌なら チェック入ってしまうところです・・・
うーーーん・・・ らぶ いず ぶらいんど??



1999.6.12.


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